【7】忍び寄っていた陰
「うん? いや詳しい個人情報とかは知らないぞ? 会ったら挨拶するくらいには知ってる。記憶力チェックじゃなく人探しとかなら、他の人に聞いたほうがいいだろうな」
「まずは兄上から聞きたい。一人目のエルネスト神父というのは?」
「王都の西の海を渡った向こうの崖というか岩というかでできた島、あるだろ?」
「ああ。東方ヴェスゼスト派の第二の聖地だ。聖ゼルリア島。島全体が一つの教会だ」
「それだ。そこの神父さんだそうだ。ゼスペリア教会の地下一階が昔のゼルリアのようだからということで、年に一・二回ほど研究およびお参りに来て、ゼスペリア教会で夕方のお祈りを聞いていくぞ。数少ないゼスペリア教会に祝詞を聴きに来てくれる貴重な人だ」
「――それはいつからだ?」
「ん? ええと、俺が筆頭牧師になって読み始めてすぐくらいからだから……俺が十六くらいの時だろうな。とすると十年前か十一年前か?」
「どんな人だ?」
「この写真の人だ」
「……性格的に。兄上から見て」
「へ? うーん、非常に笑顔で人当たりの良さそうな感じで、挨拶するとそのまま地下にいって、俺がお祈りを始める直前に戻ってきて、目を閉じて聞いて、挨拶して帰っていく人だけど……? ま、まぁそうだな、人は見た目によらないという意味で言うなら、何度か人でもぶち殺してきたのかそれとも笑顔で俺を殺すつもりなのかと思うほどのハーヴェスト・クロウ・レクイエムを響かせてはいたな」
「ハーヴェスト・クロウ・レクイエム?」
「あ、ああ。なんかこう、殺気というんだろうな。俺にはあれが歌に聞こえるだ。それで昔強盗か何かが来たんだろうが、ゼスペリア教会に変な人が来て、その歌がしたからそれをラフ牧師とザフィス神父に言ったら、まぁその時はなんかガチ勢か誰かが倒してくれたんだと思うが、数日後にザフィス神父が変な石を持ってきて、同じ歌がしたんだ。それで、これかって言うから、そうだって答えたら、『これはハーヴェスト・クロウ・レクイエムというから、覚えておけ』といっていて『聞こえたら全部捨てて大至急逃げるか高砂の後ろに隠れろ』と教えられた。レクスも身の危険を感じたら高砂の後ろに隠れると良いだろう――ただ、俺の経験上、別にこれを鳴り響かせていても何か即座にするとも限らない。だからこの人のように、きっと内心でたまに何か良くないことを考えているだけの場合もあるだろう。この人物は、人当たりは良いし、あんまり気にしなくて良いだろう」
「……次から、聞こえたら俺に教えてくれるか?」
「今お前から鳴り響いているぞ? お前、このエルネスト神父を殺害するかのごとき思考をしてないだろうな? お兄ちゃんとして、それは良くないと思うぞ」
「っ、本当に殺気が歌で聞こえるのか?」
「うん」
「安心しろ、ちょっと本当に聞こえるか試してみただけだ。ちなみに、これは何か歌に聞こえるのか?」
「ああ、これは、鴉羽讃歌という歌だな。午後のお祈りの祝詞の時と同じ映像が見えるんだ。それの青空バージョンの夢が俺のゼストの夢に近い」
「――午後の祝詞を読むと旧世界の滅亡の光景が頭に浮かぶのか?」
「いや、滅亡したけど今はみんな幸せに生きていますで終わるんだ、祝詞は。こっちの歌はもっと正しく風景を再現してる感じだよな」
「ちなみに俺が今放っているものはなんだと思う?」
「へ? 歌だろ?」
「これの気配を開放したんだ」
「う、うん? 確かにその金色の十字架から鳴ってるな。金髪で紅い目の人が昔持っていて今はレクスにくれたのか?」
「どうしてそう思うんだ?」
「ん? 前に何回か、お前のことゼスペリア教会に送ってきただろ」
「っ」
「最下層に一人でくるのは危ないと俺も思っていたけど、特になんか今日嫌な感じがするし危ないしお迎えにいってみようかなという日は、大体、金髪で紅い目の人がこの十字架をかけてお前の後ろをついてきて、俺が途中で遭遇するとゼスペリア教会まで送ってくれてただろ? 迎えにも来てくれて。けど、話しかけるなオーラが強いから俺は会釈しかしたことがない……良い人そうだけどな。お前と同じ目の色だから最初は家族かと思った」
「俺は……そんな記憶は一度もなく、金髪の紅い目の人物には心当たりが一人しかなく、それはこの十字架をくれた使徒ルシフェリアのサイコメモリックを名乗った」
「えっ、そうなのか!? じゃあきっとレクスは、第四使徒なんだろう! 黙示録だから守ってくれているんだな。そうか、言われてみるとレクスは使徒っぽい! 神聖だ!」
「……」
「きっと新・新約聖書とかができたら、第四使徒レクスと書かれるのだろうな。楽しみだなぁ。レクスならばきっと世界を救えるだろう! 俺はとても誇りだ! 頑張ってくれ!」
「――ヴェルデ商会のライザス男爵とは? ヴェルデ商会とは、あの赤い五角形に金の線で帽子のマークが刻まれた商会か?」
「それだ。ゼスペリア教会とハーヴェストクロウ大教会に、宗教院の依頼で宗教関係の備品を届けてくれる部門の王都西担当地域の一番偉い人だと俺は聞いたぞ? この人が来るとラフ牧師が死ぬほど機嫌悪くなるんだ。俺は小さい頃は向こうへ行っていろと怒られ近年ではラフ牧師があんまりにも恐ろしいから自ずとお部屋にこもっていたが、ラフ牧師がいなくて俺が備品を受け取る場合や、ラフ牧師のところにこの人が行く前にすれ違うと挨拶や雑談をしていて、別に俺とこの人はさして仲も悪くない。一番偉いの最下層に自分で来るとは偉い人だと俺は思ったけど、ラフ牧師はこの人がくるとそれこそハーヴェスト・クロウ・レクイエムを鳴り響かせながら笑顔だった。やっぱりほら、ラフ牧師だって良い人なのに鳴らすんだから、あんまりあてにならないんだ」
「……」
「ただ、この人がくると、ザフィス神父もいつも通りの無表情なのにハーヴェスト・クロウ・シンドローム。というか、居合わせると長老の赤と緑とかからもハーヴェスト・クロウ・シンドローム。超怖いんだぞ? 俺はあの時こそ黙示録を覚悟したな。だって全員で俺に地下へ行けというんだ。そして四階にこもって、打掛の後ろから出てくるなというんだ。子供だったからそうしたけどな、その後は、別に外に居た。そして彼らも次第にハーヴェスト・クロウ・シンドロームの音量を下げていったが、それでもいつも鳴らしていた」
「ちなみに向こうの人物はなにを鳴らしているんだ?」
「いや、何も鳴らしていないぞ。普通の人は音楽なんか放たないんだ。ただ最近気づいたけどこの人、雨男だよな絶対。この人がくると、天気予報が晴れなのに最下層が雨なんだ。いつもこの人が最下層を出て行くのを入口まで見送るというか、ラフ牧師がついていってじーっと睨んでるんだ。目が合ってないとラフ牧師ガチギレでな。それで俺も遠くからそれをこうなんとなく見守っていて、それでさてあの人も帰ったし帰るかと、ゼスペリア教会に帰った頃に土砂降りになるんだ。あ、そういえば、あの人だったな、白から黒になった石像置いていったの」
「っ……――ちなみに何歳頃から来ていた?」
「え? さぁ? 備品は昔から来ていたんじゃないのか? 俺が最初に遭遇したのは、四人が大音量の黙示録かと思うようなのを響かせた日だから、確か十歳とかだな。詳しくは覚えてない」
「そうか――では、三名の写真の最後のヴァイルさんというのは?」
「俺が知ってるのは、この三人の時みたいな、シャツとかでもなく、さらに最下層で写ってる研究者みたいな服でもなく、なんというんだろうな、英刻院閣下の服装を黒系統にして地味にして装飾ゼロにした感じにまずして、さらに上からこう黒とも茶色ともなんともいえない聖職者が着ていそうなローブ的なのを着ている姿だな。服装や雰囲気からしてとても高貴な貴族か偉い枢機卿とかなのかなと思うこともあったけど、本人がこうオーラを消している感というか、なるべく目立たないように心がけている空気がしたので、俺もなにも聞かなかった。ただ、この人もまた、ゼスペリア教会に祝詞を聴きに来てくれるとても貴重な人で、そしてこの人は、こう義務的な感じでなく、あれを読んで欲しいとかこれを読んで欲しいとか言うし、その過程で赦祝系統は名前を呼ばないとならないのがあるから名前を聞いたんだヴァイル=ロード・リスティリアさんだと言っていた」
「っ、ロード・リスティリア?」
「ああ。それで内緒だけど、俺は調べてみたら、ロード・リスティリアというのは、ロードクロサイト皇帝のかなり昔の祖先だった。だからやっぱり貴族だったんだ。祖先というか、ロード・リスティリア家が分家のようだが、今はほら、ロードクロサイトはハーヴェストかタイムクロックイーストヘブンだけだから、もっと古いだろ? 後な、もっとスペシャルな秘密がある。俺、さっき怪我してる人を見たことがあるといったけど、このヴァイルさんが、その人が怪我をしてない頃に連れてきたことがあるんだ。なんかそもそもヴァイルさんが俺のところに来るのは、俺がなんか自分が孫のように育てたユエルという人にとてもよく似ているかららしく、その怪我してる人も青い目だろ? それでやっぱり似てるから一緒にいるらしいんだけど、ほら、この写真でもそうだけど目の色黒いだろ? これ時東がきっと詳しい闇汚染というやつのようだ。それで治せないかって聞かれたな。ヴァイルさんは良い人なのか、それとも信心深いのか、俺が孫的ポジの人物に激似なのか知らないが、俺の祝詞を聞いて泣いたり、感涙したり、とにかくこう、なんかそういう紳士でな。最初にその青い目の人を連れてきた時は、闇汚染を治してほしいとかじゃなく普通になんか連れてきた――というか、ついてきたって感じに見えた。で、な、秘密はその時に『なぜついてきた? お帰りくださいサフ猊下』と言っていたんだ。そしてこの青い目の人は、明らかに聖遺物みたいなのをつけていて猊下で、しかも偉い貴族のヴァイルさんよりは偉くなさそうだけど知人の猊下だから、枢機卿だろうと思うんだ。そこで調べたら、サフィルス=ゼスペリア猊下という人がいたんだ。ラジエル=ハーヴェスト・クロウ=サフィルス=ゼスペリア猊下という旧世界の最後の方の人だ。きっとその家の末裔なんだと俺は思うんだ。ミナスとクラウとハルベルトしかゼスト以外のゼスペリアはないのかと思っていたが、きっとあったんだ。とてもスペシャルだ。しかもな、サフィルス=ゼスペリア猊下というのは、最後の鴉羽卿という人の孫の一人のようで、鴉羽卿というのは万象院と匂宮の人の子供の名前だそうだから華族であり僧侶でもあるのだろう」
「……非常に有益な知識に感謝する。それで? その青い目のほうが来てからの話を続けてくれ」
「え、えーっと。一回目は祝詞を読む俺をじーっと見て帰り、次は一緒に来たみたいで、この日始めて話かけられた。たぶん俺と同じ病気なんだろう、なんか『その体調でよくそんなことしてられるな』っぽいことを言われて、普通に平気だからちょっと気まずくて笑ってしまったな。しかも『自分が死んでまで世界を救う価値があると思うのか?』というんだ。俺はこの一言で、ああ終末汚染かぁと確信したな。闇汚染の症状だからな。『正気を疑う。世界よりも自分の身を案じて即座に寝台へ行って寝ろ』と言って帰っていったから、きっと根は優しいんだろうなと漠然と思った」
「……」
「で、この猊下が先に帰っていったので、そうしたらポツリとヴァイルさんが『あのお方を治すことはできないでしょうか?』というから『治せます』って言ったら、驚愕されて、翌日連れてこられたから、俺は治した。そうしたらヴァイルさんが号泣しながら喜んで、治ったほうは直後だからぼーっとしていて俺を見て「ゼスト?」とか間違っていたから違いますと見送った」
「治した!?」
「うん。可哀想だろ? なったことないけど辛いと聞くし。それで、ヴァイルさんはその後も来たけど、猊下は来なくて、けどこの前見かけたら怪我をしていた。その時も目は大丈夫だったから、さっきの写真は怪我の前のはずなのに、同じところを怪我してるけどなんでだろうな? 元々腕の部分に問題でもあるのか? 俺は気付かなかったけど、どちらの写真でも、右の二の腕部分が、ほら、なんというか、PKで傷ついてるし」
「PKで傷ついてる? どういうことだ?」
「え? いやこう、怪我するとPSYの模様が見えるだろ?」
「そうなのか?」
「……う、うーん、ほら、点滴だってキラキラするだろ? そういう感じだ」
「悪いが俺にはキラキラして見えないからお前らの会話が謎すぎる」
「えっ、時東、なんと言えばいいかな? こう――だから、ダメだ無理だ、PSYで再現する――こういうのだ!」
ゼクスがオムライスのスプーンを握りふった。
まるで時東の扇だ。
すると瞬間、オムライスの上に色が出た。
暗い紅と紺が混じっていて、紫の闇と緑の粉が霞んでいる。
「――んー、そうだなぁ、この人、なんかESPとPKが元々ぐにゃっとなっていたから、その影響でも出るのかもしれないとは思う。だって同じ場所を同じ状態で二度というのも中々ないしな」
「元々ぐにゃ、か。ちなみにどこで見かけたんだ? 俺もどこかで見かけたんだが思い出せなくて。ただ俺は闇汚染されていたような気がする」
「え? 絶対にそれはありえないから別人だ。俺は解除だけじゃなく厳重に封印をかけて敗れたらわかるようにしている。今、破れてないし、その人はとてもクリアなPSY感情色相だというのもわかる。やろうと思えば居場所も特定出来るけどそれはなんか悪いからやらない」
「時期が違うのかもしれない。怪我は何度も同じ場所を、その、ぐにゃ、でしたのかもしれないから。いつ治療を?」
「確か、これも新聞で法王猊下のを読んだ頃だな。で、怪我してるのを見かけたのは、英刻院閣下がふらっと来て、俺に黙示録を聞かせてくれというからそうした日だ。いつものリクエストは創世記が多かったんだけどな。あの日は、なんでだったんだろうなぁ……なんか、無言で聞いて去っていった。早く治ると良いな。ええとだから、新聞記事から英刻院閣下がお怪我をされるまでの間のいずれかの日だな」
「……なるほど。俺は雪の中で見たからその前の冬だと思う。ちなみに見かけた場所は?」
「なんか英刻院閣下がいきなりそんなのも変だなと思って、ちょっと王都方面に散歩に行ってみたんだ。それで……雨、小雨が降り出したから、花屋の軒下に避難したら、目の前を走っていく人がいて、こう血の気配がしたから見たら、この人だった。一瞬目があって、その時、ESPがいきなり飛んできて、『大至急店に入り、トイレの中でゼストの十字架を握って息を潜めろ』っぽいことを受信したからそうしたんだ。俺は王都はやはり危険で黙示録なのだろうと思いながら、英刻院閣下もそれを憂いてきたんだろうなと思いつつ、閉店と同時に帰宅したんだったと思う」
「そうか……」
「兄上、悪いが場所も特定してくれ」
「え」
「重要なことなんだ」
「――……ん? あれ? 聖ゼルリア島のものすっごく地下の奥深くにいる。けどそこって宗教院の冊子によると牢獄跡地だった。かつ牢獄の中にいるだろうと俺も思う。追いかけられて捕まっちゃったのだろうか? なんか、可哀想だな……けど精神色相はクリアだ」
「……ちなみにヴァイルという人物の居場所およびその他は?」
「いや封印があるから特定できるだけだからな……そんな俺、基本人がどこにいるかとかわからないぞ……」
「ではヴァイルという人はいつから来ていた?」
「んー……昔から来てたんじゃないか? 昔、まだ俺が祝詞を読むようになる前は、たまに見かけた。ラフ牧師と一緒にいるところとかは見たことないけど、俺が一人で道歩いてるとなんかこう教会の方とか入口の方とかから歩いてくることがあり、雑談をしてそのまま通っていった」
「ラフ牧師等とその人物について話したことは?」
「いや、別にないな。ただ一回、あきらかにラフ牧師とすれ違ったはずなのに、ラフ牧師が直後に来て、ヴァイルさんが置いていった寄付金見て『誰か来たのか?』っていうから、ちょっと変だなぁとは思った。けどヴァイルさん、お忍びかもしれないから言わなかった」
「……その時のラフ牧師の機嫌は?」
「え? 寄付金にとても喜び、二人で内密でカツ丼を食べに出かけたけど……?」
「……そうか。どの程度の頻度でくるんだ?」
「うーん、かなり不定期だけど月に最低一回は来る。イメージとしては三週間に二回くらい。この人がゼスペリア教会の一番の信徒と言っていいだろう。というか他に誰も来ないしな。しかもこの人一回、たぶん俺、教会でぶっ倒れていたんだろうけど、気づいたら寝室にいて、点滴までしてもらっていて、この人が全部やってくれたんだ」
「!」
「それが多分、いつだったかなぁ。十代半ばとかかもな。で、この時一回だけ『もしかして使徒ゼストの十字架を持っているのか?』と聞かれたから『どうしてですか?』と聞き返したら『それを持つものは生涯狙われるから、持っているなら大至急捨てるべきだ』と真顔でとうとうと力説されて捨てるか死ぬほど悩みつつ眠ったら、夢の中にゼストがいて、『渡した自分で言うのもなんだけど俺も、それを持っていると死ぬ可能性が高いと思うけど頼むから捨てないでくれ』というから、『はぁ?』っていったら『どうせ人間いつかは死ぬし、持っていても持っていなくても死ぬんだからもっていてほしい』というから『下手に出るゼストが珍しすぎて俺は唖然とした』と答えたら『ああ、それもそうだね。じゃ、絶対捨てないでね』といって笑われて夢は終わった」
「……」
「以後は別に特に変わることもなく、次来たとき体調を世間話的に聞かれただけで後は特にない。なんであの日はラフ牧師とかザフィス神父はいなかったんだろうな。記憶にない。っていうか、あれだけ来てるし時東とか見たことないのか?」
「悪いが一度もない」
「へ? 真面目に?」
「真面目に」
「……時東、やっぱ、頭悪くないか?」
「ゼクス様ほどではないです」
「あのな」
「どう考えてもお前の話的にその人物の方がゼストより良い人そうだろうが」
「そうか? うーん。ゼストはこう、なんだろうな。方向性が違うよな。ゼストは神とかじゃなく大自然をこう、全部みたいな。ヴァイルさんは信仰心に篤いというか。まぁゼストが信仰対象とするとゼストがゼストを信仰するのも奇妙だから良いのだろうけど、なんか方向性が違うんだ。ゼストはこう青空で草原で透明な風が吹いている感じだ。まぁ夢は廃墟と教会だけどな。朝のお祈りの歌と光景がそのまんまなんだ。別にヴァイルさんをディスりたいわけじゃないけど、ゼストはこう大自然だと伝えたい」
「人間味あふれるとかか?」
「そうじゃなく、こう、もっと、全てに満ちてるようななんかこうもっと、こう、あれなんだ。すっごくこう神聖なのに神聖じゃなく当然みたいな、さ。なんかこう転んだ人がいたら大丈夫かなぁとなんとなく思うのが普通なのに、普通じゃない人ばかりの中でゼストだけは常に普通を維持していくイメージだ」
「さっぱりわからん。レクス伯爵続きどうぞ」
「――最後に来たのは?」
「え? うーん、ラフ牧師が襲われた日の、つまり俺が徒歩の旅を始めた前日からちょっと前だろうな。二・三日前だ。どっちだったかな……」
「何か言っていたか?」
レクスが聞くと、ゼクスが思い出すような顔をした。