【2】創世記
<一日目(月)>『現:歴史第六層・原初文明時代』
これは、原初文明に『火(技術)』をもたらした記録、と科学的には考えられている。つまり、最も最初に広がった原始宗教に関する記載と考えられている。
信仰対象は『月』だったらしい。
科学・宗教院共通の見解として、『ここから、人間は文明を築くようになった』とされている。
いわく――主は、全ての動植物に満ちるように命じ、月を信仰していた動物に火を与えた。
実際はどうあれ、『原初文明の月信仰』とは、アニミズム的な原始宗教の一形態であり、はっきり言って『原始時代』のことであり、石器を用いて定住を開始した、動物から進化したばかりの人々の集団で間違いない。
これ以前にも文明はあったかもしれないが、歴史第六層研究における進化論上、現代の人類の直接祖先である『ホモ・サピエンス』の集団であり、確かにまだ、『人間というよりは動物の一種だった』と考えるのは正しい。
この部分も、創世記が正しい歴史書であるという根拠だ。この時点で言うところの『主』とは、PSYというより『高IQの持ち主で、技術を生み出した』と考える方が正解だろう。
<二日目(火)>『現・歴史第五層・完全ロステク時代』
いわく――主は火を使う動物を人と名づけた。主の御言葉に従い満ち満ちた人々は、火を継承し、それを標べとして、祀る祭壇を聖なる紅き黄金で建造した。主は、善良な民に知恵の木の実を与え、人々は神の知恵を授かった。
これが完全ロステク文明であると、科学的には考えられている。
ようするに『神が様々な技術を教えた』ということであり、ここでいう神とは、『高IQの人物』だ。聖書では全部『主』であり同一の『唯一神』や『絶対神』であるが、科学的には、歴史書が記された当時のわかりやすい象徴を、統一して書いたり広めた人間が『神』としただけで、別の当時の統治者か代表者、学識豊富な人物であろうと考えている。
満ち満ちたというのは、人間が文明を築いて各地に広まったということだ。
現在地球には、地球規模で言うならば、比較的小さな大陸部分にしか人間は住めず、その唯一の小さな大陸には、花王院王家が統治する王国しかない。
だが、この大陸内にも住めない地域が二つ存在し、そちらには、『帝国』や『神聖王国』の遺跡がある。また、氷河や砂漠化で住めなくなる以前は、もっと各地にも文明や国があったはずであるし、広いこの王国の各地にある廃棄都市と呼ばれる遺跡群の中にも完全ロステク文明の遺跡があるため、これは、大昔は各地に人間の住む国があった歴史的根拠であるとも考えられている。
火を継承したというのは、科学技術を積み重ねて、PSYが不要の完全科学の文明を作り上げたということだ。それが完全ロステク文明だ。
現在でも基本的に一部の人間しかPSYを意図的に使うことはできないわけであり、特にこの当時は、一般的な国民に至るまでが高度な科学教育を受けていて、高IQの人々が多く、その中でも秀でた人物が統治者だったのだろうと考えられている。
よって当時の技術は、現在では再現困難なロストテクノロジーが多く、かつPSYを用いないもの限定である。なので『完全ロステク』というのだ。
その時代は、『聖なる紅き黄金』と記載されているが、現存しない科学的合成物である各種の『オリハルコン』や『非劣化コンクリート』、他にも超科学の組み合わせの上で生可能な各種の元素や素材があったという事である。
少なくとも『聖なる紅き黄金』とは、完全ロステク文明で頻繁に用いられた『オリハルコン』であると、科学的に理解されている。これは、宗教院に伝わる神の遺物のいくつかと完全ロステク時代の廃棄都市から発掘されたオリハルコンが同一のものだったからである。
知恵の木の実とは、そのまま、高いIQ者から与えられた教育であり、人々が授かった神の知恵とは、少なくとも創世記が書かれた当時には『神の知識』としか考えられなかった技術のことだと考えられる。祭壇の建造とは、科学技術文明そのものであり、科学技術により、文明を作った、あるいは都市を作ったということである。
<三日目(水)>『現:歴史第四層・完全PSY時代』
いわく――主は善良な人々に、赤き果実と緑の果実もまた与えた。彼らは知恵の木の実を食べた者達の末裔である。青き果実に限っては、主の赦した特別に善良な御使いのみが口にする事を許された。果実を食べた善良な全ての人々は、主により与えられし叡智を封じ、果実により分け与えられた主の信徒としての御業を用いるようになった。聖なる紅き黄金の祭壇は失われたが、代わりに神聖な主の御業の一部を得て、楽園に住むことを赦された。これらの果実は、他に満ち満ちた全ての動植物もまた、果肉や果汁を食していたので、神の創りし全ての命あるものの、幸福な世界が訪れた。
果実が与えられたというのは、PSYが発見されたという事らしい。
この赤き果実が、PSY-PKである赤色相、緑の果実がPSY-ESPの青色相、そして御使いのみ赦された果実が、PSY-Otherの青色相の事であると考えられている。
嘘か誠か、ランバルト大公爵家の、ゼスペリアの青よりは薄いアイスブルーの色相の起源は、宗教院の記録によれば『青き果実を特別に与えられた御使いの末裔の証』という事であるらしい。
使徒ランバルトとは、使徒ゼストの友人であったとされているので、神の器である使徒ゼストもまた、御使いの直接的な末裔という出自となる。無論これは宗教院的な解釈なので、真実だと考える研究者は少ないが、『特別に善良な御使い』と呼ばれるだけあり、当時から青色相を持つ人間(青き果実を食べた者)は、現在同様少数だったと考えられる。
また『叡智を封じ』や『聖なる紅き黄金の祭壇は失われた』に関しては、完全ロステク時代の技術が『禁じられた』『弾圧された』『失われた』という、文明崩壊及び、『PSY能力者統治時代には、持たない一般的な人間の地位が低かった』のだろうと考えられていて、さらに赤き果実と緑の果実、青の果実を食べた善良な人々は、『知恵の木の実を食べた者達の末裔』だったので、『高IQを持っていた者』と考えられている。
現在もIQとPSY値の相似は、科学的に証明されているので、この部分も正確な知識であると言える。全動植物も果物を摂取したとあるが、『生体PSY受容体は、命ある者全てに存在している』ので、これが発見されていたという記録でもある。
楽園とは、完全ロステク時代には、通訳システムが必須で、各種言語が存在したわけだが、ESPで直接全人類がコミュニケーションを取ることが可能となり、動物の気持ちも場合によっては理解できたという意味だと考えられている。
無論これらは科学的研究上の見解で、宗教院の解釈ではないし、さらにそれを簡単に学ぶ一般国民は、科学にも宗教にもあまり関心がないのが実情で、科学に関しては許可がないとここまで知ることも不可能なので、たまたまゼクスは、この見解を知っていただけであると言える。なお、楽園と書いてはあるが、歴史研究上、PSYが強い人間ほど上位であり、持たない者や使用できない者は弾圧された、絶対王政的な文明だったらしい。
<四日目(木)>『現:歴史第三層・PSY複合科学時代』
続いては、『――善良な信徒が主から与えられし果実と知恵の木の実を混ぜ合わせ、葡萄酒を捧げるようになった』と記述されている、PSYを用いた科学時代の文明の話となる。
『赤き葡萄酒』と『特別な葡萄酒』、『葡萄酒を満たす、緑に輝く金の聖杯』、『主が好んだ青き聖水』、という語句が出てくるのだが、赤き葡萄酒がPK赤色相、特別な葡萄酒は『濃い赤紫色』だったそうで、恐らくはPSY-PKとOtherの赤と青が混じった色相、緑に輝く金の聖杯とは、ESPの緑色相で、基本的にPKとESPの融合、PKとESPとOtherの融合、青き聖水はOther単独の青色相だと考えられている。
青き聖水も主が好んだとわざわざ書いてあり、多くは飲めなかったらしいので、この時代でも青色相は貴重だったわけであり、現在同様、PKとESPの持ち主『緑金の聖杯(ESP)に入った、赤き葡萄酒(PK)』が一般的で、Otherが入っていると『特別だった』と考察されている。『捧げる祭壇は、失われし聖なる赤き黄金に似た、緋色の金箔が塗られていた』とあり、これが科学を指すと考えられている。
以上のことから、『PSY複合科学時代の記述』と考えられていて、同時に『混ぜ合わせている』ため、『完全ロステク文明より継承されていた一部の科学技術』が、『完全PSY文明時代に一部復古した』と解釈されている。この時代は、歴史第二層から、そのまま進んだ文明時代だとされている。
ただし復古した科学技術は、主にPSY研究や、PSYによる科学的解釈、研究に用いられるのみで、完全ロステク時代に反映したような超科学の復古は無く、PSY文明が一部科学的になっただけであると考えられている。
このPSY複合科学は、完全PSYと違い、力は弱まるが、多くの人間がPSYを科学の補佐により使用可能になっていた状態であるらしい。同時に、PSY研究としては、これ時代が既にロステクと言えるほど進んでいた様子である。
また、一般的な人々もPSY複合科学を使用できたため、議会的な集団決定がなされる民主的文明となっていたようで、現在のような王国政治形態の元老院や、宗教院の枢機卿議会、ギルドの闇司祭議会等、こういう議会で決定するという考え方は、この時代になって始めて生まれたらしい。
ある種の原初文明時代の考え方(月の元に人は平等)と同じだが、それまでは完全ロステク時代は高IQによる知的階級のようなものが存在したし、完全PSY時代は、PSY能力者が非能力者を支配していたので、人類の道徳的価値観の発達として言えば、この文明は特徴的な融和の世界であると考えられている。
<五日目(金)>『現:歴史第二層・ロステク時代で一部PSY』
さて、次の時代であるが、こちらは通称『華族全盛期』である。
この時代の宗教が、『院系譜』として残っている、各種お経の起源らしい。
なんでも――この日、緑色の羽の御使いが、主に捧げる葡萄酒を零し、以後祭壇が汚れぬよう、信徒は洗礼時以外、葡萄酒を口にしないと取り決めた。主は、常にそばに置いていた虹色の羽の御使いにのみ、葡萄酒を飲むことを赦した。そして緑色の羽の御使いには、祭壇を任せる事で、赦しとした。緑色の羽の御使いは祭壇を磨き、虹色の御使いのみが、神の代理として祭壇の前に立つことを赦された。
と、書いてあり、宗教院の解釈だと、『神は、人間の神の御業を制限した』という事である。なお、裁断を磨いたというのは、『技術の促進を図った』という意味だと科学的に考えられている。
緑色の羽の御使いは、『秘匿されし聖なる紅き黄金の祭壇を知った』とも書いてあるので、これは、『完全ロステク関連廃棄都市遺跡を見に行った』つまり『発掘した』のだろうと考えられている。
葡萄酒をこぼして、一般的な人々が飲めなくなったのは、『PSY複合科学が喪失された』という事であり、前文明の終焉、歴史第三層が滅亡後、生き残った人々が歴史第二層にあたる文明を築いたという解釈がなされている。
ちなみに『葡萄酒をこぼした』というのは、『精神感染汚染兵器の事故か戦争、精神汚染感染症の蔓延により、人間のPSY受容体が汚染され、結果的に滅亡した』と考えられている。それが、第三層の文明が突如として滅び、少数のPSY能力者のみ残った理由だと考えられる。
そして『華族全盛期』と呼ばれる理由は、この当時が、『天皇家王朝時代』だと、美晴宮家や華族院所有の古文書から、文字記録が残存しているからである。先に書いておくと、『緑色の羽の御使い』というのは、『絶対緑色相を持った人物』であり、古文書に出てくる『万象院』の事である。
また、『虹色の羽の御使い』とは、美晴宮家が持つ『絶対紫色相』という『絶対補色青、絶対原色赤、絶対現職緑以外で構成された特別補色紫』は、紫色色相を発する時に、紫色の三角形を描くのだが、その周囲に七色の丸い、紫色を構成するその他の色相がランダムで並ぶため、それが『虹色』と称されていると考えられている。これは科学的な解釈であり、華族神話とも教会の見解とも異なる。なお教会院としては、『虹色の羽の御使いは、使徒ミヒャエルの祖である』としている。
華族の神話伝承について述べると次のようになる。