【3】使徒オーウェン礼拝堂
「――あれ? これ、どういう事?」
最初に最下層の異変に気が付いたのは、高砂だった。
「それにさ、ゼクスはどうしてるの?」
その言葉にガチ勢を含めてハッとした。
高砂が映像を映し出す。
「今、ESPで連絡を――……っ、まずい、最下層周囲にPSY融合兵器で砂嵐が入ってる……、しかも、これ……」
高砂が目を細めた。本日の天気予報は晴れだというのに、土砂降りだ。明らかにい――気象兵器だった。さらに毒が混入しているのか、最下層の住宅地の水源が汚染されているらしく、腐乱死体だらけだった。
「ねぇ、この黒い石像、何? 目の黒いサファイア、PSY融合兵器だ。これ、PSY遺伝病系みたいだけど……俺は見たことがない。誰かある?」
するとガチ勢を含めて最下層を知る人々は全員首を振った。
「誰かが最近運んだってことだ……最下層が狙われてる? なんで? 俺達がそこから来たからというよりは――他に理由がありそうだけど」
高砂がそう言った瞬間、榎波が舌打ちした。
「ダメだ、最下層直通転移移送陣の全てが破壊されている」
――使徒オーウェンと双子の義兄弟のサイコメモリックが出現したのは、その時のことだった。
「ゼクス=ゼスペリア十九世を保護するために、オーウェン礼拝堂を起動しなければなりません」
最初は全員、戸惑った。
――そしてオーウェンの指示で壁の溝を手でなぞると棚が出てきた。
「まずこの、英刻院の方の双子の義兄弟の十字架を琉衣洲くん、ミヒャエルと義兄弟の紫の十字架を朝仁くん、で、ラファエリアの十字架とオーウェンの十字架と花王院総代念珠を青殿下がつけて。それで花王院念珠にオーウェンの十字架に似てるけど中央のエメラルドがラファエリアの家紋になってるのを橘大公爵がつけて――うん、そんな感じ。さて、青殿下、扉を閉めて。壁に戻るから。それが終わったら、その壁に十字架を当てて」
おそるおそる頷きながら、青殿下がそうした瞬間――その場の風景が変わった。オーウェンの真後ろから二階ロビーに続く階段が現れて、さらに正方形だった室内は非常に広い五角形になったのである。それに全員が呆然としていると、オーウェンが言った。
「この琉衣洲くんと朝仁くんの、双子の義兄弟の十字架で完全にESP知覚情報と記憶を探知して、青殿下の十字架で起動した王宮の完全防衛システムと瞬間移送術で、この室内には、今後一切敵がはいれなくなった。今、何人か各集団から消えたでしょう? あの人々、敵だったんだ。けどもう内部にはいないし、外からも敵以外は入れる。敵は、はいろうとしても、気づくと遠方の砂漠にいる感じになるからこれでOK」
その言葉に周囲を見渡し、数十人が消えている事実に、多くがハッとした。
「それで、オーウェン礼拝堂になってるゼクス牧師のお部屋、あそこは、宗教院は目立つから万が一的集団が狙って何かやった場合、王宮にも保護用の場所を作っておこうということになって作っておいたもので、今のこの場所全体がそのためのもの。つまりここは、ゼスペリアの器を保護しつつ黙示録対応を人間がするための場所だから、全集団を保護連携するけど、使徒オーウェンによるゼスト保護区域兼オーウェン末裔による黙示録対策をして国を守ろうという場所だから、そちらも協力お願いします。代表者は勿論青殿下と伴侶補二名ということになるから頑張ってね! というか君達三人以外その十字架を身につけられないから、君達に何かあると敵が入ってきて、ゼスペリアの器も死ぬから注意してね――それで、橘大公爵。あのゼクス牧師の横の扉の向こうに、医療院の防御フィールド敷いてる集中治療室を、今かけてる念珠だと空間・装置ごと転移可能で、かつ既にあの部屋には、王宮から完全ロステク対応電力とPSY全色相MAXで入ってるから、装置を置いた瞬間切り替わる。かつ、その隣に医療院って看板の部屋できてるでしょ? あそこに医療院の全データと医薬品と検査用装置とか全部同一物コピーを常にとってたから同じ数だけあるし、今後の医療院のデータも増えた品もコピーされてはいるから、点滴とかもそのままでいいから、英刻院藍洲閣下という人物がいるそのフィールドのロイヤルそうな人々全部集団で中身ごと転移させてきて。よろしく! それで真朱匂宮様は、そっちの確認についていってほしいから、橘大公爵と行動し、戻ってきたらこっちの置換がうまくいってるか確認して。というわけだから、こういう感じで、ゼスペリアの医師は単独でゼクス牧師の所に行って。政宗先生も行きたければ言っていいけど、ラクス猊下と橘宮様はゼクス牧師が緊張しちゃうだろうかモニターで見てて。さらに全員、俺の説明を聞いて」
オーウェンの言葉に、名指しされた人々は即座に行動し、政宗はついていき、他のメンバーはオーウェンに注目した。
「それで医療院の横が、天才機関・最高学府。五角形で言うと右上が礼拝堂、右下が時別三機関、それで下の部分の入口はそのまま、で、左にできた入口が迎賓館。開けて一人で入ると一人部屋、二人なら二人べや、五人なら五人べや。中にお風呂とトイレと簡易キッチンがある。けど、和室・洋室・ベッド・布団・和洋中イタリアンなんでもメニュー表で選べるし、クローゼットに服入れると洗濯されて乾いた状態で出てくる。アイロンもばっちり。テレビもあるから、この室内の風景と国内の番組は全部見られるから。だから、トイレ行きたい時も迎賓館を使って。悪いんだけど、他の階とか各地の自宅は危険すぎるから、今後、爵位とかもなにも関係なしで全員迎賓館で寝泊まりしていただきます。なるべく外には出ないでください。出ていいのは実働部隊の稼動時のみで、それもゼクス牧師のアイテム配布終了までは禁止。かつ、大至急全員集まるように言って。信用できるかできないかは、入れなきゃ敵だから、それでわかるから、各集団全員集合かけて。無論、武力ある人々の話ね。ただ、院系譜現地と華族敷地現地はそのまま待機で良い」
その言葉に、猟犬・黒色・闇猫・黒咲・院系譜が全力で集合をかけた。ガチ勢は、普通のここにいない協力をしていなかった人々にも最下層の惨状とゼクスの件を伝えた結果、爆発的に増えたし、長老の赤と緑の件を知ったり、住宅地壊滅の知らせにかなり増えた。
「さて、入口の右側、ここは、亜空間食料庫とか調理器具とか置いてあるから、自炊したい場合とかに使って。次五角形左下、貴族院・華族院・実務院・元老院・法務院・軍法院・宗教院があるから、それぞれの武力じゃない方面の人々は、とりあえずそこに入って。まず先に。かつこれも全部同期コピーしてるから、本社家屋と全部同じ。で、黙示録に理解があり、猟犬とかを理解し、あるいはしなくてもいいからそれらを無視して仕事ができる有能な人物をそこに行かせて。それで、ゼスペリアのやぶが、ぶち込んでるラファエリア前法王猊下・英刻院礼洲議長・橘元帥の三名は確定だとさっきのゼクス牧師の個人情報登録時のサインから確認できるから、誰か拘置所から出して、その三名を説得室ぉ子に配置してくれる?」
貴族院・華族院・実務院に関しては、既に集まっていた人々が自発的に移動して呼び出し始めた。なお普通のロイヤル護衛隊とロイヤルキーパーは実務院所属だから、王宮内にこの知らせが通達された。
「それで五角形の左上、ゼスペリア猊下執務院の執務室・ゼスト血統者待機室・倉庫兼礼拝堂――倉庫は、今回色々な聖遺物がもって来られれたのと、なんか窃盗されていたのも持ってきてもらって、誰も身につけないようなのとか、あとは、ゼクス牧師が数々の聖書類も持ってきたから、そういうのを収納して、後、俺達をいつでもというわけだけじゃないけど呼び出せるサイコメモリックの銀柱とかを配置してもらう感じ。とりあえず倉庫だけは、ゼクス牧師に配置してもらうからまだ入らないで。次、上の説明するね礼拝堂真上が、青殿下と伴侶補二名の玉座。その横が、桃雪匂宮様と橘宮様の美晴宮様補佐の場所。逆側の五角形三角形上がレクス伯爵とラクス猊下の琉衣洲殿下をお手伝いする場所。で、五角形のまっすぐ部分は、英刻院閣下の宰相室、その横の扉が王国運営に必要な資料が全部入ってる亜空間図書館。それで五角形右下が、ロイヤル護衛隊長・王家分家・医療顧問・兵器有識者・御典医・最初補佐二名の席だけど、ここは全員自由に好きな仕事していいから。青殿下達も含めて。元々の位置を上に下だけ――で、今から青殿下に今ここにいるメンバーを勝手に一変更転移させてもらうから、一旦動作を停止して。よし、青殿下、今、ESP送信した通りに人々を配置して」
頷いて青殿下が移動させた瞬間、なんとらせん状に階段が下にも伸びていき、さらに下に三階、上に二階程、五角形の部屋が出来上がった。ただし階段の場所は様々だし、全て吹き抜けだ。
「よし。まず、最初にいた階の一個下にできた円卓。基本的に、ここで黙示録対策会議をしてもらうね。ここなら全ての人がいる階からだいたい見られるし、迎賓館のモニターと各階のモニターには常に、この円卓とゼクス牧師のあの今壁の表面に流れてる映像が出てるから、どこからでも見える。それで、今円卓にいる人々プラスその時々で加えたい人物を追加しつつ会議して黙示録対策をして。英刻院閣下とかゼクス牧師とかね。けどまぁ基本は黙示録に出てくる十二使徒とか賢者とかで頑張ろう。かつ五角形右上が闇猫、右下が黒咲、正面が院系譜というか万象院&ガチ勢っていうの、左下がギルド黒色、左上が猟犬の専用のお部屋で、ここもゼクス牧師に配置してもらうから、まだ立ち入りはまって。例えばギルドならルシフェリアの指示で闇司祭議会会場が復活したりするから、安心していいから。さらに、その下、ここが一応二階ってことにしよう。ここはそれぞれ同じ配置で、闇猫・黒咲・院系譜・ギルド・猟犬の、ゼクス牧師が作ってきてくれた服倉庫や個人用武器庫となるし、戸棚つけてそれぞれの資料も置ける感じだから、ゼクス牧師の配置までまってね。それで、一番下が、左下がこれまで王宮で使ってたやつ、左上が今回青殿下の十字架と伴侶補二名で起動したものの中で、手動かPSY操作がいる防衛および攻撃兵器類、それで右上が生体毒物・ウイルス・マインドクラック・精神感染汚染症・PSY受容体攻防系の特に危険兵器の場所。右下がPSY癒合兵器全般と気象兵器・災害兵器・重力系兵器の攻防兵器。真正面が完全ロステク兵器全般。右側と下までは、万象院旧本尊とかにあった、ユエルこと青照大御神から旧世界滅亡時くらいまでの兵器の保存物。このように一階が武器、二階が装備と個人武器、三階が集団待機室兼円卓、四階が人間の王国維持とゼスペリア猊下保護室。五階が入口。王宮の外観は変わってないから。さて上の一階というかロビーに行きます。ここもさっき話した今まで通りの配置。さてその上の、階。ここからは天井で見えないから、いまモニター出したけど、ゼクス牧師のゼスペリア関連宗教・万象院関連青き弥勒関連宗教・匂宮方向青照大御神関連神話・ロードクロサイト文明関連・聖遺物とか未翻訳だけどゼクス牧師しか触れないような福音書置き場の予定が右上。右下が、ゼガリア・ゼルリアのそれぞれの大神殿分院・ゼスペリア教会分院・万象院旧本尊分院・青照大御神神宮分霊神殿で、礼拝堂とか鏡とか設置される。中央が、ゼスペリア牧師の医学・装飾・衣類の研究室。左下がその他の各種文献図書館。左上が復古した使徒ゼストの銀とか、なにやらプレゼント用に作ったと思しきアイテムとかを置くお部屋となる、ゼクス=ゼスペリアの必要なもの施設。興味あったら聞いてみるといいと思う。ちなみに使徒イリス礼拝堂は、闇司祭議会の部屋に入る予定みたいだから、そこの円卓がむしろルシフェリア好意で設置される感じ。それで最上階。旧世界以前関連のアイテム置き場。まず右上がハーヴェストクロウ大公爵家関連、左上がタイムクロックイーストヘブン関連、真正面がロードクロサイト関連、左下がその他のラファエリア関連旧世界系統、右下が華族・院系譜関連というかまぁ匂宮関係鴉羽的なお部屋となります。それで、そのロードクロサイト文明に詳しい感じの資料と、地下の各集団の所に、ゼクス牧師が敵集団資料とかもたくさん持ってきてくれてるみたいだから、照合して考える感じで行きます。あと、ガチ勢の袈裟は完全個人仕様みたいだから、お願いすると他の集団も個人仕様にしてくれるかもしれない。洋服作ったり、アクセ作るのが趣味らしい――さて、橘大公爵達も到着したしね。これでオーウェン礼拝堂は、準備が整った。良かった」
そう言うと、使徒オーウェン達のサイコメモリックは消失した。
しかし――肝心のゼクスがいない。
この最中に、ギルドの人間は、弟のレクスに連絡を取っていたのだが、レクスにも通じなかった。高砂は個人的に、時東ならば何か知っているのではないかと思い、そちらにも連絡をしてみたのだが、時東にも繋がらない。
榎波がはっとしたように息を呑んで、左手を持ち上げたのはその時だった。
大昔にゼクスの薬指にはめた指輪の存在を思い出したのである。
「――高砂、この指輪が発している位置情報を探知してくれ」
「うん……――うん? 時東を探知する指輪を持ってたの? どうして?」
「何? ゼクスじゃなく、時東?」
「その指輪の斜め上に時東のPSY知覚情報が――……なるほど、斜め下にいるんだ。ゼクスが。どうしてゼクスの位置が分かるのかは、もう聞かなくていいや」
高砂は、タイムクロックイーストヘブン大公爵家の地下を表示した。
その下層は、ハーヴェスト侯爵家の地下と交差しているのである。