【1】配布


 ゼクスが王宮に来て三日が経過した時のことだった。
 どうしても、持参した荷物を配らなければならないとゼクスが言ったのである。
 既にオーウェン礼拝堂が王宮だということは、ゼクスも理解していた。

 こうして、時東が許可を出したので、レクスが皆に声をかけた。

 皆が見守る中――最初にゼクスが手に取ったのは、自分の医薬品や食料のカバンだった。
 皆はそれに注目していたのだが、ゼクスはそれを、「これは俺の荷物だ」と言って、近くの床の上に置いただけだった。拍子抜けした者が多い。

 その後から、本格的に始まった。

 まずゼクスは、時東に運んでもらったPSY融合兵器の入った銀色のアタッシュケースを手に取った。さらに――地下のガラスケースから、装飾具にしか見えない他の無造作にPSY融合兵器を入れた横掛けカバンを手にする。

 その場に集められているのは、ゼクスを除いて十二名――青殿下と伴侶補の琉衣洲、朝仁が一番前にいた。三名の少し後ろに、榎波と、榛名・若狭・政宗のガチ勢三名がいる。逆側のベッドサイドには、時東と高砂、橘、そしてラクス猊下とレクスがいた。

 ゼクスは、この人々に各品渡すように言われたというのだ。
 名前を聞いたレクスが、人々を招集したのである。

 それからゼクスが、先にアタッシュケースを開いた。
 そこには規則正しく、十三個のネックレスが入っていた。
 中央に黒く大きな丸い石がついていて、油のような虹に似た光をしている。
 人工石だ。
 その左右には、白い半透明で同じように虹にヒカル、少し小ぶりの人工石がついていた。

 黒いものがPSY融合兵器の攻撃装置。右が防衛兵器。左が探知兵器である。
 それが理解できたのは、最初の時点ではゼクスと時東だけだった。
 だが時東は何も言わずに、ゼクスを見守った。
 ゼクスは、全員に配布する際、静かに言った。

「これはすぐに身につけないとダメだそうだ」

 続いてゼクスは、カバンから薄茶色に近い、金色の鎖を十三本引っ張り出し、これも配布した。

「これもすぐに服ににつけておかなければ駄目だそうだ」

 ゼクスが言う。これには高砂と橘も気づいた。
 こちらはPSY融合兵器による、完全ロステク無効化装置だった。
 ロステク兵器に詳しい高砂は、内心で舌を巻いていた。
 このような技術は、まだ復古されていないからである。
 古の文明の凄まじさを思い知った気がした。

「丸い輪っかが付いている方が前で、危ない時はその輪っかを握ると、効果が出るそうだ」

 ゼクスの声に、高砂はひやりとした。完全に兵器の起動のスイッチだ。PSY融合兵器は、最も強力で恐ろしい品ばかりなのだが、見た目は装飾具にしか見えないものが多い。

 続いてゼクスは、やはり油を混ぜ込んだような琥珀色の人工石――さらに表面に、白い模様が入っている装飾具形状の装置を取り出した。こちらには緑金の鎖がついている。ゼクスは、これもすぐに付けるよう周囲に言った。

 その石の模様は、政宗とラクス猊下、レクスも知っていた。

 これはPSY完全遮断装置なのだ。
 これもまたPSY融合兵器の一つである。

「これは危ない時に、三角形の部分をを握ると、効果が出るそうだ。さっきの物もそうだけど、手を離すと効果は消える。ただ、握る暇がない場合とかは、思考を読み取って、自動発動するそうだ」

 ゼクスはそう言って、一人頷いていた。
 そして今度は、両側の先端には四角い鎖が付いている、球体状の、紫色の人工石を取り出した。これも同じように、付けるてほしい言った。

 これはゼクス以外には分からなかった。
 同時にそれの、色違いの青い人工石も取り出した。

「この紫色のは偽装記憶刷り込みを含む、マインドクラック防衛装置で、そういった事が行われようとすると、勝手に発動して守ってくれるそうだ。青いのは、精神感染症完全防衛装置だそうで、兵器による精神感染汚染も、自然発生の分も防衛してくれるらしい。万が一感染者が付けた場合や、付けていて感染した場合は、自動的にそれに対するワクチンがPSYとロステクの両方の技術から作成されて、衣類や皮膚を通して体に入って、自動浄化してくれるらしい。勝手に起動するそうだ」

 その言葉に、全員が息を飲んだ。国民全体といった曖昧な指定装置や室内に関しての対策兵器は準備済みではあったが、個人対応かつ自動処理の防衛兵器など、存在すら考えた事がなかったからだ。

 続いて、四角い白の鎖に、赤い十字架がいくつか付いたものをゼクスが配る。

「これは人体防衛医療装置で、特にPSYで体内が傷ついた時や、まぁ普通の風邪とか怪我の時にも、一定の範囲で治癒Otherが自動発動するらしい。で、十字架をギュッと握ると効果が意図的に発動して、より威力が上がるそうだ。ただ自分の本来の治癒能力が低下するから、風邪とかでは発動しない場合が多いらしい。空気を読める装置のようだ。けど特殊な遺伝病とか瀕死の重傷とかには効かない。重傷の時の臨時対処にはなるらしいけど、ちゃんとその後、病院で診てもらわないと駄目だそうだ。基本的にPSY融合兵器で怪我をした場合にのみ、正式に作動すると思ったほうが良いみたいだ」

 さらにそれから、半透明の白と金が交互に組み合わさり、四角い鎖となったものを配った。鎖の先端にリンク上の灰色の金具が付いている。

「これはロステクとPSYの併存を補佐するものらしい。透明な方で、個人のPSYの、自然に抜ける分を吸収して、金色の完全ロステク部分に流し込んで保管するそうだ。色々なPSY融合兵器を、大体誰でも使えるようにするみたいだな」

 そして最後に、丸い輪っか付きの白い直方体をみんなに配った。スイッチが二つついている。緑と黄色だ。

「これの緑を押すと、今つけた鎖が全部亜空間収納されるから邪魔にならない。黄色を押すと全部出てくるそうだ。とりあえずこれだけは絶対に付けておかないと駄目だと聞いた。亜空間にあっても機能は全部そのままみたいだから心配はない。出現させるというのは、バラバラに使ったり、特に――どれかで防衛したり、攻撃したりする時らしい」

 ゼクスは一人満足そうに続けた。配布の仕事が一段落したからだろう。
 満足げだ。

「兵器の使い方とか内容とかは、高砂や橘の方が詳しいだろうし、俺もよく知らないからそっちに聞いてくれ」

 そう言って、PSY融合兵器関連の配布が終わった。
 銀のケースとカバンは、ゼクスの荷物があるのとは逆側の壁の前の床に置かれた。

 少しの間、飲み物を飲み、続いて別の品の配布が始まる事となる。