【8】個々人に最適な品


「扇子を配るから、中に入っている色を確認して、手に持って馴染んだら、それは確実にその人の持ち物らしい。完全PSY兵器だそうだから、使い方は各自、高砂に教えてもらうらしいた」

 それからゼクスが仕切りなおした。
 そしてまず琉衣洲を呼んだ。
 琉衣洲には、黄色から橙色になる扇子が渡された。

 次が高砂で、こちらは橙色から黄緑色になる扇子である。
 続いて橘宮、こちらには白と緑から鮮やかな緑になる扇子だった。
 それから桃雪が呼ばれ、白と桃色から鮮やかな赤になる扇子を渡される。

 その後はレクスが呼ばれて、深紅から真紅になる扇子を渡された。
 最後に朝仁が呼ばれ、完全に紫の扇子を手渡された。

 全員手に取ってみたのだが、これが驚くほどしっくりきた。
 持っているだけで、自分の全PSYが急上昇した感覚になる。
 特に橘宮など呆気にとられたように開いて――瞬時に医療PSYが発動する事、しかも無意識でなく自分の意志で発動できることに感動していた。

 高砂と桃雪はここまで自分にぴったりあう兵器を持ったのが初めてで、今ならばなんでも出来そうな気がした。

 琉衣洲とレクスは自分達が呼ばれたのは、なにやら各家共に華族に関係があったかららしいと判断していた。持ってみたらやはりそれぞれ、体内を巡るPKのバランスが一気に取れたため驚愕した。

 朝仁のみ、悠然と微笑していた。
 もう何があっても動じないと、決めつつあった。

 彼らは全員木箱と扇子を、これは抵抗無く受け取った。

 続いて、青殿下と琉衣洲と朝仁が呼ばれた。
 そして――指の付け根から第一関節まで覆う、指輪らしきものをそれぞれ渡された。
 黄金で黄色に輝くもの、黄金で半透明のピンクに輝くもの、黄金で紫色に輝くもの――それぞれ自分達の家の象徴的色彩だと漠然と考えていた。

 ここにきて橘宮が息を飲んだ。

 ――そもそも橘宮が早く配布をしろと騒いでいたのは、これの存在を感知していたからだ。その橘宮には、同様の品の、黄金で緑に輝くものが渡された。

 全員それを右手の薬指につけるようにと言われた。
 橘宮は動揺しすぎて声が出ない。出てこない。
 最後の一つ、黄金で青に輝くものは、ゼクスがレクスに渡した。

「あのな、これ、完全PSY兵器で――黙示録だと三匹の獣っていう、華族では三種の神器の発動鍵らしくて、青殿下達三人で発動して、その時三人の意識が曖昧になるから、その補助を橘宮様が持ってる品でするらしいんだ。体調補佐もだ。それで本当は、指揮は英刻院閣下が良いんだろうけど、いないだろ? 残っている人々ならば、ゼストが、レクスが良いって言うんだ。だからレクス、これを嵌めてくれ。レクスは、右手の小指にはめておくようにとのことだ」

 何とも言えない気持ちでレクスは頷き受け取った。

「英刻院閣下がお戻りになられたらお返しする」
「それもいいかもな。使い方は橘宮様が教えてくれるそうだ。なんでも本当は全員の家に同じのがあるらしいんだけど、危なくてみんな取りに帰れないようだから、ということで持ってきたんだ」

 それからゼクスは今度は鏡を色々取り出した。

「朝仁様、それとこれ、青照大御神大鏡の本物だそうだ。大きいやつも偽物ではないけど予備品で、これが本物だそうだ。俺も持ってる」

 ゼクスはそう言って一つを朝仁に渡し、自分の分は鎖で下衣に鏡を繋いだ。
 これには受け取った朝仁もさすがに震えた。
 だが、声は出さなかった。落ち着こうと内心で彼は自分に言い聞かせていた。

「で、時東――あっちがユエル側の、こっちはユエルとフェルナの父親で、本当の最後の皇帝の形見らしい。神様との対話という形で――あっちがESP知覚情報収集、こっちはOtherによる知覚情報収集っていう、ちょっと変わった能力を持つ品だそうだ」
「ほう」

 頷いて時東が受け取った。ゼクスは同じものをもう一つずつ持っていたので、その鎖も服につけた。そして腕輪に触れ、亜空間収納した。

 その後、高砂を呼んだ。

「高砂、これ、朝仁様と時東が持ってる鏡の、敵情報索敵バージョンといえる効果で、ただし中身は、完全PSY兵器だから、副と情報共有しつつ使ってくれ」

 そう言ってゼクスは高砂に金色と虹色で大体が橙色にみえる縁どりの鏡を渡した。
 高砂は、兵器だと理解したが、内容物的に神器を渡されたのと同じなので、気が重かった。副というのは、孤児院街から来ている若狭の、情報屋としての名前だ。

 続いてゼクスが橘宮を見た。

「橘宮様、こっちは、PSY医療特化バージョンらしい。高砂の物もそうだけど、王都内程度なら全ての範囲の情報が、全部収集されるらしい。だから精神感染症とかも――それ自然発生か兵器かもわかるし、闇汚染なども即鑑定できるんだって。ただ、完全PSY血統医学を用いているから、橘宮様みたいにその能力が無いと使えないそうだ」

 そう言ってゼクスは、こちらは金色と青緑のフチ取りの鏡を一つ渡した。
 ゼクスが自分で持っていたもの以外は、ガラスケースに入っている。
 橘宮は感謝しつつ……やはり神器を渡された気分を味わっていて、もう言葉が何も見つからない。

 それから一同は、蛇が絡みついたような剣を見た。
 赤い紐が絡まっていて、水晶で出来ているようだったが、持つ部分は銀であり、鎖が付いていた。ゼクスはこれもズボンに繋いだ。それから亜空間収納した。

 その後ゼクスは必死な様子でスーツケースと格闘し――結果、一本の長剣を取り出した。
 一同はポカンとした。
 どこからどう見ても聖遺物である。
 それもあるが――直感としてその品が『ゼスペリアの聖剣』だと全員が理解したのだ。