5:魔術師の帰還!★


 なんでも、皇国と教国の二国間で戦争は回避されたそうだった。

 別に、サフがご落胤だとバレたわけでもない。
 そんなこんなで、マジェスティに「師匠もう帰って良いですよ」と、俺は言われた。
 全く勝手な馬鹿弟子である。

 しかしそれを幸いに、俺は帰宅することに決めた。
 体を重ねたからなのか、何故かサフが俺の命を狙ってくることは無くなった。
 それさえなければ俺たちは、ただの普通の知人に過ぎない。

 給料の関係で、一応最初の約束通り一ヶ月は魔術副顧問をすることになっていた俺は、残りあと三日だけ、指導することになっている。指導と言っても大したことはしていない。精々、腐竜を出現させて、倒し方のレクチャーをしているくらいだ。最近では、全魔術師が、単独で致命傷を負わせるくらいまでは育ってきた。やはり、教育の問題だと思う。

「やっぱり、タクトくんが来てくれて良かった!」

 マジェスティにそう言われたが、俺は彼が怠慢していたとしか思えない。
 そんなこんなで残り二日、明日は最後の日だから、今夜がこの施設に宿泊する最後の日となった。一応明日、飲み会を開いてもらえるらしかったが、その後は転移魔術で帰る予定なので、宿泊するのは今日が最後だ。思い返してみれば、こんなに沢山の人と会話し、魔術を使い、意気揚々としたのは久方ぶりのことだった。楽しくなかったと言えば、
嘘になる。

 なんて考えながら、俺は簡素な椅子に座った。
 壁際に備え付けられていた、丸テーブルと椅子二脚の、セットである。
 人を招くにはふさわしくないが、一人でダラダラするには十分な代物だ。
 片手で頬杖をつき、俺はウォッカの瓶を出現させた。
 強くて甘い酒が飲みたい気分だったのだ。

「入るぞ」

 すると、ノックと同時に声がかかり、気づくとサフが部屋へと入ってきた。
 ――体を重ねてから、二人きりになるのは、初めてだった。

 公衆の面前では、何事もなかったフリが出来るが、流石にSEXまでしてしまった現在では、俺は二人きりになって、表情を取り繕う自信がまるでない。

「明日、帰るそうだな」
「ああ……」
「座っても良いか?」

 聞いているくせに、俺の返答を待たずに、サフは俺の正面に座った。
 一応もう一つ分、酒の入ったグラスを用意する。

「……何故帰るんだ?」
「何故って……」

 別に俺には、もう此処にいる理由はない。当初の目的である腐竜退治は行ったわけだし、僅かではあるが、魔術師への指導も行った。戦争が起きそうな間は、ずっとこの国に滞在もしていた。

「俺は、この国の国防を担う一人として、貴様にはずっと、此処に滞在して貰いたい」

 サフはそう言うと、俺が差し出したグラスを傾けた。
 俯きながら、氷と硝子が奏でる音を聞く。

「別に良いんだぞ。もう俺のことを性的に籠絡しようなんて考えなくて。出て行くのは俺の意志だし、それはサフのせいじゃない」

 静かに呟くと、サフがグラスを置いた。

「端から貴様を籠絡するつもりなんて無かった」
「じゃあなんで手を出したんだよ」

 気づくと自嘲的な笑みが漏れていた。
 別に守っていたわけではないが、同性に初めてを奪われるというのは、それなりに心に影響を与えていたのだと思う。

「何故だと思う?」
「質問に質問を返すな。うぜぇ奴」
「俺が貴様を好きだと言ったら、納得するのか?」
「命令されてたお前に言われても納得するわけがない。第一、モテモテのお前と俺じゃ、釣り合わない」

 俺は思わず笑いながら、酒をあおった。

「――何故、俺に嘘をついた?」

 サフの言葉に、俺はグラスを置きながら首を捻る。

「何の話だ?」

 沢山嘘をついたので、どれのことなのか分からない。

「貴様が結界の魔術師なのだろう?」
「死んでるって言ったのは、サフだろ」
「だが、そうなのだろう?」
「だから?」

 俺が聞くと、その正面で、サフが酒をあおった。

「何故俺に体を許した?」

 勝手に襲ったくせに、コイツは何を言っているんだろうと思う。
 俺を本気で襲う奴なんて、今まで誰もいなかった。
 いなかったのだ。

「好きになったからだとか、愛してるからだとか、そう言うことを言って欲しいのか? だったらそれこそ娼婦の所に行けよ」

 俺が続けると、サフが腕を組む。

「娼婦がそんな色恋営業を日常的にしていると思っているのか?」
「知るか。行ったことねえし、呼んだこともないからな」
「随分と純粋なんだな。肉欲も、外見年齢と同様に止まっているのか?」
「違うわ! 俺は、愛する人としかそう言うことはしないんだよ、金まで出してすることじゃねぇだろ」
「つまり俺のことは、愛しているのか?」

 淡々と言われ、俺は言葉に詰まった。
 俺は、本当に押しに弱いのだ。だから、サフとの一件は、流されてしまったのだと言えなくもない。しかしそれは、俺の心情と、必ずしも合致するわけではないのだ。

「そうだと思うんなら、サフって幸せな思考回路の持ち主だよな」

 俺が失笑すると、サフが腕を組んだ。

「やはりアーガイルが好きだったのか?」
「は?」
「俺を祖先に重ねて抱かれたのか?」
「んなわけねぇだろ、あいつはただの友達だし――……大体、全然似てない」

 最早ばれているのを前提として、俺は語っていた。

「そもそもアーガイルは、お前と違って、本当に良い奴で優しかった。腹黒くなかったし、影で俺のことを殺そうとしたりしなかった!」

 酒の勢いもあったが、半ば当てつけ混じりに俺は叫んだ。
 だって……事実、そうだったのだ。
 アーガイルは、何時だって、優しくて頼りになる、俺たちの勇者だったのだ。
 喧嘩別れした時――冗談であんな風に押し倒されるまでは!

「子孫だからってうぬぼれんな。お前はお前、アーガイルはアーガイル。全然別人。当然レンダルシアとお前だって違う。サフはサフ。それ以下でも以上でもない。俺にとっては王族だろうがなんだろうが関係ない。お前はただのサフだ。そして俺は、お前のことを好きになんてならねぇから!」

 俺が断言すると、目を細めたままこちらを見ていたサフが、溜息をついた。

「……貴様、勇者パーティでも、そう言う態度だったのか?」
「そうだぞ、悪いか?」
「別に悪くはないだろうが、周囲は苦労しただろうな」
「は?」
「ご先祖様も、ルイヴァルダ中興王キース様も、押しが弱くて良かった」
「?」
「マジェスティ魔術顧問から聞いてはいたが、貴様がこんなに押しに弱いというのに、これまで純潔を守れたことは、奇跡だ」
「え、ええと?」

 コイツは何を言っているんだろうかと、俺は悩みながら腕を組んだ。

「ソーマ、貴様は誰のモノだ?」
「は? 俺は俺のモノにきまってんだろ」
「それは違う。貴様は俺のモノだ」
「熱でも出てるのか、サフ?」
「平気だ」

 俺は腕を組み、眉間に皺を寄せた。

「とりあえず、世話になったな。そのお礼は言っておく。また機会があったら会おう」
「別れの言葉は未だ早い。明日は、俺が送る」

 その様にして、俺はサフとの間で、謎の言葉を交わした。

 翌日、飲み会の席で、べろんべろんに俺は酔っぱらった。
 とはいえ、とはいえだ。
 全員俺より年下の人々の集まりだし、酒の飲み方というのは歳を重ねて覚えていくモノだから、何とかほろ酔い気分で、俺は終幕を迎えた。

 騎士団が用意してくれた転送用の魔法陣の上にサフと共に乗り、俺は送ってもらった。文様は覚えたから、同じモノを俺の家に描けば、サフも一瞬で帰還できる。

「有難うなぁ」

 本当は来なくて良かったと言おうと思ったが、最後なのだしなにも言わないことにした。
 白いチョークを、空き部屋の床に走らせながら、俺は続ける。

「これからは、危険な魔獣でないといいなぁ」

 最も俺が鍛えてきたので、腐竜クラスなら、今後は宮廷魔術師だけでも倒せるだろう。
 そう願っている。

「じゃあな」

 魔法陣を書き終えた俺は、笑顔でそう言った。
 するとサフは、無表情で、顔を扉へと向けた。

「歩いて帰る」
「は? 馬車でだって半月もかかるんだぞ?」

 正気だろうかと俺は目を細めた。

「別に構わない」

 そう答えると、スタスタとサフが歩き始めた。慌てて後を追う。

「もう真夜中だし、いくらこの森が平穏だからと言って、全く野生動物がでない訳じゃないし……」
「心配してくれているのか?」
「別に……」

 エントランスの扉の前で、俺は俯いた。
 そんな俺を一瞥して、何も言わずに、サフは扉を開け放つ。
 そして出て行った。

「ちょ、ちょっと待――……」

 慌てて俺が外に出ると、一瞬にして、それまで月明かりがのぞいていた空に、暗雲が立ちこめた。

「……」

 見送るとするならば、俺は室内にいる方が良いのだろう。
 だけど……だけど。
 俺は、玄関の正面に立ったまま、俯いて口を噛んだ。
 唇が痛い。鉄の味がする。

 雨がドンドン降ってくる。

 そして、サフは帰って行く。
 晴男のくせに、雨に濡れて帰っていく。
 帰って……帰ってしまうのだ。もう二度と、会うことはないだろう。

 そう思うと、思わず笑っていた。雨が頬をぬらす横に、何故なのか、
 眼窩からも温水が滴っている気がしたが、多分気のせいだ。俺が、泣くはずがない。

「……馬鹿だな、貴様は」

 暫く歩いたところで立ち止まり、ずぶ濡れになりながら、サフが呟いた。
 今日はやっぱり晴男の威力が、発揮できていない様子だ。

「俺のことが好きなくせに」
「――勘違いだ、自意識過剰! 思い違いだ……そんなわけ、ねぇだろ……」
「じゃあどうして、雨が降っているんだ?」
「そんなの俺が雨男だからだろ?」
「晴男が側にいても、雨が降るのは、著しく感情が乱れたときだと聞いたが」
「っ……」

 俺の砂色の髪を、雨が濡らしていく。
 髪の毛が、皮膚に張り付いてくる。
 だけどそれらは、多分俺の涙を隠してくれるから、ちょっとだけ優しい。

「いい加減、俺を好きだと認めろ」
「……ッ、ま、まだ、数週間……ちょっとしかいたことのない奴に、俺が簡単に惚れるわけ無いだろ」
「恋は堕ちるものだろう? それこそ、場合によっては一瞬で」

 踵を返し、こちらを向いたサフは、静かに俺を見据えた。

「少なくとも、俺は堕ちた。だから、貴様の泣き顔なんて、寝台以外で見たくない」
「な……」
「貴様は俺を裏切らなかった――というか、何も、本当に知らなかったらしいな。その上、今後も俺を手駒にする気もないらしい。欲のない奴だ」
「は?」
「俺は、俺だけを見てくれる存在を探していた。中々のロマンティストだろ? 本当の自分を知ってもらいたいだなんて考えるのは」
「――ああ、吐き気がするくらい、ロマンティストだな、そりゃあ」
「騎士団長でもなく、出生にも限らず、俺だけをただ見てくれたのは、お前が初めてだ」
「……え? いや、そんなことはないだろ」
「少なくとも俺と対等に話しをする相手としては、初めてだった」
「俺これでも、死にたくないから低姿勢だったんですけど……」
「敬語を一から学び直せ」

 サフにそう言われ、俺は溜息をついた。
 そんなことを言われても困る。今からでも、成長できるモノだろうか?

「――さっさと泣きやめ」
「泣いてねぇよ」

 俺が言うと、サフが静かに歩み寄ってきた。
 そしてぎゅっと抱きしめられた。

「な、なにすんだよ」
「神話にも出てくる結界の魔術師様を泣かせたとなれば、批判を免れないだろ?」

 サフはそう言うと、目を伏せて、俺の唇に、自身のそれを重ねた。

「っ」

 柔らかい感触の後、舌が入り込んでくる。

「……はっ」

 口づけの角度が変わる合間に息継ぎをすることで、俺は精一杯になった。

「貴様は俺のことが好きだ」

 唇を離し、サフが再度断言した。

「は?」

 そんなはずがないと、俺は首を傾げる。

「見ていれば分かる」
「自意識過剰なんじゃないのか?」
「……貴様は、俺のことが間違いなく好きだ」

 どこから来るのだろう、この自信は。俺には全く分からない。

「好きだと認めろ。好きだと言え」

 それって、サフの願い何じゃないのか、と言う言葉を俺は飲み込んだ。


 サフを家へと招き入れ、俺は寝台に座った。
 別に他意があるわけではなく、俺の家は一階に全てあるのである。
 だから始めはソファに座ろうとしたのだが、サフに、あっちへ行けと、寝台へと促されたのだ。

 その為、ぼんやりと座っていると、温かいお茶の入ったカップを二つもって、サフが歩み寄ってきた。

 なぜ俺の家のカップの場所や、お茶のある場所を知っているのだろう。

「気持ちは整理できたか?」
「整理?」
「俺のことが好きだと、認められたか?」

 カップをサイドテーブルの上に置き、サフがそんなことを言う。頭がおかしい。

「……別に、俺は好きじゃ無――」
「黙れ」

 そう言って、サフが俺を、寝台の上に押し倒した。
 呆然と彼の顔を見上げる。

「貴様は俺のことが好きだ。それが真理だ。認めろ」
「え、そ、そうなのかなぁ……?」

 率直に言って、俺は困惑した。
 確かに、別に嫌いではない。
 嫌いではないのだ。
 だが、好きかと問われると分からない。
 なぜならばこれまでに、誰かに恋をしたことがないからだ。
 だから恋がどんなモノなのかも、好きというのがどういう感じなのかも、俺は知らない。

「言え。俺を好きだと」

 サフの声が響いた。
 俺は、思案しながら瞳を揺らし……唇を噛む。

「だから噛むなって言っているだろうが」
「ご、めん」

 顎をきつく掴まれたので、反射的に謝った。

「――俺は、サフのことが好きだ、多分」

 多分とつけたのは、精一杯の意思表示である。
 実際には、自分でもよく分からなかったのだ。
 が、気づくと服をはだけられていた。

「っ、ぁ……」

 首筋へと口づけされ、強く吸われ、俺は目をきつく伏せる。

「敏感だな」

 別にそんなことはない、そう抗議しようとしたら、乳首を噛まれた。

「うッ、ヤ、ァ……っ」

 普通に痛くて、涙が滲んだ。
 女の子じゃないのだから、胸で感じるわけがないと思う。
 けれど俺の抗議を気にせず、何度もサフは、胸の双丘の右の飾りを甘噛みし、左の飾りを指で刺激した。

「ひッ、ぁ……や、ゃ……ッ……んん!」

 痛みとも――その他の、例えば快楽のような刺激とも、区別が付かないもどかしさに、全身が苛まれる。痛いのに、なのになんだか、体が熱い。だけど、苦しいのは間違いなかった。

「あ、止め――……っ、フ」

 俺が肩で息をすると、漸く手を離し、満足そうにサフが笑った。

「そのうち、嫌という程開発してやる」

 俺は朦朧とした頭で、それを聴いていた。
 我ながら、虚ろな瞳で彼を見る。

「挿れるぞ」

 サフはそう言って唇の片端を持ち上げると、腰を動かした。

「あ、あ、あ」

 中へと入ってくる楔に、俺の体が撓る。

「動くぞ」

 そう言って、サフは、緩慢に腰を揺らし始めた。決して激しい刺激ではなく、小刻みに中を抉られる感覚だ。しかしそのせいで、俺の体はおかしくなった。

「ぁ、ぁ、ァ……っ、あぁ……ん、あ、あッ、は……っ!」

 激しく突かれているわけでもなく、痛みを覚えるわけでもないのに、カッと全身が熱くなる。サフの腰が揺れる度に、間断なく俺の声が漏れた。こんなの嫌だ、恥ずかしくて死にたい、だけど、声が収まらない――辛くて、熱くて、気が狂いそうだ。

「う、ァ……っく、ン――ぅあ、はッ」

 吐息をするだけでも、声が漏れる。
 俺はビクビクと体を震わせた。

「あ、もう、嫌だ、嫌だ、止め――おかし、おかしいって、なにこれ――……ッ」

 緩慢に、体が勝手に跳ねそうになる一点を刺激され、俺は思わず声を上げた。
 何故なのか、そこに触れられたり、その周囲を刺激されると、意識が飛びそうになる。

「や、やだ、や、ぁ、あ――ア、ん、ヤ――っ、んぁ――……ぁ、あ!」
「どうされるのが好きだ?」
「知らない、そんなの、知らな――っ、ああああ!」
「此処が好きなんだろ?」
「違っ」
「違うのか? じゃあ、ここか?」
「ひゃッ、や、ぁ、ぁ、ゃ、あ、それ、無理ッ、ン――」

 様々な角度で腰を動かされ、俺は気が狂いそうになった。
 もう無理だった。
 涙がこぼれ落ちるのを止められない。

「サフ、なっ、ぁ、ぁ、あ、サフ……っ、ぅ!」
「なんだ?」
「いやだ、イきた……ふ、ぁああああ! ッ、ん――! あ!」
「だからなんだ?」

 嘲笑するようなサフの言葉に、俺は無我夢中で頭を振る。

「お願いだからっ、サフ、な、なぁ……イかせて……っ、ぁ……」
「俺にイかせて欲しいのか?」

 大きく何度も頷く。

「どうして欲しいのか、教えてくれ」
「へ……え、ぁ、それは……っ……ン、ふッ、フ、ァ」

 俺自身にもよく分からない。

 前を刺激されているのであれば兎も角、現在は、後ろを嬲られているのだ。じらしじらし、嬲られているのだ。かといって、この動きが激しくなれば、俺は満足するのか? 全然分からない。ただ射精したいとだけは、強く想う。だが、それには、前への刺激が必須だ。

 だけどサフに、手でして貰うのなんて、して欲しいだなんて、口が裂けても言えない。もどかしさと、熱による辛さと、おかしな快楽に襲われて、俺は思わず嗚咽した。口から、涙混じりの吐息が漏れる。

「っ、ぅ……ぁ……は……」
「言えよ」

 瞬間、大きく腰を進められ、突き上げられた。

「あンア――!!」

 俺は目を見開き、口を開けた。何度酸素を吸っても、喉に全て張り付いて、満たされない。

「あ、あ、あ、あン――っ、ぅあああああああ!!」

 我ながら情けないほど絶叫していた。
 だが声も涙も止められない。
 体が揺れる。
 苦しい。苦しくて仕方がなかった。

「た、助け……っ、ぁ……ああっ、んッ」
「ついて欲しいんだろ? もっと」
「や、ぁ、ャ、つ、突いて……突いて!!」

 思わず叫んだ。すると、ガンガン腰を打ち付けられる。

「ん、ぁああッ――!! ひ、ぁ、ヤ、んぅ――ひゃ、ぁ、あ、あ」

 俺はもう半分訳が分からなくなりながら、口を半開きにして、涎を零した。
 快楽だけが俺を支配していて、意識が霞がかっている。
 長いこと生きてきたが、こんな感覚、知らなかった。

「出すぞ」

 そのままサフに、中へと熱を放たれ、その感触で俺も果てた。


 目を覚ますと、俺は自分の家の寝台の上で寝ていた。
 どうやら昨夜は、気を失ってしまった――のか、あるいは、寝てしまったらしい。
 どちらにしろ、サフと行為をしてしまったのは、間違いない。
 何せ、寝台のすぐ横の床に、俺のパンツが落ちている。

 なんて事だ。
 悶々としていると、扉が開いた。

「目が覚めたか?」

 入ってきたのはサフだった。

「まだ帰ってなかったのか?」

 俺は必死で自分自身を取り繕い、余裕たっぷりと言った感じで聞いてみた。

「俺は情人を残して帰るほど冷たくないぞ。それとも、いないほうが気が楽だったか?」

 俺のすぐ側へと歩み寄り、サフが腕を組んだ。
 淡々と言われたが、俺は恥ずかしくて何も言えない。
 ――情人って、俺のことなのだろうか?

 サフは、少なからず俺のことを、思ってくれているのだろうか?
 期待しても裏切られそうだったし、口には出せない。
 けれど少なくとも俺の中では、今のところ、サフは特別な地位を築きつつある。
 だからちょっと、切ない。
 思うだけじゃ、辛い。

 出来れば愛されたいと願うのは、我が儘なのかも知れないが。

「そうだな……いねぇ方が良かったよ」

 だって、顔を見てしまったら、すがりつきたくなる。
 俺は、弱い。
 色々と、弱い。

「貴様は俺の何処に惚れたんだ?」
「そうだな……いっしょにいてくれると、安心するところか」
「……やっぱり俺に惚れてるんだな」
「っ、違う! 言葉のあやだ!」

 そんなやりとりをしてから、俺はハムエッグを作った。ハムと卵は、サフが王都から持参してきてくれたらしい。

「他人を、これほど欲しいと思ったのは、初めてだ」

 フォークを手に取り、サフが言う。

「もう、逃がさない」

 逃がすも何も、俺はとっくに絡め取られていたんじゃないかというような気がした。


 このようにして、孤独だった結界の魔術師は、勇者の子孫と出会った。

 彼らはその後、大陸の危機を救うことになるのだが、それは後にお伽噺で語られるだけの、矮小な物語である。ちなみに、お伽噺の中では決して主役になることのないこの魔術師の名前は、かつて魔法討伐の折異世界から召喚された相馬巧斗という少年だった。