黙示の解読(2)
「――終末を阻止するためには、十三名の使徒がいなければならない。暗黙の第十三使徒は、使徒ゼストそのものである。使徒を探し、集めよ」
このあたりは、比較的具体的だ。
「――第一の使徒は、既にこの時、使徒ゼストの友である。ゼストと異父弟、そして紅き悪魔と同じ血を持つ者である。使徒ゼストが神の器であり、ゼスペリアである事を、ゼストよりも早くから知っている。銀色の月の賢者に学び、同じく闇色の花束を持つ者である。オリハルコンの祭壇を愛し、磨き、祈りを捧げている者である」
ようするに第一使徒は、探さなくても使徒ゼストそのものである人の友達かつ紅き悪魔側の親戚として存在しているらしい。かつ賢者がどこの誰かわかれば、この人物もわかるだろう。またオリハルコンなのだから、完全ロステクを愛していて、磨いているのだから学んでいて、祈りまで捧げているのだろう。その部分だけならば、イメージ的に、きっと高砂みたいな人物なのだろうとゼクスは思った。
「――第二の使徒は、ヴェスゼストの末裔である。葡萄酒色の瞳の末裔を説得し、使徒としなければならない。その者が使徒となれば、即ちヴェスゼストそのものとなるだろう」
また重要人物を説得しろと出てきた。さらに説得に成功すると、その人物は、ヴェスゼストそのもの、つまり法王猊下になるという事なのだろう。とすると、終末が来た時の法王候補者の中にいるはずである。そういう意味では、やはりラクス特別枢機卿猊下を、なんとはなしに連想してしまう。だが、黙示録の記述的に、その人物は、ゼスペリア猊下に会ったことが無いらしいのだが、現在のゼスペリア十九世猊下はラクス猊下の従兄弟であるから、会ったことがありそうだ。やっぱり違うだろう。
「――第三の使徒は、オーウェンの子である。終末が成就された時、最初に血を流すのはこの者だ。終末は絶対に阻止しなければならない。滅亡を免れた時、この者は、オーウェンそのものとなるだろう」
これは非常にわかりやすい。だって、第一王子か、それがいなければ王位継承権を持っている人であるし、終末が来なければ、この世界が続いて、あるいは滅亡しかけても新しい王朝が出来て、そこの王様になるということである。よって、花王院王家の血を引く人物であろうと考えられる。ぼんやりと青殿下の顔を思い出した。
「――第四の使徒は、ゼストの異父弟である。第二の使徒同様、この者もまた、使徒となるよう説得しなければならない。この二名が使徒にならなければ、終末は約束されたも同然である。彼が紫色の薔薇の片方を手にする前に、説得はなされなければならない。灰色の翼を持ち、世界樹の秘儀を司る者である。彼が使徒となれば、ゼスペリアが大淫婦ルシフェリアになる事は永劫起こりえず、この異父弟こそが、正しき第四使徒ルシフェリアそのものとなるであろう」
ここでもまた超重要人物の名前が出てきた。説得必須の異父弟である。しかも第二使徒は、瞳が濁る前としか書いていないが、こちらは薔薇の片方を手にする前と、より具体的な期限付きだ。前者は意識の問題で暗黒面に堕ちたとかそういう意味かもしれないが、後者はなにやらアイテム入手前であるように読み取れるのである。そしてここでもルシフェリアが出てくるので、二人の共通の父である紅き悪魔とやらは、ルシフェリアの血をひいているようであり、つまりハーヴェスト侯爵家の人物である雰囲気だ。どちらに転んでも、ルシフェリアとなるのは、そうとしか考えられない。さらに世界樹の秘儀なんて、そのままギルドの儀式を指しているように見える。
悩むのは灰色の翼という部分だ。これもアイテムなのだろうか。装飾具なのか。ただなんとなく、灰色と聞くと、鴉羽の血、つまり赤と緑の混合色相を連想する。ハーヴェスト侯爵家が、鴉羽家ことハーヴェストクロウ大公爵家の末裔である、というのを先程考えたからかもしれない。まぁ、終末時のゼスペリア猊下の異父弟を探せばいいわけで、かつハーヴェスト侯爵家の血をひく者であり、本家やら分家やらその他やらはともかく、ギルドの中にその人物はいるようだから、見つけるのはそこまで難しく無いだろう。だが、説得できなければ兄を強姦して孕ませるような存在であり、説得できるのかが問題だろうなとゼクスは思った。なにせ強姦する気が起きなくなるのは紫色の薔薇とやらを手に入れた後だろうし、説得はその前にしておかないとならないと書いてあるのだ。無茶振りに思える。
「――第五の使徒は、黒き片翼の信徒の一粒種であり、既にこの時、ゼストの弟子である。終末の時、第一の使徒と同様に側にいるが、この者は、ゼストがゼスペリアそのものであることを知らない。父が黒き左の片翼であることもまた、終末の訪れまで知らず、己が使徒である事も知らないで過ごしている。使徒ゼストと第三の使徒、第六の使徒を引き合わせるのもこの者だ。嘗て旧世界においても使徒ゼストの弟子であった、双子の義兄弟の片割れの写し身でもある」
この部分を読みながら、ふと瑠衣洲のことを思い出した。双子の義兄弟が英刻院と美晴宮の人間だったとした場合、第六の使徒がミヒャエル関係者なので、こちらの片割れというのは、即ち英刻院の人間である可能性があるからだ。
「――第六の使徒は、ミヒャエルそのものである。生まれながらに、その者は、ミヒャエルである。同時に、双子の義兄弟の片割れの写し身でもあるが、この者はゼストの弟子ではない。雑草に混じる若き芽が正しく見つけ出された時、ミヒャエルは再び使徒となるだろう。若き芽は、銀の月の賢者が愛する桃色の花と共に育つ。若き芽は、桃色の花の匂いに囲まれなければ枯れ果て、正しく見つけ出される前に失われる。この花の香りは、雑草を彩ると同時に終末の象徴である舞い散る銀色の花弁にとっては、降りしきる雪に似た淡い赤き雷となりて、救済の象徴となるだろう。この愛されし桃色の花が散らぬよう、全ての使徒は気をつけなければならない」
この部分に関して、美晴宮だと考えると、銀の月の賢者とやらも華族なのだろうかと考えてしまう。なにせ若き芽とやらは、ミヒャエルの信徒らしいからで、それがともに育っている桃色の花を愛しているというのだから、そばに存在しているように思えるのだ。桃雪匂宮を思い出すのだ。桃色の花であるし、雪に似た淡い赤など、桃雪と言って良さそうだ。さらに、赤き雷というのは、赤色相のPKだと考えられる。PKを華族は雷と呼ぶ場合があるのだ。黙示録が書かれた時代に、PKを雷と呼ぶという知識は既にあったのだから、別に聖書に出てきてもおかしくはない。
しかも雪のように降るのだから、広範囲PKであるのだろうし、だからこそ『桃雪』という風に呼ばれる能力なので、どうしても桃雪匂宮を思い出すのだ。深紅から白まで、そして白に近づくにつれてマダラに広がり、単独から範囲のPKを表す色相の、広範囲PKの一番端が『桃雪』なのである。もし仮に桃雪だとすると、若き芽を囲うというのは、守るという意味で、終末の象徴の銀色の花弁にとっては雷なのだから、そちらが敵だから攻撃していると読み取れる。ならば、銀色の花弁とは、人間の集団で決まり出し、若き芽が美晴宮の配下の華族とすると、それを襲って来る上、他の華族を指すだろう雑草を彩っているのだから――……華族黒咲の集団のようにも考えられる。
若き芽が誰なのかは分からなくても、美晴宮が誰かはわかるのだから、黙示録の内容が仮に起きたら、その時の匂宮家関係者で、今の桃雪匂宮と似たような力の持ち主と一緒に育った人間を探せばいいのだろう。まぁ同世代程度の意味と考えていい。ただ、桃色の花が桃雪だとすると、愛している銀の月の賢者とは、銀朱匂宮総取りしか思い当たらない上、銀朱の銀という時が、銀の月の銀とかぶるから、この二人のイメージで脳内再生される。花が散らないように気をつけろというのもESP欠乏障害だから、ESP補給をきちんとしろというような意味である気がしてくる。だが、まさかなぁと、この考えについてもゼクスは心の中で笑っておいた。さて次は、第七の使徒だ。
「――第七の使徒は、使徒ゼストと第二の使徒と、血肉を同じくする者である。この者は、第二の使徒以上に、第四の使徒と同程度に、使徒ゼストを憎んでいる。第一の使徒や第五の使徒と同様、自身が使徒であると気づくよりも以前から、使徒ゼストのそばにいるが、終末が迫る時、友では無い。友であったのは嘗てであり、友が『使徒ゼストの黒翼』を持つ者だと知った時、その命を奪おうとした。以来、使徒ゼストが神の器である事を知るまでの間、剣の光を向ける事が度々ある。この者は、この者の出生自体が、終末の一つの引き金であるのだが、血肉を同じとする事も、使徒ゼストが契約の子である事も、第五の使徒同様、長きに渡り知らずに過ごす。この者は、黒き左の片翼の弟子であり、使徒ゼクスにとっては、兄弟弟子とも言える。この者にもまた、ゼスペリアの聖純なる青を教えなければならない。しかし第二使徒とは異なり、説得するためではない。友愛、信頼、絆を取り戻すために共に祈るのである。第一の使徒と共に、良き友人として、使徒となればゼスペリアの剣となってくれるだろう。また、終末が阻止されれば、第五の使徒の師となることであろう。しかしながらこの者は、偽ゼスペリアにもなり得る。偽ゼスペリアになり得る存在は、一人ではない。それが終末の世界なのである。なお、偽ゼスペリアを倒すためには、ゼスペリアの剣は必ず必要であり、第七の使徒以外にゼスペリアの剣となる者はいないだろう」
なんだかすごく恐ろしいなと、ふと思った。しかもこの箇所で、第二の使徒である葡萄酒色の瞳のヴェスゼストの末裔も使徒ゼストを憎んでいるし、第四の使徒である異父弟はそれ以上に使徒ゼストを憎んでいると書いてあるし、その異父弟と同じくらい第七の使徒もゼストを嫌いで、昔は第一使徒の紹介で友人だったが、最終的に命を奪おうとまでしているのである。しかも偽ゼスペリア候補の一人だそうだし、偽ゼスペリアはいっぱいいるとまで書いてあるのだ。超怖い。
使徒ゼストとヴェスゼストの末裔と同じ血を引くというのだから、ランバルト大公爵家の血筋の人物で、第四使徒とは血縁関係にないから、ハーヴェスト侯爵家側ではない親戚ということになるのだろう。しかも出生が終末の引き金の一つなのだから、隠し子だとか、それなりに重要なポジションとして生まれているのかもしれない。なにせ、偽ゼスペリアになれる立場なのだ。ゼスト・ゼスペリア家に生を受ける場合すらあるだろう。ゼスペリア猊下ではないだろうが、その弟とか叔父とかである場合もあるはずだ。最初から宗教家的な立ち位置ならば偽ゼスペリアもやりやすいだろう。ただ、第一の使徒の紹介で出会うらしい上、ゼスペリア猊下がゼスペリア猊下であると知らないらしいのだから、そこまで近親者ではないか、もしくは終末の世界が危ないから、秘匿されているゼスペリア猊下とは、偶発的に知り合うまで顔を合わせたことがなかったとか、そういう場合もあるだろう。
なお『使徒ゼストの黒翼』がなんなのかは不明だが、所持できるものであるようだ。ただしこれは、ゼスペリア猊下の証明ではないのだろう。なにせ、これを見て命を狙い始めて、そのあと神の器だと知るらしいのだ。しかし、友情心やら絆を取り戻すというのは、ある種説得するより難しいように思う。
友達関係に戻ることなど不可能だろうと思う。壊れた友情や信頼関係は戻らないし、絆なんて簡単に途切れるのだ。。
それにしても、第二使徒の説得にしろ、第七使徒の説得にしろ『ゼスペリアの聖純なる青を教えろ』というが、一体それはどういう意味なのだろう。よく分からない。
「――第八の使徒は、第七の使徒の一人目の弟子である。この者は、使徒ゼストを銀の月の賢者の元へと導いた貧しき老父と共に、ゼスペリアの神殿のそばで、清貧なる暮らしをしている。十二の使徒の中において、第一の使徒を除き、最も早く、使徒ゼストが使徒ゼストである事に気づく者であり、それは使徒ゼストが自覚するよりも前だ。この者もまた、偽ゼスペリアになり得る。終末が迫りし頃、この者は、オーウェンの庭で稲の管理をしているであろう。オーウェンや、黒き片翼の左の使徒が正しき道を歩んでいれば、この者が偽ゼスペリアになることはない。だがどちらか一方でも道を誤っていれば、偽ゼスペリアとなる。説得は不要であり、不可能である」
オーウェンの庭というのは、王宮だろうし、稲の管理というのは、ようするに政治や財政をしているということで、貧しい出自の政治家か何かなのだろう。確かに王宮の要職についている人物ならば、偽ゼスペリアをやりやすいだろう。偽の御業とは、きっと税金を軽くしたりすることに違いない。なにせ国王が道を誤るというのは、圧政を強いるということだから、重税とかだろう。
「――第九の使徒は、第七の使徒の二人目の弟子である。この者もまた、使徒ゼストを銀の月の賢者の元へと導いた貧しき老父と共に、ゼスペリアの神殿のそばで、清貧なる暮らしをして過ごしている。第八使徒の兄弟弟子であり、第十使徒と共に、三名は非常に良い友である。また、第十一使徒の腕としてパンを切りながら過ごしたことがあり、終末が迫る時は、オーウェンの庭にて、パンを焼いている。神の御業に関する深き知識を持ち合わせ、ゼスペリアの血を紐解くであろう。使徒ゼストが正しく使徒ゼストの写し身であり、器であり、そして主であるゼスペリアそのものである事を、ヴェスゼストとは違う在り方で証明する人物である。この者だけは、あらゆる人物の中で偽ゼスペリアになる可能性が最も低く、決して偽ゼスペリアにはならない。ただし終末が訪れゼスペリアが大淫婦となり悪魔と絶望の二人の子をなすならば、この者もまた、闇の者となるであろう。その場合、偽ゼスペリアの一番の使徒となる」
こうなってくると、清貧なる暮らしをしている場所は、最下層という事になるわけである。超貧しいという部分はあっているし、最下層には様々な場所に色々な廃棄都市遺跡の入口があるので、そのいずれかがゼスペリアの神殿とやらかもしれない。なにせこのゼスペリア教会の地下にすら各種の歴史階層の遺跡があるのだ。さらに第八使徒を榛名としておくと、第十使徒は副に該当するようにも思えて、彼ら三人は非常に仲が良いのでしっくりくる。
オーウェンの庭が王宮なのはそのままで、さて『パンを切る』や『パンを焼く』だが、パンというのは、人間の体で、切ったり焼いたりという記述は、聖書では医療行為を指すのだ。つまり、王宮で働く医者というわけで、政宗医者氏の表向きは、そのままそれである。公的な身分は、偽装戸籍で、ではあるが、王宮の正式な医師なのだ。これで行くと第十一使徒の腕というのは、腕は同僚とか部下とか配下という意味なので、第十一使徒には、ほぼ闇医者である時東の姿が浮かんでくる。
神の御業の深き知識やら、ゼスペリアの血やらは、PSY-Oterや、PSY血統の知識を持っているということだろう。政宗医者氏と時東は、まさに医療院で時東が上司、医者氏が部下で、PSY復古医療関係の仕事をしていたらしいのだから、深き知識を持つプロ中のプロと言って良い。ヴェスゼストの立場が家柄関係の把握や宗教的な地位の保証とすると、違う立場というのはつまり、使徒ゼストの生体PSY情報やPSY血統情報から、ゼスペリアだと判断するということなのかもしれない。まあ空想は別としても、違う立場で医療的科学的に証明する、という意味合いなのは確実だろう。また、終末が訪れてしまわない限りは絶対安心な良い人であり完璧に使徒なのだろう。終末が来てしまった後は恐ろしいが、阻止するならば、安全な使徒としか言い様がない。
「――第十の使徒は、清貧なる暮らしをしている隠者である。誰もこの者の出自を知らない。隠者は青と緑に光る糸の上で過ごし、多くの事柄を知っている梟でもある。終末の迫る時は、オーウェンの庭にて第八使徒と共に稲の管理をしているであろう。梟の止まり木がオーウェンの庭に有った事が契機である。この者は、使徒ゼストがその人だと知ると、ゼスペリアの梟となる。偽ゼスペリアを倒す時、ゼスペリアの剣同様、この梟の糸は強力な力であり、無くてはならない存在である」
この人物も安全そうな人であるし、使徒ゼストがゼスペリアの器と知った段階で梟になってくれるのだから、超安牌な人なのだろう。梟というのは、情報伝達する存在の象徴で、青と緑に光る糸というのは、ロステクPSY融合光知覚系情報システムの事のように思える。
それに第八使徒が榛名だとすると、一緒に伴侶補の雑用係をしているのだから、ぴったり一致する。王宮はオーウェンの庭で、そこに止まり木があったというのは、王宮に取得すべき情報があるから滞在したという事だろうし、副も王宮に情報を得るために潜入していて榛名にスカウトされてガチ勢の副となったのだから、それが契機と言えるのである。
「――第十の使徒は、清貧なる暮らしを強いられているが、元は普通の民であった。この者には信仰心が無く、パンを焼く事を生業としており、神の御業を信じていない。嘗て第九の使徒の良き標べのごとき腕であった事もある。この者は、第八の使徒の次に、ほぼ同時期に、使徒ゼストが神の器であると気づく。ゼスペリアの讃歌を耳にした初めのその日から、即ち以前より使徒ゼストがゼスト・ゼスペリアの血を持つのではと考えていた人物であったのだが、神の器であると正確に知るのは二番目であると言える。信仰心には欠けているが、ゼスペリアの讃歌に心を動かされ、使徒ゼストが使徒ゼストであると知る前より、時折ゼスペリアの神殿のそばへと足を運び、響いてくる讃歌に耳を傾けていた。その頻度は、第七使徒よりも多い。この者は、ゼスペリアの元でパンを焼くだろう」
なんというか、信仰心が無い医者という部分が、そのまんま時東みたいなのである。良き標べのごとき腕というのは、上司という意味で使われる場合が大半で、第九の使徒が政宗ならば、そのまま当てはまる。しかも一般階層出自で、左遷されて最下層に来たので、貧しい生活を強いられているというのも該当する。きっと使徒になっても医者を続けるだろう。政宗医者氏よりも臨床的なのだ。政宗医者氏の方が、公的には臨床場面が多いのだが、政宗医者氏は本人談として、本当はPSY血統等の研究の方に興味があるらしいのである。王宮の病院勤務をすると、医療院で比較的好きな所に行きやすくなるというのもあって、王宮にいたのだろう。そこで榛名のスカウトでガチ勢組に参加したのだと考えられる。いつから三人が仲良しなのかは不明であるが、少なくとも城勤務の現在は仲良しだ。
この部分のみ『ゼスト・ゼスペリアの血』と書いてある。ゼストの血やゼスペリアの血ではないのだ。ゼスト・ゼスペリア家は、使徒ゼストの死後に出来たので、かつ予知するには期間が長すぎるので、それを指しているのか怪しい。もちろん再構成時の加筆の可能性もあるし、何か他の意味もあるのかもしれない。だが何にしろ、ゼスペリア猊下のことだろうとはわかる。
「――第十一の使徒は、緑色の羽の御使いの友であり、最初にゼスペリアの器の左に立った信徒の末裔である。この者は、偽ゼスペリアになる可能性が、二番目に高い。また、この者は、まず探すことから始めなければならないだろう。終末が迫る頃、この者は、二人の幼子を育てながら、オリハルコンの祭壇の設計図を眺め、葵色の御使いの両翼を読み、妻は亡くしたが我が子らと共に穏やかで幸せな日々を過ごしているだろう。見つけ出し、必ず説得し、使徒としなければならない。またこの者は、子を想い、悩み、使徒となるのを迷うだろう。仮に使徒となった後も、振り返り思い悩む事があるだろう。場合によっては、その後に、偽ゼスペリアになることすら有り得る。ただし、いずれの場合においても、終末そのものが到来する前に、紅き悪魔を葬るのはこの者だ。よって、紅き悪魔も、その子の異父弟も、それぞれがこの者を探すだろう。使徒ゼストは、再びこの器においても良き友人となり、その者を片腕としなければならない。さすれば敬虔なる使徒となるだろう」
これに関して、もしも現在の社会に当てはめるならば、探す必要がないような気がした。緑色の羽の天使は万象院のことで、ゼスペリアの器の左というのは、使徒ゼストが、ハーヴェストクロウ大公爵の分家の人間がランバルトだったと仮定し、その関係者、なおいえば親戚で血縁関係が大なり小なりあったとすれば、ハーヴェストクロウ大公爵家つまり鴉羽家の祖先もまたゼスペリアの器と書いて良いということになるだろうし、初代右副からずっと右副は鴉羽卿なのだ。そこから万象院は別れたわけであるし、関係も深い。その左なのだから、左副のことで、とすると初代は橘紫紺卿である。その末裔といえるのは、橘宮家と橘院と橘大公爵家で、使徒ゼストは旧世界から現代文明初期に生きていたのだから、関係性を考えると橘大公爵家の人間だと考えるべきだろう。
して設計図を眺めているというのは、オリハルコンなのだから、完全ロステク兵器かその文明の研究をしているということであり、葵色の御使いの両翼とは、恐らく葵を院の総紋としている錦雅院が御使いという事で、両翼というのは、御使いの存在証明であり全てだと聖書内で出てくる部分があるから、錦雅院の保有する全知識と技術であると考えられる。こちらも完全ロステク文明の技術と知識である。錦雅院は、完全ロステク文明時代の知識を華族全盛期から現在に至るまで保管している寺院なのだ。
ここの寺院のお経は、他の寺院と違い、一般公開されているものにも、きちんと完全ロステク技術についてと考えられる事柄が書いてあるし、資格取得時にゼクスが渡された資料によると、資格保持者である一部研究者のみが知る機密として、他にはその時々の錦院の総代のみが知る、その他の全列院総代等にも内密の地下倉庫に、かなり完璧かつ良好な保存状態の当時の書物や兵器、装置、その他が残っているらしいのだ。それを読んでいるというのは、これもまた研究しているということだろう。
まずこの錦雅院の知識研究が可能な完全ロステク研究者という時点で、ゼクスは五人しか知らない。一人は高砂だが、やつは子供がいないので別だ。もう一人は自分自身であるので、これも除外だ。他三名。一名は、当然その寺院の総代であるが、かなり高齢で、ゼクスが資料をもらった時点でひ孫がもうすぐ生まれるという話だった。死ぬまで総代のままだから、亡くなったとも効かないし、きっとまだ存命中なのだろうが、実子二人を育てているというポジションからははずれる。もう一人は、最高学府の完全ロステク学の、高砂の前任かつ、高砂が辞めた後、他にできる人がいないため復帰した特別名誉教授であるが、こちらも孫がいて、その孫が高砂の教え子だったという話である。
そんな中、なにもかもドンピシャなたった一人がいる。
現、橘大公爵その人である。何年か前に奥様を亡くし、九歳と三歳のお子さんを育てて、現在在宅で研究をしている人だ。二人共男の子である。この人物は、高砂と共同研究をしていたことがあるので、ゼクスも知っている。共同研究に際して、何度か子供の面倒を見るのを頼まれたことがあるのと、慈善活動に来る時、子供達を連れてくるからである。末裔という意味でも完全に一致である上、曾祖父が橘院、祖父が橘宮出身だとか聞いたこともあるし、全方向で左副・橘紫紺卿の末裔と言って良いだろう。その共同研究で行っていた先がまさしく錦雅院の地下であるし、現在の在宅での研究内容もその時に得た経文の内容の解読と分析、研究であるらしい。条件的に、一番ぴたっと当てはまるとすら言える。
子煩悩で気さくで明るい良い人の印象だし、平穏な家庭で幸せに暮らしているのも間違いないだろう。妻を亡くした部分の一致は不幸であるが――ただ、紅き悪魔を殺害する模様だが、人を殺すような人間には見えない。ゼクスが知らないだけで、院系譜として、あるいは花王院王家の分家でもあるので(父親が花王院陛下の叔父だったそうだ)、猟犬か、祖父の橘宮関連として、橘宮はなれないが縁戚なので不可能ではないだろうから黒咲の可能性、また、完全ロステク研究者は、三分の一くらいは、ひっそりとギルドメンバーらしいので、黒色の可能性もあるが、少なくとも闇猫ではないし、会って話していて、そういうガチ勢やプロ気味の空気を感じた事は一度もない。まぁ大体のそれぞれの集団の凄腕の人々は、そういう空気を感じさせない技術に長けているわけだが……橘大公爵は、そういう意味では一般人に思えるのだ。だとすると、完全ロステク兵器でぶっ殺すという事なのだろうか? 紅き悪魔と思しきハーヴェスト侯爵家の人間の特徴は、ギルド関係者という部分を除くと(本来この家の人々は大体凄腕の黒色らしいから除いたらダメだが)、ハーヴェスト血統として、『混雑型PSY血核球』を保有している点である。これは、PSY-Otherの絶対補色青と、絶対原色の赤や緑を共存させる事が可能な、特殊指定血核球で、科学的には、ハーヴェスト家とはそちらで名前を聞く存在であり、ギルドなんていうのは、普通は出てこない。
これを考えると黙示録のゼスペリア猊下の父がハーヴェスト家の人間ならば、ゼスペリア猊下は混雑型PSY血核球を持った存在である可能性があり、さらに異父弟との子供や、偽ゼスペリアの子が、赤か緑を持っていたら、その子は青と一緒に赤や緑、あるいは両方持てるという事になる。三色全て持っているというのはすごい事だ。悪魔の神や絶望の神という風に書かれているが、普通に『神』であるし、それは『ゼスペリア』と言って良いだろう。まぁ、高IQと、それに比例するPSY値の高さが無ければ、あんまり意味はないが、少なくとも青に関しては、ゼスト・ゼスペリアの人間は、瞳の色が青い状態になるレベルでずば抜けているから、Otherの値は高すぎるほどだろうし、ゼスペリアのフリができるくらいだから、偽ゼスペリアだって馬鹿じゃないかそこそこPSYの能力が強いはずだ。紅き悪魔だって、金色の翼の御使いを陥れて汚す感じなのだからち某策略がありそうであるし、その血を持つ異父弟だって馬鹿で無能力ということもないだろう。
それはさておき、混雑型PSY血核球と完全ロステク兵器は、特に何の関係も無いような気がする。だが、明らかに記述的に完全ロステクの専門家が殺すと記述されているのだから、何か意味があるような気がしないでもない。
そういえば現ハーヴェスト侯爵であるギルド議長は襲われて意識不明らしいが……あれは闇猫の仕業であるし、橘大公爵は、闇猫ではないから、悪魔を倒しに出かけた、なんていうことはないだろう。あれに関して、橘大公爵が関わっているはずもない。まぁそもそも、偶然の一致かも知れないが。しかし驚異の一致率だった。もし本当に現在が黙示録手前なら、きっと使徒探しが始まるだろう。
「――第十二の使徒は、一人、あるいは二人、そして失われている場合もある。本来は三名であるが、少なくとも一人は既にいないだろう。また一人は、重症を負っている。この者が助かれば、二名で一人の使徒となるし、そうでなければ、最後まで無事であった一名のみが使徒となる。第十二の使徒の名は、『ヨハネ』――東方より訪れし星の三賢人の写し身である。彼らは、自分達が使徒であると、自然と気づく事であろう。自然と使徒ゼストを助け、慈しみ、使徒ゼストが正しくゼスペリアであると認識したその時には、既に使徒ゼストへ親愛の情を抱いているし、使徒ゼストもまた慕っているであろう。仮にゼスペリアが闇に堕ちるならば、その時は、ゼスペリアが失われていなければ彼らを全て葬るであろう。東方より訪れし星の三賢人は、闇の神の使徒には決してならない」
東方より訪れし星の三賢人というのは、『ゼルリアの洗礼者ヨハネ』『黒き衣のヨハネ』『紅鶫のヨハネ』の、三人のヨハネの事で、旧約聖書にも、新約聖書のヴェスゼストの福音にも出てくる存在だ。まず『ゼルリアの洗礼者』であるが、これはラファエリア初代国王の王妃の出身地域であり、ゼスペリア神伝承が伝わっていた地域がどうやら『東方』であり『ゼルリア地方』と当時呼ばれていた地域らしく、現在ではどこなのか不明だが、ゼスペリアの神殿があるのはそこだろうと言われている場所から来た、ある種の聖職者であるらしい。
この『ゼルリアの洗礼者ヨハネ』という人物は、いつも猫を従えていた優しい人物で(おそらくESP感覚で猫の気持ちを理解したりしていたのだろう)、『使徒ゼストが生まれるのを知り、出産時に取り上げた人物』だとされている。旧約聖書には『契約の子の出現を星を見て知った』と書いてあり、福音書には『使徒ゼストを洗礼し、知恵の木の実を与えた』とあるので、もしかすると当時から洗礼儀式は存在したのかもしれない。
次の『黒き衣のヨハネ』とは、『星を視て使徒ゼストの危機を知り、東方より訪れて、使徒ゼストに、ゼスペリアの器となる事を教えた』とされている。つまり『師匠』みたいな存在だったようだ。旧約聖書によると、『ゼスペリアの三つの果実を与え、守り、ゼストにもまた黒き衣を与えた』らしい。福音書では、『ゼルリアの洗礼者が、ゼスペリアの教えを伝え、三つの果実を与えた』ことになっているので、その部分は違う。しかし、『ゼストに黒き衣を与えて守った』という部分は、類似内容として記載されている。
最後の『紅鶫のヨハネ』は、この人物だけ『東方の友の頼みを星を視て受け取り、西方より使徒ゼストを助けるために訪れた』とされている『西方から来た人物』らしいが、東方の友の頼みなので、『東方より訪れし』としてまとめられている。して東方とは『ゼルリア地方』らしいので、『東方ヴェスゼスト派』も『東方』とついているのだが、『西方』は恐らく現在の『華族敷地』だろうと考えられている。だが、今とは東西南北も地図も違ったので、その逆の位置がゼルリア地方とは限らないので、場所は不明だ。だが、西方が華族敷地らしいとわかるのは、『紅鶫』というのが、『匂宮の持つ赤色相の一つ』だからであり、匂宮古文書に『紅鶫匂宮が鴉羽家の子を助けた』という記載があるのだ。今も紅鶫の瞳として、匂宮には赤い瞳の子が生まれる場合がある。
これは赤色相の種類でさらに明るい色合いの赤雛鳥の瞳などもあり、桃雪匂宮なんかはその明るい赤い瞳をしている。ちなみに紅鶫の瞳は、ハーヴェスト家のブラッドルビーの瞳と同種のものであると考えられているし、この両家と英刻院家は白磁の肌という共通点がある。しかしその肌質で黒髪が生まれるのはハーヴェスト血統のみ、また白磁の肌が照れたりすると淡い桃色にそまるのは匂宮のみであるという差異がある。が、まぁ、このように、『紅鶫のヨハネ』のみ、実在証明があるので、恐らく他も実在したと考えられる。『鴉羽の子』が使徒ゼストを指すのか、一緒に避難していたハーヴェストクロウ大公爵家分家の人々などを指すのかは諸説あるし、なぜ『ヨハネ』なのかは不明であるが、まぁ存在したし実際の記録なのだろう。
さらにこの人物は、神殿到着まで護衛して行ったらしい。匂宮家の分家の人間だから、ハーヴェストクロウ大公爵家とは親戚であるし、何の不思議もない。が、神殿内部にいたという記録はなく、それ以降は一切記述が無い。匂宮古文書では、帰ってきたと書いてあるので、生存して華族敷地に戻ったのは間違いない様子である。また英刻院家の古文書に『華族匂宮の分家の人物と共に右副の死を確認した』というような記載があるから、そっちに行った可能性がかなり高い。右副は鴉羽卿つまりハーヴェストクロウ大公爵である。
さてこの最後のヨハネは、『使徒ゼストに、闇色の月の花を授けた』と旧約聖書に記載されている。匂宮なのだから、これは『闇の月宮』である鴉羽卿の『花』であり、それは鴉羽卿が作った黒咲のことで、その技術を教えたのではないかと研究家は解釈している。宗教院の認定では、そもそも匂宮の人とすら決定されていないので、あくまで研究上の結果である。福音書には、『神殿まで守って連れて行った人物』と書かれているだけである。後は、『ゼスペリアの神殿の場所を教えた』と書いてあるのだ。宗教院的には、なんで家族が神殿の場所を知っているのだ、ということで、認定しないのだろう。だが、東方に友人がいたわけだから、聞いていたとしても不思議ではない。
さらに三人のヨハネは、『星を視ると分かった』わけであり、特定指定Otherの予知能力があったのだろうと考えられている。また、三人合わせると、
『宗教的教育者』
『知恵の木の実を与えた(完全ロステクやその他を含む可能性が高い学術知識の教育をした)』
『三つの果実を与えた(青赤緑のPSYの使い方を教えた)』
『猫を飼っていた(闇猫の暗喩の可能性が高く、武力技術を教えた)』
『黒き衣を与えた(これはギルドの黒色のローブのモデルと言われるので、武力技術を与えた)』
『闇色の月の花を授けた(華族黒咲の技術を教えた)』
ということになるので、『賢人』つまり『使徒ゼストを教育した師匠』であると考えられている。かつこれは、使徒ゼストが、これら全てを学んでいたという事でもある。つまり神の器というか、神様であるゼスペリアのごとき存在だったのは、この三賢人の教育の賜物という考え方も可能なのだ。元々才能もあっただろうが、教育は重要だという教えだと一般的には解釈されている。
さて十二番目の使徒は、三名で一人扱いなわけであり、使徒ゼストの師匠として存在しているということである。つまり現在のゼスペリア十九世猊下が使徒ゼストの写し身とすると、三名の師匠がいて、一人が死亡、一人は生死を彷徨い生き残れば使徒となり、一名は存命中だが、使徒になる前やなった後に死亡する場合もあるという事らしい。恐らく『闇猫』『黒色』『黒咲』から一名ずつだろう。闇猫は宗教院所属だから宗教的知識を教えられるし、黒色は『学術知識』と『PSY知識』を保有している。兼任しているならば、闇猫が教えることも可能だ。
黒咲は、まぁそれらは無理かもしれないが。そしてゼスペリア猊下が黒咲技術を習える機会があるかは不明だが、闇猫兼黒色ならば、お付きの人にいてもおかしくない。闇猫の中にはゼスペリア猊下専属の者がいるという話だからだ。それに、そういう立場の師匠ならば、そりゃあ黙示録阻止を考えるはずなので、ゼスペリア猊下が闇堕ちしたら従わず反対するだろうし、ゼスペリア猊下が手にかける場合もあるだろうし、現在ゼスペリア猊下は秘匿されて常々狙われているだろうから、守る過程で死亡することだって十分考えられる。まぁゼスペリア猊下が悪に染まらない事を祈るしかないだろう。