【6】黙示への対応
一つだけ黙示録対策として前に進んだのは、王宮に本格的な黙示録対策本部ができた事である。猟犬の首領であるという身分を英刻院宰相閣下が公表し、各集団に招集をかけたのだ。父が首領だと知らなかった琉衣洲などは驚愕したという。
現在猟犬に出向している華族黒咲のリーダーは榎波であり、榛名と若狭、政宗は榎波を手伝っている。榛名と若狭は最高学府で政治を収めていたので琉衣洲達の補佐もしている。政宗は、医学を収めていて、国内では時東とラクス猊下に匹敵するPSY医療の権威となっていた。
ラクス猊下はといえば、敵集団がPSY兵器による精神感染症を巻き起こしているから――表向きはその対策のための医師として、実際には宗教院の代表兼闇猫管理者として王宮に行く事が決まっていた。それは法王猊下戦においても有利な実績になるため、ラクス猊下が望んだことでもある。
そしてギルドからはほかに行く人間がいないというのもあり、レクス伯爵が、琉衣洲の友人でもあるし補佐をするという名目で出向く事になっていた。ギルド代表兼黒色の管理者として黙示録の対策へと乗り出す事にしたのである。レクス自身も黒色の冠位を保持している。
だが、ラクス猊下にしろレクス伯爵にしろ、完全に闇猫と黒色の管理をする事は困難だと自覚していた。
それは、華族の武力集団である黒咲の榎波とて同じである。なぜならば本来の黒咲指揮者である橘宮が、現在当主の座を奪われかけているのである。橘宮の叔父である橘雅派が権勢を振るい始めたため、そちらにつき、橘宮当代に従わない華族や黒咲が出ているという話なのだ。
ならびに、有事の際の最高権力保持指揮者となる匂宮は、本家筋が単独行動をしているらしく、それは分家筋にも詳細不明とのことで、黒咲に関わるつもりがないらしいのだ。一応銀朱匂宮総取りがまとめてはいるのだが、銀朱と、匂宮分家の桃雪だけでは抑えきれない部分もあるようだった。そうでなくとも匂宮は匂宮内で元々完結するタイプであるから、あまり頼りにもならないのだ。
さらに院系譜の武装僧侶である万象院列院僧侶は、万象院を守ると言って動かず、王宮にはたった一名しか派遣していないそうで、それがまた匂宮配下五家で唯一残っている高砂家当主だ。列院総代だからと派遣しているのだが、ロステク知識しか信用できないと評判で武力に期待できないと、多くが思っていた。
最高学府を退職した元教授で、最下層で橘大公爵と研究に没頭していたと皆聞いてはいるが、院系譜こそが最高の武力を持つというのに、この人物にそれがあるという話など聞いたこともない。
また橘大公爵は政治の手伝いに来たようなのだが、代々橘大公爵家は王家の猟犬だったはずで、王家の直近の分家とはいえ、多くは政治以外を期待していた。だが、本人は猟犬ではない様子で、頼りになりそうにもないのである。
国王の花王院陛下と、王妃代行をする伴侶補の美晴宮静仁は、既に華族敷地に避難済みである。他のメンバーは第一王子の花王院青殿下と、青殿下の伴侶補である琉衣洲と美晴宮朝仁だ。
桃雪匂宮と橘宮も滞在している。橘宮の方は、当主争いからの避難が主要目的で王宮に来ている。朝仁の補佐の名目で王宮にいる形だ。
果たしてこのメンバーで黙示録対処が可能なのか。
それもまたレクス伯爵やラクス猊下の不安を煽る。
それでもやるしかないのは確かであり、完全に黙示録としか考えられない出来事は様々なところで発生していたから対処をしなければならない。
これは他の神話類に記載されていることとも類似しているらしく、万象院連中が来ないのは、おそらく『青き弥勒の再来』とやらを探しているからだろうし、匂宮の単独活動部隊は『青照大御神を宿した闇の月宮』を探しているからだろうとレクスは考えていた。
どちらも緑羽と朱匂宮に生まれるらしいが、行方不明なのか――どこか敷地外の別のところに生まれている可能性もあるだろう。また、ゼスト家のように誰が救世主なのか特定できずに、混乱している可能性だってあるのだ。
そもそも終末がすべて同じものだとは限らないし、救世主も同一とは限らないから、どうせならば三人一生に出てきてくれないかとすら、レクスは考えていた。そしてそれ以上に、人間同士の醜い争いが終焉するのを願っていた。
こうして時は流れ、ゼクスが二十七歳になった年には、王宮には以下のメンバーがいるのが当然のようになっていた。
まずは青殿下と伴侶補の英刻院琉衣洲および美晴宮朝仁。
そして琉衣洲の補佐と宗教院からの代表としてラクス猊下とレクス伯爵。
朝仁補佐の橘宮と桃雪匂宮。
名目はその世話係だが、黒咲をギリギリまとめている銀朱匂宮総取りと、猟犬をまとめている英刻院藍洲。
また政治の手伝い兼猟犬として、榛名と若狭と政宗。
榎波が実働部隊の猟犬リーダーで、琉衣洲も猟犬の仕事もしている。
政宗に関しては時東とラクス猊下と共に、PSY関連のウイルス兵器の対策もしている。
また政治以外に橘は高砂とともに完全ロステク兵器の研究もしていた。
他にはロイヤルキーパーに混じって多数のガチ勢が手伝うようになっていて、闇猫や黒色、黒咲の人々もいる。また、表向きの政治補佐や貴族院あるいは華族院、実務院業務、ロイヤル護衛隊といった仕事をしつつ、猟犬も大勢王宮にはいる。
このように各集団がひしめき合う中で、それとなく配置を決定していったため、青殿下と伴侶補二名がいる部屋は、完全に味方だけの構成となった。警備も万全だった。
――平和に時が流れることを、皆が祈っていた。