黙示の解読(3)
なお、黙示録にも、終末時の使徒ゼスト代理の事も載っている。
「――暗黙の第十三使徒ゼストは、神の器であり、ゼスペリアそのものである。旧世界の破滅後まで人々に奇蹟を示した器と同一の存在である」
これは多分、血統内容が同じなのだろうとゼクスは思う。PSY値などの肉体的構成が同じというのが、器が同一という意味で、器とは体だと思うのだ。
「――使徒ゼストは、東方にあるゼスペリアの神殿に秘匿され、育てられる。第十二の使徒である三賢人の写し身が慈しみ、早くよりゼスペリアそのものとなるだろう。しかし使徒ゼストは己が神の器である事を長らく知らされず、気づくこともなく、またゼスペリアそのものであるという理解に至っては、生涯受け入れる事はなく、一人の人の子であり主の信徒として天に召される事を望むだろう。偽ゼスペリアの伴侶にならなければの話であるが」
なんとなくこの部分は、分かる気がする。なにせ師匠三人に英才教育を受けていると考えられるので、ゼスペリア猊下は、『主』やら『ゼスペリア神』というのが『PSYのPK-ESP-Otheを持った高IQの人間』だと理解しているだろうし、『神の器』というのも『それを保持した人間』という風に正しく把握しているはずであり、出自を知らされずに気付かなかったからというより、ただの人間だと考えているから『ゼスペリアつまり神そのものが自分自身であるとは受け入れられない』というのは非常によく理解できるのである。普通に人間なのだから、普通に死んでお墓に入りたいだろう。
まぁ偽ゼスペリアの伴侶とやらになったら、世界を滅亡させる手伝いをするというか自分で滅ぼす側になるのだろうから、自分を神だと思う事もあるかもしれないが、客観的には、神じゃないと理解しているはずだ。それに出自を知らされていないのなら、例え瞳の色がゼスペリアの青だとしても、PSY-Otherが特殊だからゼスペリアの青と呼ばれるだけで、ランバルト大公爵家や、ゼスト・ゼスペリアの第二子、それぞれの親戚だってアイスブルーやら青っぽい紫やらであるし、無関係かつOtherが別段特徴的でない英刻院家だって紺よりの紫で青に近いし、ゼクスだって青い目をしているのだから、鏡を見ても自分がゼスペリア猊下なんて気づかずに過ごしている可能性がある。それともゼスペリアの青とは、そんなに変わった特徴的な青色の瞳なのだろうか? まぁいいか。
「――使徒ゼストは、使徒ゼストと同じく清貧な暮らしをしている。第一の使徒や第七の使徒とは、この頃友となり、また決別もするのである。右の片翼の使徒の喪失を経験し、第五の使徒を弟子とするのもこの頃である。無論、第十二の使徒である三賢人の教えを受けるのも、貧しき暮らしをしながらである。他の清貧な暮らしをする使徒達とも出会っているだろう。しかし互いに神であり使徒である事には気づいていない」
この部分を聞くたびに、ゼスペリアの神殿とは貧しいんだろうなぁと思う。まぁゼスペリア猊下が隠れて暮らしているのなら、教会院や祖父の法王猊下や、ゼスト・ゼスペリア家の蓄えで暮らしていると考えられるが、それなら別に貧しくないだろうから、ちょっと盛ってそれっぽく書いてあるのか、あるいは黙示録が実現するような頃は、貧しくなっているのかもしれない。
「――よって、終末を阻止し、偽ゼスペリアを倒すには、使徒ゼストを見つけ出さなければならない。人々は、使徒ゼストをゼスペリアそのものであると知らなければならない。そして使徒ゼストにもまた、それを告げなければならない。この時、使徒ゼストの所在を知るのは、黒き片翼の左の使徒と第一の使徒、銀の月の賢者、そしてヴェスゼストの代理のみである。だが、黒き片翼は折れ、銀の月の賢者は遠方で花を愛でている。第一の使徒は、終末の来訪に気づいていない。その上、ヴェスゼストの代理は、光が弱まり、星として民にゼスペリアの存在を伝えることはできない。どころか、ヴェスゼストの代理もまた、偽ゼスペリアとなり得るのである。よってヴェスゼストの代理となる者は、常にゼスペリアへの祈りと信仰心を忘れてはならないのである」
この部分では、人類は詰んでいる感があり、黙示録一直線に思える。予兆が無いことを祈るしかないだろう。しかもヴェスゼストの代理まで偽ゼスペリアになる可能性があるというのは、法王猊下が闇堕ちする可能性があるという事だ。白の法王も黒の法王であるゼスペリア猊下も闇堕ちしたら、宗教院は破滅だろう。まぁ、黙示録で忠告されているのだから、法王猊下はきっと偽ゼスペリアにはならないだろうけれども。
「――使徒ゼストがゼスペリアそのものであると最初に気づく第八使徒、ほぼ同時に続いて気づく第十使徒、そしてヴェスゼストの見解とは別の、パンの種類より二人の考えが正しきものであると証明する第九の使徒、彼らのそうした見解は、使徒ゼストよりも先に、第七使徒が知るだろう」
まぁ、第八使徒と第九使徒は、第七使徒の弟子だから、不思議ではない。
「――この時までに彼らは、『ハウンド・クラウン』を探しているであろう。使徒ゼストは、自身がゼスペリアそのものであると知らぬまま、彼らに助力しているはずだ」
確かハウンド・クラウンとは『猟犬の首輪』の事で、創世記の記述の時にも思ったが、猟犬のリーダーある上に守護対象が持つものであるわけだから、きっと終末が迫った頃の持ち主が紛失しているのだろう。それに気をつけておけば、黙示録は案外阻止できるんじゃないのかなと思うが、阻止するための必要事項や鍵として、そういう記述は出てこないから不思議だ。書いた人(使徒ゼスト)の頭が悪かったか、再構成した宗教院の人(多分使徒ヴェスゼストか使徒ランバルト)が馬鹿だったか、使徒ゼストの予知が遠い未来すぎて間違っていたという可能性もあるだろう。
「――最初に使徒ゼストに向かい、ゼスペリアの青の瞳を持っていると伝えるのは異父弟である。彼らは互が異父兄弟である事をこの時は知らない。二人が異父兄弟である事を伝えるのは、ヴェスゼストの代理あるいは、紫色の薔薇を守り育てた叡智ある黒き闇の信徒である。仮に二人の父である紅き悪魔が伝えたならば、それは終末の刻を告げる時計の針が早まった証である。紫色のの薔薇の守護者達のいずれかが、この真実を伝える事を祈るばかりだ」
思うに、これはギルドのメンバーは血縁関係を知っているから、教えてくれる可能性があるが、教えてくれない可能性もあるという事で、何とも言えない気がする。だって黙示録を記した使徒ゼストが祈っちゃっているのだ。希望的観測というわけだ。きっと紅き悪魔がハーヴェスト侯爵家の人間だから、仮に総長職などについていたら配慮して黙っているという事なのだろう。
また、異父弟はどうやら、みんなと一緒に猟犬の首輪を探している使徒ゼストと遭遇するわけであり、なぜ遭遇するのかと考えると、異父弟が持っているとか、異父弟が在り処を知っているとか、異父弟もそれを探しているとか、なんらかの関わりがあるからであるように読み取れる。かつ、異父兄弟だと分かっても、異父弟はなにやら使徒ゼストを憎んでいるらしいのだから、決して平和的な感じでの遭遇とはならないだろうし、遭遇後の険悪になる場合もあるのだろう。そんな相手を説得するゼスペリア猊下がなんだか可哀想である。
「――なお、第二使徒たるヴェスゼストの末裔は、『ゼスペリアの銀の奇蹟』を目にし、是スペリアが宿りし使徒ゼストに気がつくが、それを使徒ゼストに対して伝える事はないであろう」
教えてくれれば良いのにとは思うが、この人物も使徒ゼストを憎んでいるひとりであるようだから、仕方がないのだろう。ちなみに『ゼスペリアの銀の奇蹟』とはなんだろう。『ゼスペリアの聖純なる青』と同様、さっぱり意味がわからないが、きっと目に見えるか、ESP視覚で見える何かだろう。
「――結局の所、使徒ゼストの代理は、最初から自身がゼスペリアそのものである事に気づいている。ただし、それを認めず受け入れていないだけである。その為、結果として、ゼスペリアを守護する花の飾りを付けし黒猫や番犬が黒き雪が舞い散る時、傅くまで理解しない。黒き雪は、黒き羽でもあり、それは使徒ゼストの決断の日の証である」
この部分を聞くと、さっさと認めれば良いのになぁとついつい思ってしまう。しかし猫やら犬やらが傅くという意味も、黒い雪兼羽も謎だが、なにより、『何を決断する日なのか』という点が一番不明だ。少なくとも自分が神であると認める決断ではない。だって傅かれた時に理解している設定なのだ。とすると――偽ゼスペリアの側につくか、終末阻止側につくか、とか、そういう決断なのだろうか? 謎だ。さて、十二使徒やら使徒ゼストの話はこんな感じであり、黙示録には他の終末風景が描かれてもいる。