【6】時東の問診



「最初の夢ではなんて?」
「んー? なんかこう、堕天使ラジエルに気をつけろっぽい事を言っていたな、その一週間前の日は。それで、なんのことかさっぱりわからなかったんだけど、ゼストは名前を出すと向こうに気づかれるかもしれないから、この話はもうできないって最初の日にいって、以来、この話はしてない。その他の夢はいつもどおり、使徒を探せ使徒を探せ使徒を探せ、と、こればかりだ。俺に探させるなといつも俺は言ったんだけど、ゼストは俺の近所に全員いるから俺が探すのが良いと言うんだ。そんなことを言われてもなぁ」
「俺はなにやらかつて闇汚染されたゼスペリアの青の目をして堕天使と呼ばれたラジエルという名前の人物のお話を聞いたことがある気がしないでもないので、あとでわかったらゼクス様に教えてあげましょう。俺が聞いている部分だと、黒い彫像にサファイアがはまってる堕天使ラジエル像とやらは、過去に何度か見つかってるらしい」
「え? けど、孤児院街のは使徒ランバルト像だぞ?」
「ランバルトっぽかったのか?」
「うっ、そ、そう言われると俺にはなんともだな……っぽさ、で、いうなら、イメージとしては、うさんくさい占い師みたいな像だったよな」
「ほう。それはそうと、最近、血はどのくらい吐いてた?」
「へ? おい、そういうことをみんなの前で言うなよ。なんか重病イメージがつくだろ」
「とっくについてるから安心して答えろ」
「あのなぁ。まぁ、そうだな……昨日今日の前は、一ヶ月よりもっと前には一回。噴水掃除の日だったからな。一ヶ月以内だと、うーん、なんか一週間ちょい前くらいに一回くらいかな。いや、その日は、同じ日に二回血が出た。どれも全部咳だ。食欲はずーっとありまくっていて、荷物運びしてる間は、眠気はあったけど、この時だけ食欲が全くなかった。ただこの時は一回も咳も出なかったぞ」
「春から夏になりつつあり温かくなってきてるが、ゼクスの体温はどうなってた?」
「それがなぁ、なんか前にお前さ、日光浴びると体温下がるかって俺に言っただろ? で、変化なかっただろ?」
「ああ」
「けど、梅雨になっただろ? そしたら、梅雨の内の何回かは下がる日があって、その後、雨が降ると下がるようになったんだ。けど雨にもこう、種類があるだろ? 俺の場合は、天気予報が晴れなのに、雨の日は、下がるんだ。どういうことなんだ、これ? 本当は晴れだから日光がやっぱり関係してるのかな? けど普通の天気予報の雨とか、梅雨も全部の日じゃなかったんだ」
「ゼクス牧師。俺は今、ふと、とある兵器について思い出した。その名は気象兵器という」
「時東、お前本当に頭いいのか? なんで気象兵器で、普通の雨を降らせるんだよ」
「それに関しては、ちと、高砂らと話してからご説明しよう。少なくともお前より人としてはマシな頭のデキだな」
「おい、それ、俺が馬鹿みたいだろうが」
「違うのか? それより続きだ。貧血は?」
「三日に一回点滴しろって言われた日のちょっと前からなんか悪くなってた。でも俺、特別その話ザフィス神父にしてなかったから、けどそれしか点滴増やす理由も思いつかなくて、なんでかバレたんだろうな」
「法王猊下の新聞記事の何日前か正確に思い出せ。頑張れ」
「え……あ! 確か、橘がクッキーくれた日の二日後だから、新聞の一週間前だな、多分。貧血になったけど、そのクッキー食べたら治って、以後俺は橘を崇め奉ろうと思った」
「めまいは?」
「ない」
「耳鳴り」
「ない」
「吐き気」
「ない」
「下痢」
「ない」
「頭痛」
「――これ、これこそだな、日光にあたるとたまに頭が痛くなるんだ。天気予報が外れた雨のチェックを開始してから気づいたから最近からかもだけどな」
「……覚えておく。ちなみに良く眠れていたか?」
「ゼストの夢を見る日は、ゼストが起きろと言わない限り、寝た気はしないけど完全爆睡みたいでいつも爽快な気分で目が覚めてたし寝るのもいつもどおり。だからこの一ヶ月くらいは、ほとんどよく眠れてたな。ただ、貧血っぽくなってきて、眠たくなる感じになってきて、こう最近暖かくなるにつれて、いつもどおりに寝るけど三時間くらいで一回目が覚めるんだよな。寝付きはいいんだ。で、ぐだぐだ寝てるのか微妙なラインで過ごして、朝になる。けどこれが三日くらい続くと、爆睡。その繰り返しだな。あたたかくなったからじゃなくて、寝不足で眠いのかもしれないけど、寝不足理由が不明だ。ただ、ザフィス神父のところの点滴の時は、いつもぐっすりだった。それと一回、五日間も三時間くらいで目が覚める時が続いてザフィス神父にどうにかして欲しいと言ったら、ラフ牧師のところに一緒に来いって言われて、そこでラフ牧師が三角形の紫と緑と蒼のお香をくれて、それを炊いて寝てみろって言われてそうしたら、六時間くらいきっちり眠れるようになってすごく幸せな気分でいたな。アロマテラピーだろうか? けど、それをくれるから、代わりに、それが無くなって、その時も眠れなければ、ザフィス神父もラフ牧師もいない場合は、毎日、ゼスペリア教会の地下一階のゼストが昔お祈りしていた部屋に行って、そこで寝ろと言われたな。こう考えると、ただの気分の問題なのかもな。ラフ牧師は、きっとゼストが熟睡させてくれるとか言ってたけど、ゼストは俺を眠らせずに歩き続けさせた現実がある。なんということだ」
「そのお香は今は?」
「もう無くなってしまった。ただ、四時間半くらい、お香が無くても眠れるようになってて、お香があっても五時間くらいで目が覚める日もあったから、別にいいかなと思ってな。地下で寝るのも石の床は硬そうだったからあんまりやりたくなくてな。でも、疲れててすごく眠くて点滴もしてたのに、昨日もレクスにあった時、やっぱり三時間くらいで一回起きた。なんでなんだ、これ? 不眠症?」
「睡眠障害系統じゃないと俺は考えているが、本日からゼスペリア牧師は死ぬほどよく眠れるだろうから、俺を敬っていい」
「そうなのか? じゃあ、これからしばらくの間、死ぬほどよく眠れるかチェックする。もし眠れなかったら、お前が俺を敬えよ」
「それはない。して、筋肉痛のような痛みは?」
「ラフ牧師の事件の日から、歩いてる間ずっとなんか筋肉痛の弱いのっぽかったな。けど、運動した記憶はゼロだけど、なんでだ?」
「ちょっとな。胃痛とか腹痛とかそういうのは?」
「全くない」
「体が痺れるとか、肩がこるとか、なんか指先が震えるとかは?」
「あのな、俺はおじいちゃんじゃないんだぞ? そんなのない!」
「手首足首周辺の関節は通常通りか?」
「俺はリウマチの疑いでもあるのか!? 全くない!」
「なるほど、安心しろ。リウマチではなさそうだ。ちなみに聞くが、ゼクス医師の判断として、今お前の過剰症のレベルは?」
「きっと6なんだろうが、一般的分類でいうと4だろうな。だから治療は4で良いと俺は思う。3でもいいかもな」
「――どの程度痛覚遮断していて自己治癒していると思う?」
「自己治癒は全く変化なしだろ、絶対。変化してたら、俺死んでるだろ。痛覚は……うーん……これがだな、最近、俺のあくまで体感なんだけどな、痛みが増してるとかじゃなく、遮断機能が落ちるってありえるか? ありえるなら、そうなってて、たまに遮断が弱くなってると俺は思う」
「ここまでの話としてありえると思うが、具体的にいつからだ?」
「これも三週間前だな、なんなんだ? あの像、おかしな電波でも発してたのか?」
「可能性が高い」
「い、いや、冗談で言ったんだ。真顔で返すな」
「俺は本気だからな。話を戻すが、痛みは増していないとのことだが、いつから今程度の痛みだ?」
「痛くないから分からないけど、感覚としては貧血が出たその、新聞で法王猊下のことを読んだ日に、なんかもしかすると痛いけど痛くないのかもしれないと思って、それで遮断が弱まったのかなぁと思って、ああ、なんか、多分、前よりこれはきっと痛いんだろうと思った。根拠は全部、あの腕輪のビービーいう音のショック死いっこ前とかいう音の時と同じで、あの腕輪をつけて測定しながら祝詞読むと、同じ歌だったからピンときたとしかいえないけどな。かつ祝詞読んでなくてもその歌が聞こえたから、弱まったって思った――そういえばあの歌、ゼスペリア教会の地下二階のイリスのお部屋に行くと同じのが聞こえる模様があるんだ。でも、そっちは聞いてると、俺が普段聞こえるのと違って、なんかこう、点滴しようかなという気分にさせてくれる優しさがあるんだ」
「お前、ゼスペリア教会に今後戻ったら、その部屋のその模様の前に毎日いけボケ」
「っ、け、検討しておく」
「レベル6のどの段階だ?」
「今は7じゃないから安心しろ。7になると一発でわかる」
「7になったのは3回だけなんだな?」
「そうだけど、それ、ザフィス神父に聞いたのか? ザフィス神父、誰にも言うなって言ってたぞ? ラフ牧師にも言っちゃダメだって」
「いいや。実はザフィス神父は、現在お具合が優れず、俺はお前のためを思って資料をチラ見しただけだ」
「えっ、風邪か? 盗み見?」
「どちらでもないが、とりあえず気にするな。一発でわかるっていうのは、なぜなんだ? 直接お前の口から聞きたい」
「これ、ゼストいわく人によるらしいから、あくまでも俺の場合で、ゼストの時は全然俺と違う感じだったらしいから、あんまり参考にはするなよ」
「ゼストも7だったのか?」
「ああ。ええと、それで俺の場合は、イメージでいうとPSY円環が全部Otherの青いやつ一色になる。かつそれを予知できる。から、予知段階でOther側をコントロールして、PSY円環を戻して、で、レベル6に戻してる。これが最新二回。一回目はかなり青っぽくなったけど、子供ながらになんかやばいと思ってもとに戻れと気合をいれて治したってことになるな。多分予知能力が出るレベルに過剰になってるのが逆に良いんだろうな。そうじゃなかったら死んでるだろ。かつ一回目の時に、かなり青っぽくなったおかげで、円環自体をその時巨大にして修正整形したから、予知が普通に過剰時にできるPSY円環状態になったわけだから、子供の頃の俺にグッジョブというしかないな」
「PK過剰の場合の円環治療処置としてそれは一番適切だから理解はできるが、自力でできるもんなのか? 本当に?」
「俺はできた。ゼストもそうしてたって言っていた。そこは同じだな。ただゼストの場合は、俺と違って円環は、最初の一回目は歪んだって言ってて、その後外枠を作って無理やり円にしたらしい。俺は歪む前に外枠を作っておいた。ま、結果は同じだ。で、ゼストの場合は、青じゃなくて、青過剰なんだけどPSY円環はESP部分から崩れ出してばっかりだったらしくて、まず緑に染まる感じらしい。かつ誰でも進行すれば全部ぐにゃっとまざって頭が爆発するらしいんだけどな、俺は予知だけど、ゼストはESPがまずドカンと増え出すから、その段階で聞こえる歌を覚えておいて対処していたらしい。ゼストは7を32回やったそうだ。でも、孫の顔を見て老衰で死んだし俺も大丈夫だろうと言っていた。それに、7になって、俺やゼストのように、まぁ別に俺はまだ長生きじゃないけど、なんというか、即死してないやつ、実は結構いたらしくて、ゼストは一回目は自力で、二回目からは、前になった人の日記を読んで対処法を覚えたって言っていて、その日記によると、日記を書いた人の先祖には、何人かその経験者がいたらしい」
「前になった人の名前と、日記を書いた人物と、先祖はどこの誰かわかるか?」
「いや、いっぱいいるらしいんだ。けど、ゼストが『前』っていった人は、なんちゃら匂宮総取り様だ。それで、先祖は、やっぱりなんちゃらとつく匂宮様で、匂宮様と書いてないのは、右副・鴉羽卿っていう人と、あと月讀とユエルってゼストは言っていたな。ちなみにゼストのあとは、ゼストの長男もそうだったけど、生まれたすぐあとにわかったからゼストが治したって言ってた。なんかゼストと一緒になんちゃら匂宮総取り様という人がいて、その総取り様っていうのは日記を書く仕事があるらしくて、それでその人にゼストは日記を借りて、それで『前』の方のなんちゃら匂宮総取り様について知ったらしい。で、日記によると、自分で円環をどうにもできないレベルになったら、橘宮様のところへ行って土下座すればなんとかなる場合がゼロでもないと書いてあったそうだ」
「非常に勉強になった、ありがとうございますゼクス先生」
「いやいや、良い良い。気にするでない。というか、あのな、時東。本当に俺は大丈夫だから、心配してくれて感謝してるけど、あんまり気にしないでくれ」
「――もしお前が俺と逆の立場だったらどうする?」
「医療院の集中治療室にぶちこむ」
「お前な、ふざけんなよこのボケ。実際、相当具合悪いだろ?」
「俺にとってはこれはもう普通だから、それは要するに具合、悪くないだろ。病は気からとも言うしな! 俺としては、貧血が一番困る。二番目が寝不足。この二つ、絶対なんかやばい。そっちをどうにかしてくれ。あと、お腹減ったからオムライス食いたい。それと喉渇いたからライチジュースも飲みたい」
「――上半身を起き上がらせることができるなら、榎波にオムライスを作らせてくる」
「本当か!? 今すぐ――っ、あ、あれ……? と、時東、どうしよう、力が入らない……ぎっくり腰かな? 別に腰に痛みはないけど、感覚が無い……」
「とりあえずこのライチジュース入りの給水器から伸びているストローだけ許してやろう」
「っ、う、あ、あ、ありがとうござい?」

 ゼクスは何とも言えないような顔でストローを受け取り、コクコクと飲んだ。
 時東のポケットから不意に給水器とチューブとその先のストローが出てきたので一同は少し驚いた。