高砂の記録(3)
高砂は十七歳になるまでの間、まず、最高学府内の把握を行い、ギルドメンバーのチェックをした。大量にいた。その中の、教授の一人で、ギルドのの無所属というか既に最大派閥議長派の上層部の少し下くらいにいる一人と意図的に親交を深めて、それとなくギルドに誘わせて、十七歳になったその日には、既に黒色の教育をそれとなく興味を持った風に受け始めていた。
全く元々の武力は気づかせず、かつ高砂が入っていると知っているのは最初に勧誘した人間だけだし、さらにその人物は高砂が黒色技術を学んでいるかどうかなど興味ゼロのただのギルドメンバーで武力ゼロなので、サクサクと完全免除まで高砂は腕を上げた。知っている人物が高砂に関して持っているのはギルドの階梯知識で、こちらは、ユグドラシルという、一個上のユグドラシル・クラウンになったら闇枢機卿になれるレベルまで進み、既に最速で闇司祭であるから、議会選挙に出ることも可能だが、それはやっていない。
ユグドラシルまでは学者は比較的なれる。だが、黒色も完全免除以上でなければダメな議会選挙出場権限を持った段階で既に少し目立ったため、さらに闇枢機卿になった場合超目立つとわかったからだ。
最初に目立ったというのは、副議長二名の派閥等が意識した程度だから良いし、情報を調査されていると、どのくらいの速度で始まるかから含めて見ていた高砂的にそれを知りつつ完全防衛したため特に問題なく、あちらも高砂に不審な点を見出していなかったのでOKとした。高砂家だから生まれつき簡単な防衛技術を学んでいたという嘘ではないが事実とは大きく乖離した情報で、黒色能力に納得し、高砂のギルドでの行動が、学者色一色で資料室にしかいない上、口出しゼロで、選挙に無興味という部分がさらに高評価になっている部分まで確認した。無所属の代表の一人扱いにすぐになった。
こうして高砂の十七歳の冬、その頃には十五歳になっているらしき闇司祭議会議長のロードクロサイト闇枢機卿を何度か高砂はそれとなく見る機会に恵まれていた。この人物のみ、高砂を調べたりしない。むしろ彼もまた全方向から調査されている側である。たまたま「俺も十五歳になった」と最近雑談で聞こえたので、冬に誕生日があるということだけわかった。この人物は、話しかけられたらきちんと答えているが、それ以外は基本喋らないし、普段から完全に黒色装備で顔も一切見えない。二次性徴は既に終わっていた。声とPSY波紋は偽装処理してあるのがわかるから、そこからの特定も無理である。高砂もそうだし、ギルドではありふれていたから別段おかしくはない。
学生達は本当に頭が悪くて高砂はイライラしっぱなしだったが、ギルドは逆に最高学府よりも頭が良い人物しかいなくて超気楽だった。ちょっとうるさいが万象院よりも頭が良く、万象院技術で防壁が完璧である高砂には全然問題ない程度だったし、うるさい部分も頭がよく難解な知的好奇心がぶわっと垂れ流しだから逆に聞いていても楽しい。金持ち連中ですら経済知識がぶわっとだ。無駄、ゼロだった。
しかもここは、知的好奇心の持ち主しかいないので、高砂にも勝手に知識が入ると同時に『興味を持つ』ということが具体例つきで見る機会しかなくて、来て良かったとそういう意味でも高砂は思った。万象院経験があったからこそではあるから、やはり万象院が偉大だという思いは変わらない。さらに『敵じゃない』『しかも議長に取り入ろうとする様子もない』ということで高砂の評価は超あがり、周囲の勧めにより、シルヴァニアライム闇枢機卿となった。
最大派閥内部には、ロードクロサイト闇枢機卿を除くと、闇枢機卿は高砂が五人目であり、結果的に高砂は上層部の人間となった。しかし中身は無所属集団なので、気楽。会議も何もない。ある場合むしろ下の人々が雑用としてやってくれるのだ。超楽だ。おもにやっているのは、議長を崇拝していて、次の選挙で副議長を狙うと公言しているハルベルト闇枢機卿であり、彼は下ではないが、まだ二次性徴も終わっていなくて、十一歳らしい。ギルド、すごい。才能さえあれば、年齢が万象院よりも関係ない。
高砂はたまに手伝ってあげたので、彼からも気に入られている。かつこの人物は高砂の後に入ってきたので、後輩ともいえるが、高砂の後で完全免除に到達して自分から闇枢機卿になったので、それが高砂より早かっただけなのだ。だから議長の信者かつ高砂の後輩みたいな気分でギルドにいるらしくて、高砂がギルドに馴染むきっかけになったし、この少年経由で、高砂は議長と雑談する程度になったと言える。
そして高砂は当初、議長は自分を警戒しているかと考えていたが、本当にそうでないと判断した。この議長は、万象院レベルで静寂どころかその上をいくのだが、口頭雑談が本音ばっかり出てくる。興味ないとかだるいときっぱり言う。彼は高砂に興味ゼロでギルド加入も知らず、少年の紹介により高砂を知り「おお! 完全免除だ! しかもユグドラシル!」と、何かこう嬉しい喜びのようなオーラを普通に出して終わった。
だが、だからといって黒色としてもギルドメンバーとしても仕事を押し付けたこともない。が、高砂が少年の誘いに乗った感じで戦闘を見について言っても何も言わない。労って観覧時のお茶を用意してくれる感じである。が――実際の戦闘風景を見て、高砂は驚愕しかなかった。
使用しているPSY融合兵器、まずは、これ。高砂が知る中で、時東の医療装置への知識を応用した一部以外でPSY融合兵器をここまで完璧に使用できる人間など、最高学府にも共同研究機関にも、一人として存在しないのだ。それを知るくらいには、高砂は完全ロステク以外の兵器の専門家である。ギルドに感動しかなかった。
なるほど、この知識、これが、ユグドラシル・クラウンの意味!
さらにハーヴェスト血統のみが許されるユグドラシル・ロイヤル・クラウンの意味!
しかも彼はロードクロサイトを名乗っているのだから、時東と同じでPSY融合技術への知識があるのだろうし、さらにはそれが兵器にきちんと応用されているのだ。高砂は感動しつつ敵に回すと最悪だと判断した。
なにせ完全ロステク兵器の扱いまで、高砂から見ても自分と同レベルといえるくらいの熟練度かつ、理論は自分の方が詳しいかもしれないが、実践使用は完璧に議長が上だと判断できたからである。冷や汗をかいてしまった。しかも高砂の場合、使用時は比較的集中するのであるが、この人物は気軽に炊飯器のボタンを押す感じで発動だ。緊張感もゼロだ。目を疑うというのはこういうことである。何度か見に行ったが全部そうだった。
そして雑談時はそんな戦闘のことなどもうどうでも良い感じで、超どうでも良いドーナツの味と硬さとかについて語るのである。だが真面目に、高砂がロステク知識を把握しようと完全ロステク兵器の講義テスト作りを横で行いながら「どう思う?」と雑談でふると、これは明らかに橘よりも上認定するしかない高等な回答が返ってくるから、そこから高砂はこの人物が、実践だけでなく知識も完璧に持っていると悟って、さらに感動してしまった。対等に話せるからだ。
既にもう高砂の完全ロステクへの知識は橘がギリついてこれる以外、誰とも語り合えないのだが、ここにきて語り合える相手が出てきてしまったのだ。気づくと高砂は、もう調査や知識レベルについての把握など忘却して、ひたすら完全ロステクについての議論みたいなものを議長とする仲になっていた。
一応高砂は身分を隠しているのもあり、各歴史階層の兵器全部について語りあったが、完全ロステクについてのみ高砂のテンションが爆発的に上がるのは、もう誰から見ても明らかで、だがギルドにはそれを気にして高砂の身元を調べるような人物などゼロだと高砂も既に熟知していたから超楽しく語り合っていた。
ギルドとは、そういう場であり、ギルドが気にするようなこう、取り入る系じゃないし、逆にもっと話し合って俺達にもその面白い話を聞かせろな感覚で周囲も見守っていて、高砂は気分が良かった。
このようにして、十八歳になり議長が十六歳になった頃には、ロードクロサイト議長と右腕のシルヴァニアライム闇枢機卿は、暗黙の事実になっていて、その二人直属にハルベルト闇枢機卿が存在している体制が最大派閥で固定した。ハルベルト少年の二次性徴も終わり、彼は十四歳である。
万象院や匂宮を裏切る気などないが、ギルドは判明した結果として、様々な集団と重複加盟者も大量に居るし、特別三機関や民間人も大量にいるし、別にその時々で誰がどこにいっても誰も何にも言わない組織だったので、さっきまで雑談していた二名が、一時間後に闇猫と黒咲として殺し合いをして、お互い生き残った場合はそれには触れずにまた雑談再開という最高の組織だったのである。
高砂の中でギルドとは敵ではなく、裏でも表でもなく、なるほど『趣味だ!』という判定が下った。よってなんの障害も感じず、総長にも気に入られて直伝されて特別完全免除まで取得し、ギルドで話題になった。かつ喜んでくれる人しかいなくて高砂は嬉しかった。