ZXのカルテ(6)



 それは薄い灰青色のPSY復古医療医薬品で、見た目は上の鎮痛剤の色違いに見える。
 炭酸のような泡まで同一だ。

 これは全身の全ての神経を保護する医薬品であり、薬液に含有された微弱PK-Otherが薬液内ESP探知により把握された全神経に常に流れ続けて、全ての神経を保護する医薬品である。

 そこには脳も含まれる。

 神経と脳だけは、血管や臓器とも異なり、完全欠損や重篤なダメージを追えば、医療でも完全治癒は難しくなる。

 なのでこちらも末期ガンの全身転移などの場合に、それ以上のガンの転移を食い止め、かつその時点で安全な部分の保護のために使用されることが多い品である。

 こちらも時東には簡単だろうが本来は生成困難なPSY復古医療の指定医薬品だが、上二つよりは見かけるし、ホスピスだけでなく医療院でのガン治療者でその後生還した人間が使っていた例もあるので、上二つよりはマシだが、決して見ていて心が休まるものではない。

 しかもここにある点滴台も含めて一式が基本的な治療セットだとするならば、気が遠くなりそうだった。


 まず一番上の五本の点滴から伸びるそれぞれのチューブは五つ足の半透明な白い器具に接続されて、その下から伸びるチューブ部分を流れる時には合流し、最終的に一本の太い針により、ZXの右手の甲に繋がれた。そして半透明な白くて針を覆うケースが上にかぶせられて、白いPSY医療テープで両サイドが固定された。

 その上からケースと針が透明フィルムで確認できる、周囲はガーゼに似た素材のテープを上からはって固定された。

 時東のOtherで眠っているゼクスはおとなしく処置されていた。

 続いて右下の2本のチューブが二つ足の器具につながり、その後ひとつとなって、こちらはゼクスの右の鎖骨の少し上に針が刺された。

 最後のものは、そのまま、鎖骨のすぐ上に刺された。
 そして首の二つもそれぞれケース類を止め、ここにはガーゼが二つ並んだ状態になった。

 こちら二つは針がそこまで大きくなく、かわりにガーゼも小さいが止める関係なのか横長で、テープのように白く二つが並んでいるように見える。

 点滴位置は時東も、自分でもそうするなと思ったが、速度は判断に迷った。
 鎮痛剤と体内快癒薬と神経保護薬は完全にホスピスレベルだったのだ。
 レベル6相当だとしかやはり思えない。

 だが、過剰症対応の各種医薬品は、自分が知るものより内容が高度であるとしても、レベル5経験者で二週間に一度は悪化しなくても必ずこの点滴を受けているアルト猊下と比較して考えると、レベル4悪化時の三日に一度の点滴時と同等の速度に思えたのだ。

 濃度もあるだろうが、少なくともPKとESPの保護パックの濃度調整を見る限り、レベル5以上ならばもっと高濃度含有PSYで、保護というより強制防衛する形になるのだが、今回の内容は完全に保護と補助にしか見えない。

 レベル5以上への処置の場合は、色相内にわざとPKやESPを含有させて、過剰Other由来の攻撃を、点滴から流し込んだ方に向けさせる処置をするのだ。

 だが、レベル4までであれば、現在のように、攻撃を受けて文字初防衛できるように補助し、さらに防御するだけで良いのである。

 無論絶対原色に限りなく近いというかそのものにみえる保護用の生体液であるから、アルト猊下の使用しているそれらのレベル5相当分くらいのPKは自然と最初から入っているだろうし、おそらくもっと大量に入っているだろうが、レベル5の場合の人口処理により含有させるものは、そういった、自然なものとは違うのだ。

 現在、臨時に緊急的に点滴が行われているのは確かだが、この用意をしていた時東が、配布を見守っていたのを考えると、多少の時間的余裕があると思っていたので、最初から点滴予定だったとしても、どちらかというとこの処置は、安定期に入っていて内容も万全な二週間に一度の点滴の感覚に似ているようにさえ思える。

 その最中に少し具合が悪くなった時の臨時の点滴のような雰囲気を感じるのだ。

 二週間に一度というのはレベル5経験者の例えであるので、病状により間隔などは変わるが、空気感がそうなのである。

 ここだけ見るならば、やはり外見から見える通りレベル4なのだ。連続吐血だというからレベル5は間違いないが、だとしてもレベル4から5に悪化した直後と思える。

 しかし身体対応の点滴類はレベル6なのだ。
 だとすると――別の重大な疾患を持っている可能性は?


 時東はそう考えながら、もう一つの点滴台を見た。

 まず一つ目、完全に真っ赤で時折金色の粉が煌めいてPSY視覚に入ってくる、稀血Oマイナスの生体輸血用血液パック。先程も貧血だと言っていたし、それ用だ。

 二つ目の、こちらも赤いが少し色合いが薄いのは、増血剤と造血剤の混合物で、増やすし作ってくれるPSY医薬品である。別に珍しいものではなく、稀血の貧血患者には大体使われる。無論生成は難しいが時東には簡単だろう。

 三つ目も完全指定特別完全ロステク医薬品に指定されているものだが、これも時東なら小説でも眺めながらでさえ作れるだろう。暗めのゴールドに輝き大きい気泡がゆっくり下からあがってくるこれは、栄養剤である。

 ただ――これはホスピスでも見かける。内蔵を摘出していたり、極度に胃腸、消化器に問題がある場合にも使用される。超高カロリーの栄養剤で、完璧な栄養失調対策要医薬品だ。

 そう言った病気か、拒食症あるいは遭難などによる飢餓状態が著しく餓死寸前の患者への供与の指定医薬品でもある。

 だがPSY医療において見かける理由は、PSY能力を発動すると高カロリーを消費する体質の人物がいるので、そういう場合の対応で見る事が多い。

 また、高IQが規定値を著しく超えている人間の場合も、全く同じ体質の人々がいる。

 PSYとIQは高い側は完全に比例、下側はPSYは使えない者の方が多いし、IQも精神遅滞などがあるから比例確認はとれないが、それでも高い側であっても完全に全員が比例するわけではなく、あくまで統計上だ。どちらかしか高くないものもいるのである。

 それはそれとして、貧血と栄養失調だからこれを使用しているのか、それともPSYが高いのは確実だからそのためなのか、両方なのか、PSYの高さが起因してなんらかの状態から貧血になっているのか、その辺も聞いてみなければとラクス猊下は考えた。

 四つ目を見ると、これも全然珍しくない脱水防止生理用電解食塩水だった。

 PSY医療系生成医薬品という意味でいうなら、一般のものよりは高価だし、今存在する同一内容物の中で最も優秀であるのはその通りだが、これはかなりよく見るものであるし、医療院は基本的にこれしか使わない。

 ちょっと困惑したのは五つ目だ。

 これはPSY融合医療医薬品であり、PSY医療の中の最先端かつ一番難易度が高いが効果もある医薬品類で数も貴重なものである、が、復古したのが時東で、生成方法を公開したのも時東だから、ザフィスがチェックして持っていても何の不思議もない。

 簡単に言えばこれは、睡眠導入剤と睡眠補助薬の短期・中期・長期・超長期の全てを併せ持っていて、点滴中は爆睡できるし非常に熟睡状態になり、外部の刺激で起きることもなくなるのだ。だが、点滴を止めれば即座に目を覚ますし眠気も残らない。

 その上、PSYで刺激を送れば、点滴中もいつでも起こせるし、そうしている間は眠気は無く、PSY刺激を止めればまた眠るという代物なのだ。麻酔に使われる場合もあるし、他には犯罪者などに投薬して尋問時以外眠らせておくのに使ったりする。

 特異型不眠症の治療に使われることもあるし、非常に優秀な薬として大人気で、時東はこれの復古特許だけでおそらく生涯遊んで暮らせるだろう。出自どころでなく、それくらい現在多くの場で注目されている薬なのだ。入院患者には何に対しても有効に使用できる。

 この二つ目の台はここまで、身体状態の根本改善セットとでも言うべき内容だ。

 そしてこちらの最後に、やはりPSY融合医療医薬品の体温調節剤があった。
 過剰症自体が貧血と低体温を初期特徴とする。

 ESP欠乏症患者が日光を浴びた時にも有効だが、完全欠乏症の患者であっても常用点滴するような部類ではない品なのである。

 この二台目は、一番上には球体が付いていて、隣の点滴の二番目類の下にやっと最初の点滴金具がありそこに稀血、その少し下の左よりに増&造血剤、そこから間隔をあけてさらに下で今度は上二つと対角に位置する二股の金具に栄養剤と電解水、そのほぼ逆側の少しだけ右下に睡眠薬のパック、その斜め左下に体温調節パックがあり、六つ足の金具に全てのチューブが繋がれて、これはZXの右腕の関節の少し上に注射された。テープ類は同一だ。針がこれも太い。

 濃度は基本的な医療時通りで、速度も、なんというか入院患者向けの定期処置に近い、ごくごく平均的なものに見えるし、臨時緊急点滴類ではなく思えた。もちろん貧血輸血は備えていた、という意味であるが。

 かつ、一番上の球体は、改めて見ると、点滴台やパック、チューブ、その他の医療器具同様、これも医療院で使われているのを比較的よく見る、患者の体調チェック用の器具だと再理解した。

 たとえば、免疫が落ちているが健康な患者のそばに置き、肺炎などの死に直結するような自体が発生した時などの身体状態の悪化を早急に伝えてくれる装置だ。


 ――以上だった。

 これを見て、時東は呟いた。

「……ZXは、死にそうなのか……? 少なくとも、この点滴じゃ、余命は今日だな」

 いつ死んでもおかしくない。
 そう考えながら煙草に火をつけた時、時東のもとに、ラフ牧師が襲われて、ゼクスが行方不明であるという報せが届いたのである。それが、最下層襲撃の三日前の事である。