【1】敵に勝利した日



 こうして、王宮で皆がモニタリングする中、高砂が討伐に向かった。
 最初に赴いたのは、王都に侵入しようとしている生体兵器の元だった。

 高砂は、到着すると、煙草を銜えて火をつけた。
 灰皿と缶コーヒーが横の宙に浮いている。

 眼差しは真正面だ。

 巨大な白い生体兵器がまずこうダンゴムシのように存在するが雰囲気的にナメクジっぽい。蠢いている。いたるところに巨大な眼球がついている。その横にカゴに入った花束のようなものがあり、カゴというか箱部分は完全ロステク兵器、その上の花は全てPSY融合兵器である。さらにその横に立っている十字架。

 これが周囲に雪を降らせている気象兵器であり、バリアが無ければ凍死、かつフィールドの温度調節が無ければ今頃寒くて震えているの確実である。その左右から後ろ全部に、緑のミミズのような触手としかいえない太い足を蠢かせながら移動する、その上の胴体から頭までは象の顔を切って適当にくっつけたような、目と鼻がいっぱいある灰色の生体兵器の群れがいる。あれらは自動的に一定範囲に入ってきた者を襲う。

 高砂が目を細めながら、口布を引き上げた。タバコが消失し、缶コーヒーも一口飲んで缶を消した後だった。灰皿も消えた。同時に、パシンと衝撃波のようなものが走り、周囲の全方向に何かができたのがわかったが誰にも何が起こったのかわからなかった。気配等ゼロなのだ。一部のもののみわかった。全方向でバリアが構築されたのだ。範囲も広く、さらに敵が存在しない上や背後、左右、全部にだ。

 高砂が、スタスタと歩き始めた。一同はモニター腰に見守った。
 雪原にブーツの足音がついていく。
 そして一度立ち止まった時、一瞬だけ前方に虹色の砂嵐が吹き荒れて、すぐ消えた。
 視認できるほど強いPSYかつ、完全PSYで砂嵐状態に見える何かを引き起こしたのだ。

 見れば、大群の周囲と広報にいたものが消失していた。

 今のは、生体兵器の擬似PSY受容体を破壊し、地面に倒れる前にPSYで分子レベルに分解して消失させた結果の砂嵐である。つまり砂嵐は高砂の攻撃ではなく、彼らが死滅した姿だったのだ。非常に高域でのPSY使用だった。二度やったのだ。独自の能力だ。

 そのまま高砂は右腕を持ち上げて、錫杖を軽く振った。瞬間、巨大生体兵器が内部から爆発して飛び散ったが、肉片は落ちる前に砂嵐となり消失していき、血と緑と紫の体液のみ雪の上に落ちた。思えば、高砂は寒くないのだろうか? まぁ防衛装置を持っているのだろうとそこは一同納得させた。

 続いて――尋常ではなく強いPKで内部からドカンと爆発させたのだと全員理解した。
 だが、兵器はどこにもない。
 やはりこれも錫杖だろうと一同は理解した。

 それから高砂が腕を組んだ。
 そして視線で左を見ると、なにやら試験管が出現していて、人工的な青い液体が揺れていた。高砂はそれを手に取り蓋を開けた。すると中身が消えた。そして高砂がそれを放り投げると空中で試験管と蓋は消失した。高砂の気だるい視線を追いかけてみると、先程まで銀色だった気象兵器が次第に青くなり始めていて、雪がピタリとやんだ。青が濃くなるにつれて、周囲の雪が溶けていく。

 その時高砂が手を叩いた。すると上から透明な液体が降ってきて、正面の装置二つに直撃してピタリと吸着した。それを見てから高砂がスタスタと歩いていき、まず完全にさっきの液体と同じ色に染まった十字架に触れて銀の鎖を中央にバツじるしにかけて中央に、安全処理完了マークを取り付けて、もう片方は、ロステク兵器部分のスイッチを切り、そこに黒い箱を付けて、安全処理完了シール、その上の花束周囲には青い半透明な箱をつけて危険物シールをはり、それぞれを亜空間消失させた。

 そして一人頷き、今度はジョウロのようなものを取り出して、兵器があったあたりにダラダラとかけた。それから満足したようにそれを消した。

 次の場所へと向かったのである。

 続いての行き先地は砂漠だった。

 その砂丘の上に、時空の割れ目のような亀裂が宙に入っていて、向こうに大宇宙に油をぶちまけたようなものが見える。多くがこれにはひやりとした。ここは立ち入り禁止区域であり、鴉羽卿と舞洲猊下と緑羽先代が厳重封印していた代物――広域を砂漠化していて、近寄ると融解消滅し、かつそれは、何かを撒き散らすという話の超危険物だった。

 それを見て、モニター越しにレクスが呟いた。

「あれは一体何なんだ? 存在のみ聞いていたが」

 すると時東が、スッと目を細めて答えた。

「――現在の呼称は『時空の割れ目』であり、絶対完全立ち入り禁止区域王都北部の砂漠を広げながら展開中のPSY融合兵器だ。ロードクロサイト文明中期の最後の一番PSY融合兵器が発達していた頃に開発された兵器というよりも土地整備装置だ。一度全部砂漠にして、その後緑化を図る。近づくと人体以外も全部溶けるはずだ。それは本来は不要な瓦礫や建物、生物の遺体、そういったものを全部一度綺麗にするためのPSY波動だ。現在それが破損して垂れ流し状態ということだ。まるで時空が裂けているように見えるのは、あの部分に時間を土地単位のみ植物限定で成長速度を爆発的にあげるPSYがかかっていて、俺達の時空間認識に影響を出しているからで、実際にはあの亀裂部分中央に壊れた丸い球体が浮かんでいるだけだ。だから、まずその球体周囲にこのように、立方体で完全PSY遮断箱を設置。これは普通のPSY融合兵器全部と同じ処理で良い。さっきの花束もこれだ」

 時東がそう口にしたのとほぼ同時に、画面の向こうで割れ目が消えた。
 そして、高砂が、PSY融合兵器を見据えていた。
 斜め右上が陥没している球体を収納した、今度は半透明紫色の立方体が現れた。

 それを見て、再びレクスが聞いた。

「あれは何をしているんだ?」
「――非常に危険な兵器だから、ああいったものは、修理して使うのではなく、保存もせず、消失処理をすることが決められているレベルの装置だから、あの色の箱で、今、箱内部で破壊分解消失させるPSY電波が流れていて、ほら、消えていて、うん、消えたから箱が落下した」

 時東の回答にレクスが頷いた時には、高砂が次の場所へと向かっていた。

 今度は王都中央、平野だ。遠くには海が見え、左右には山脈が広がっている。
 ――こここそが最前線であり、英刻院閣下の復帰がいち早く望まれる理由でもある。
 集団の指揮が必要だからである。

 到着すると、高砂が目を細めた。

 様々な集団の人々が真正面で青い修道着に白い丸い仮面で金の扇を持った連中と戦闘中である。怪我人続出で、救護テントは満員で、死にかけているものも多数だ。

 歩み寄ってきた人々から状況を聞きつつ、高砂が煙草を吸いだした。
 各組織の指揮権を高砂が持っているというのが主な理由だ。
 そうして――正面の敵を眺めて、煙草を左に持ち替えて、扇を取り出した。真っ黒い扇で紫色の満月と白い桜が描かれていて、ピンクゴールドの金粉がかかっている。口布をさげて煙草を持ったまま高砂が歩き出した。

 画面越しにも背後からも大勢が高砂を見守る。

 あんな扇は見たことがない。ゼクスが配ったものとも違う。
 闇の月宮メモリックでも映像しか出ないだろう――そこにあったとしてもなかったとしても高砂の復古か独自開発の完全PSY兵器だ。

 さて、黙々となんてことはない風に高砂は歩いていき、バサリと扇を開いた。
 すると、正面に立っていた歩兵が全部ビシリと動作を停止し、直後ぶっ倒れた。

 さらに四方八方から飛びかかってきた連中は、高砂が扇をひらひらふると、仮面と修道着と扇を残して消えてしまい、それらがドサドサ音を立てて落下した。一瞬である。

 続いて高砂が扇を閉じた瞬間、地面にあった死体らしきものは消失、修道着と仮面と扇がそれぞれ左・中央・右でまとまり箱に入った。その巨大な箱がすぐに消え、残った壊れていたり敗れていたりするものが続いてそれぞれまた箱に入り、こちらは3セットでさらに巨大な箱に入り、押収物犯罪品証拠というシールが貼り付けられた状態で亜空間でどこかへ転送された。

 それを見て頷き、高砂が振り返った。
 自分をモニターしていた人々を、画面越しの位置から見返す。
 そして――帰還した。


「おかえり」

 時東はそう言うと、高砂の席を空けて、灰皿を自分との間に動かした。
 この中で唯一、高砂が帰ってくることに疑いを持っていなかったのは、時東だ。
 他の人物は、無事であることに喜ぼうとしたり、強さに呆然としたりしていた。

「最後の、大人数の敵集団は、なんだったんだ? 王都に大勢いた連中だ」

 レクスの言葉に、高砂が煙を吐いてから答えた。

「ああ、ええとね、ゼクスに聞いて調べ直しておいたんだ――ロードクロサイト文明後期二回目の戦争において、あの融合兵器で、ぶち殺して埋め立てたのが今の地面に立っていた生体クローンで、頭の中に擬似PSY受容体というものが入っているから、そこに刺激を送ると動く。事前に動作記憶も可能だし遠隔からの装置による操作も可能。一体ずつも可能だけど、今回は約七名で二千体前後ずつを動かしていたみたいだ。次のその後襲ってきた方は、ESP実体といって、仮面部分に擬似PSY受容体がついていて、他は全部ESPで実体を作り出していたもので、修道着がPSY融合繊維だから、両者共に人間の皮膚や気配を作り出す作用があったからそう見えなかっただけで、ESPを受け取って発現させていた受容体部分を破壊したから服のみとなり落下した。これはロードクロサイト文明中期に復古、最初の作成は完全ロステク文明時後期で、当時平和的戦争という、寝転がってコントローラーでゲームをする感覚で戦争をゲームのようにやりつつも自分達の肉体には被害が出ないけど勝敗ははっきりするという謎の行動に使用されていた兵士だ。今回こちらを操作していたのは十三名。それが約三千体を操作していた。合計の実際人数は二十名ぴったりで、その波動のPSYを持っているものを現在、遠隔で亜空間隔離し、意識低下状態にして拘束して、全ての個人情報から思想、動機、その他全部、犯罪歴から生い立ち、学歴等のプロファイル中だ。同時にあの扇は完全PSY兵器だから、それを所持している人間全てを王都内にて同じ処置をし、こちら単独で八十二名、その全員の記憶を抽出して関係者を洗い出して、証拠が出た敵を片っ端から亜空間拘置所にぶち込んでる。そうしながら統計的に思想やPSY感情色相もチェック中だよ。かつ仮面、修道着、扇、これらの工場を特定して全部封鎖してそれぞれ七箇所、三十八箇所、三ヶ所あった。また、本部、第二本部、関連施設を合計十三箇所発見して封鎖し、そちらもメンバーは亜空間拘置所、施設は完全に封鎖した。また倒しても倒しても増えてくるといったが、最初側の兵士、あの向こうの海の内部で生産されていたからで、海をESP探知してOther-PKで全部の受容体をぶち壊して腐敗増進作用をかけたからもうあの形態の歩兵は出てこない。さらに、王都近郊の海を全部確認して、同様施設全部に同じ処置を遠隔でやったから、どこからももう出てこない。王都と先ほどから言ってるけど王都にしかいないからで、王国内全部確認したけどほかにはない――で、結論から言うと敵集団名は『青き扇修道会』だそうで、一種の終末系カルト教団で、教祖が『暗黒卿』だそうで、『昏き暗黒議会』という首脳部的なものが存在して、そこのメンバーが使徒と呼ばれていて十二名いて、さらに堕天使ラジエルという、まぁゼスペリア教に例えるならば使徒ゼストみたいなポジションの人物がいたようで、この十四名および、各拠点のリーダー的な人物等、全て生存状態で拘束完了済みだ。重度闇汚染者等は専用病棟を兼ねた拘置所に亜空間だがぶち込んであるから、封印も万全。さらにESP実体遠隔操作のコントローラーみたいなものは全部たった今特定してあちら所持品の十七個を押収完了したので、ESP実体も二度とやつらの手では出てこない。さらにマインドコントロールされていた一般人に関しては、広域解除処置を実施して今、王都全部にかけたから完全に安全になった。さらに敵集団各施設から各歴史階層兵器は押収して封印して亜空間に収集したし、彼らが見つけ出していたそこの右の山の下のロードクロサイト皇室武器保管庫はたった今、封鎖処理が完了したから、もう二度とあの辺の時代の武器をやつらが使うことはないし、やつらというのも全部もう亜空間に拘束したから再犯以外ないだろう。で、いま説明しながら表示した施設地図、主要犯罪者のプロフィール、武器等内容、亜空間拘置所の内容、それ以外の情報全部、この鍵に入れておいたから、あとで必要な人々で解析し、法的に裁けばいいかなぁ」

 高砂は、オーウェン礼拝堂として出現した軍法院の扉を眺めた。
 奥に居るのだと、皆に分かった。

「――つまり、もう敵は全部捕まえということでいいのか?」

 レクスが聞くと、高砂が腕を組んだ。

「いいや――ここにいたラジエルは偽物に思えるし、新ゼルリア島は、まだ行ってない」

 それに頷いてから、時東が聞いた。

「それで錫杖と袈裟はどうだった?」
「――はっきりいって、錫杖はちょっと使ってみたけど、やめた。袈裟は防衛面しか使ってない。無理。力が強すぎる。あれじゃあ、俺が黙示録を起こせるレベルなんだよ、本当……」

 高砂が今も身につけている袈裟を、じっと見た。

「つまり、錫杖も袈裟もなしでも、お前一人で対処できたんだな……」

 時東がそう言うと、高砂が顔を上げた。

「まだ残ってるけど――そうだね、そうなるね。うん」

 なんとなく、皆、複雑な気分になりつつも、勝利に一息ついたのだった。