【9】不老不死
それから、ひと呼吸おいてから、時東が言った。
「――ところで、今上がった連中が、例えば不老不死というかそうだな、1000歳以上とかありえると思うか?」
「時東、お前不老不死にあこがれが? なにかこう死にそうなのか?」
「いや、そういうのは特別ない」
「――猊下とヴァイルさんは、完全に気配が消されている感覚でわからない。そんなことができるんだから長生きでも不老不死でもおかしくないような神聖なような静寂というか不思議な感覚を持った二人で、けど普通の人かもしれないし、何とも言えない。イメージしかない。ほか二名についてはそのイメージすらない。が、医学的に考えるならば、こちらも一つPSY受容体の保護だろ、さらに脳の寿命問題には完ロス医療装置が必須で、肉体維持は部分取り変えとして――……あ、けど、部分取替の破損だと、あの猊下のような怪我になるよな……とすると猊下はありえるのかな? けど部分取替はPSY融合医療装置と完ロス医療装置を組み合わせないと不可能と俺、何かで見たけどな。ほら、あの、緑のトランクの中の本のどれか。義務教育のやつの中のPSY融合医療総合最終期のあたりだ」
「超高等義務教育に感謝だ。ほかに何がいる?」
「膨大な記憶の保存。けどこれは万象院のESP貯蔵庫と同じ方法でいける。あとは円環の維持だ。これは完全PSY医療でいけるんじゃないだろうか。なんか鏡みたいなのでフチ取りが錆色緑の、円環維持用PSY血統医療がぶち込んであるのを見たことがある。発掘すれば出てくるんじゃないか? 華族はPSY高い人々が多いから、その円環保護用に結構あっただろう。それと、そうだなぁ、俺なら関節の特に膝と肘、可能なら手首も全部、および首周辺に生体医療。あとは、神経の特に全部の指先。理由はカラダが壊れるときおそらく痺れから開始で麻痺移行だからだ――……あ、商会の男爵は、すごい偶然だが、右足膝変形か何かで引きずっていて、あと左手麻痺だった。肘上から掌半分。まぁいいや。あと、ほかに個人必須でOtherの青。これは自分のでないとダメ。受容体の不一致が起きるからだ。後何か時東が思いついてるけど黙ってることあるか?」
「全部分からないんだ」
「お前いつもそう言って俺に記憶貯蔵庫開けさせるよな。ふざけんなよ。一個ずつ聞いてくれよ。先に質問用意するか本屋さんで小学校の教科書を買え」
「ゼクス先生、使徒ゼストの十字架で、それらのうちのどれかの医療装置等を破壊できますか?」
「へ? 何それ、黙示録に出てくるやつか? それとも何かどこかにある聖遺物? 俺がそう言われて付けてる奴?」
「最後の」
「だから前にも言ったけどな、これど真ん中はあきらかにPSY融合兵器でロードクロサイト文明末期の品で、周囲の一見十字のバツ印部分は、完全に旧世界初期から中期のゼルリア地域の品。まぁこちらゼガリアってよばれていたロードクロサイト時代からあったかもしれないが、その初期中期に何か模様をいれておしゃれにしてる。で、思うに、俺の夢に出てくるゼストがその二つをぴたっとくっつけて、さらに周囲に銀枠つけて大装飾を施し、これになってる。バツ印部分は逆にPSY融合医療装置。最後のゼスト付け足し部分は、特定者のみ医療認定を外す設定器具だと俺は思っている。結果としてこの十字架は特定四人以外のPSY受容体を全方向で保護しながら、あ、それがバツの部分、で、黒い石でPSY受容体を保護して維持する装置をぶち壊し続けながら、かつそれが特定四名に向いていると俺は思うな。こんなもん、聖遺物と俺は呼ばないと思うけど、いかがか?」
「そこから特定四人を割り出せるか?」
「割り出すって位置か? それは無理だろうな。位置がわかるなら、特定でボカンと受容体攻撃するだろう。PSY医療痕跡とかを変えられれば位置はすぐ特定できなくなる。この十字架の四つは受容体内容とそこが絶対発信するPSY円環内の赤・緑・Otherの内で全員持っているらしき青系を指定してある。つまりこの四名とはゼストが受容体を壊そうというかその人々の受容体維持装置を壊そうとした結果の品だと俺は思う。で、位置がわからないというより、いないと思うけど念のため仕掛けておこうかなという空気で、一番のゼストの用途は、受容体の保護だと俺は思うな。だってバツ印の周囲の銀の気合の入れ方がとてもゼストとは思えない。あんなあきらかに適当にぬっただろう雑巾みたいな布切れを聖骸布とかふざけたことをいっているのに、十字架だけ違う。やるときはやれる子だったのだろう。あれだけ見ると俺はゼストは大天才だと思う。その反面、イリスの聖骸布の素晴らしさ。本当に良い奥さんをもらった。俺はゼストはイリスがいなかったらな百回も何千回も死んでいたような気がするな」
「――あともう一個。アクア様みたいなのは、OtherなくてOKなら大量生産できるか?」
「維持管理と記憶同期が面倒だろうから、内容全部一緒で一体倒れると一体起動とかでいいなら大量生産できるだろ。ロードクロサイト皇帝文明中期の戦争でそういう生体兵士VSとESP実体の大バトルらしき記録が中学校の歴史の教科書に載っているだろうが!」
「ESP実体っ、おい、それのつくり方」
「はぁ? なんでも良いから最低限の整体機能付きクローンとか人形とかロボットとかをいっぱい用意して、人工的な擬似PSY受容体をいれて、そこに自分のESPを被せて姿を同じにして、あとはひたすらESPで操作する! かつこの操作は、そのあとは装置で良い! だから集団を適当に配置して、コントローラーいじりながら寝転がっても戦えつつ自分は無事だし勝敗も付くから、ゲーム感覚戦争と呼ばれているだろうが! これはもともと完全ロステク文明時の平和的戦争とかいう意味不明な行為で使われたものだ」
「ゼクス博士。アクア様っぽい兵士とESP実体兵士を王国内から見つけ出す方法」
「そんなものは同じPSYがいっぱいあればすぐわかるだろうが! ESP実態の方は一個ずつをひとりずつ操ってなければすぐに特定できる上本人位置まで、本人が遮断してない限り判明で、かつ遮断したら操作不可能! 前者は、ESPとPKのみでもちろん言ってるんだよな? そんなものは受容体不要で聖遺物的なのを頭に入れておけば十分だ。だからOtherを検索して奇妙なのを洗い出せば一発! かつアクア様ならあの円環データで洗えば良いだろう。数珠だって良いだろうしな」
「ゼクス、お前のおかげで謎の扇集団のあの大量メンバーがどうやって出来上がっているのか非常によくわかり、探し方もわかった」
「は?」
「白い仮面、青い修道服、金の扇、こういう連中だが、見たことは?」
「……そ、それ、最近よく出るよな。なんなんだ、あれ、怖いよな」
「ああ、非常に恐ろしい。あれらの装備内に、こちらの探索を攪乱するものがあるとするならばどれだ?」
「はぁ? んものは、仮面に決まりだろうが! 受容体どこにあると思ってるんだよ! 最も怖い扇は完PSY兵器! 修道服はどこからどう見てもPSY融合科学繊維! 消えろ! お前が黙示録阻止するのか!? 俺、一国民として、最高学府とかから学者呼んで横におけと思う!」
「安心しろ、救世主が協力してくれていて、大量に知識を持っているから平気だ」
「よ、良かった……じゃあそっちの人に後できちんと聞くんだぞ? いいな?」
「ああ、じっくり聴いてるから安心してくれ」
「そ、そうか。非常に安心した。それにしても救世主――どんな人なんだ?」
「それがなぁ、ご病気でな……それが俺の一つ年下で……」
「えっ、じゃあ俺と同じで二十七歳だから……お若いのに大変なんだな……あれだな、なるべくこう好きな人生を送らせて上げて差し上げると良いだろう……」
「俺もそう思うが黙示録が……」
「……身を手して阻止してくださっているのか? 感動的なバカだな」
「おい」
「先に体を治せと伝え、お前は治してやれ。黙示録なぞ後回しで良いだろう。俺が代わりに何か出来ることがあるならば手伝うから、その人物は医療院の集中治療室へと入れるべきだ。どこの誰?」
「いやそれが、俺もそう思って何度も伝え治してるんだが本人は平気だ大丈夫だといっていて、かつ別に黙示録阻止している風でもなかったんだが、実はものすごくしていた。今は集中治療室よりもかなり良好な場所で治療をしつつ、やはりこう無自覚に黙示録をナチュラル阻止しておられるバカだ」
「ほう。よくわからないが、まぁそういうことなら良いかもな」
「ところで使徒ゼストの十字架って、持つために条件とかあるのか?」
「ん? まぁ、一定の青だろ? これはゼスペリア教系統聖遺物は全部一緒。万象院とかだとものにより一定のESPとかとなる。で、そうだなぁ、まずPSY色相が汚染されている人間は近づけない。理由は、黒曜石の医療装置クラック技術。これ、元の受容体維持装置が色相正常化装置と同根だから、汚染されてると近づくと多分血を吐いて死ぬ。置いてあった付近の残留PSYのみでも死ぬ。よって例えば汚染と同じ精神色相となるESP実体も全滅。ただしESPの持ち主は内部映像を見られる。アクア様的肉体なら見られる。ほかに条件として、多分だけどそれ以前に何がしかの別の聖遺物か聖水か何かそういうのに触ってる人間とかは無理な気がする。あのゼストの銀枠部分と、バツじるしのゼルリア模様が謎の雰囲気を醸し出している。特にゼストのあれは、絶対なんかある」
「青のパーセントとか含有量は関係は?」
「ない。いやそりゃ0と0じゃダメだけどな。だけど……あ、けど、あれかもな、赤と緑もいるかもしれない。そうなると混雑型PSY血核球も必要だ。動かして使うなら、という話だ。そして動かして使う場合、青とロードクロサイトの虹の因子がないと動かない。さらに青は100パーセントの10割が良いだろう。他も出来る限り100パーセントの10割。そして全部、ゼスペリアの青、絶対原色の赤・緑が良い。黒曜石が探ってる機械の基本組み込み要素であり、青と緑でバツが動き、ゼストの銀枠部分とゼルリア模様が青・赤・緑で指定解析と周波数維持だから。まぁ世の中探せばいるだろう。俺もそんな感じなんだろ? だから俺にゼストは一応持たせておいて、救世主のちゃんと全部きっちりな感じのお方にお渡しせよってことだろうか? 救世主に武器を託す元救世主とか怖い世の中だな……さすがは黙示録だ……もし俺がそれやるなら、絶対自分の血筋を一滴くらい持つだろうからPSY血統地層にサイコメモリックで人格を残して手伝うだろうな……うん。ゼストもきっとそういう考えで残し、とすると、どこかで俺も一滴くらい入ってるんだろう。孤児だから入っていてもわからないから、そう思って、これからもっと神聖な気持ちで聖書を読もう。なんだかすっきりした。ありがとう、時東!」
ゼクスがそう言ったので、時東は顔を背けた。
その反応に首を傾げてから、ゼクスがふと思いついたように続けた。
「……いや、あのな、さっきの猊下っていただろ? 闇汚染の」
「ああ」
「あの人、すごいイリスな気がするんだ」
「は?」
「あ、悪い、なんでもない。俺も今思いついただけで、ありえないと思った。忘れてくれ」
「いいや続けろ。どういうことだ?」
「……なんかこう……なんというか……イリスのイメージって紫だろ?」
「ああ」
「あの猊下の闇汚染のゼスペリアの青、普通闇汚染だと黒に近いけど紫っぽいんだよ。でさ、かつさ、その紫って、歌と同じで勝手に聞こえたり見えたりするものを、あの人物は生まれつき持ってるから周囲にそう見えるんだ。イリスもそうだったのだろうと遺物を見て俺は思う。イリスは死ぬほどゼストの病気を治したかったようなんだ。そういう人物は闇汚染が簡単だ。かつ世界が黙示録状態になっているならすぐ終末汚染で闇汚染できるし……うん……」
言いながらゼクスは俯いた。時東はそれを静かに眺めていた。