【2】ゼクス=ゼスペリアへの注釈
「疲れたから休むよ」
高砂がそう言った時、時東が止めた。
「――あ、ちょっと待て。英刻院閣下が倒れる直前に言っていた箱を見つけたんだ。それで、一緒に見ようと待っていたんだ」
「別に待っていなくて良かったのに」
「俺たちもチラっと見て終わる予定が、お前が凄すぎた、かつ早かった。そこでじっくり休んで欲しいんだが、少しでいい、その前に、英刻院家紋入りのこのケースを開けよう」
時東に対して高砂が頷く。
それを見て、近くにいた琉衣洲が――指で触れPSY刺激を送って、ケースを開けた。 するとその場にモニターが展開した。
――英国院藍洲』
という、最後の部分が最初に見えた。
上へと視線を向ける。
『――鴉羽ゼクス卿恩緑羽万象院朱匂宮真名リオ・ハーヴェストクロウ=ロードクロサイト=ゼスト・ランバルト=ゼスペリア十九世猊下――』
まず名前がそう表示されていて、PSY円環と色相表、その下に天才技能円環とPSYおよびIQのそれぞれの値が出た。ゼスペリアの青100パーセント、含有量10割、緑羽万象院の絶対原色の緑と朱匂宮の絶対原色の赤も同じパーセントで10割だ。こちらは右側で均等半分になっている。PSY値は全て測定不能5000以上だったが、身につけていた停止装置の数からの推測で十億を軽く超えていた。
論理・数理・総合IQも3000以上の測定不能で、こちらも制御装置から、五億以上は確定していた。王国内最高として記録されているZXそのままの情報であり、機関認定の天才技能は全て保有していて訓練不要。
ならびに、その隣には、生体DNA鑑定結果と家系図が表示されていて法王猊下と舞洲猊下、英刻院はその上の礼洲元老院議長が曽祖父として、さらにアルト猊下とクライス・ハーヴェストの直接受精実子であり、レクスの実兄であること、ハーヴェスト側の祖父としてザフィスとラフ牧師、ラフ牧師の両親は朱匂宮と緑羽万象院の曽祖父であり、いとこの桃雪等までずらっと全ての遺伝的鑑定結果が並んでいた。
さらにその下には、ゼスト血統・ハーヴェスト血統・花王院血統・緑羽万象院血統・朱匂宮血統・ロードクロサイト血統保持者であることが、それぞれの因子保有付きで書かれていて、例えば花王院は無色透明は使えないが他に保持する統一ゼクサ型メルクリウス血晶体だとか、ロードクロサイトの虹も使えないが統一ゼクサ型PSY血小板だとか、無論ゼスペリアの青はゼスト血統のみであるし、原色2つもそうであり、混雑型PSY血核球もハーヴェスト血統しか保持していない。
さらにその下には、さらっと、『国内保護対象優先順位第三位』と記載されていて現国王と青殿下の次となっていた。つまり静仁という現国王伴侶補や実質宰相の英刻院閣下、法王猊下、他の王族などよりも最優先だったのである。ならびに『ゼスト家直系長子であるため、英刻院・美晴宮・花王院・ロードクロサイト・ハーヴェスト家・緑羽万象院本家・朱匂宮本家とPSY血統遺伝病等の際に血液提供協定を結んでいる。ゼスペリア十九世猊下の生体情報および病状により、提供協定に花王院王家以下全てが加入した』とも記載されていた。また稀血Oマイナスは元々医療法で提供協定が国民にはあるので問題ない。
その横に、さらに重大な事項があった。
首元の黒いカフスの映像があり、これが『使徒ゼストの黒翼』『使徒ゼストの聖刻印』『院系譜の猟犬の首輪』『恩鴉羽印』『ハウンド・クラウン』と闇猫・黒色・武装僧侶・黒咲・猟犬で呼ばれる代物であり、全てが同一物でこれであると記載されていた。これの保持者は各集団の最優先保護対象であり、合法的には国内第三位だが、これの所持時点で一位に決定した。
ならびに使徒ゼストの十字架を所持しており、それをゼスペリア十九世が受け取るという予知夢を当時の枢機卿が見た七歳の頃、最下層に不審な研究者集団が訪れ、使徒ゼストの柩の間でゼストのサイコメモリックが発動したクラックで脳を破壊され死亡しており、その際ゼクスは、使徒ゼストの声に従い二十年前からタイムスリップしたというゼスペリア十八世であるアルト猊下より金色のカフスを受け取ったとしていて、先日までアルト猊下はそのカフスを映像のように着用していたのを記録している。
爵位等は記載通りでゼスペリア十九世猊下には、法務院認定の相続財産があり、宗教院等収入もある。
という記述と、法務院および貴族院、宗教院のハンコが押してあった。
続いて過剰症についての説明と必要な生体血液や因子、医薬品一覧が並んでいた。
その下に、ランバルト機密や万象院本尊本院の経文、青照大御神の祝詞によると、ゼクス=ゼスペリアがぴったりと各救世主の位置に合致していること、注釈としてゼクス=ゼスペリアは救済孤児戸籍ではなく、ゼスト家の人間のみが孤児以外でも許される略称であること、ZXという天才機関記載は国の規定であり隠蔽ではないことなどが記されていた。続いて使徒オーウェンと使徒ゼストの古文書の王家保有側で宗教院や現在の最下層のゼスペリア教会有事の際は、王宮の使徒オーウェン礼拝堂にてゼスペリアの器を保護するという証明証も出てきた。
――その後、猟犬から闇猫まで全ての服・装飾具・武器の作成依頼をしているため、完成していたら受け取るように、ならびに使徒の聖遺物等も受け取るようにと記載されていた。天才技能と技術は全てある上、IQは制御装置装着時でも測定不能以外を出したことが一度もない上、Otherにより聖書や経文、場合によっては施設の壁などから完全にサイコメトリーにより内容物把握が可能で、完璧に聖遺物類や使徒各種の宝石や使徒ゼストの銀なども復古している上、匂宮の糸や万象院関連念珠関係、衣類、武器全般なんでも作成可能に等しいとと記されていた。
さらにその下に――おそらくゼクス猊下の所持品および継承聖遺物類のみでも、黙示録対応としては救世主と呼べるに相応しいため、存在が救世主として象徴として飾り、病気もある上武力を最後に使ったのは誘拐される前の病気発覚によるPSYコントロール装置設置時の七歳頃なので、逆に全面に立たせるのは危険であると書かれていた。
――むしろひたすら服や武器、アイテムを作らせろ、本人もそれが趣味だというのを丁寧な言葉で遠隔的に書いてあり、これにもほぼ全員が納得した。
そして最後に、これをゼクス猊下保護の前に見た場合、英刻院藍洲・鴉羽卿ことラフ牧師・ザフィス・ロードクロサイトに連絡、全員不在あるいは意識不明もしくは死亡時は、緑羽万象院・舞洲猊下・朱匂宮・礼洲元老院議員議長・美晴宮静仁伴侶補殿下および花王院紫国王陛下の順に相談し、敵に監視されている法王猊下・アルト猊下、ハーヴェスト侯爵家には近寄らせないようにし、大至急王宮へとその者達と保護しなければならないと書かれていた。
既に礼洲議長のみ意識があり、もう出てきてそれを読んでいた。
曾孫が救世主という事実に若干冷や汗をかいている。
それを言うならば琉衣洲もまたいとこだと知り冷や汗だ。
さらに、本人がこれを持参して王宮に保護依頼をしてきた場合は、必ず受け入れることが、初代国王陛下からの規定であるという書類もある。その根拠としては、旧世界滅亡時に、逆に匂宮出自の万象院の保護を受けて花王院で育った後、現在の初代国王となるまでゼストの保護・援助・避難誘導を受けた返礼という至極真っ当な理由付きである。救世主だからではなく、国王陛下を逃がしてくれたので、恩返しするという旧世界からの貴族や院系譜、華族の流れとしての義務規定だったのである。これは、保護しないのは、宗教に関係なく国民の違法行為になるというのが最高裁の決定としてくだされている証明証もあった。合法的にも完璧に保護が確定したと言える。保護には護衛と医療、衣食住保証も全て含まれる上、ゼスト家との最近の協定なしでも花王院王家・英刻院・美晴宮家は逃がしていただいた以上、絶対に無償提供をできる限り行うと記載されていた。
さらに国内の稀血Oマイナス生体血液、Oのプラス成分排除臨時薬液、Oマイナス専用混雑型PSY血核球パック、一般混雑型PSY血核球パックに関しては当人の継承・管理物であり、国内に補給しているのは当人サイドであること、万象院・朱匂宮もそうであること、ゼスト血統もそうであること、ならびにロードクロサイト因子関連は、時東と若狭と共有で相続書をザフィスが残していた。最後に、個人的見解として、この書状は、ハーヴェスト侯爵家に置いてあるため、英刻院藍洲である自分以外がおそらく手にするとしたら琉衣洲か礼洲議長の可能性が高く、それ以外の子孫というのは黙示録が本当に発生しているならば滅亡していると考えられるので運良く生き残った場合は血統をその後の復興時の参考に保持し、それ以外の二名どちらかの場合は、舞洲猊下生存時は舞洲猊下に連絡を、意識不明等連絡困難時は、血縁者としてで良いのでとりあえず大至急保護し、王宮がダメならば万象院本尊本院か華族敷地内闇の月宮大神宮、そこもダメなら旧宮殿、そこもだめなら旧宗教院、全部ダメならゼスペリア教会の地下四階の青照大御神大鏡がある場所にこもって、病気が治るまで点滴し続けながらとにかく武器と防弾チョッキのようなものを作らせ続けろと書いてあった。
本人も自分がゼストの写し身だと一切信じていないし、ほかの誰も信用しない場合もあるが、血縁関係により英刻院の人間の一員であることならびに武器制作能力があることはわかっていて、病気であっても武器は作れるし、最下層にて不審な金銭の動きがあると敵に疑われやすいためゼクスの購入に医薬品は任せてきたが、本人は余命半年だけど大丈夫だともう十年程度口にしているが、どう考えても余命半年が事実であり、保護ができて金銭の動きを敵に関係なく行えるようにし、医薬品をフル投与すれば、本人の発言を聞いたザフィス・ロードクロサイト医師の見解としては、レベル2程度まで病気が安定する可能性が非常に高いとのことであり、自分不在時の保護の際は主治医として時東に全てを任せ、時東が黙示録におけるゼスペリアの医師かどうかやゼクス猊下が救世主云々は取り置き、最優秀医師に最優秀武器製作者を治療させ、国家転覆を狙う不審者を一層しなければならない。それが英刻院家の義務である。と、書いてあった。
琉衣洲と元老院議長は、納得したように頷いていた。