【6】レクスの質問



「そろそろ一度ゼクスを起こす。他に誰か来るか? あと、誰か飯。なんでも良い。ただ榎波、ゼクスは先程の気分としてはオムライスと言っていた」

 時東がそう言って榎波を見た。

「なぜ私を名指しした? 私は作らないからな」
「榎波悪いが俺のも用意してくれ。かつ俺はゼクスに食わせた後でくうから保存しておいてくれというか、どうせ亜空間にあるんだろう? とりあえずゼクス分を出してくれ。シェフだのに言いに行くより早いし道中が危険だ」
「……あのな。まぁいい。今回だけだぞ」

 ため息をつき、榎波がテーブルを叩くと、そこに壮絶に美味しそうなオムライスが出現した。ロイヤル三ツ星のオムライスだ。しかもセットだ。

「ゆで卵に星型チーズのサラダか。ゼクスの好物だ。ライチジュースつき。さすが。りんごのすりおろし――パイにしてやれよ」
「うるさい。時東、パイだとお前が食べるんだろう?」
「あと橘のクッキーをご所望だったぞ」
「あ、ほれ、これ。けどこれらの品をご所望って、ゼクスは相当具合悪かったんだな……もっとこう顔に出して痛がってくれないと俺にはわからん」
「安心しろ、医者の俺にもわからん。むしろオムライスを所望時は貧血でもうすぐ食欲を失うからその前に食べておきたいという、過去に榎波氏のオムライスを食べ損なった記憶および俺と橘がライチジュースとクッキーに仕込んだ増血剤を摂取した結果、貧血のときは甘いものを食べると良くてそれはライチジュースとクッキーであると誤解して育ったゼクス知識のほうが医療よりも役立つ場面がある。よし行くぞ、政宗。下僕らしくキリキリ働け」
「時東、俺、いつからお前の下僕に? 俺はゼクスが心配なだけだ」
「ん? お前は俺の下僕じゃなかったのか?」
「何普通に聞き返してるんだよ、んなわけがねぇだろうが。俺が思うにあとは情報収集として副も行くべきじゃないか?」
「いや、俺はこっちで音声拾って、ゼクス周辺のPSYごと情報取りながら見とく。政宗医者氏、下僕役、ファイト!」

 すると各地から「下僕ファイト」という声が上がった。
 政宗の目が座った。

「後で殺す――じゃ、行ってきます」

 と、こうして一同は、ゼクスの元へと向かった。
 料理のトレーを片手に、ベッドの上にスライドできるよう、医療用食事テーブルを政宗が出現させる。その間に、時東がPSYを送ると、ゼクスがピクリと動いた。そして、一度きゅっと目を強く閉じてから静かに開けて、瞬きをした。まつげが長く、ゼスペリアの青の瞳が大きい。しばらくじっと時東を見上げたあと、ゼクスが手を持ち上げてみた。

「時東」
「ん?」
「すっごく良いことと悪いことがある」
「なんだ?」
「今までの人生でないくらい爽快な気分かつ死ぬほど具合が良くなってる。ここまで点滴一回で具合が良くなったのは初めてだ。けどだな、点滴がいっぱい増えてる……」
「良いことしかないじゃないか。お前は非常に良くなっているようだ。感謝しろ」

 それを聞きながら起き上がったゼクスが、それから横を見てびくりとした。

「えっ、あっ、ありがとうございます……! ちょっ、時東、まさか本当にこんな、おいちょっとこっち!」
「なんだよ?」
「ここ王宮じゃないのか!? 王宮に俺を置いてもらうなんて、頭どうにかなったのか!?」
「んなことを言われてもな。ほら、きっとあれだろう、お優しい方なんだろ」
「……そ、そうなのか? 偉い人がいっぱいだし、俺はそろそろ帰る。今なら全力疾走も可能なほど体調が良い。幸せな気分だ」
「寝る前教えただろ。帰っちゃだめだ。聞くことが大量にあるんだ。して彼らはお前に聞きたいこともあれば、心配していたり、あとはほら榎波のオムライスの出来具合の観察に来てるだけだから気にするな」
「榎波のオムライス! あ! 本物だ! 政宗ありがとう!」
「いやいや。お前リクエストのおかげで俺達も榎波師匠氏のオムライスが食えることになったから気にするな。具合、ちょっとは良いのか? 時東に気を使ってぶっちゃけだめだけどいいとか言わなくていいんだからな」
「本当にいいんだ。なんかまずこの、ほら、なんかロイヤルな空気が漂う点滴がいつものよりもロードクロサイト! って感じのキラキラで、すごい楽なんだ。これからは俺、薬はこれが良い。あとこのザ・ハーヴェスト! みたいなキラキラの点滴もいつもと違って銀色紫の粉が入っていて、すごく身体に良いと俺は思う。あと青の点滴と、なんか増えた灰色のもとても身体が楽になる感じがする。なによりこう筋肉痛がゼロになったような感じで、今なら俺たぶん倒立回転飛びしながらここからあそこの入口まで行けるだろう」
「すごいな、さすがはゼクス様だ。普段との点滴との違いを見抜いていらっしゃる」
「いやいや時東様よ。お前、ゼスペリアの医師だ、きっと。なにより榎波にオムライスを用意させた点を一番評価する。橘のクッキーもだ。しかしながら、ライチジュースが榎波のであり、お前のでないのは良くなかった。ライチの味が違う」
「知るか。さっさと食え」
「いただきます!」

 こうしてゼクスが食べ始めたのを少し見てから、レクスが歩み寄った。

「兄上」
「あっ、レクス。あのだな、俺はなんだか点滴がいっぱいだけど決して病弱というわけじゃないんだ。時東と政宗がヤブ医者なんだろう」
「――そうか。では、俺はかからないようにしよう」
「い、いや。レクスもなるべくこの二人に見てもらうと良いと思う。外科は政宗。PSYは時東。救急も時東。他はザフィス神父が良い。それは確実だ。そういうことじゃなくだな、俺が病弱ではないという話だからな」
「先程、兄上の頭が弱い話になっていたから、てっきり身体も弱いのだとばかりな」
「な!? 誰がそんなことを言ったんだ!? 俺、頭は悪くないと思うぞ?」
「本当か? だったらこの中の写真の人物で見覚えがある人間がいたらすぐに思い出せるんだな?」
「ん? 記憶力検査か? ええと、この端のおじいちゃんは、エルネスト神父だろ? で、隣のダンディな帽子の人は、ヴェルデ商会のライザス男爵だろ? で、この、最下層の笑顔の――ん? こんな人々いつ来たんだ? というか、なぜヴァイルさんが写ってるんだろう? さらにこの人々はなぜ三人で同じ写真に写ってるんだ? エルネスト神父とライザス男爵はさらに怖い顔でけが人と写ってるし……そして俺、このけが人この前見かけたな……偶然だから記憶力チェックには関係ないだろうが……ええと、後この、なんか変な格好の青い服の人、これは、アクア様という人のはずだ。だけど、なんでこんな格好?」

 レクスの持つ写真とゼクスの回答に、時東と政宗が息を飲んだ。

「――その全員について詳しく聞かせてくれ。まず確かに全員知ってるんだな?」