【2】完全PSY血統医術
白金銀の粉が光る空としかいえないゼスペリアの青、緑と赤もより鮮やかになり、金が強めの白金になった。宝石のようにしか思えない。
「――青が、あのように、横に三角形にえぐっている。それを過剰症と呼ぶんだろう?」
「おそらく橘宮様の見解であっている。その隣は?」
「あれは、今の肉体状態だ。普通は肌色だが、あのように線が入っていると病気だ。全部に入っているから、全身が病気でしかも紅いから、全身がとても痛い。紅いのは痛みを伴う。PKが全身に暴発して蝕んでいる。普通あのようになっていれば、痛くて立てない。その隣は、どうやって痛みを消しているかで、OtherとESPを用いて、本来自然ではない色相を作り出して消しているから、闇のように出る。確か痛覚遮断コントロールと呼ぶんだろう?」
「そうだ」
時東が頷く隣で、橘宮がじっとモニターを見た。
「それらの下がさっき言っていた心臓等か?」
「ああ。まずゼスペリアの青の過剰と、それに対して使われている薬のPSY内容が出ているだろう? それぞれの横の灰色が強さだ。薬のPSY濃度が、生まれつき持っているゼスペリアの青よりも濃すぎるから、ここをまず調整しないとならない」
「なるほど」
「そしてゼスペリアの青の上のガラスが右に出ているものと同じもの。下が薬の凸凹だ。上のように平らにしないとだめだ。ただ、薬の内容はこれが完璧だ。他を調整するということだ。薬は全て足りているし、どれがかけてもダメだ。この配合でないとだめだ。あとは一致させるということになるんだろうな」
「そうか」
「それと、その隣。橙色と水色が本来の心臓と肺。上が今の状態だ。下のきちんとした状態に戻さないと心停止と呼吸不全となる。間にある赤から白が、痛みを表すんだが、現在の患者の状態はそれらの中にない。その脇に出ている暗い紅だ。あれは激痛を示す。あれをなるべく横の白、そうでなくても赤の一番上までに戻さなければならない」
「痛み……」
「ああ。貧血と栄養失調、あの橙色と水色を戻せば取れる――それから右のガラスの上。あれが今のガラスの状態だ。弱っているから、自力でのガラスの修正能力が落ちていて割れたままだ。その横、あそこもズタズタだから、今、PSYを全て使えるがつかうと亀裂に響いてより身体が悪くなる」
「……」
「ガラスを平面一色にして、ひびのような斑をとれば、亀裂も埋まる。あれは断面の違う角度だろう?」
「そうだ」
「これが粉々にならずにこうして残っているのは、あそこの点滴の中の、銀の紫と金の赤と、別の金に光っている水みたいな点滴のおかげだ。あれを点滴していなければ、もう本人の今の体力では生きていられないし、輸血も続けておかなければ心臓部分が治るまで貧血はずっと続くからだめだっただろう。それにカロリーが入っているから栄養失調がギリギリおさまっている。そのおかげで、今はどうやら橙色と水色が本来ならば死にかけているような色なのにギリギリ止まっているんだ。かつあの青の点滴がなかったら、自己回復ができなくなっていて、完全に死んでいただろう」
時東がそう言うと、何度か頷いてから、橘宮が点滴を見上げた。
「それにしても英刻院と美晴宮と花王院と黒曜宮のPSY入りの点滴、あれは特にすごいな。あれに花王院と黒曜宮のが入っていなければ、もう灰色が黒になりすぎてやはり心臓が止まっていただろう。だが見た限り、前はそうはなっていなかったみたいだな。黒曜宮の部分を手でかけていたはずだ。だがOtherを手で送っても直接的に体内には取り込まれないから、この点滴が良いからこっちをずっとした方がいい。あとPSY入の水も使っておいた方がいい。あれのおかげで全部を身体が受け取れているようだ。それと全身にPKを流している水、なのかはしらないが、あの青いものも必要だ」
「――カラフルな方の点滴で、不要物は?」
「全部必要だ。二台目も全部必要だ――睡眠のだけ、ちょっとわからない。本人の身体のために眠らせておくべきかもしれないのと、あの薬、PSYを見ると俺が欲しいほどだが、治療の何に使っているのだけわからない。ただあれもまた、痛みを止める薬と同じく少し闇部分を薄くしている。最初は漆黒でもっと闇範囲が広かった形跡がある。しかしどの薬も昔から使われていたとは思えない。一番古くて十四・五年前くらいに一部。その後は年に一回くらいずつちょっとずつ出ていて、昔から似た成分の薬があったようなのに、全てを使用しているのは今日だけだ。なぜもっと昔から全部使わなかったんだ? 新しい薬が開発されたとしても、似たものも前はもっとPSY成分が違った。それもないよりあったほうがいいがあちらはPSY復古医療の薬で、こちらのPSY融合医療の薬の方があっていると俺は思う。だが同系統だ。よくわからない」
「医者の年齢と主治医の変更と血液提供者の増加の問題だ。他に足りないものは?」
「――とりあえず今はそれでいいが、その後。現在PSYコントロール装置というんだったか? 腕輪でPSYを制限している。それは病気でPKとESPが暴発する部分を特に止めている。だがそちらも投薬処置の方が良い」
PSY医薬品の使用痕跡まで分かるのかと、時東は橘宮に対して少し感動していた。
それには気づかず、何でもないことのように橘宮が言った。
「その腕輪と同一物といって良いだろうものを、月讀が使用していたと書いてあるが、完全にただの対処療法だったそうだから、あの断層の亀裂を戻してさらに、そちらの点滴の中の、銀と紫の粉に、黒曜宮のもう一つの点滴に使っている成分を混ぜて、ガラスの状態を保つのを補佐する薬を作れば、PKとESPの暴発を自分で制限する力が戻るから、腕輪が不要になる。万が一の時だけ起動するようにつけておくべきだが、常用しないほうが良い。理由は、どうしても必要な場合、患者は勝手に腕輪を外し、つかうと身体的に死んでしまうのにPKを使うことがあるからだ。昔は匂宮当主がよくそれで死んだそうだっから、匂宮総取りが万が一のために管理しつつ絶対渡さなかったというが、旧世界滅亡の時に、当代鴉羽の孫――確かそちらでいう使徒ゼストにあげてしまったそうだ。以来その月讀の腕輪はどこかへいったという」
唐突に響いたゼストの名前に、多くが視線を向けた。