【2】防衛兵器


 その後ゼクスは、黒いスーツケースとリュックを引き寄せた。
 まずはリュックを開けて、金色と銀色の二種類の、細いシンプルな輪を取り出し配布した。なお全てゼクスも身につけている。本人はこれもまた筆頭牧師だからだと思っているらしい。

 これには高砂と橘が息を飲んだ。
 ロステク兵器管理寺院の錦雅院に、それぞれ二つ現存している代物だったからである。

 それが完璧な保存状態で大量に出てきたのだ。

「全員これを右足首にはめてくれ。金色は完全ロステク兵器の攻撃遮断するそうで、爆発が起きたとしても自分の周囲には防衛フィールドが展開されるらしく、生き残れるそうだ。銀色は、自分に危機を及ぼす敵の思考を脳から読み取り、敵が起動したと判定できた完全ロステク兵器を、強制的に停止させるそうだ」

 それは高砂達の知識と同じだった。

 続いてゼクスはリュックから、紫色と黄緑色、そして虹色に輝く色合いの、やはりシンプルな輪を取り出した。三色セットである。

「これは全部左足首に嵌めてくれ。紫色のはこちらが完全ロステク兵器を使用している時に、敵のPSYを感知すると、その敵をサーチして脳内に位置情報とかを表示するそうだ。黄緑色はその敵によるPSYを、自分と自分の兵器の周囲で完全無効化遮断、虹色はPSY発信者に特殊音域の音波を出して、相手のPSY受容体を破壊するらしい」

 ゼクスは微笑しながらそう言ったが、このあたりになってきて、ようやく全員が、ここまでに配られているものが非常に恐ろしいものだと理解しはじめた。

 最後にゼクスはリュックから、金色のフチ取りの緑の布に、錦の模様が描かれている品を取り出した。同じ模様の赤い布もある。

「これは左の足首から膝の下くらいまでに付けてくれ。金色の所を触ると、そこだけ残して消えて、金色の部分が硬くなって輪になるそうだ。また触ると出てくるそうだ。これは周囲に特殊音波と特殊な光をばら撒いて、相手の脳を破壊するロステク兵器らしい。あ、赤い方は右足だ。こっちも消える条件は同じだ。それで赤は、生体ウイルス兵器をばら撒いて、相手を病気にして殺すそうだ」

 全員、何も言えなかった。

 続いて黒い大きなスーツケースをゼクスは開いた。
 そして高砂と橘、時東を近くに呼んだ。
 そこには八つの黒い箱が規則正しく並んでいる。

「ええと、これが完全汎用PSY遮断装置、こっちが完全精神感染汚染兵器遮断装置、これは完全特定指定PSYの透視防止装置、こっちは完全特定指定PSY予知防止装置、これが完全盗聴盗撮防止およびそういった装置の破壊兵器、こっちが完全脳深層探知による敵意判定装置、それでこれが完全生体感染症兵器予防装置、これはええと完全生体兵器機能停止装置だそうだ。ただ、範囲が広くなくて、この部屋と周囲――隣接する左右前後上下の半分くらいまでの範囲にしか効果はないそうだ。お前らも似たようなの作ってたよな? そっちは、これより威力弱そうだったけど、これより多分範囲が広いから、一緒に使ってくれ。さっき配ったPSY融合兵器の説明書類と、こっち全部の説明書類がセットになって、この箱の端の本に書いてあるみたいだ」

 ゼクスの声に、三人は頷くしかなかった。
 こうして蓋が閉じられた。
 そのケースはとりあえず橘のそばの壁際に配置されたのだった。

 それから続いてゼクスは一番大きな赤いスーツケースに手をかけた。
 そしてごそごそと中身を探っている。

 そうしてまず、ガラスケースを三つ取り出した。
 中にあるのは、銀色の剣の飾りが付いたネックレスだ。

「これは榎波と琉衣洲がまず付けてくれ。使徒ゼストのやつだそうだ」

 二人は指名されたことに驚きながらも、受け取り身につけた。
 そして最後の一つを手に、ゼクスがラクス猊下を見た。

「あのな、この最後の一個は、黒い猫のお面をつけた人に渡すそうで、ラクス猊下が知っている人のはずだと言われた」

 ラクス猊下は受け取りながら曖昧に頷いた。
 それはゼスト家直轄闇猫舞台の隊長の面だというのはわかるのだ。
 だが、誰がそうなのかは知らない。
 けれどゼクスがこのように言うのだから、受け取っておくしかないと判断する。

 続いてガラスケースに入った梟のバッチを、ゼクスは若狭に渡した。

「なんかゼストが言うには、廃棄都市遺跡も含めて王都全部にすごく昔の時代に設置された情報取得システムに、これでアクセスできるようになるそうだ。それを付けていれば、その内やり方が分かるらしい」

 その言葉に息を飲んで若狭が頷いた。

 実はその存在を知っていたのだが、アクセス権限と鍵が必要らしく、それで困っていたのだ。これがそうだと、すぐに理解した。

 続いて、白銀色の羽のネックレス三つ、ゼクスが取り出した。
 それをゼクスは、ラクス猊下と政宗、そして時東に渡す。
 お医者さんのお守りとのことだった。

「これでゼストの関連品はひとまず終わりだ。次は似てるけど別のだから、きっとギルドというのに関係しているんだと思う」