それから思ったよりも普通に、日常生活は過ぎていった。
風紀が関わる問題事は、ほとんど委員長達が解決してくれるため、俺は月曜日にちょっと書類にはんこを押しに行く程度ですんでいたのである。
時間にすれば三十分弱だ。
大抵のはんこは、風紀委員長のはんこで事足りるらしい。
俺、イラナイ子。
良かった!
そんなことを考えていた、五月のある日のことだった。
『狭山君、ちょっと良いかな?』
内線で、理事長から直接電話があった。
「はい」
何事だろう、何かミスをしてしまったのだろうかと、俺の心臓はバクバクだった。
『実はねぇ、俺の甥っ子が、明日からこの学園に編入することになったんだ』
良かった、俺のミスじゃない。
安堵の息と共に、受話器の前で無意味に頷く。
『成績的にも見た目的にも1Sが妥当なんだけど、襲われたりしないか心配だから、変装させて1Cに入ってもらおうと思ってるの』
へ、変装?
どこかで聞いた話だなと思いながらも俺は頷いた。
『明日生徒会の副会長の有里丘くんに迎えに行ってもらうんだけど、心配だから狭山先生も見に行ってくれないかな』
「分かりました」
理事長も人の子だったんだなぁと思いながら頷いた。
何故かというと、この人を怒らせると、退学や退職なんてザラだからである。
「理事長、何だって?」
電話を取り次いでくれた、井原先生が、興味津々な瞳を浮かべている。
「明日、編入生が来るんだそうです」
俺のその言葉に、鼻血を吹いて井原先生は倒れたのだった。