【8】信念


「何か? 何か……そうだな、その日は俺に、午後のお祈りの時間だからいつも読むのは当然なんだけど、その祝詞をいつもどおり十四時手前くらいにきたのに、それ十六時に読むって知ってるのに、大至急読んで欲しいと言われて、俺は読んだ。続いて黙示録を読んでくれと頼まれて読んだ。その後この人もヴェスゼストの赦祝をリクエストしてきたので読んだ。続いて創世記。それからゼスペリアの赦祝もリクエストされて、あれはゼスト・ゼスペリア猊下以外読んじゃダメだそうだと伝えたら頼むからと懇願されて俺は読んであげてしまった。そうしたら最後に唐突に歴史を語り始めた。ただこういうことはよくあるんだ。感極まるとなにかいきなり話出す人なんだ」
「どんな歴史だ?」
「最初はロードクロサイト文明の最後について。いかに最後の皇帝とその子息二名が優秀で、いかに配偶者のみダメ人間だったかを語っていた。あまり人の悪口を言わない人なんだけど、ゼガリアだけは死んでも許せないと言っていたな。青き白い光について俺は教わり青なのか白なのかボケっと考えていたら、次に今度は華族文明の終焉に話が飛んだ。そして右副・鴉羽卿というのは非常に素晴らしい自分つであるとこれもまた力説された。だが見解の不一致とは嘆かわしいものだと言っていた。なんかこう、その時だけヴァイルさんの目が遠くなった感じがして、俺はこう無意識だったから悪いんだけどESPで橙淡海を見てしまい、なんかイメージとして、そんなわけはないんだがヴァイルさんが海っていうかあれ湖というか池? みたいな大きさだけど、ヴァイルさんが毒にしたような印象でちょっとゾクっとした。その後、今度はその次の文明の旧世界の滅亡の話に飛んで、使徒ゼストがいかに優れた人物だったかを語りだし、そしてなんかなんというか、最初のときと同じような感じで、青が良くないというんだ。全部青のせいでダメなんだと。だけど青があったから助かった人ばかりで、それがなおさら良くないといっていた。世の中にはもっと死んで当然な連中、極悪人そういうのがたくさんいるのに、どうしていつも立派な人物ばかり死んでしまうのかと泣き出して、全部青が加わってからだと泣き出して、いなくなってしまった孫のような存在も青さえなければ完璧だったのに、だから青が許せないけど青を見ると孫のような存在を思い出して辛いとポロポロ泣くから、もらい泣きしてしまった。そしたらこうふとリンゴパイのイメージが何故か浮かんできて、思わず『リンゴパイ』ってつぶやいてしまった。俺が空気を読めてなかったんだとはわかるけど、そしたら目を見開いていて、驚愕したように俺を見て、それでなんか泣いたまま笑い、俺をぎゅっとして帰っていった。空気的に、あの人はリンゴパイを帰って焼いたような気が俺はする。多分リンゴパイが出てきたのは偶然だろうけど、きっとリンゴパイをその人が焼いて食べていたんだ、孫のような人が。でも俺はその日の夜、時東にリンゴパイを食べられるなという夢をまた見た気がする。これ、たまに見るんだよな。なんなんだろうな、あれ」
「俺もリンゴパイにそんなに深い世界を救えそうな滅ぼせそうな意味があったとはついぞ知らなかった。今後、なにかのために、お前がリンゴパイを食べようとしているのを見かけたら奪うよう心がける」
「ふざけるなよ。逆だろうが! 食べないように心がけろ! けどお前甘いのさして好きじゃないだろ。俺には信じられないビターチョコが好きだ。あれ、どこがうまいの?」
「俺には信じられない激甘ココアが大好物のゼクス様には説明不可能だ」
「兄上のイメージとしてその人物は、世界を滅ぼすかどうかと言われたらどうだ?」
「ん? 滅ぼすんじゃないか?」
「……理由は?」
「ほら、信念みたいなものとか大切なものとか、なんかそういうものがある人は貫くものだから。あの人は筋が通った人だから、その筋のためならば、滅ぼす必要があるならば、滅ぼそうとするだろう。それは、滅ばないようにする人とか、黙示録を阻止する人と一緒だ。やることや信じる内容が異なるだけだ。イメージだけどな」
「では、ここにいる人物の中にも、それが正しいと考えたら、世界を滅ぼす人物がいると思うか?」
「ここ? このベッド周辺なら、レクスもラクス猊下もそうだろうな。華族のお二人はなんかこう自分達が極悪人とされても絶対に人を滅ぼさない感じ。時東は無理。政宗は阻止しようとするだろうけど、阻止する中のこうリーダーポジのやつがダメだと思ったら別の側の見解を聞いてみたりし、リーダーがアウトだと判定したら、冷静に正しいと考えた側につくだろう。一番理性的だから、時東は万が一の際は政宗についていると良いだろう。後、そうだな、ベッドよりのほうだと、榎波と榛名も滅ぼすな。副と高砂は絶対ない。橘も滅ぼす。橘は特に家族とかが関係してきたら絶滅させるだろう。琉衣洲達三人もない――ただ、多分、ここにいる連中は滅ぼさない側に既にいるような直感がする。いま名前をあげた人のみならず、もっとたくさん、滅ぼす側につくとかなる可能性がある人は大量にいるけど、なんか今この室内に居る人々の空気が、全てもれなく、ヴェスゼストの赦祝を読んだときの光景に出てくる聖職者と同じなんだ。こう世界平和に興味があるかどうかとかは個人の思想の問題だろうが、そういうことではなく、身近な幸せをきちんと知っていてそれを守りたいと意識的あるいは無意識的に思っていたり、怪我している猫を見たら悲しんだり、さらにそれが死んでしまったらとても悲しんだり、そういう感じがする。見た目はともかく、中身と、後、空気としかいえないけど、そういうのがな。その中でも、さっき名前を挙げた人々は、まるで使徒みたいな空気なんだ。華族だからかもしれないけど桃雪匂宮様と橘宮様のみイメージがこう、使徒ではなく、十二単なイメージ。もうひとり、紫色のばらがついた黒いローブで、レクスとラクス猊下に預けたものを身に付ける人を加えて東方の三賢者なイメージだな。その人は華族じゃないし朝仁様が華族なのにイメージはこうなんだ。まぁあくまでもイメージの問題だから気にしないでくれ」
「――なんだか黙示録の使徒の記述および賢者と照らし合わせてしまった。その最後の賢者も安全なのか? 偽ゼスペリア候補が全員安全らしいような気がした風に、それも聞いておきたい」
「さぁ、会ったことないけど、その人はどうやら、なんかずっとこう急いで走ってるイメージだな。イメージ……か……なんかこう嫌な感じがするな。まるで王都大聖堂に、ゼスペリア猊下の身代わりというか影武者というか、きっとゼスペリア猊下だと信じられている誰かがいて、放火されそうな感覚だ……なんかこう、なんと言えばいいんだろう、ゼストよりもっとこう茶色い髪で、ゼストよりもっとこう明るい水色の目で、もっとこううさんくさいというか自分で救世主ですっ、って名乗るタイプな感じの、半分闇汚染されてる空気の人が、ゼスペリア猊下的な感じで、こう金ピカの扇を持った人に襲われる感覚がしないか? するよな?」
「ちょっと待ってくれ。それは感覚なのか? 予知ではなく?」
「そんな力は俺にはない。それは良かった……はぁ。なんかいっきに疲れたな。早くオムライスを食べよう。ライチジュース、うん、これも美味しいけど、なぜ時東は自分オリジナルを点滴ではなくライチジュースで発揮しないのだろうか」
「ゼクス、そういえばなんか残りのアクア様というのは?」
「ん? なんか天才伝説級占い師とかとして最近評判じゃないか? 未来予知とか透視とかがバシバシあたるとして。実はこの人がゼスペリア十九世では!? みたいに言われてるだろ。巷で囁かれている天才占い師、世界の救世主! と、なんか雑誌でよく見るぞ、俺。ラフ牧師とかが見てた。けどお金とか身分ではなく選ばれた人しか見てくれないという話らしいのに、それがさ、ハーヴェストクロウ大教会で雑誌を買ってみた理由なんだけど、最下層に来たんだよ。俺はびっくりした。ラフ牧師もほかのシスターとかもなんか若干びっくりした感じで、顔を見合わせて、それからアクア様が首から下げてる念珠をじっと見て、また顔を見合わせていた。黒と緑と青と紫と灰色の5種類だった。そこに金と銀と白金の十字架もつけていて、服は、うーん、まぁゼスペリア猊下では? と言われる理由でもあるけど、青い服だったな。ゼスペリアの青のイメージなんだろうけど、俺には銭湯のお湯のような色合いに見えたけど、それは俺がいったことのある銭湯の湯船の問題かな。手首周りと首周りが白いファーつきで、その部分は猊下っぽかった。うん。それでゼスペリア猊下かもと言われる理由の目の色なんだけど、俺にはあれは緑に見えたけど、まぁお寺とかだと青を緑と呼ぶから青でいいんだろうか。つぅか時東ライチジュースから話変えるな」
「元々ゼクスが方向転換したのを俺は戻したんだろうが。で? そのアクア様は、本物の予知能力者だったのか?」
「――多分、予知はできるだろうが微妙。本人の能力か俺はわからない。なんというか円環がおかしくて、青と緑の複合でESPとPKの部分まで染まっていて、そっち二つはごちゃまぜの非分類見たくなってたけど、そんな人間はいないので、俺の気のせいかフェイクだとは思う。なにせ救世主と囁かれているのだからフェイク入れたくなるレベルで見られるだろうし。さらに、それがそのままならOther過剰となるけど、そうじゃなく健康な人間だった。俺と同じその病気ならESPとPKはあんなのにならないと俺は思う。受容体が変貌するとしても、凝縮してということじゃなく、混ざって歪むとしたら暴走状態で外側にドカンだろうに円環は綺麗だったから、あれは病気じゃない。で、緑は翡翠に近くて青は銭湯のお湯。この二色で考えると、予知は無理だ。予知していると信じさせることに向いている複合色相だ。ただ、奇妙なことに、占いをしているときに水晶に手をかざすと、Otherがいきなり青、濃くなるし、一部だけこう完全に単体青みたくなって、複合部分が凝縮されて非分類みたくなるんだ。元々複合二色だから、それぞれと中央で三色で見えるか、完全に混ざって一色に見えるのが、最初三色だったのに急に、青と残り非分類みたくなり、こうなると半円の中身も一時的に正常になっていた。かつ残りにできた空白部分が、なんかこうレインボーな感じになり、でもロードクロサイトの虹とかじゃなく、あれだなPSY融合兵器の油みたいな色になるんだ。だから俺は、あれは融合兵器の簡易予知予測システムではなかろうかなと思ってみていて、ちょっとがっかりした」
「そんなシステムがあるのか?」
「うん。災害防衛システムとかの完ロス兵器に入ってるやつを、PSY融合時代に復古して作ったのがあるみたいで、何個か見たことある。大体壊れていたり、使えるPSY量が普通では足りないから動かない感じになっていたけど」
「精度と期間は?」
「結局のところブチ込むOtherを補強する装置で、かつOtherの方向性をロステクでいじるだけだから、元からできる範囲とあんまり変わらない。方向性いじって期間を限定してまぁ十分から最長で半日だろうなぁ。精度は、短ければ当たりやすく長ければ外れるっていうのは変化なし。サイコメトリー系統は多分自分のPSYだろうな。あれは余裕そう」
「周囲のそれを見た反応は?」
「んー? なんか大半の人々が長老の赤に連絡しなければといなくなり、結果的にシスターと牧師少数と俺とラフ牧師が残り、その日にラフ牧師が……俺は今思えば、みんな元気で過ごしていますか、とか聞いておけば良かったな……そうしたら、黙示録が消えてるのに気づく前にラフ牧師が危ないと教えてもらえていたかもしれないな……うさんくさいから聞かなくていいやとか思うべきではなかった……三時間後くらいだから、わかったかもしれないのに……というか、そのくらい見て、自発的に教えてくれてもいいのになぁ。もしあの人物がゼスペリア十九世猊下だったら俺、雑誌にこの件を投稿してやる。いわゆる苦情のようなものとなるだろう」
「その時は俺もアクア様を罵る手伝いを全力でしてやろう」