【0】繰り返し見る夢
――ゼクスは、昔から同じ夢を繰り返し見る。
そこは真っ青な青空の下で、瓦礫のような廃墟が広がっている場所だ。
もしもこれが夕暮れの夕焼けの中だったら、午後のお祈りを読んでいると度々浮かんでくるイメージに似ているだろう。あれは、旧世界の終末の記録とそこから主であるゼスペリアを宿した使徒ゼストによる救いの記憶であるらしい。ならばこの青空は、救われた後なのだろうかとゼクスは考える事がある。
夢の中には、ゼクスにそっくりの人物が立っている。
背後には、ゼスペリア教会によく似た建物があるのだ。その上、自分と同じ牧師服。
なお、この夢の中の人物は、決まって似たようなことを話しかけてくるのである。
「使徒は見つかった?」
「……」
「ゼクス、使徒探しはどう?」
「どうって……あのな、黙示録なんて起きないし、使徒なんているわけないっていつも言ってるだろ?」
「いやでもほら、俺は使徒ゼストだし、黙示録を書いたけど?」
「自称だろ? お前だってどこからどう見ても俺だし」
「けどゼクスが小さい頃から、俺は、この姿だよね?」
「それは……そうだけど。でも、後ろにゼスペリア教会があるしな。周りは午後のお祈りの風景を夕焼けから真昼間にした感じだけど、どう見てもゼスペリア教会だ」
「俺はゼルリア神殿と呼んでいたし、最下層と呼ばれるここは、本当のゼルリアで、まぁ古ゼルリアか。昔はゼガリアだの是我芦原って呼ばれてたって説明したし、俺が滅亡の時にいた地下の礼拝堂もイリスの礼拝堂も青照大御神大鏡や打掛も、万象院旧本尊も全部確認してまだ否定するの?」
「……そう言われてもな……確かに全部あったけど、俺しか入ってないし、プロに判断してもらわないと本物かわからないけど、自称ゼストのお前が俺以外立ち入り禁止を命じてるんだ。それだけ守ってるんだ」
「大丈夫。俺予測で、絶対この一番重要な夢を誰かが閲覧する」
「なんでわかるんだ?」
「普通夢記憶痕跡を辿る場合、『使徒探し』『黙示録』『ゼスト映像』『旧世界滅亡』とかのキーワードでかける。その他にも本日の俺は、沢山ヒットしそうなワードとPSY色相を放ってる。だから間違いない。七つの大罪には絶対に対処しなきゃダメなんだからね」
「へぇ」
「それで、黙示録はきちんと書いてある?」
「……」
「――とにかく、使徒ゼストが俺だと信じて、ちゃんと使徒を探すように」
「……」
「返事」
「……」
「それと、敵のマインドクラックにはくれぐれも気をつけてね?」
「……」
「マインドクラックっていうのは、偽物の記憶や歴史を頭に刷り込まれるんだ。抜け出す手段は、絶対に本物だと確信できる記録を残しておいて、それと照合する事だけなんだ――だけど、それってすごく、難しいでしょう?」
「……」
「だってゼクスは、俺が記した聖書すら信じてないし」
「――英刻院閣下が書いた聖書だったら、俺、信じても良い。ザフィス神父のカルテなみに正確に書いてありそう」
「ああ、そう。兎に角、使徒を探すのと、黙示録の確認! これだけ!」
ゼクスが頷くと、自称使徒ゼストが苦笑した。
それから彼が瞬きをした瞬間――ゼクスは目を覚ました。もう朝になっていた。
しかし、そこは、まだ見慣れない、オーウェン礼拝堂だった。