ZXのカルテ(4)



「――遺伝因子だった。通常のPSY血晶体ではなく、復古医療資料上で記録がある、メルクリウスPSY血晶体の特殊紫のものを、これまでイリス・アメジストと呼んできたことになる。全て同一だと考えられているが、現在俺は解析して、特殊緑と一般型メルクリウスPSY血晶体も確認している。特殊緑は、榎波と高砂だ。二人の共通点は複合色100パーセントだ。複合二色100パーセントも非常に珍しいが、そちらは稀血と同じような比率でいないことはない。一般型メルクリウスPSY血晶体は花王院血統。無色透明は、完璧に全員が100パーセントだ。目に見えないから非分類と同じ扱いでパーセント表示理解がなされないだけだ。そして無色透明は、見た目は完全に通常と同一で、ESP精査すると通常のものの上に無色透明な膜があると判明する。緑も見た目は同一だが、こちらはPSY知覚情報をそれ自体が放っていて、本来は銀色でエメラルドに光っているんだが、それを通常同様に見せる情報を常に放出していた。だからこれまで気付かなかったんだろうな。エメラルドが見えないようになっているのは、複合各色を安定させるためであるらしい。複合している全ての色相にESPよりの緑の血晶体が同化補正をかけているからで、それのせいで見た目情報も、どちらの色相にも完全一致するものにESP情報として見えるようになるから、通常物と同じにみえるようだな。俺が知る限り榎波と高砂に血核球を輸血する自体など特殊な怪我しか考えられないが、その場合今後俺は、通常物は非常時でなければ使用しない。今この血核球パックに入っているイリス・アメジスト――メルクリウスPSY血晶体の特殊紫も、きちんと生体血液型と血核球に合わせて本人に適合するものを使用している――まぁ見れば血核球もなんだかわかるだろうが、それ以前にゼクスは重度の貧血持ちだから、病気や血統内容より先に稀血O型マイナスと覚えてくれ」

 時東は一人で呟いた。一人だったが、横にはサイコメモリック石板がある。
 今後に備えて、記録を取ったのだ。

「それと、通常版とメルクリウス版の違い、これは100パーセントにする事だけでなく、そうした状態で、全ての色相の働きを完全に補助するのがメルクリウスだ。むしろ補助が可能だから100パーセントになるともいえる。ハーヴェストの血核球が色相の接着剤だとすると、くっついた全部を補助して表面にニスでも塗ってるのがメルクリウス」

 そう付け足して、一度記録を終えてから、改めてザフィスのカルテに視線を戻した。

 特異型PSY-Other過剰症の青単体異常の基本治療薬である保護生体液2つ、対処用ロイヤルパック1つ、特別専用PSY血核球パックが1つ、この合計四種類は、内容物はこれまで知っていたアルト猊下の一番優れていると思っていたものをはるかに超えて高度ではあるが、意味合いは同一なので、合計4つで基本治療はOKのはずなのだ。

 しかし点滴台を見る限り、この点滴台自体が、この治療用に作成されたものに見える。

 そして基本4つと共にもう一箇所ある。
 さて、これはなんだ?
 下がっている点滴パックを見る。

 最後にあったのは、赤・緑・カラフルなロイヤル・基本は透明なキラキラの四パックの中で言うならば、赤と緑に似ていて、青を薄くした色合いだった。水色と濃い青の中間の普通の青だ。そしてハッとした。似ているというか、これもおそらく保護生体液で正しく、そういう意味で同じなのだ。本人の青を保護するものであるのだろう。

 仮にゼスペリアの青を、そこの赤のように絶対原色・赤を生体液としてPSY医療薬液と合成すれば、上のほうが少し薄くて白っぽく見えるのは光の加減もあるし、こういう青ができあがるはずだ。だが、これまでに青過剰で青の保護など見たことがない。

 むしろその部分は、ある意味攻撃して減らす部分なのだ。

 これまでと今回の違い――Otherが100パーセントであること? そう考えてみると、非分類が無いのだから、抑制薬がもしききすぎれば、Otherが完全欠乏となってしまう。そうなればPSY円環は壊れる。が、普通はそんなことはな……けれど、治療として考えるならば、PKとESP同様、100パーセントの者が過剰症を発症したならば、確かに正常なそちら二つと同等の量かつ過剰でない程度の分は保護しておいた方が絶対に良いと、まずラクス猊下は考えた。さらに二つ気づいた。

 この点滴をしている最中は、アルト猊下はこの青の保護点滴をしていないわけだが、Otherによる無意識の自己治癒が止まる。そのため激痛が走る。だが、通常Otherによりこちらも闇猫技術としてではなく無意識に行っている痛覚遮断コントロールも止まる。それは、Other青全体に対応薬品の効果がかかり、抑制されるまで全体のOtherの青に効果が出ていたからだ。だが、保護点滴をしておけば、保護している部分で、自己治癒と痛覚遮断コントロールはそのまま維持されるはずだ。そうだ、すごい、気付かなかった。

 しかも青過剰なのだから、青は大量に余っているのだ。

 本人の血液でなくとも、同じ稀血Oマイナスに同じ混雑型PSY血核球を入れて、同じPSY血晶板を入れて、浸透液の代わりにその稀血の生体輸血用血液を土台として、過剰分から抽出した青を保持させれば、混雑型自体の保護能力とメルクリウスの補助能力もあるのだから、その血液は、ゼスペリアの青の保護生体液を作成するための血液と同様になる。

 そこに通常時のようにESP薬液を加えれば、青の保護生体液が完成する。
 少なくとも理論上はそうなる。

 PSY色相というのは、基本的には生体血液内に漂っているPSYなのだから、青を入れる方法さえあるならば可能だ。

 勿論それを続ければ過剰が収まるだとか、吸収したら抑制できるとかではない。
 そうでないことが分かっているから、この治療法が確立されてきたのだ。

 しかし過去に、吸収したら抑制できる可能性を検討していた時代があって、その際に吸収技術は確立されえていた。非常に簡単だ。

 過剰時に採血して、代理血液の方にアンプル一本どころか、一滴垂らせば、近くにある本人が発しているOtherが、その一滴側からも過剰状態で放出されると判明したのだ。

 持続時間は三十秒から三分程度と短いが、過剰な量は十分すぎるから、二滴たらしたら、代理血液が入った容器が爆発したという話まである。

 そしてそちらの血液は一瞬で青を帯びる。だが、本人側の方はそれでは減らなかったのであまり意味はなかったし、ゼスペリアの青の血液はとても貴重だからと研究対象になりかけたが、そうはならなかった。

 その血液本人が接触すると、青の効果をきちんと持つのだが、他の人間が触っても、ただの血でしかなかったのだ。

 つまり、ゼスペリアの青は、所有者がきちんといないと、血液を入手してもどうにもならないOtherなのである。

 しかし、青が残っていて本人と接触すると復活するのは確実なのであり、保護用と考えるとこれは素晴らしすぎる。