ZXのカルテ(2)



 ロードクロサイトも含めていずれも高貴すぎる家柄であり、ゼスト家であっても過去にロードクロサイトから提供を受けるのがなんとか可能だった場合がある程度、英刻院と美晴宮からの提供は舞洲猊下がアルト猊下の実父だったから提供してもらえるようになったのが実情であるし、そこにさらに花王院王族から血液提供を受けるなど不可能だ。

 それも完成させるまでには実験用血液だって必要だっただろうし、ひとパック完成物を成功させればいいわけではないのだ。

 これを作成する前段階から四種類の血液を集めること自体が本来不可能だ。

 そして集めたとしても完成させるには膨大なPSY医療知識が必要で――理論はすぐに自分にも理解できたが、今すぐ作成を試みろと言われても自分には不可能だと時東は判断したし、過去にザフィスも、

「ロードクロサイトの因子で混成をより完璧にし、なんとかその他の補色の発現を抑えられたならばもう少し……」

 と、本人がそう口にしていたのだ。

「理論上、花王院血統からの供与を受ければ可能な可能性があるが、ロードクロサイトとして今私にそれを実現する力はなく、生成方法が思いつかない」

 こうも言っていた。

 そう言いながら学術書を読みあさっていたのだから、ザフィスには作る気があったのは確実であるし、そして理論は今の自分同様考えていただろうが、実現できていなかったのも確かだ。

 ただ――実際に目の前にこのロイヤルパックとしかいえない代物が存在している以上、ザフィスの技術ならば作り出すことは可能だろうし、実際に作ったのだろう。

 だが、ゼスト家でさえ舞洲猊下が配偶者猊下になるまで手に入れられず、ロードクロサイトのザフィス神父は王家の分家の人間だが、その立場でさえ入手が難しい各種血液類は、時東には尚更手に入れる手段がないはずなのだ。

 舞洲猊下がいないのだから英刻院も無理であるし、美晴宮と提携したのはゼスト家なのである。花王院王家とはゼスト家ですら提携協定などない。ロードクロサイトのみ、時東にはある。しかし他の三種類は、医療院共用機関にも保存されている万象院や匂宮の絶対原色の緑や赤とは比べ物にならない入手困難度なのだ。

 そう考えて、時東はハッとした。琉衣洲らは、最下層への貴族院による慈善事業へと英刻院閣下と共に行ってゼクスと面識があったという話だった。月に一度、主導する英刻院家のみ絶対一名、ほかは持ち回りだという話を琉衣洲達が話していたような覚えがあった。

 月に一度――琉衣洲には何も自体がわかっていないようだが、その月に一度の際に、仮に英刻院藍洲閣下が献血提供していたとしたら? これで英刻院は手に入る。そしてもしも英刻院閣下が血液提供をしていたならば、アルト猊下の件で提供した際に、舞洲猊下が宰相時代に伴侶補をしていた朝仁の祖父――当時の美晴宮当主が、

『病気の治療のみならず研究に役立て、ぜひ根治を』

 と言って、英刻院管理とし、貴族院に大量に美晴宮血液を輸血提供した記録があり、医療分は提携しているゼスト家が直接保持しているが、研究分等は現在も貴族院においての英刻院管理であり、それは当主が管理するわけだから、英刻院藍洲が管理者だったということになる。

 美晴宮に断ることなく使って良いのだ。

 実際に宗教院と医療院とザフィスによる薬液性能向上のための研究時は、配偶者猊下の舞洲猊下ではなく英刻院藍洲閣下からの許可で血液を受け取っていた。

 英刻院閣下が理由はともかく協力していたならば、美晴宮も手に入る。では、最後の無色透明の花王院王族の血液――最下層には度々橘大公爵が出かけている。

 本来は橘大公爵家当主が猟犬である事が多いが、これは橘大公爵の父が王弟だったため、橘大公爵が無色透明因子を引き継いでいたので、猟犬排出家の橘とはいえ、王族血統の無色透明因子保持者は守護対象であるから猟犬には入らないようになっているため、入っていないのだと時東は知っていて、これは有名な話なのである。

 橘大公爵家の場合は、表はロイヤル護衛隊所属で裏で猟犬という榎波とまさに同じ形式が多かったがその護衛隊に入らなかった理由として公表されたからだ。無色透明因子は、直系の子供全て、孫には三分の一の確率で出現し、ひ孫で消失する、王族だから貴重な血統ではあるのだが、一番この中では遺伝性が強い因子なのだ。

 その統一ゼクサ型の因子が含まれた血液を、橘ならばゼクスの友達であるようだし時東の友達でもあるようだし、英刻院閣下の少し下の世代だから英刻院閣下とも親しいし、英刻院閣下が関係なくとも提供していた可能性はかなり高い。

 しかも橘大公爵は、ゼクスと時東がいた最下層で最近高砂と共にロステク兵器研究をしていたというのだから、献血する機会は腐るほどあっただろう。つまりこう考えると時東には全ての血液を手に入れることが可能でさらにはザフィスから理論概要を聞いていた可能性まであるのだから、作る知識と技術もある可能性が高いし、作っていたとして何の不思議もない。何より、なんといっても目の前で光り輝いている実物があるのだ。

 しかし、である。

 ザフィス神父が理論を口走った時もそうだが、強い効果が必要なのは、病気を完全治癒させるためではなく、あくまでも青過剰に対する対処薬として強い効果が必要ということであり、病状が軽ければ、こんな代物は不要なのだ。

 つまり、こんなロイヤルパックをザフィスが作成するほどに、ZXの病状は重いのだ。