黙示の解読(4)
「――オリハルコンの聖杯から溢れた葡萄酒が全ての青い果実と緑の果実を汚すだろう」
これは完全に、完全ロステク兵器プラスPSY兵器――恐らく精神感染汚染兵器が使用されて、PSY-OtherとESPを持つ者をマインドクラックするということだろう。怖い。マインドクラックは擬似記憶を埋め込むことすら可能な洗脳技術だから、偽ゼスペリアが本物のゼスペリアだとか、場合によっては全国民が信じるだろう。しかしそんなに広範囲で使用できるものは少ないから『全て』という部分がちょっと謎だ。どこかにあるのだろうか。ある可能性は、無論ある。廃棄都市遺跡には非合法ロステク兵器が腐る程あるのだ。
「――知恵の木の実は失われ、偽ゼスペリアに選ばれし堕天使以外は、人語を僅かに口にできる家畜となる」
これも精神直撃系のロステクPSY兵器だろう。IQを低下させて動物的にするのだろう。そして家畜というのだから、奴隷以下の圧政をして支配するように読める。まぁ偽ゼスペリアが優勢なら、家畜になりたくなければ、偽ゼスペリアに選んでもらうために、そちら側につくのもありかもしれない。そこまで強力な兵器があるのであればだが。少なくとも対抗する手段を、使徒ゼスト御一行様は入手しておくべきだろう。
「――大地は激しく揺れ、海の水は空へと上った後に都市を沈め、山々は火を噴き、世界は熱と中央の氷で大半が喪失する事となる」
これに至っては完全に地震誘発兵器・重力制御兵器・気象兵器に思える。噴火も地震誘発兵器で起こせる。熱と氷というのは、気象兵器で海面温度と空中の温度を操作し、温暖化の熱波を起こすと、逆に中央に冷気が溜まり氷河期特有のアイスライズ現象が発生して全てが凍てつく状態だと考えられる。これらは完全ロステク兵器だ。これが使用されたら大洪水で大地自体も沈没するし、喪失というか、人間も動植物も住めなくなる土地ばかりになるだろう。
「――堕天使達は、多くの聖杯や葡萄酒の瓶をわり、世界には、病が蔓延するだろう。最初の兆候は風邪に似ているが、その後皮膚に淡い赤の湿疹が溢れ、肉が膿み腐り、血を眼窩と歯茎、口より流して、数多の者が死に絶えるであろう」
これは生体ウイルス兵器による感染症の蔓延だろう。人体の病気であり、人為的に作成された新型感染症に違いない。住む場所も無くなるが、病気で命も失くなるという事だ。まさに滅亡としか言えない。
「――三匹の獣が海や空、大地より現れる。それは、リヴァイアサン、ジズ、ベヒモスである。リヴァイアサンとベヒモスは一対の獣である。ジズは天空を支配する。海から現れしリヴァイアサンは、蛇の権化でもある」
なおこれが、有名な『黙示録の獣』である。上述のいずれかの兵器のことかもしれないし、なにか単独の存在かも知れない。ただ、実は類似の記述が美晴宮古文書にあるのだ。そちらには、『失われたとされる三種の神器が、闇の月宮の手に戻りし時、世界の終末が止まる。終末が訪れなければ、弥勒の世が訪れる。なお草薙の剣は海に、八咫鏡は空に、八尺瓊勾玉は地に秘匿されている。しかしこれらが、鴉羽の異父弟の手に渡った時、あるいは偽の鴉羽卿が手にした時、それは神器ではなく、悪しき獣となるだろう。そうなれば、世界は終焉を迎え、月讀の血筋も素戔嗚尊の血筋も、なにより天照大御神の血筋さえも滅び、芦原さえも消失するであろう』と書かれていて、これが華族神話的な一種の黙示録であると言えるのである。
これを『闇の月宮』すなわち『鴉羽家当主』が『ゼスペリア』とすると、『鴉羽の異父弟』が『悪魔の子である異父弟』であり、終末はそのままで、阻止すると訪れる『弥勒の世』とは『平和な世界』であるし、終末が来れば『神の血筋の家族全てが滅亡する』というのはゼストの黙示録の『人類の滅亡』と同じことである。が、ゼストの黙示録には最初から『獣』と書かれているが、華族神話を信じるならば、『使徒ゼストが獣を手にした場合、それは獣ではなく三種の神器であり、つまり華族全盛期の兵器である』と考えられるのだ。
華族全盛期時代の兵器ならば『華族にのみ残存していたらしき完全PSY兵器』か、その前の文明から引き継いだ『PSY複合科学兵器』か、院系譜に保存されていた『完全ロステク兵器』のいずれかであるはずで、その上、三種の神器は三つあるわけだから、それら全て一個ずつの可能性もある。場合によっては、ゼストの黙示録に記載されている他の被害を食い止める鍵かもしれないし、それらが『獣』となるというのは、それらで闇堕ちしたゼスペリアが異父弟や『偽の鴉羽卿』つまり『偽ゼスペリア』に協力して自分で使って、上述の災害を引き起こすという意味にも取れる。
ただこの解釈だと、『ゼスペリア』は『鴉羽卿』でしかも『闇の月宮』なのだから、灰色色相どころか、PSY-Otherも持っていたらしいし、神に等しき同一の天才的なIQとPSY能力を持っていた人間というよりは、『使徒ゼストとは鴉羽卿つまりハーヴェストクロウ大公爵家の直系の末裔』だったという可能性が出てくるのだ。だとすれば、使徒ゼストが避難していたのも当然といえば当然となる。より信憑性が増すし、鴉羽卿が残って対処したのは、実力もあるのだろうが、きちんと後継者を逃しているので、血統は温存されるのが確定していたからだとも考えられる。
そうでなければ、左副同様逃げていてもおかしくない。それが当時の社会だったからである。よってハーヴェストクロウ大公爵家とは、ゼスト・ゼスペリア家の直系祖先の可能性もあるのだ。つまり使徒ゼストとは、ハーヴェストクロウ大公爵の直系長男であり、鴉羽卿――ゼストが名前ならば、鴉羽ゼスト卿であったという事になる。ありえない話ではない。ハーヴェストクロウ大公爵家が潰えたと考えるより、こちらの方が楽である。なにせほかの重要な家柄は全部残っているのだから。
しかも鴉羽卿は、華族全盛期も貴族全盛期も有用な存在として認識されていたし、月讀神話的に、その前の時代から、それなりのポジションにいたはずで、超優秀な血統のはずだから、断絶を周囲が認めるとも思えないのである。
だが、華族神話など、旧約聖書より前に書かれた伝承群だ。まぁ、華族全盛期は、完全PSY文明の知識も多少残っていただろうから、今よりも予知能力が強かった可能性もゼロではないが――再構成した際のゼストの黙示録か、華族神話側が加筆修正された可能性もかなり高い。なのだけれど、年代測定的に華族神話が記された最も古い古文書は、華族全盛期の物なので、これが偶然の一致でなければ、凄まじく不思議な話であり、超すごいまさに神の如きPSY能力者がいたということになる。
なお執筆者は『いつかの代の闇の月宮本人』らしいのだ。それが写本になる度に、敬称などが書きたされたようである。とすると、その頃から、使徒ゼストの血統とは神の器というか神の末裔という扱いだったと考えられる。すごい話である。
「――終末を阻止するためには、十二の使徒と、ゼスペリアそのものである使徒ゼストが揃い、花の首飾りをした黒猫と番犬が従うよう、そして彼らを守るよう紅き瞳の紫色の薔薇と、紫色の瞳の白き御使い、王冠と抱く事になる白百合、愛されし桃色の花が慈しんだ緑の若葉が命じなければならない」
これに関しては、先ほどの空想を交えるならば、花の首飾りである華族黒咲とギルド黒色と教会院の闇猫、そして王室の猟犬が、使徒達を守るように、「赤き瞳」であるギルド要職の地位であるかギルドの保護対象である紫色の使徒の末裔あるいはその両方であると考えられるハーヴェスト侯爵家の人間の黒色への指示、紫色の瞳の白き御使いは恐らく紫色の瞳のゼスト・ゼスペリアやランバルト家の血をかすかに引くため紫色の瞳である、白い宗教着つまり法王服や枢機卿服をきたを纏った人物による闇猫への指示、ラファエリア王家の末裔である花王院王家の次に王冠を抱く第一王子等からの猟犬への指示、そして恐らく匂宮の誰かが守護した緑の若葉というのは若い芽の成長形態だろうから、指揮権を持っている者とすると橘宮当主による華族黒咲への命令により、守られるということなのだろう。これは、かなり難易度が高そうだ。しかも、ギルドに関しては記述的に異父弟、宗教院は憎んでいるヴェスゼストの末裔、さらに守ったとなるようだが橘宮は匂宮とあまり仲が良くないという話だから、王家以外協力してくれるか不明だ。まぁ使徒が兼任しているとするならば、可能であるとは考えられるが。
「――また、ゼスペリアそのものが従えるために、そして終末の到来を阻止するためには、主の契約の宝石を集めなければならない。それは、サファイア・アイスブルートパーズ・黒曜石・アメジスト・ルビー・エメラルド・ダイヤモンド・トパーズである。また、神聖なる銀・金・白金・朱金・緑金もまた必要である。そして、ゼスペリアの銀の奇蹟とゼスペリアの金の奇蹟、二色のメルクリウス、契約の鎖が四本、終末を知らせる円環、螺旋の翡翠、そしてなにより、クロウの聖刻印が無ければならない」
主の契約の宝石とは、旧約聖書の所々に、契約の子が所持していた神の器の証としてそれぞれ単独で出てくるものと同じだし、銀やら金やらは、ヴェスゼストの福音書にも出てくる。だが、他はなんのことかよく分からない。『クロウの聖刻印』は、なにやら左の片翼の信徒が、使徒ゼスペリアに託すと出てきたから、それだろうが、どんなものかは不明だ。それにしても、なぜこれで到来が阻止できるのだろう。ロステク兵器の起動アイテムかなにかなのだろうか?
「――偽ゼスペリアと対峙する時、使徒ゼストは、黒き衣のヨハネに与えられし布を再び纏うだろう。契約の聖刻が刺繍された紫色の薔薇の守護者の証を身に付け、双子の義兄弟の象徴である黒き仮面を首から回し、金の縁どりの聖なる騎士の装いで、黄金のゼスペリアの御印を身に付け、銀の月の賢者に与えられし花を飾りて、相対する事となるであろう。同時にその装いは、花の首飾りをした黒猫と番犬を鼓舞するゼスト・ゼスペリアの正装でもある。それこそが、本来の黒き法王の装いなのである」
これに関しては、さっぱり分からない。だがここまでの推測を続けるならば、ギルドの黒いローブと、特別免除階梯の口布、双子の義兄弟が闇猫ならば、黒き仮面は黒い猫面であり、金縁の騎士団服も闇猫の正装であるから、ならばそこにつける金色の御印は、金のカフスかもしれないし、銀の月の賢者が華族黒咲の者ならば、腕につける銀と黒の糸による月と桜の花びらが入った布のことだろうと思われるので――ゼスペリア教会の筆頭牧師の正装とそっくりである。首の黒いカフスが無いだけだ。無論空想だし、法王の装いには程遠い。なにせこれは、どちらかといえば、暗殺者としての正装である。ここでも「ゼスト・ゼスペリア」と書かれているが、その理由は不明である。使徒ゼストや契約の子や神の器やゼスペリアそのもの、といった記述との違いが不明なのである。
「――この時、ゼスペリアそのものである神の器が、偽ゼスペリアを選ぶならば、この装いは、闇の印となり、全ての花の首飾りをした黒猫と番犬もまた、闇の下僕となるであろう」
まぁこちらの記述の方が、暗殺者の正装なのだから、しっくりくるような気もする。しかし、選ぶといっているのだし、きっと全然違うもっと神聖な感じの法王風の黒い衣装のはずで、元々暗殺者風の格好をしているとは考え難い。そもそも花の首飾りをした黒猫と番犬がそれぞれの黒色達とは限らないし、そうだとしても、ならばむしろ同族となるのだから、その衣装を見て、鼓舞されたりしない気がする。せいぜい仲間意識が生まれる程度ではないだろうか。