【5】部屋をあてがわれた悪役……。(★)
スピア様について宮殿に行くと、スピア様のための後宮へとさも当然のごとく通された……。俺しか住人はいないらしい。
「スピア様良かったですね。学内で愛を育まれたとか! 理想的な婚約だ」
「ええ、ジェイドは俺には勿体無い」
道中会ったウェルディ宰相閣下に、ヒーローらしすぎる笑みでスピア様がこたえた。俺の前でのにやりとした笑みとは全く違う。俺が惚れた方の笑顔を周囲に振りまいている。俺は愛など決して育んでいないと言いたかったが、とても言える空気ではない。第一……やっぱり俺はスピア様のことが好きなのだから、言われて悪い気もしないのだ。
後宮では、かなり広い俺の生家の伯爵家など霞むような巨大な塔をあてがわれた。
塔の一番上が俺の部屋だった。螺旋階段を登るのが辛い高さだ。火災でも起きたら絶対に逃げ遅れて死ぬ。
そんなことを考えながら、ベッドサイドのテーブルにカバンを置いた。
部屋というか寝室だった。目立つ家具は、寝台しかない。
制服の上着だけでもクローゼットにいれておくかと扉を開けーー俺は目を瞠った。
そこにはしたての良い服がずらっと並んでいたのだ。
「スピア様、この服は誰のものだ?」
「なんだ? 俺に他の相手の影があって嫉妬か?」
「バカか! そんなはずがあるか!」
「バカはお前だよ。全部お前のために用意させたんだぞ」
「……は?」
「手にとってきて見ろよ。サイズは全てあっているはずだ」
言われて一着てに取れば、本当にぴったりで、しかも俺好みの服だった。
だが、用意した? なぜ? それにどうして俺の服のサイズを知っているんだ……?
そんなことを考えていると、スピア様が壁際で黒い鉄製の輪をいじっているのが見えた。変わったオブジェである。
「夜着に着替えて、こちらへこいよ」
「? まだ寝るには早い。第一予習復習をしなければ」
「……お前、金で単位買ってるんじゃなかったんだな」
「は?」
「根は真面目なのか。はは、ま、やりがいがあるな。いいから着替えろ」
なんだか失礼な言われようだ。こちらから見れば、スピア様こそ成績操作されていると思うのだが。実際に勉強も実技もできるとはいえ、俺は、俺だって本当は負けていないと思う。
思わずため息を尽きながら、服を着替える。
前で紐を結ぶ形の薄い衣をまとい、俺はスピア様へと歩み寄った。
「お前、本当に危機感がないな。よくあっさり俺の前で着替えられるな。しかも後宮の寝室で」
「!」
その事実に気づいて俺は赤面してしまった。男同士だし、何も考えていなかったのだ。そんな俺の手首をスピア様が握る。
「下着はつけるな」
「は?」
「命令だ」
「お断りだ!」
「なるほど、脱がして欲しいわけだな」
そう口にし、鼻梁を傾げてスピア様が笑う。
ガチャリと音がしたのはその時のことだった。??
みれば俺は両方の手首に、それぞれ黒い手錠(?)をはめられていた。
「自分で脱がないんなら、もう手を使う必要はないよな」
「な、な」
ニヤリと笑ったスピア様は、それから手錠からつながる鎖を引いた。
仰け反るようにして俺はよろけた。
そして。
俺は壁に貼り付けにされるように立たされた。両腕を伸ばした形で、壁に固定される。呆然としているうちに下着が取り去られる。
「蝶みたいだな。その服もよくにあってるぞ」
「何をするんだ、さっさと離せ!」
「まずはその態度を治してやるよ」
そう言うと、スピア様が鎖を引いた。俺の手首が上に上がる。
爪先立ちで、ギリギリ床に足が付く形になった。手が痛い。
その正面で、スピア様が青緑色の小瓶の蓋を開けた。
それを手に取り、歩み寄ってくる。
「ひあああ!」
それからぬめる指を二本、俺の中に突き立てた。
どろりとしていたが、それはすぐに熱く溶けて行った。
指を引き抜いたスピア様は、布で手をふくと、椅子に座って膝を組み俺を見た。
その眼差しに困惑した時ーードクンと体の奥が疼いた。
「え、あ」
じわりじわりと熱がこみ上げてくる。俺は知らない、こんな感覚は知らなかった。気がついたら前が限界まで反り返っていて、俺の太ももは震えていた。体が熱い。思わず太ももと太ももをこすり合わせていた。だけどもともと爪先立ちのせいでうまくいかない。
「やぁああ」
俺は情けなく涙声を上げた。思考が霞み始める。
中が疼く。ドロドロのグチャグチャにかき混ぜて欲しいという思いが全てを支配し始めて行く。まだ二度しか経験がないというのに、俺は欲しいものを知っていた。スピア様が欲しかった。
「あ、あ、あ」
頬を涙が伝って行く。全身が気持ちいい。けれど足りない。
「スピア様……っ……」
「俺もお前に倣って予習復習でもするか」
「う、うう、あ」
「お前がものの頼み方を覚えるまで」
「……っ……」
その言葉に少しだけ我に返った。ものの頼み方だと? なんで俺はこんな目に合わなければならないのだ。
「お前は俺に逆らえない。これは、平民がお前に逆らえないのと一緒だな」
「ふ、っ、ンな」
「いいか? 俺は平等な治世をしく。だがお前が学園での態度を崩さない限り、お前に限っては俺と対等だとは認めない。お前は俺の配下だ」
「ああっ、もう嫌だ……んーーーー」
声を必死で飲み込んでいると、スピア様が立ち上がった。
そして俺の服の前をほどいて、指先で、ツツツと陰茎をなぞってきた。
それだけで俺は果てたが、すぐにまた硬度を取り戻した。違う、違うのだ。確かに気持ちがいいのだが、俺は中がもう快楽でドロドロに溶け切りそうでおかしくなりそうなのだ。舌を出して息をする。
「これからは差別をしないか?」
「っ……こ、こんな手段で強制する相手と対等だなんて願い下げだ!」
しかし俺は踏ん張った。俺は悪役道を貫かなければならないのだ。
兄の出世のため、家のため。
だけど、ああもう気持ちよすぎて頭がグラグラする、おかしくなる、うあああ。
そこで俺の意識は飛んだ。
次に気づくと、片側の太ももを持ち上げられて、立ったまま貫かれていた。
激しく律動するスピア様の楔に突き上げられ、かき回されると、どうしようもない快楽が襲ってきた。
「明日からは週末だからな。存分に話し合おう。主に体で。いつまでその強気がもつかみものだな」
「……」
行為後も壁に貼り付けにされたままで俺はそれを聞いた。
首から力が抜けて思わず俯く。
悔しいことにすごく気持ちが良かった。
だけど。
「何もこんな風にしなくても……」
好きな相手と体を重ねることだけ取り出せば幸せだ。気持ちいいのはまだ怖いけれど嫌ではない。だが、総合的に見るとひどすぎるし、スピア様は鬼だ。
「ん? 俺はお前のことが好きだからな」
「……え?」
「逃げられると困るんだよ。逃がさない。おとなしくなるまでここで拘束するからそのつもりでいろ。あとはいじめについてよく考えろ」
スピア様はさらりとそういうと、そのまま部屋を出て行ったのだった。
ーー好き?
ーーえ!?
しかしイジメについて考える?
幾つもの事柄が混ざり合い、頭が混乱した。スピア様の一言一言をいちいち気にする俺がいた。やっぱりなんだかんだで、好きなんだよなぁ。
鎖が少し緩んでいて、今は足元に椅子が置かれている。座り直しながら俺は、これからどうなるのだろうかと考えたのだった。