【0】七つの大罪
ある日、英刻院藍洲が口にしたことがある。
「――我輩達は、今後、七つの事柄を行わなければならない。一つ目、国民の低IQ化コントロールの解除、二つ目は、低PSY化措置の解除。三つ目、致死年齢制限の解除、四つ目宇宙恐怖性の解除、五つ目、女性遺伝子の復古、六つ目王都外に敵集団が残していった生体兵器の転送後一括殲滅、七つ目、救世主の治療保護だ。敵が犯した――七つの大罪の尻拭いだ。そのために、王宮が必要となる。最低でも六と七だ」
それを聞いていた時東が目を細めた。
「低IQ化、PSY受容体攻撃による低PSY能力化、女性の滅亡、寿命コントロールは、ロードクロサイト文明末期の、今回の敵が引き起こしたテロに含まれていた。宇宙というのは?」
「これだけ世界が発展しても、誰も宇宙に行こうとしないのは、やはりコントロールされているからだという――大きく言うならば、そのコントロールを鍵に、俺たちにかかっている全マインドクラックを消去したい」
果たしてそれは可能なのだろうかと、聞いていた榎波は思った。
なにせ自分たちにとっては、IQは低いか高いかで両極端であるし、PSYもそうであるし、それは最早常識だ。それを根拠にした階級制度も存在している。最下層は枠組みから外れているとはいえ。女性というのは神話でしか聴かないし、寿命も両極端で、PSYの能力が高い者の老化が極端に遅いだけである。宇宙になんか行こうとは思ったことがない。
「英刻院閣下、ちょっといいです?」
「なんだ、高砂」
「六と七にも、王宮が必要なんですか?」
「むしろその二つに必要なんだ。研究は、最高学府で出来る。緑羽の御院が既に最高学府と一部の万象院僧侶、それに学府の教授連中と体制を整えている」
「――あの封鎖敷地は、そういう理由だったんですか?」
「ああ。ゼクスが幼少時に、敵への対策本を御院に渡したらしい」
「なるほど」
「それでこちらだが、王宮の地下に、巨大転移装置が存在する。そこに、王都周囲の三種の神器という探知結界装置に触れた生体兵器が全て移動してくる。それをここの地下に潜ってひたすら周囲に被害を出さないように討伐する。既に人体への感染兵器などの対策は万全だ。問題は、大型破壊兵器だけだ。そしてこの転移装置の機動には、莫大なPSY-Otherの青が必要だ。神器は、別の人間が使えると聞いている」
「――つまり、ゼクスが必要なんですか」
「ああ。まだ開いていないが、今後、この施設内に、ゼスペリア大聖堂、旧万象院関連施設、旧青照大御神関連神宮を開けて、PSY-Otherの青――に、分類されるのだろう力を集めるようだな」
「時東の代わりに聞きますが、ゼクスの体調で、それは可能なんですか?」
「敵兵器攻撃で悪化がなければ、ゼクスは健康体だ。違うのか? 今すぐやれという話ではない。もう少し落ち着いてからで良い。それまでに、こちらは各宗教施設などを展開しておかなければならないし、ここまでの敵の取り調べ、調査書のまとめもある」
「生体兵器は、それまでは転送されてこないってことでいいんですか?」
「――いいや。最終防衛ラインに接触した場合、自動転送される」
「……その場合は?」
「例えば、我輩や高砂が地下の廃棄都市遺跡に降りて、潰す」
「……そうですか」
高砂が遠い目をした。どこか、疲れているようだった。
英刻院閣下は、その日は終始、無表情だった。