【8】虐められる悪役……。(★)






「うぁああっ……嫌、やだっ、ン――」


時計の音がした。もう二時間も内部を滑る二本の指で掻き混ぜられている。

「あ、ああっ……う……」

グチャグチャと音がする。しかし、気持ちの良い場所には指はあたらない。
舌先ではずっと右の乳首を舐められている。
固くなったそこは、痛いほどに感じていた。

「う、うあ、あああっ」

ただ喘ぐことと泣くことしか出来ず、俺は震えた。気持ちが良い。だけど、さらなる刺激が欲しいのだ。全然足りない。その間も何度か、緑色の小瓶から香油を垂らしては、スピア様は笑っている。緩慢に抜き差しされては、円を描くように掻き混ぜられ、俺はむせび泣いた。香油が溶けていく場所が熱くて仕方がない。熱が這い上がってきてまずは腰の感覚がなくなり、今では背が反り返っている。

「あ、あ、ああああ、も、もう……もう、フ」
「もうなんだ?」

スピア様が嘲笑するような表情で顔を上げた。頭上で手首を拘束されている俺は、膝を折ってただそれを見上げる形となった。
覚悟していろ、そう言った後すぐに、寝台に突き飛ばされて、俺は拘束されたのだ。
膝も立てた形で閉じられないように、黒い革製の拘束具がつけられている。
何よりも辛いのは――根本にもそれが填っていることだった。出したくても出せない。

「やだ、嫌だ」
「そればかりだな」
「も、もうお願いだから」
「お願いだから何だ?」
「……」

挿れて激しく貫かれたかった。だが恥ずかしくて言えない。意識が朦朧とし始める。

「ひ!!」

その時、脇の下を撫でられて、思わず声を上げた。

「あああああ」

両手で擽られる。しかしこみ上げてくるのはくすぐったさによる笑い声なんかじゃなかった。敏感になっているからだが、強く反応して、俺の喉が撓った。

「うわあ、やぁ……やぁあ……あああ」

同時に内部への刺激がなくなったことで、ただ熱だけに下半身が支配される。
だらだらと先走りの液が伝っていく。ガクガクと俺の太股は震えていた。

「俺じゃ嫌か?」
「あ、はァ」
「じゃ、こういうのを使ってみるか」
「?」

涙目でスピア様を見ると、黒光りのする木製の棒を持っていた。先端が太く、側部にはいくつもの突起がついている。思わず息を飲んだ時、解れきっていた俺の中にそれが入ってきた。

「ああっ、はぁ、あああン」
「気持ちいいか?」
「や、あッ、っ――んぅ……あ、ああっ」

最初はゆっくりと押し入れられてから、今度はそれでかき回された。
突起が俺の最も感じる場所を掠めては震える。その内に、激しい抜き差しが始まった。
悶えた俺は、無我夢中で手を動かす。
感じる一点を刺激されるたびに、視界が真っ白になった。

「やァ――!!」

その上、蜜を零している先端を、チロチロと舌で舐められた。
時折割れ目に入り込むように尿道を刺激される。

「く、ハ」
「まだ足りないか? 足りなそうだな」
「やぁあああ」

そう言ったスピア様に、太股を舐められた。それから強く吸われる。
もどかしさに何度も頭を振った。
全身が熱い。訳が分からなくなっていく。

「その媚薬、一晩は抜けないんだ」
「あ、ああっ、あ」
「元々は女を孕ませる薬だからな、出すまで収まらない」
「う、ぁ、ァ、や、やぁあ」
「つまり、どうすればいいと思う?」
「あ、はっ」
「答えは一つだろ。言え」
「……――っ、う、ァ、い、いれっ……」
「大好きなスピア様にいれてほしい、だろ?」
「だ、誰が……っ……う……あああああああああ」

その時グリグリと棒を動かされて俺は声を上げた。瞬間、全身が冷えた。さっと汗が引いていく。まるで果てたような感覚に怖くなった。俺は、中だけで達していた。
ガクンと体から力が抜ける。
だが――……熱は収まってくれない。

「全校生徒の前で犯されるか、今俺に懇願するか、好きな方を選べよ」
「あ、な、なんで」
「お前は俺のモノだし。それを説明しないとならないだろ? お前もてるからなぁ」
「や、あ、ああ、はぁ、ま、また俺……俺……体が、おかしっ、うあ」
「おかしくない。そう言う薬だ」
「あ、あ、スピア様、お願いだから……く、苦し、うあああ」
「……色っぽいけど、見てて可哀想になるくらい震えてるな。顔真っ赤だし、そんなに泣くなよ」
「あああっ、やぁ、もう嫌だぁ、うえ」
「……言えって。楽にしてやるから」
「それは……っ……」

お家断絶という言葉が頭を過ぎる。
――仮に、だ。俺が側妃になった場合。気にくわないと思われたり、飽きられたりすれば、結果としてやはりお家断絶になると考えられる。それならば、今我慢する方が良い。
そもそも性処理用だなんて、いくら何でも酷い。

「そんなに俺が嫌いか?」
「……っ……か、仮に……」
「ん?」
「俺がスピア様を、うああ、や、あ、動かさないでっ、あ」
「俺を?」
「好きだとして……未来なんて無いだろ……」

気づけば俺はそう口にしていた。するとスピア様が驚いたように息を飲んだ。

「未来?」
「ああっ、あ、あ、も、もう駄目だ、っうあああ、ま、またイく」
「んー、未来、未来か。俺を失恋させといて未来ときたか。じゃあ何か? 俺がお前を登用するとでも言えば、肉体関係を飲むのか?」
「そんなの、よくないだろっ、うあ、ああ」
「側妃が嫌で、登用も嫌で? ようするに俺が嫌だって?」
「ち、違っ」
「どう違うんだよ?」
「性処理の道具にされて飽きてぽいっと捨てられてお家断絶されるのが嫌だ」

いつの間にか本心を口にしてしまった……。俺、何を言ってるんだろうか。
スピア様はと言えば、黒い棒を俺から引き抜き、ぽいと床に投げた。

「ンあ――!!」

それから中へと押し入ってきた。前の拘束が外され、俺はその衝撃だけで果てた。
激しく抽挿され、理性がどんどん霞んでいく。涙が頬を濡らして止まらない。
純粋に気持ちが良かった。求めていたものが手に入った感覚だ。

「お前の中で、俺はどんな悪人なんだよ」
「うあ、あ、ああっ、も、もっと、もっとして」
「いくらでもしてやるけど……俺、これでもいい人を演じてきたと思うんだけどな」

そのまま俺は気を失った。
ただ、スピア様の声は覚えていた。
いい人を『演じてきた』――? どういう事だ。そう思ったのを最後に、俺の体はベッドに沈んだのだった。