高砂の記録(2)
「よくぞ戻ったな」
優しい笑顔で出迎えてくれた緑羽と、しばらく経文の復習をしながら、高砂は天才機関ジーニアスの指定訓練へと出かけて、いくつかの天才技能訓練を受けた。それが終わった頃、本尊本院に出向在籍という形式で、本尊本院冠位の習得が始まった。
「高砂よ、実はお前が不在の三年間に、恩橘、本尊本院冠位、その中の緑羽のみ許される本家冠位、さらに列院冠位はお前と金朱のみが所持していた最高を収めて、わしの曾孫の一人が帰って行きおった。三年間で全部である。よって、アレを本尊本院直轄万象院戦力筆頭とする。列院筆頭は高砂である。が、高砂が今回、本尊本院冠位をその曾孫と同じく全部収めて、さらに、本家冠位は本家の人間以外所持できぬので、日向の養子となり、高砂もわしの戸籍上の曾孫になるというのであれば全て教えることが可能となる。高砂が全てを学び列院総代としてより完璧になるのであれば、後々には万象院武力の総指揮件はわしかその時々の緑羽となるが、それ以外は高砂かその曾孫となる。しかし曾孫は、万象院本尊本院僧侶として最低限の心構えしかなく、列院僧侶の心構えはゼロである。高砂の自由であるが、高砂が万象院を想う気持ちがあるのであるならば、日向の養子になると良いと思うが、どうする? 日向は予てより高砂を養子にしたいと言っている」
「ぜひ養子にとお願いして参ります」
「それは何よりだ。後は高砂の署名だけであるから、ここに名前を書くが良い」
こうして高砂は、その後、十三歳までの間に、本尊本院冠位、さらにその中の緑羽冠位まで最高に習得した。
名前が出た曾孫――あちらは三年間で橘から全部だから、計算すると、教えを本尊のものしか学んでいないと考えても、高砂の五年と橘取得合計三か月程度を、三年間で全部やっていったという計算になる。こちらは曾孫としか聞いていないが、それであっても十代だろうと想像がつくから、やはり同年代と言えないこともない若さであるし、匂宮に続いて、時折高砂が思い出す一人となった。
「これにて高砂への武力習得は完璧となった」
「ありがとうございます」
「今後も研鑽を積むように」
緑羽が穏やかに微笑んだその日、高砂も微笑した。高砂が笑顔を浮かべたのは、この日が初めてだった。作り笑い以外が初めてということだ。緑羽はそちらの方が嬉しかった。
この段階で高砂は、『恩橘の羽』と『万象院列院冠位・森羅、万象院本尊本院冠位・悠羅および雅、緑羽万象院冠位・錦および環羅』となっていた。
ちなみに黒咲は『銀の下限に、宵桜』で匂宮冠位が『闇宵月に夜桜乱舞』であり、闇の月宮冠位が『闇の月宮鴉羽・月讀・青照大御神』という最上級だった。列院総代でも本来『森羅・悠羅・雅』か『森羅・悠羅・環羅』なのだが、過去、緑羽出身者以外で『錦』を取得したものは一名も存在しなかった。高砂が初めてだ。
匂宮冠位の方も、朱匂宮の直接的血族以外でこれを全て収めたのは、高砂が史上初である。かつ万象院に限っては緑羽と緑羽の曾孫が持っている以外は高砂しか持っている人間は、誰も生きていない。匂宮関連の方に至っては、高砂と鴉羽卿の孫以外は、闇の月宮冠位のどれか一つのみそれである人物はいるが、三個全て最上級なのは、二名しか存在しない。つまり、高砂は十三歳にして、死ぬほど強くなったのだ。
「さらに列院総代としても、もう三つほどの心構えと知識を得れば完璧となる」
「知的好奇心、世界は個であるという認識、自分中心的な考え――そして他の組織についての知識ですか」
「そうだ。その通りである。それに関してはどう思う?」
「……興味というより個人的判断として、万象院も匂宮も完全PSYによる戦術なので、完全ロステク兵器攻撃への防衛および反撃面が弱いので、最高学府での専攻は今後も最近のように、そちらで絞ろうと思っています。ここまでにも、兵器・装置が欠けているという認識だったので、その部分の習得と最高学府以外においても資格取得等をしてきましたが、完全ロステク兵器に絞ろうと思います。絞った動機、これも一つの知的好奇心かもしれないと最近考えています。可能性があるのがこの部分しか思い当たらないので、この方面から追求していこうと思います」
「良い。二つ目は?」
「概念では理解しているので、後は生活しながら体験から感じとり、経験を積んで習得していきたいと思います」
「良い。三つ目は?」
「ずっと考えていたのですが――列院総代とは、緑羽の御院の右腕としてお助けするので、それは緑羽冠位の習得には必要だと思いますが、ここまでの判断として、列院総代となった俺には、どちらかというといらない考えだと思ったので、不要です」
「――高砂がわしに初めて反論し、しかも納得ができる内容であり、わしは涙が出そうなほどに嬉しい。かつ、そうして己の考えを言うことこそが、自分中心的考えの基盤であるから、それは完璧に取得したということでもある。高砂よ、お前は完璧だ。今後も思ったことは、全て口に出してそのように判断して行けば良い。さらに兵器については、わしにはもうついていけないレベルゆえ、それが終わったかどうかの判断も己でなし、ほかに必要そうなことがあれば適宜次へと行くが良い」
「ありがとうございます」
「では、最後の部分であるが、こればかりは、個人のやり方もあるが、既存組織についての基礎知識および情報収集の、PSY使用以外の、なんというのか、諜報活動といったものの完全PSY血統戦術や高砂の兵器使用以外における個人のやり方のみ、教えというよりもここからは、列院総代として、万象院本尊守護直轄部隊筆頭の、わしの配下として行ってもらう」
「承知しました」
「その間、約二年程度に、第一と第二の進捗度を少し見てみよう。日中は教えの学びと最高学府での勉強というより、何やらもはや研究であると聞いているから、それを深めよ」
「わかりました。なぜ二年なのでしょうか?」
「うん。一年間は、外部から他集団の動きを実際に観察し変化を感じ入る。一年間はそのための諜報の術を身に付けるということであり、最初の一年の方であるが、単純に諜報活動が得意な人間が多忙なだけである。また二年間万象院から行うのは、列院総代の職務上の行いこそが高砂の本来の仕事であるから、万象院から行う技術を習得することが肝要だからである」
「わかりました。青き弥勒のご慈悲のままに」
「良い。疑問点・質問点・改善点・自分の意見・その他、今後も全部言っていくのだ。それが第二の体感的理解および、第三の補強につながるのである」
「ありがとうございます」
こうして、高砂はその後一年間、緑羽の義理の孫の一人だという人物に諜報活動を習った。一緒になぜなのかその配偶者の英刻院家の人間に、書類処理方法やESP演算高速化技術というよくわからないものを教えられて、実務的な仕事方法まで学んだ。
後でこの、諜報活動を教えてくれている若狭という人間が匂宮若狭家当主であると知ったり、英刻院家の人間は自分の亡くなった父の弟であり、自分の父は高砂と英刻院家の間に生まれたことや、父親は王族と匂宮直系の一人との子供であっただとか、色々と学んだ。
他にも、宗教院や貴族院についてなど色々と学び、闇猫・ギルド・猟犬といった他のこれまで知らなかった存在や、改めて黒咲と匂宮と、橘院配下の武装僧侶についても覚えた。
そして、高砂が十三歳時点で、十一歳で『白紙・空白・砂嵐』という最高の闇猫になった『ゼスト家直轄部隊』の少年が、高砂が十四歳であちらが十二歳になった頃、黒い猫面の所持を許されて、ゼスト家直轄闇猫のリーダーになったと聞いた。列院総代として本院の総代の緑羽を守る自分が列院総代になったのも十二歳だから、なんだか勝手に親近感を持ってしまった。
さらに、十四歳半ばの頃、ギルドの黒色に、ロードクロサイト闇枢機卿という人物がいて、その十二歳の人物が『特別完全免除階梯』という、黒色内部で、五名しか持っていない最高冠位を取得したと耳にし、自分も所持者が少ないものを持っているので、少し意識した。大体の黒色は完全免除を最高としている。しかしその上で、である。さらに黒色というのは、他と違って裁量性だから、あまり細かく分けられていない。
むしろ強すぎるからその目印に名前を与えるのと、儀式を免除する意味合いで与えられるわけであるから、気にしない方が難しかった。他の持ち主は、一名は宗教院、三名はザフィス神父という鴉羽卿配偶者、二名は自分の諜報活動の教師と書類処理の教師であるから、敵ではないとしても良い。
また匂宮や万象院で自分と同じように冠位を取得している人間も敵と考えなくて良いだろう。だが、親近感がわいたとはいえ闇猫と、今回の黒色、この二名は、年代的に今後関わる筆頭の相手となると考えられるから、対処するという意味で少し意識した。特に、十五歳の半ば頃、闇司祭議会選挙で、あちらは十三歳にして選挙で議長になったという調査結果を見た時、目を細めた。派閥無所属の叩き上げらしいのだ。しかも根回しもしていない様子だった。そしてギルドの議長戦はいつもそれが表沙汰になるらしいのだが、今回は、周囲が「頼むからやってくれ」と説得に回っていた記録が大量にあり、二名の副議長争いが苛烈だったらしい。
そして無所属というよりもうこの人物の派閥といって良いものが出来上がりつつあった。中身はこれまでのギルドの無所属と完全に一緒なのだが、つまり何をするのも自由でほかと違って枠がないけどこの人物の下でまとまった集団ができあがろうとしていて、そこにはこれまで単独一人で活動していた超優秀な人が大量に居るため、もはや最大最強派閥といえる様相だと判断できた。
さらに本人としては断り文句だったのだろうが『自分は、名前の通りロードクロサイトかつ、実はハーヴェスト血統の人間だから、お前らはそういうのあんまり興味ないんだから俺を推すな』の一言が逆に、ハーヴェストを熱烈に支持するその他まで完璧に議長を推せる理由になってしまい、もう誰も反対者がいないのだ。やる気はないが、なにかほかの目的によりひっそりとギルドに行ったら、才覚で武力と人望を集めてしまったと言える。
この人物は要注意だ。闇猫側はゼスト家関係者らしいから、別段そういったものがあってもなくとも関係ない。この闇司祭議会選挙および、英刻院家の叔父が仕事を頼んでくるのと、高砂が第一課題の知的好奇心として、完全に、完全ロステク兵器に興味を抱いたことが理由で、十六歳までこの生活が続いた。
考えながら、完全ロステクの共同研究者である橘大公爵と作業していた。
橘は、会話が上手い。かつ父相当となる配偶者父が、王弟なので、僧侶とは違った意味でPSYが静かだから、居心地も良いし、完全ロステク知識も自分と同じくらいだから、高砂は一緒に研究していて気にならない相手であるから気に入っていた。
顔は前から知っていたのだが、ある日、「お前、友達が一緒に共同研究しようって言ってるんだから手伝ってくれたっていいだろう!」と言われて、高砂は初めて、自分に友達がいると気づき、それもまた共同研究をすることの原因となった。
衝撃的だった。これまで高砂はそんなことを考えたことがなかったのだ。友達がいるだなんて。さらに橘といるとたまに笑っている自分を発見して驚愕した。この橘、非常に話がくだらないが面白く、高砂がこれまで持っていなかった『雑談』という会話を高砂は気づくと取得していた。
思えば、緑羽に意見を言えるようになっていたのは、橘とのこの雑談の影響だった。高砂は、橘を大切な友人だと今では思っている。その橘は情報通であり、諜報活動とは違った流行や噂にも詳しい。
その噂側で高砂は橘に気になる名前を三つ聞いていた。
一つ目はZXである。国内の記録を塗り替えた、現在の王国最強の高IQ三種類、高PSY値三種類と総合値、さらにこの人物は高砂が訓練に通った各種天才技能まで全部指定されているものは天才認定で訓練不要なのだ。
二つ目は、時東だ。これはタイムクロックイーストヘブン大公爵家の十三歳の一人息子であり、ロードクロサイト家の現在の最新筆頭だが、最高学府の医学関連を博士号、複合博士号、さらに特別三機関の定めている医学関連の資格も全部持っている大天才の医者である。もうすぐ十四歳で、高砂の二つ下である。
橘は医者としてすごいと言い、高砂は同意しつつ、最初この人物をギルドの闇司祭議長かと疑ったのだが、ハーヴェスト血統ゼロであるのと、医療漬けで既に医療院で寝泊り状態のPSY医療の最前線にいる一名なので、アリバイ的にありえなかった。
何度か観察し、どうやら完全免除程度に黒色らしき武力もあるようだと判断したが、それは出自的に習っている防衛技能と言って良いから、ギルドで死ぬほど評価されるレベルだとは考えられなかった。
さらに三つ目は、『資格マニア』である。最高学府もそうだが、基本的に自分で公表しない限り、特別三機関は医療院まで含めて完全に個人情報が秘匿されるので、時東のように、『名前が長いから華族風に短くして名乗るので』とすれば、名前がこれでOKになるのだ。天才機関はアルファベット記載である。最高学府は、もう紙試験だと学籍Noしか表示されない。その学籍Noの結果、時東の医学関連、および高砂や橘の兵器も全部、どころか最高学府全部、特別三機関のもの全部、紙でサクサクと突破し、資格を片っ端から習得した人物が一名存在するのである。
年齢も何もかも不明だが、十一年前の最高学府総合講義紙試験最高成績での突破以後、毎日バンバン何かしら取得していて、既にもう取得可能物は無い。最高学府に入学しているのだから義務過程試験も最高成績で確定だ。丁度その時期というのは、ZXが三歳にして国内最高と認められた日であり、時東はその少し前の誕生日なので別人である。
このZXと資格マニアが同一人物かどうかが、橘の雑談で比較的頻出する話題である。時東に関しては、PSY融合医療装置とPSY融合医療兵器に似ている部分が有るので、その観点から高砂は何度か話したことがあるが、時東は医学以外に興味がないのがPSY的にも完璧に理解できるので、何とも言えない。
なお現在の王国内でのIQ順位は、ZXが一位、二位が時東、三位が花王院紫国王陛下で、四位が高砂であるという事実に高砂はちょっと気分が良くなり、なるほど、こういう嬉しさというのも存在するんだなと、自尊心を発見する機会にもなった。
さらに研究で評価されたから時東がPSY融合装置知識について聞きに来たという現実が、これまでにはあんまり表の研究面や仕事に関して特に興味が無かった高砂に、自分の実力を再認識させるにいたり、もっと極めようだとかそういう意識を生み出したので、高砂は時東も気に入った。
さてこのZXは、橘調査によると、超どうでも良い資格もひたすら片っ端から取得しているそうで、編み物検定一級、これだけなら趣味で良いが、最近ロイヤル三ツ星という調理師内最高の資格やなぜなのかロイヤルホテルのハウスキーピングというベッドメイキングスキルを学んでいたり、ペットのトリマー資格だの、ひよこの性別鑑定士だのと、わけのわからないものを大量に学んでいるのである。
もはや学ぶとか実用性とか関係なく、時計修理士という気象予報士と同じくらい内容が難しいけどなんにも役立たない資格までもっていて、だから橘以外の調べた最高学府の連中からも『資格マニア』と呼ばれ、もうそれで名前認識が固定しているのだ。
無秩序すぎて何がしたいのかも性別年齢傾向なんにも見えてこない。生まれたのがその時期なのか、逆に定年退職だので暇になったのかすら区別ができないのだ。しかも取得しているが使っている姿を誰も見たことがなく、貴族なのか一般人なのかも不明である。
だが、医学の情熱が半端ない時東のみがひたすら、時には新聞広告にデカデカと『資格マニアと呼ばれる人へ。この理論をどう思うか大至急俺あてにレポートを送れ』だのと自分の連絡先大公開で恥をかなぐり捨ててアクセスすると時東がその後半年位泣いて喜ぶレポートその他が届くので、生存していて医学知識が少なくとも時東に匹敵するレベルであるのは間違いなく、実践までできているのは明らかなのだ。
それはともかく、橘や時東といった、学術研究方面での同世代の人々との出会いも、高砂にはやる気を起こさせるものだった。
最近その橘が結婚すると言っていて、最高学府の完全ロステクの教授の後任を探していて、最高学府からも橘からも、高砂はそれを頼まれている。彼らは高砂が華族で高位の高砂家当主であり、宗教は万象院と知っているが、それ以外は何も知らない。
これに関しても高砂は迷っていた。正直、教授をして、他の学生のレベルを見てみたいというのもあるのだ。学生は自分より年上ばかりで、普通は十八歳で一部が入学を許可されるわけで、就任すれば史上最年少教授だというが、そこよりも他人のレベルが知りたいというのがあり、考えてみるとこれは『知的好奇心』ではないのだろうかと高砂は思うのだ。現在までの感想として、他の研究者のレベルは高砂の基準ではとても低い。とすると、学生の基準がそもそも低いのかなと思うのだ。
この結果、高砂は一つの結論と考えを持って、緑羽に話す時間をもらった。
「どうかしたのかね、高砂」
「緑羽の御院。俺は思うんですが、ここまでの経験として、行ってみないとわからないことがあるので、ギルドの黒色の闇司祭議長とギルドの実態が特にわからないので、潜入調査の練習も兼ねて、ギルドに行ってみようかと思うんです。ついでに黒色の技術も習得しようかなと――それで、最高学府の教授をしないかと言われているので、それをやりながらだと、ギルドに入りやすいのと、知的好奇心として他の学生のレベルが知りたいとバシンと思ったので、そちらからその方面を極められるような気がするので、教授はそういった意味でもやりたいんです。よって、最高学府教授かつギルド加入は王都中心部での生活が良いので、一人暮らし経験および職業経験を積む意味合いも兼ねて、行ってこようかなと思うのですが、万象院を一時的に離れ、一時的に学者をやりながらギルドに潜入しつつ一人暮らしをしても良いでしょうか?」
「良い。好きにせよ。して列院総代の説法およびギルド加入時の身分はどうする?」
「既に俺不在に備えて、俺不在時の列院総代の仕事は全て、他の列院僧侶で行える体制にしてあり、身分は、使える場合があると踏んで、高砂家の貴族爵位であるシルヴァニアライム伯爵を再登録してあり、こちらにて、万象院列院総代は枢機卿位をもらえるとのことなので、シルヴァニアライム特別枢機卿位も取得してあり、医師免許も赤丸で取得してあるので、場合により、一段落したら闇猫の取得に行ってまいります」
「完璧である。今後、わしの許可は不要。常に世界は個であるという経験を積む意識的修行の他、後は全て高砂に任せる。そしてその修行は、今尚わしも行っている生涯の責務ゆえ、わしが高砂に教えられることは、残るは相談を受けた場合にわしの回答を述べることのみである――が、まぁ、一つ頼むとすれば、いつかわしの曾孫の一番年上の生まれついての緑羽が、わしの後を継いだ場合、力になってくれると期待する」
「列院総代としても、緑羽の御院の曾孫だから、というのも含めて、お約束します。では、行ってまいります。しいていうなら、その曾孫様である緑羽の若御院様の中身だけ、緑羽の御院がまともにしておいてくれることを願います」
「はは、どうだろうなぁ。わしに似て、ちと世界が個である認識が強すぎるのと、なのになぜなのか自分中心さには欠けているようにも見えるからなんともである。少なくとも、万象院の僧侶としていうならば、高砂が十段階以上上だから、場合により思想教育から頼むことになるかもしれんから、最高学府で頭の悪い学生への指導方法も身につけてくれる良いな。最高学府は頭が良いと言われるが、わしは一度もそう感じたことはなく、かつそれ以下は全部、義務教育を受けたのかも疑うレベルである」
「承知しました。では、行ってまいります」
こうして、この日から、高砂の一人暮らし生活は決定したのである。
このように、高砂は十六歳にして最高学府の史上最年少の教授となった。
そして春から正式採用で、十六歳と八ヶ月でそうなった。