【7】尋ねられる悪役……。(☆)





その日の夜のことだった。

「お前がカイツを毒殺しようとして失敗し、首を締めようとしたというのは本当か?」

すごい剣幕で、スピア様が入ってきた。
目を瞠った俺は、まずはその言葉の理解に努めた。毒殺……されそうになったのはむしろ俺だ。それに首を締めるって……あんなに付き人がいるというのにどうやって? 物理的に無理だ。要するにこれは嘘だ。だが、しかし。俺は宰相閣下にこの成婚がうまく行く手伝いをするように(?)頼まれていたのではないか。

「だったらなんだ? 恋敵は少ない方がいいからな」

俺はそう言ってからわざとらしく嘲笑した。
するとニヤリと笑われた。そして正面から抱きしめられた。
!?

「お前って本当最低だな。お仕置きが必要だな」

最低と言われて胸がえぐられた。そうさ、どうせ俺は最低だ。だけど好きな人に言われると思いの外辛い。
そう思っていたら、強引に寝台の上に引っ張り上げられた。
そして後ろから抱えるようにされる。俺はもうその体温に慣れ切っていた。
キュッと、後ろから両方の乳首をつままれる。

「ふ、ぁあっ」

そのまま緩急つけてなぶられて、思わず喉をしならせてきつく目を伏せた。
その間ずっと耳の後ろを舌でなぞられる。それだけでゾクゾクと快楽が這い上がってきた。
胸に感じる熱は次第に下腹部へと直結して行き、俺の陰茎が持ち上がり始める。
しばしの間甘くもどかしい刺激に翻弄された。

「もう、やめ、うあ、出る」
「胸だけでイけそうだな」

羞恥で頬が熱くなるのを実感しながら、俺はスピア様を睨んだ。

「お前、どうしてこういう目にあっているかわかってるか?」
「うあ、あ、は、そ、それはっ、ン」

どうせそんなことをしていないと言っても信じてはくれないと思う。
何せ俺は生粋の悪役だ。

「お前が俺に見え見えの嘘をついたからだぞ。お前がそんなことをするはずがない」
「んっあ!!」
「素直になれるまで今日は胸だけだ。お仕置きだからな」

それから俺は何度も頭を振って泣いて懇願しても許されず、一晩中乳首を弄ばれたのだった。胸を触られただけで三度も果ててしまった……。

次に目を覚ますと、優雅にスピア様が紅茶をいれていた。
ぼんやりとそれを見守っていると、ヒーローっぽい笑みが始めて俺を見た。
何事だろうかと驚いた。

「昨日の朝、宰相と話しているのを聞いていたんだ」
「え」

ということは、俺が悪役に徹していたことを……聞かれた?

「いや、あの、俺は本当にカイツ殿下が気に食わなくて、だ、だから、ほ、ほら、あの……」
「そこはいい。学園でのことも察しはついていた」
「!」
「もっと重要なことがあるだろ?」
「え、ええと?」

他に何か重要なことはあっただろうか。そして我が家の安泰と兄の出世はどうなるんだろう?

「俺との婚約を破棄したいだなんて一時の気の迷いだよな?」

THE☆ヒーローという笑みで言われた。
短く息を飲んでから俺は目を見開いた。
急にスピア様のその爽やかな満面の笑みの背後に、どす黒いオーラが見え始めた気がした。怖いのだ、なんだか怖いのだ……!

「どうなんだよ? ん?」
「そ、それは……」

俺の声が震えた。

「お前はまだ自分が誰のものなのかわかってないのか?」
「っ」
「まだまだ躾が足りないみたいだな」
「な……」
「いい加減にしろよ。これじゃ俺の片思いみたいだろうが」
「!?」
「お前、俺のこと好きだろう?」

それは、事実である。だが、なんだかうまく噛み合っていない気がした。
というか、え?
いややっぱりここは悪役として言うべきことは一つだ。

「好きじゃない。勘違いするな。貴公はただの、次期君主にすぎない」
「……俺ショックすぎて自殺しそう」
「え?」
「失恋したの生まれて始めてだぞ……ま、いいけどな。お前は俺に逆らえないわけだから、婚約解消なんてさせはしないぞ」
「スピア様……?」

俺が恐る恐る声を掛けるとスピア様が暗い瞳で笑った。

「お前が俺を好きになるまで追い詰めるだけだ。どこまでもな。逃げられると思うな」

その声に俺は固まった。俺は選択を間違ったのかもしれない。もしやここは俺も好きだと言っておいた方が良かったのではないか? 完全に言うタイミングを俺は逃した。俺は自分から告白するなんてできる気もしないし。

「覚悟していろ」

そう言って今度はにやりとスピア様は笑った。俺はこれからどう対応していいのかわからなくなったのだった。