【5】昏き扇修道会
それから席を変え、橘と高砂、榎波、さらに琉衣洲達三名や榛名達を交えて、まずギルドの記録映像を見た。続いて、桃雪が保持していた、匂宮の記録を見た。
なんと月讀が保持していたという橘宮も知らなかったロードクロサイト文明を滅亡に導いた中の一人の映像、次に華族文明を滅亡時に最後の右副・鴉羽卿が記録した映像――これは現在橙淡海と呼ばれる薄い橙色とピンクを混ぜ合わせたような色合いで見た目は非常に綺麗なのだが湖を猛毒に変えた人物のその時の場面が映っていた。
続いて、匂宮は旧世界の滅亡時の匂宮総取りの記録として、こちらも一人の人物が負傷した青年をつれて逃げる姿を残していたのを上げた。この青年は、ゼスペリアの青としかいえないのに闇色の瞳をしていた。そして最後に匂宮があげたのは、比較的長い記録映像であり、そこにはゼスペリア教会を襲った集団と同一で青い修道服に金色の扇をもった集団が映っていて、最後に入ってきた黒、緑、青の順番で長くなる念珠を三つつけた三人の人物の仮面を黒咲が狙い、内二名の破壊に成功、その中の一人が、ここまでに出てきた人物と確かに同一に見えた。
またもう一人は、ギルドで取得した映像の中の音声と一致した。黒咲は彼らの顔の映像を撮り華族敷地に送信するために、自爆覚悟で臨んだらしい。よって、映像内では、敵集団しか生きていなかった。それでも記録が残り続けているのは、記録送信装置を残していたからだ。その後、時東がため息をついて、ロードクロサイトに伝わっていた、そちらの滅亡時にいた一人の映像、超寿命を誇るロステク文明からの生き残りを公開すると、完全に月讀のものと一致した。伝承だけではなく、月讀がユエルの長男であることもまた確定的となった。だが、時東の出してきた映像には、三名の人物が映っていた。そして一名は、旧世界滅亡時の匂宮総取りの映像にも映っている。つまり二名、生存者がロードクロサイト文明からそこまでいたことになる。さらに、ギルドの襲撃者情報の際に、レクスへと黒色がかつての最下層へやってきた敵集団の映像を届けて判明したのだが、調査団の中にいる一名が、時東の所持していた映像の最後の一名だったのだ。この者は、内部に入らず外で待っていた者の一人だが、調べてみるとどこの学者かわからなかった。結果的に――確実に二名は生きているし、三名とも生きていると考えるべきだという結論になった。
敵集団である『昏き扇修道会』――その内部の『青き扇議会』という組織。
おそらく『ロード・リスティリア暗黒卿』という名の、敵集団の教祖的存在は、ゼストの頃からいたようでゼストと敵対した経験があるのだから、超寿命の内の一名だ。つまりギルドでレクス達が考えていたのとは異なり、『聖闇の杖』というのはおそらく聖遺物などではなく、本人の所有物なのだろう。さらに――『昏き永久の使徒の証』である。この青と緑と紫の三色の宝石がついた黒い腕輪が十三個存在するという部分は、ゼスペリアの十二人の使徒と使徒イリスと暗黙の使徒かつ神の器であるゼストに似ているが、数に何か意味があるのかも考えられた。さらに青と緑と紫は、ギルドと嘗て死亡した黒咲達が記録した青い修道服の者の中のリーダーらしき人々がつけていた念珠三色に近い。明確に違うのは黒と紫だけだ。それにしても『永久』というが、まさか十三人と杖の持ち主が超寿命ということはないだろうなと誰かが言った。
「予知能力者か、やっかいだな」
ポツリと榎波がいった。『オメガ』様というらしい上級の存在だ。
「不老不死のアクア様とやらもやっかいだろ? けど、不老不死なのにさらに上がいる様子なのは、あれなのか? 年齢を偽って入り込んでいるのか? 下僕には隠しているのか? それとも写真の他二名よりレベルが下なのか?」
ゼスペリア教会襲撃を指揮した人物について橘が言った。
「相談する二名が残りの不老不死者ってことか? サディア様およびアキュス様」
政宗の声にレクスが腕を組んだ。
「ギルドでは、アクア様とやらが中間管理職なのだろうと話していたが――不老不死の映像が残っているわけだからな……だが、そうだとすると、暗黒卿がさらにいるんだから数が合わない。時東先生の映像の他にも不死者がいるということか? 全てに映っている人物は最下層に最初に来たものと今回きたものにはいない。時東先生と旧世界滅亡時匂宮総取り記録に一名。この二名は、ラジエルを保護しようとしている上、使徒ゼストと敵対していたはずだ。さらに時東先生の写真と最下層にのみ映っている人物が一名。この者は、桃雪匂宮様の推測通りならば、使徒ゼストの十字架が存在すると医療器具が壊れるので困るが、橘宮様の推測通りならば兄上にOtherをかけさせて長生きしたい可能性があるものでもある。そして時東先生の写真にはいないが、黒咲殲滅時にもリーダーであった人物、それがこのアクア様とやらだ。それと、このPSY円環はどう思う? その他の血脈ロックや兵器等についての知識の豊富さは、長生きしているからで片付けられるが、これは? さらに、何度も戦っているのだろうからゼスペリア教会地下について理解していただろうに、なぜ今回だけ襲って、平時に処分しておかなかったんだ? 今回が奴らにとっては平時ということか? それとも血脈ロックでずっと入れなかったのか?」
レクスの声に、一同が奇妙な円環をまじまじと見る。
青と緑の複合Other。
非分類となってしまっているPKとESPの混合状態の円環だ。
「――PSY医療の知識として、俺にはこれは今すぐ出せる答えはない。橘宮様に聞くべきだろうな。政宗およびラクス猊下がわかるなら俺に教えてくれ。だが、ロードクロサイトの記録には、三名しか存在しないように書いてあった。ただ元々は五名いて、二名が死亡をフェルナ自身も確認、三名は行方不明というより遺体が出ないほどの被害だったから死んだはずだという記載だった。が、三名は生きているし、二名の使用していた医療装置を用いればプラス二名、途中から長生きになれるだろうな」
「僕にもわからないです」
「時東、お前に分からなくてそれを俺に言うって、イヤミ以外の何かの意味、あるのか?」
「嫌味だからな。橘宮様は?」
「……このラジエルという人物は、本当に死んだのだろうか? ゼスペリアの青のかなりの含有量を保持していて、完全に闇汚染されている瞳の色だが……俺は比較的最近、この映像と同じ空気をどこかで感じたような覚えがある。今この王宮内に類似のPSY色相はないし、ギルドの映像にも匂宮の黒咲映像にも最下層の最初の映像にもないが……そしてその人物はOtherは青と非分類で円環内も適正半円がOtherだ。俺から見てあそこに出ている朱様のOtherと比べて言うなら、78パーセントの9割が単独青ですべて闇汚染状態によりにごっているのがみえる。非分類部分は特別特徴はない。俺はこういう人物が最近いたから、案外ゼスペリアの青の持ち主で高レベルの人間もいるのだなと思い、最初は朱様がゼスペリア猊下だとは思わなかったんだ。そうだ、そうだった。それで、このラジエルという人物のESPとPKだが、これが今回の教会襲撃犯同様混在して歪み、非分類に近く見える――不老不死になるかはわからないが、PSY医療の科学部分以外で考えた場合、ギルドの映像にあるアクアのように円環の大部分に青が複合だとしても存在、ゼスペリアの青単体ならばこのラジエルという人物程度はまず絶対必要で、その維持かあるいはPSY融合医療装置の影響でESPとPKが歪んで混合している可能性はゼロではないだろうけど……時東先生、俺を試していないだろうな? 俺よりも即座にこれはそちらの専門なのではないのか?」
「まぁな。俺も同じ考えだ」
「おい」
「だがラジエルについて見えたりはしないし、ギルドの映像の円環で思っただけだ。ほかの超寿命の連中三名のものも見えるのか?」
「医療に関わらなければ俺には見えない。完全PSY血統医療とはそういうものなんだ。つまり俺に言えるのは、この三名は、PSY関連医療を受けている状態で映像に残っていたということだ。よって時東先生の一枚目は、なんの医療器具も身につけていないし医療状態にもないから俺には見えない――のか、どうか、ちょっと怪しい。このうちの一名は全てに写っているのに、全ての医療痕跡が違う。しかしPSY色相波紋を見る限り連続性のある同一人物で、それは偽装できないが、医療痕跡ならば場合により偽装できる。映像上ならば、攪乱電波を流せるからだ。普通俺のように色相波紋鑑定をする人物より医療痕跡を見るものが多いから、攪乱するならばそちらとなる。不死に気づかれたくないならば、当然そうするだろう。そして時東先生と最下層の最初に映っている人物は、完全に攪乱している。医療装置を身につけていてそれが使徒ゼストの十字架で混線した可能性もゼロではないが、完全に医療系PSYを感じるのに、全てが闇で砂嵐のようになっている。これはそうは珍しくない攪乱ロステク兵器だが、珍しくないというのは華族の古文書内において、自分の弱み隠しのために使用が頻出したという話だから、それを持っているのだから確実に平安朝時代から生きていたのは間違いない。見えるものは、時東先生の映像とラジエル横のもう一名。この人物はPSY融合医療装置を常に身につけている。完全ロステクに関してはPSY治療痕跡は残らないからわからない。だがその医療装置は、自分のPSYを用いるようであり、この装置を使用するために使っているものと同じ波動で使用されたPSY融合兵器がある。内2つを朱様が単独で停止させている。このモニターが、朱様のPSY身体被害誘発強度で使用したPSY一覧表だ。この五番目だ。PSY融合兵器を強度のPKで停止させて、十五歳で一度心停止している。生体内PK暴発兵器を止めたんだ。横のPSY疾病歴にもショック死とある。時東先生の記録は?」
「全くその通りの急な心停止があり、痛みによるレベル6のショック死と考えていた。再鼓動処置をしているカルテがある。一覧がこっちのものはこれだ。横が国内の病気を含めた災害だ」
「二度目の朱様の停止は、有害強度の表の十二番目のPSY融合兵器を強度のPSY-Other-ESPで阻止した時で、十七歳だ。これは感染症の阻止で、先程言った肺炎だ。この災害表の新型インフルエンザの弱型。おそらくこれだ。これは自然発生ではない。ウイルスの放っているPSY色が人工的なオレンジに水玉で、元々これは赤紫に青の斑で、朱様はその強毒型のほうをそのまま発症しているが、ウイルス自体は自己治癒で死滅させて肺への症状のみでている。どちらの兵器も朱様が止めていなければ、今頃この国にほとんど人は住んでいないから、これを使用した人物は人間を滅亡させたいか、朱様が止めるかチェックしたか、朱様が止めると判断し居場所を確認するために使用したかのいずれかで、俺は一番最後だと思う。理由は一度目のマインドクラック兵器。これは朱様の四番目の影響表にあるPSY融合兵器の停止で、五歳の時だ……使徒ゼストの十字架がない頃だ……心停止しているな……そしてこの時、兵器を敵は連続二度使用していて、さらに三日後にも使用している。すべて朱様が止めて、心停止は最後の時だ。これは敵が、兵器が壊れていないのに効果が出ないことを不思議に思って最初に二度、きっと確認にもう一度使用したんだ。続いてその十年後だがまだ朱様が十四歳の時、これがさっき言ったPSY受容体へのPSY融合兵器の攻撃で、これも朱様が止めて心停止しているな……そしてその後の連続使用で確認したんだ。最初の二つは洗脳と、人々のPSY能力停止が目的だから滅亡ではない。後者は、確実に朱様が止めると踏んで試したから、止めてもらわないと困るから殺すようなものを出したんだ。かつ病気形態だから、仮に朱様が止めなくても場合によりワクチンを散布することも不可能ではない」
「――この表の影響度の一覧でいくと、73回ほどゼクスは兵器攻撃を停止させているな。大きな影響が出たのがPSY融合兵器の3度と、肺炎だが。さらにラジエル像と最下層のみの集中豪雨――生体誘拐精神汚染兵器と限定的気象兵器の他に、過去に127回ほど各種の兵器攻撃を受けているな。だが最初の攻撃開始は、二十一歳程度、つまり今から六年前だ。十七歳でやっと存在を確認し、四年間捜索して攻撃開始か? それでどの兵器が過剰症を悪化させているんだ? かつゼクス以外への被害は?」
榎波の声に、橘宮が答えた。
「朱様以外への被害はおそらくない。理由は、朱様がOtherで被害をすべて止めていたからだ。つまり王国内で、最下層は狙われて非常に危ないが朱様がいるためある意味一番安全な場所でもあったんだ」
そこへ桃雪が続けた。
「確か、六年前に先代の朱様も緑羽様もお戻りになられたのです――敵集団は、ゼスペリアの青を攻撃してきたのに、匂宮と万象院を攻撃してきた歴史がありません。つまり、この二色が無くなるのは困るのでは?」
「――緑羽の御院は、二十年後まで最下層が一番安全だから、それまでに万象院と匂宮にも安全地帯を作れと使徒ゼストに言われたって俺、御院から聞いたんだけど、それが悪かった……わけでもないのかな。生きてるけど……どうなんだろう」
高砂が腕を組んだ。橘がこめかみを人差し指でおさえた。
「けど最下層への調査団はもっと前に来ていて、敵にも生存者がいたんだぞ? かつ、使徒ゼストは、この人物を目撃してないのか? ゼクスの視点がないと見えないか、あるいはこの人物が柩の場所に行かなかったからどうにもできなかったのか? それとも別の敵集団か? あるいはこの人物は長生きなだけで敵ではないのか? 派閥が違うっていったって同じ集団でPSYを知ってる人間が組織内のPSY融合兵器を使用したら普通気づくよな? それに、使徒ゼストの十字架の最初の時、この時敵はなぜPSY融合兵器を使用しなかったんだ? この時点では、ゼクスがPSY融合兵器を止めていると気づいていなかったようだし、まずすべきじゃ? かつこの集団は、ゼクスの居場所を知っていたんだろ? どういうことだ? それにゼストが『偽ゼスペリアの手の者』って言ってるわけだろ? 味方ではないよな? 心を入れ替えたか、それとも偽ゼスペリアの手の者は全部死んでコイツは違ったのか? ゼストは少なくとも旧世界滅亡時に二人知ってるだろうから、できれば直接聞きたいよ、本当」
その時、ポツリと時東が思い出すように言った。
「――あいつ、覚えていないようだが、小さい頃は今とは段違いの頻度でゼストの夢も見ていてさらに日常的に声も聞いていたから、普通に会話の中に『ゼストが向こうからラフ牧師が来るって教えてくれたからこっちから逃げよう』と俺を誘って祝詞練習から脱走したりした記憶がある。俺は当時、ゼストというなの牧師が存在すると信じていた。ゼクスも聖書に出てくると気づいてから、言わなくなった。そして俺たちの間で、自称使徒ゼスト氏としてたまに夢の話題が出る程度になった。内容は、使徒を探せ、こればかりだ――ただ、二度、ゼスト以外の夢の話がそういえばあったな――『青い金に光る袈裟をつけたハゲが、いらない知識をESPでしまっておく技術を教えてくれたから、全部しまった』と言っていた。今思えばあれは、万象院のESP記憶貯蔵庫だ」
高砂が眉をひそめた。袈裟と万象院が繋がる。
「――時東、青い袈裟のハゲがいつかの代の緑羽万象院で青き弥勒とかだとして、もう一つなにか夢見たんだろ? それは?」
しかし、高砂は先を促した。
「ええとな、もう一つは、俺を見たらある日急に泣き出して『時東は実はフェルナという名前だったのか!?』というから何の話か聞いたら『弟のリンゴパイを勝手に食べるなんて最低だ! そしてなぜ俺にも食べるなら分けてくれなかった!? 弟ってどこにいるんだ!?』というから『俺は一人っ子だしリンゴパイは俺も食べたい』と答えたら、『ツクヨミという人が出てきて、この人がリンゴパイを食べたと長らくキレ続けた弟がいたから、勝手に人のものは食べないように言ってあげろと言っていた』と俺に言うんだよな。何の話かと思ったが、ユエルのリンゴパイを食べたフェルナへの苦情をユエルの長男が、末裔のゼクスを通してフェルナ側末裔相当の俺へいったということなのか? 知るかという話だ。それとも顔でも似ていたのか? ん、とすると月讀および青き弥勒のハゲもサイコメモリックされている可能性があるのか? あったとしても非常に期待できず役に立たなそうな奴らだな。なぜ不要なことをゼクスに言ったんだ」
時東がどこか苛立つように言った。高砂が指でこめかみを押さえた。
「青き弥勒のハゲ……」
罰当たりだなと、少しだけ思った。