【3】PSY複合科学時代
「――まぁ、このように、完全ロステク文明時代は、兵器戦争で滅び、個性をちゃんと持ってるしIQも正常になって、正直、高IQがほとんどかつ、大体の人間がPSY能力を開花させた時代になっていった。それがPSY複合科学時代だ」
ゼクスは、そう口にすると、新しい煙草に火をつけた。
「高IQと高PSYは比例するだろう? だから、低IQコントロールが解けたから、使える人間が増えたんだ。それと戦争で完全ロステク技術の最先端がロストされたから、代わりにPSYで代用する形になったみたいだ。そうだなぁ、文明レベルや社会通念、この辺は、今の世界に一番近かったかもな。文化とかは全然違うだろうけど。ただ、PSYが科学で解明できるはずだという理論は明確にこの時代に生まれたし、最近はその概念が復古されつつあるから、医療院のPSY復古医療とかは、その価値観のもとに、ゼスペリア教の神の御業をPSY-Otherの青系統だと判断していたりする、そういう流れだな」
聞いていた橘と高砂が頷いた。
「さっきに比べて理想的だよな」
「うん。若干科学レベルが落ちたとしても、PSYもあるし、IQも戻ったんだからロストされた技術も復古できそうだしね」
「歴史階層第三層って、これまで一番、科学的な意味合いでは技術レベルが低いしどうでも良いイメージだったけど、俺は認識が変わった」
「俺も結構良いイメージになったけど、結局なんで滅びたの? 徐々に衰退して、その後は、歴史階層空白地帯って呼ばれてる大戦争に突入っていう知識しかないんだけど」
高砂の核心を突く発言に、ゼクスが天井を見上げた。
「まず、衰退とされる転換期が三つあるんだ。これは義務教育でやるだろ?」
「ああ、大災害と兵器勃発事故と未知の感染症だろ?」
「そうだ。この一発目の大災害。震災とそれに誘発された噴火と洪水。これで都市が壊滅したとされている。地層に、それぞれの痕跡もある。そして二発目、なんの兵器か分かるか?」
「完全ロステク兵器の、埋まってた奴でしょう? 土壌と水源を毒で汚染するやつ」
「そうそう。今も錦雅院にこれもある。で、最後の感染症。これは内容、わかるか?」
「自然発生の最古の精神感染症らしいよな。なるほど、PSYを大半の人間が使えたならESPで広がるのか。確か、心臓破裂をPKで誘発して、口から血を吐いて死んだ感じだろ?」
「うん。その通りだ。それで――実はこれ、最初のは災害誘発兵器、次が自然毒汚染兵器、最後は完全ロステク文明時代のPSY研究で作成されていた、対PSY型の、全部、完全ロステク兵器だったらしいんだよ」
ゼクスの言葉に、二人が目を見開いた。
「錦雅院の兵器使用者記録と同一人物が、華族院管理下の土壌汚染兵器――つまり自然毒汚染兵器と、蓬莱院管理下のPSY複合科学兵器扱いされてるけどその完全ロステク兵器のそれぞれの使用者リストにも名前がある。操作したPSY刺激色相も一致してるから確実に同一人物だ。つまりテロだったんだけど、当時は完全ロステク技術が、ロストされていたから、気づかれなかったんだろうな。この同一人物に関しては、他にも色々な兵器を使用してるから、調査記録が最高学府の兵器使用者一覧に載ってるから、調べてみるといい。俺はそこから、この三つの使用痕跡を地層と照合して、PSY複合科学時代の三つがテロだと考えてる。ただ、どマイナーな研究だから、俺が書いた論文は、未だに一人も読んだ形跡がないから、お前ら是非とも読んでくれ。最高学府の使用者一覧と同じファイルにあるからな。そして俺が歴史研究家であると、広く伝えるんだ!」
「う、うん。そうするわ。とりあえず読む」
「橘が読んで納得したら、俺も広める手伝いをしないこともないよ。同一人物がいるっていうのは俺もリストを見たから知ってたし。ただ地層との照合とかは兵器側でしかやったことないから、なるほど、使用者と文明か。興味が出てきた」
「うん。それで良い」
ゼクスは、ちょっと自慢げな顔をした後、微笑しながらカップを傾け、そして煙草を深く吸い込んだ。それからゆっくりと瞬きをした。
「それで、それがテロだと認識した人物が出たんだよ。これがPSY複合科学文明の終焉期のお話だ。それぞれの衰退災害の時の英雄、お前ら知ってる?」
「確か、最初の自然災害は、ローデンクロス卿という人物が止めたんだろう? 全知全能の力を使って神の如き光のもと。後のロードクロサイト皇室の始祖だ」
「そうだ。これはおそらくだが、ロードクロサイトの虹Otherの全色と今で言う絶対原色の赤と絶対原色の緑を保有している人物だったんだ。その条件であれば、地下の断層やマグマをコントロールしたり、海の水をひかせることができるんだ。ESP-PKで察知して停止させられる。勿論、それを使いこなせる強いPSYと、地盤だのを正確に理解できる高IQが必要だけどな。きっとそれを持っていたんだろう」
「――理論的に可能なのはわかるけどさ、さすがにそれは夢の見過ぎじゃない?」
「いいや。ローデンクロス卿のPSY円環記録が残っているし、大地に強いPK痕跡があるから、確実だ。記録はロードクロサイト皇室の資料庫から発掘した石板で見つけた。だけど、ザフィス神父が興味無いし、研究とかで家に入られるの嫌だから黙っておけと俺に言うんだ……」
「うーん、ザフィス神父ならいいかねないね。けどそれならハンコ無しで見られるし、後で見に行こう」
「そうだな。え? じゃあ次の、海の毒物やら大地の汚染を浄化したゼガリア王族っていうのは、Otherの青ってことか?」
「うん。この人物は、今で言うロードクロサイトの虹Otherに、さらにゼスペリアの青も持っていたみたいなんだ。代わりに完全黄金と絶対紫と無色透明の三つの補色が無かったのと、ESP-PK部分はあんまり強くなかったみたいだ。だから今とは違って、当時は血統遺伝の形態が違っていたし、直系長男以外にも出現していた可能性が高い。こっちは、唯一のゼガリア王族の遺物から、サイコメモリック記憶で読み取れる。今は、ゼスト・ゼスペリア家が管理しているから宗教院に問い合わせて、記憶再生が可能な聖職者を伴えば確認可能だ。かつ、錦雅院の所蔵兵器を見ればわかるだろうけど、三分の一くらい壊れていたから、毒も人体には有害だけど、PSYで浄化可能な弱毒化状態だったのも良かったんだろうなぁ、って思う」
「宗教院には打診するけど、そんな聖職者、いるのか?」
「宗教院に聞けば紹介してくれる」
「まぁそれはそうだよね。で、最後のゼクスいわくPKによる心臓破裂を止めた英雄ってことになる、銀の月の光の神の化身っていうのは?」
「あれは、ゼスペリアの青がOtherの中の100パーセントだと、力を使用した時に、青だけじゃなく銀色に煌めいて見えるんだ。それだろうな。かつ、心臓破裂も場合により心臓自体を再生可能だから、病気が治ったようにも見えたんだろう。これもその王族の遺物からPSY円環が見られる」
「うわぁ、すごいな。で、テロには誰が気づいたんだ?」
橘が感動したような顔をしながら腕を組んだ。
高砂も興味深そうに聞いている。
なんだか機嫌が良くなり、ゼクスは煙草を指に挟んだ。
「その三名と、周囲にいた人々だ。彼らは、使用者のPSY刺激を俺が兵器から感知したように、災害時にそれぞれ感知して照らし合わせたんだ。そして、当時残っていた記録から、完全ロステク文明の元老院議会の誰かのPSY色相と一致すると導出し、テロだと断定したようだな。これはその周囲にいた人々――後のロードクロサイト文明の初代首相の古文書に出てくる。これはザフィス神父に、ハンコを持って愛に行けば見られる。そしてこのテロ討伐からそのまま、完全ロステク文明の生き残りと、PSY複合科学文明の戦争に突入して、歴史階層空白地帯と呼ばれる、地層にも何の兵器が使用されたかも、どんな内容だったかもほとんど記録されていない大戦争が起きたんだ。これがPSY複合科学文明の終焉と空白地帯への突入となる」
ゼクスが続けると、納得したように橘と高砂が頷いた。
「なるほどねぇ、知らないことばっかりだった」
「俺も。なぁゼクス。じゃあお前、最高学府にすら統一見解ゼロの、空白地帯についても何か研究結果があったりするのか?」
「ああ、ある。だけど、誰も俺の論文集を読んでくれないんだ……」
「俺、絶対読むから、その前に講義の続きを頼む」
「本当に読むか?」
「約束する!」
「よし、良いだろう」
そう言ってゼクスが頷いた時、背後で吹き出す声が聞こえた。
見れば白衣の時東が、煙草を銜えて笑っていた。
「お前ら面白いゼクス流歴史講義受けてんのな」
「時東……! こいつら、真面目に聞いてくれたんだ! お前以来初めてだ!」
「良かったな。俺もお前による再講義を聴きたいというか、珈琲くれ」
こうして、時東が加わり、歴史講義が続く事となった。