【9】応援
PSY知覚で情報を、全員が無意識に受け取ってしまった。
その長剣は、それほどまでに強い力を放っていたのである。
「榎波、これ、はい」
「――はいって、なんだ? これは?」
「さぁ? ゼストがお前に渡せと言ったからそうしてる。なんだろうな? 剣だな」
「それは見れば分かる――PSY融合兵器であることも理解できる。とりあえず貸せ」
そう言って、手に持った榎波は、最初はすぐに返そうと思っていたのだが――あんまりにもしっくりと手に馴染むものだから、剣をまじまじと見た。
「これを、貰って良いのか? ああ、貰う。これは中々良いな」
笑顔になった榎波に、ゼクスも笑顔で頷いた。
榎波は説得が難しいので、断られなくて良かった――ゼクスとしては、一つの大きな仕事を達成した気分の笑顔だった。
「それと時東、この腕時計と懐中時計もお前にって」
時東は両方受け取った。無言でまず腕時計をつける。
こちらは人の余命を計測する、人間の終末時計――そう呼ばれる、ゼスペリアの医師の持ち物に違いなかった。そしてもう片方は、世界の終末までの時間を告げるという懐中時計だ。こちらもまたゼスペリアの医師の持ち物として黙示録に出てくる品だ。
さて続いてゼクスは青殿下を呼んだ。
「あのな、これ、旧世界が滅亡した頃に、一回使徒になるから王位継承権捨てるって言って、青殿下の祖先がゼストにこれを預けたんだって。つまり、使徒オーウェンが、使徒になる前の持ち物だそうだ。それで、新しく花王院王朝ができた時に、黙示録を無事に乗り切った時、かつ乗り切るために――その黙示録の時の王子様が身につけて、国民を指揮し、黙示録終了後は国王の象徴としてそれを身につけるらしい。王冠は黙示録が終わってからで、外套はすぐ着ると良いとゼストが言っていた。青殿下が国を治めるんだそうだ」
そう言うとゼクスは、金の毛皮がついた――それこそ王様が着るような赤い外套と、金色にルビーなどが散りばめられた王冠を取り出し、青殿下に渡した。
青殿下は、少し沈黙してそれを見た後、王冠を亜空間消失させて、外套は言われた通りに纏った。今は初夏だが、毛皮付きであるのに全く暑くない。そして最後にゼクスは宝箱を取り出した。
「琉衣洲、これで最後なんだけど、これ全部琉衣洲のものだそうだ」
ゼクスは琉衣洲を呼び寄せて、宝箱を開けた。
「この黄金の外套は、各歴史階層のありとあらゆる兵器を防ぐそうだ。さっきの打掛と同じだ。作成理由もほぼ同一で、旧世界の滅亡時も英刻院の人は政治家で、しかも助けに戻ったり、ずっと仕事をしていたそうで――ゼストを含めて、使徒全員一致の見解として英刻院が滅びたら国も滅びるのは間違いないから、絶対に琉衣洲はこれを着ていなければならないそうだ。つまりとっても優秀で良い人だという事だ」
琉衣洲は複雑な気分で、金の縁どりの豪華な貴族用の外套を見た。まぁ、これならば常時来ていてもおかしくはないだろうし、かなり上質で豪華なのに洗練されたデザインではある。
「で、その首部分を繋いでる鎖は、その当時に、英刻院家に代々伝わっていた品だそうで、英刻院の黄金の鎖というらしい」
「――それは、黙示録を阻止する者が所持するという伝承の、英刻院の黄金の鎖の話か?」
「そうみたいだ。ゼストが預かっていたらしい。それと、こっちの金色の球体付きで蛇が絡まってるみたいな杖も、英刻院家の継承品だったらしい。、なんか完全黄金って本当は、人によるけど数秒から長くて一分半くらい時間を止められるらしいな――周囲じゃなく自分を加速させるのかはゼストにも不明らしいけど……とにかく、そういう能力があるらしくて、その能力を使用するときのアイテムだそうだ」
「黄金の刻の杖か……っ、旧世界滅亡時に失われたのでは?」
「なんでも、オーウェンが王冠を預けた時に、ならばその時の子孫が共にあるようにとの事で、預けておいたそうだ」
「……」
「それでこの金の羽ペンは、戦闘に忙しくて政治ができない時に、やり方を記録させておくと、その内容を実行して、書類を片付けてくれるロステク装置らしい」
祖先にちょっと感動していた直後だったので、羽ペンの内容にまた複雑な気分になったが――これはこれで非常に使えるので、良いと思うことに決めた。
「それでアイスブルートパーズがはまった金の指輪が、使徒ランバルトから黙示録時の英刻院の人間への贈り物だそうだ。嵌めていると、Otherで過労や貧血を防ぎ、風邪とかにもならないそうだ。こっちの金色のカフスに、ルビーとダイヤがついてるのは、ルシフェリアとイリスからの贈り物――聖遺物だそうだ。これを付けていると、仕事をしない奴らに、自動的にPKが発動して、彼らが逃げ出そうとしても足が床に張り付いて止まるらしい」
「……」
「それでこっちが使徒オーウェンからの腕輪の聖遺物。これを持っていると仕事をしない王族がいた場合、夢に必ず、『仕事しろ』と繰り返すオーウェンが登場するそうだ。こっちはミヒャエルの聖遺物の金の扇と紫の枠のネックレスなんだけど、これは、ストレスが溜まって仕事から逃げたくなった場合に――持ち主に、安全な避難経路を提示し、地図を脳裏にESP展開してくれるそうだ。それからこれはヴェスゼストからの聖遺物。この鎖を腕か足に付けて、宗教院関係者が仕事をしない場合に、そこにPKを込めると、その仕事をしない聖職者のOtherが完全停止して仕事をするまで戻らないそうだ。だけどゼスペリアの青にだけは効かないらしい」
「仕事……」
「あと、これが、ええとミナス・ハルベルト・クラウの合同制作遺物だそうで、なんでもこの十字架を握り締めて『働け』と念じると、ちゃんと働くようになるまで、働かない人々は常に嫌な夢を見て『働かないとぶち殺す』と三名に脅迫されてうなされるそうだ。その上、起きている時は、常に動悸がとまらなくなるという」
「……」
「こっちのラファエリアからの聖遺物の緑色のピアスは、安眠できるピアスだそうで、いつでもどこでもこれをつければ熟睡できるそうで、目覚まし時計にもなるから起きる時間を寝る前にピアスに触れてESP記憶させるといいそうだ。それと双子の義兄弟からの合同の聖遺物として、この黒い十字架のネックレス、これをつけて、指を組んで、目を閉じて、『仕事を手伝ってください』というと、使徒ゼストの末裔と使徒ルシフェリアの末裔のどちらか、あるいは両方が、仕事を必ず手伝いに来てくれるらしい。来ないとその二人は、常に闇猫と黒色に命を付け狙われる夢を見て、不眠症になるそうだ。夢の中ではずっと『仕事をしなければ殺す』と言われるそうだ。なんというか、使徒達はみんな、英刻院の人々の仕事能力に感動しているんだな」
「……俺は別に政治家ではないんだけどな……」
「ま、まぁ。渡さないと俺はゼストに怒られるし、全部お前がちゃんと付けるのを見ないとダメだから、遺物を兎に角身につけてくれ。ええと他に、これは華族時代、こっちが旧世界のラファエリア王国時代の英刻院当主の、それぞれの日記らしい。家に残す古文書としてではなく、わざとゼスペリア教会に預けたそうだ。理由は――次回集まった使徒連中が、何の対応もしなかった場合に取るべき行動を綴った、英刻院単独での対応策を綴った日記だからだそうだ。今回は良い使徒が集まるといいな」
「……」
「まぁなんとかなるだろう。逆にこれだけ仕事についての聖遺物が残されているという事は、黙示録が起きて多少街が壊れたりしても復興できるという事だ。つまり滅亡はしないんだろう」
「そ、そうだな……」
「あと、使徒ゼストから三つあるんだ。一つはこの銀の十字架。俺もずっと持っていて、レクスも持っているんだけど、使徒ゼストの十字架より、よっぽど効果があるとゼストは言っていた。本当かは知らない」
「え?」
「こっちの銀のチェーンもそうだ。これは左手首につけるそうだ。これも非常に強力だと聞いた」
「な、なんでそんなものを俺に?」
「レクスも俺の弟で、琉衣洲も俺の弟のような存在だからだろう」
「っ」
「それで最後は、使徒ゼストの片翼の王冠という、このカフスだ。ゼストの黒翼とか猟犬の首輪と似てるそうで、銀色の王冠に黒い片方の羽の聖遺物だ。これは、全ての猟犬の第二守護対象であり、リーダーの証だそうだ。黒翼のほうは、第一守護対象だそうだけど、リーダーというわけではないんだって。けどこっちは完全にリーダーの証だそうだ。ただ、猟犬のみのリーダーだと聞いた。あんまり猟犬とか闇猫とかが俺には分からないけど、ゼストは黙示録を予知したときに琉衣洲がリーダーをしているのを見たそうだ」
「!」
「これをつけていて従わない猟犬がいたら、それは猟犬の資格が無いから、ゼストはその者の猟犬の首飾りを石に変えて、PSYも停止させると言っていた。よく分からないし大変そうだけど、ゼストは琉衣洲の味方だと言っていた」
「そうか……もし、次に会ったら礼を言っておいてくれ」
「ああ、分かった」
ゼクスは笑顔で頷いた。琉衣洲は優しい顔で微苦笑していた。
「よし、これで俺のゼスペリア教会の筆頭牧師としての仕事は終わった――……なんだか眠くなってきたな……」
満足そうな笑顔で口にした後、静かにゼクスは瞬きをした。
気づけば、なんだか少し目眩がしていた。
無意識にゼクスは座る場所を視線で探す。
気づいてみれば貧血らしく、クラクラするのだ。
「――兄上? 大丈夫か?」
「あ、ああ……ちょっと目眩が……貧血みたいだ」
慌ててレクスが駆け寄る。
その時には、もうゼクスは意識を落とすように目を伏せていた。
こうして――その場はお開きとなった。