【7】旧世界



「――旧世界では、さっきの中副・英洲卿は院系譜出自なのと、華族を滅亡させたのもあるし、もう華族ではいられないという話で、ラファエリア王国で主流だった、貴族になった。それが英刻院大公爵家だ。左副・橘紫紺卿が橘大公爵家の始祖となる。高砂家当主だった万象院列院総代と右副・鴉羽卿は、もう気分を切り替えてカタカナの貴族名で行くことにしたらしく、これがシルヴァニアライム卿と旧世界でいうハーヴェストクロウ大公爵家だ。シルヴァニアライムは今も高砂家の貴族爵位名だし、ハーヴェストっていうのは、ゼガリア地域で羽って意味だから、鴉羽って意味らしい。そして、せっかくだからと国ごと新しく、ラファエリア王国として、初代ラファエリア王国配偶者はゼガリア王妃だったそうだ。以来、華族はハーヴェストクロウ大公爵領地に含まれる平安朝の残り、現在の華族敷地で暮らし、宗教も万象院ではなくゼガリアで広まっていたゼスペリア神を祀る古ゼスペリア教になっていったらしい。万象院は、学術と医療と知識の温存に特化して、現在の最高学府・医療院の合体機関プラスちょっとだけ宗教みたいな感じになったようだ」

 一同は腕を組みながら頷いた。このあたりは、高砂や橘も、自分の家の古文書で少しだけ読んだことがあった。

「それで最初、貴族っていうのは、領地管理のために各地に配置されたらしいんだけどな、それが年代を経るにつれて、侯爵・伯爵・男爵・子爵の順番で偉いって扱いになって、公爵は王家の分家、大公爵は昔ながらあるいは政治家がもらう爵位になったらしいんだ。昔はその順番は単純に管理する土地の面積だったんだけど、税収で豊かさが変わったからお金持ちの侯爵が偉いとか、国を動かす政治家の大公爵が偉いみたいな感じになっちゃったらしい。男爵は大体商人もやってたりで、これは今もそうだ。子爵は、侯爵の息子とかがやる場合もあったけど、基本は一般人よりちょっとマシ扱いだったみたいだ。勿論各領地に一般国民もいる。それでいつしかゼガリアはゼルリアと呼ばれるようになり、これは現在の新ゼルリア島っていう島全部が教会の所じゃなくて、古ゼルリアと分けられる所在地が特定できていないとされている聖地だ。ほら、王国各地、この最下層の地下にも、廃棄都市遺跡が広がっていてロステク兵器とかトラップとか色々あるだろ? そういう風に、眠っていたりするんだ、様々な神聖な場所とかが。かつ、競うように宗教を信仰して、王家が当時のゼスペリア教を初代王妃の頃から信仰していたから、貴族達もやりはじめて、領民にも広めていったんだ。それまでは聖書とかなかったけど、この時代に生まれて、それの創世記・歴暦記・詩篇のみで編纂されているのが現在の旧約聖書だな。当時は質素倹約こそがゼスペリア教だったから、素朴な教会が多かったし、聖職者は全員牧師だったんだ。だけど年々豪華になっていったみたいだ。そしてゼガリアの頃はバツマークだった、これ、最初の王族の家紋だったやつが、今の十字架の形になって、宝石とかもつくようになったみたいだ。今じゃそれが進化して、旧世界滅亡後の、今のゼスペリア教なんて大聖堂だとかがいっぱいあるし、牧師は最下層限定の、ちゃんとしてない聖職者扱いだけど昔は違ったみたいなんだ。で、そういう貴族全盛期の中、ラファエリア王家が統治する、昔のゼスペリア教が広がる文明が進んでいき、これが旧世界だ」

 その辺まで来ると、多くが知識として知っていた。
 だから、興味本位で榎波が聞いた。

「で、歴史研究家の見解としては、旧世界の滅亡および、使徒ゼストだのはどうなるんだ? 現在のゼスペリア教には、どう繋がるんだ?」
「……――まぁ、俺の個人的な考えとしては、当時の要人の避難だったと思ってるけどな」

 ゼクスはそう言ってから、カップを傾けた。

「まずさ、第三使徒オーウェン。現在の花王院王家の始祖。院系譜花王院に預けられていたラファエリア直系の末裔。だから今は院系譜から花王院が無くなったし、花王院がオーウェンって発音で伝わってるだけ。第五使徒ミヒャエルが美晴宮家当主なのと同じ。第十一使徒と第十二使徒の双子の義兄弟、あれは、完全黄金と絶対紫の共鳴時の同色反応を示すと考えられるから、英刻院と美晴宮の次の当主になる子息も避難していたと考えられるし、第七使徒ラファエリアなんて、完全にラファエリア王族。しかも今でもこの国で、王族の分家のみが公爵を名乗る歴史が続いてるけど、ラファエリア公爵家のみ、王国開始時から今まで公爵だから、旧世界からの分家で、王位継承権二位程度だったと思う。それに欠番の第四使徒ルシフェリアだって、ラファエリア王家の分家の名前だ。しかも当時の旧世界最後の英刻院当主の古文書に、花王院の直系第一王子の長男をゼルリア大神殿に避難させた後、旧世界最後のハーヴェストクロウ大公爵の元へと戻り、当時の匂宮総取りと共に死を看取ったっていう記述もある。このハーヴェストクロウ大公爵が止めたのがPSY融合兵器だったみたいで、それを使って、旧世界の聖書の中の黙示録――あれは基本的には、万象院の誰かの長期予知の『青き弥勒の化身を宿した緑羽万象院が出現する』とかっていうののゼスペリア教的な解釈で出来上がっていたんだけど、その出現とその後の救済を望んでいた『昏き修道会』っていうこれもやっぱり破壊的カルト宗教団体みたいなものが、発掘した兵器で起こした大災害で、旧世界は滅亡したようだ。奴ら、自分でも制御できなくなって、王国中が滅茶苦茶になったみたいだな。それで一段落してから復興したんだろ。それが今の国の開始だ。その時に活躍したゼストという人物の功績を、第二使徒ヴェスゼストがまとめたのが、新約聖書なんだろうな。そして場所がわからなくなったゼルリアの代わりの場所を、ヴェスゼスト代理である法王猊下が七代目くらいで新ゼルリア島として作ったり、ゼストの末裔はゼスト・ゼスペリア猊下として続いているわけだ」

 一同は小さく頷いた。
 橘は一般的なゼスペリア教徒だが別に信仰心にあついわけではないし、高砂が万象院列院総代だからゼスペリア教をそこまで信仰していないし、榎波と時東に至っては無神論者であるから、別段誰も否定しなかった。

「まぁ、これで、俺の歴史講義は終了だ。この国の、現在の歴史は、歴史書でも読め」
「うん。ありがとうな。思ったより勉強になったわ」
「俺も歴史にちょっと興味がわいたかな」
「私も神話よりはマシだと思った」
「良かったな、ゼクス。俺以外に三人も聞いてくれて」

 時東が笑顔で言うと、ゼクスもまた微笑し大きく頷いた。
 その後、彼らは雑談に興じて、だらだらと過ごし、夜になって解散した。
 今日はお祈りがお休みだったから、ゼクスもずっといたのである。

 こういう何気ない日々が、歴史を作っていくのかなと、ゼクスはふと思ったのだった。