【3】ギルドへ
ゼクスがスーツケースから、アメジストの薔薇付きの金色の懐中時計を二つ取り出した。
一つは既にゼクスが身につけているものと同じだ。
「これはレクスに。それでもう一個もレクスが持っていてくれ。そして黒色のローブを着ていて、その背中に紫色の薔薇が描いてある人に会ったら渡して欲しいんだ。レクスがあげて良いと思ったらあげて良いらしい。羽をつけているそうだ。ラクス猊下が渡すように頼まれている羽と同じものだ」
その言葉に「承知した」とレクスは言った。
その衣装は、闇司祭議会議長の装束なのだが――羽?
レクスがラクス猊下を見る。
ラクス猊下もまた首を捻っていた。
ユクス猊下に渡せと言われて一つ、羽らしきものを所持しているが、時計との関係が分からなかったのだ。
他の皆も、この言葉には悩んだ。
――これは誰もが、闇司祭議会議長の素顔を、実際に見たことが無かったのが、原因である。どこの誰なのかすら、誰も知らなかった。
レクスに分かった事はといえば、この懐中時計が、ギルド内に伝承が残る――契約の子に危機が迫った時、針が逆回転する品であるという事だけだった。ギルドが保有しているサイコメモリック石版で見たこともあったのだ。
それだけでも――畏怖するには十分だった。
レクスは、非常に重要なものを与えられたことに戦慄していた。
この際、もう一名は誰でも良い。自分が手にした事が、僅かに恐ろしかったのだ。
これは、契約の子の守護者のみが持つことを許されている品だ。
宗教院すらも認めている――ルシフェリアの聖遺物である。
ちなみにレクスは、先ほど琉衣洲達が受け取った剣は、救世主を守る者の証、梟は知識をさずける者の証、時東達に配られた品は、医師として契約の子を守る者に渡される装飾具だと、ギルド知識で知っていた。
あれらは使徒ゼストの聖遺物である。
Otherは微弱だったが、確実に内部にあるのだろう残滓を感じた。
少なくとも、ただのアクセサリーではない。
レクスがそう考えて思考の波に囚われ用としていた時、ゼクスがレクスの腕を引いた。
我に返る。
ゼクスは続いて、黒にも銀にも見える、十字架付きのネックレスが入った、ガラスケースを二つレクスに渡した。
「これもレクスがつけて、もう一つはさっき話したのと、同じ人に渡してくれ」
ゼクスの言葉に頷きながらレクスは冷や汗をかいた。
今度は使徒イリスの聖遺物だったのだ。
聖イリスの黒き十字架と呼ばれていて、使徒ゼストの聖刻印と同じ黒曜石から作り出されたと言われている。こちらにも、契約の子に危機が迫ると教えてくれるという伝承がある。それだけでなく、契約の子を守る人間は、死んではならない――死んだら守ることができないという観点から、これを身につけている者は、どんな即死ダメージであろうとも、一度は十字架が身代わりになってくれて、命が助かるという伝説まであった。
レクスは気が遠くなりそうだったが、深呼吸して自分を落ち着けた。