「――以上。あ、後園生、放課後ちょっと残ってくれ」
俺は火曜日の最後のSHRで、園生に声をかけた。
「なんだよ狭山?」
「先生と呼べ、俺は教師なんだ」
「分かったよ、狭山先生」
「よろしい」
「だけど昇華達と約束があるからちょっとだけだぞ?」
昇華というのは恐らく、何様俺様生徒会長の高円寺昇華だろう。
好奇の視線を向けながら、続々と生徒達が出て行く。
それらが全ていなくなってから、俺は園生に向き直った。
「器物破損と喧嘩の件で話しがある」
「あれはあいつらが勝手に絡んできたんだ」
「あいつら?」
「なんかよくわかんねぇけど、昇華とか広野に近づくなって言われて……それで俺、つい」
つい、で、この学園の高級な品々を壊されても困るのである。
しかし、と言うことは、制裁騒ぎにつながりそうなので俺は頷いた。
「制裁を受けているのは本当なのか?」
「っ」
すると園生が俯いた。それから顔を上げて、ニコっと笑う。
「俺、あんなの全然気にしねぇし。有難うな、心配してくれて」
「お前も俺の大切な生徒の一人だからな」
しかしこれは悪循環だ。制裁と器物破損がほぼ同じ軸にあるとすると、原因の大本を辿れば、親衛隊持ちの人間が、園生に構うことが問題となってくる。
中でも主因は、恐らく親衛隊の規模が大きい生徒会だ。
俺だって生徒会に極力近づきたくない理由は、生徒会親衛隊の過激さも大きい。
「園生は何で、生徒会の奴らと仲良くしてるんだ?」
「菜摘でいいって、先生。あいつらは……俺に似てるんだ」
「どんなところが?」
素の外見だろうか?
それ以外には特に思いつかない。
「俺、友達を作るのがへたくそなんだ、壊滅的に。多分、あいつらも。だから、ここに来て初めて友達が出来たんだ」
そう言う理由だったのかと俺は納得した。
編入生は、挨拶すれば皆友達くらいに思っているように見えたが、案外繊細なのかも知れない。
「だから俺、あいつらに嫌われたくない。親衛隊に嫌がらせされてるなんて言ったら、距離を置かれるかも知れない」
なるほど一理あると思ったが、生徒会が仕事をしない理由とこれは一緒にしてはいけない。
「菜摘。本当の友達って言うのは、良い面も悪い面も受け入れてこそ何だ。現状、お前がいるとき生徒会の連中は仕事を放棄しているらしい。お前は、あいつらが仕事をしているところを見たことがあるか?」
「……ない」
「きちんと仕事をするように言ってくれないか?」
「もしかして、俺のせいで……」
「自分の仕事をしてないのはあいつらの自業自得。だからお前は注意してくれるだけで良い」
そういってわしゃわしゃとカツラをなでてやると、コクリと菜摘が頷いた。
「有難うな、狭山」
「狭山先生だ」
「狭山先生。俺、狭山先生のこと、好きだ」
「俺も園生のこと好きだぞ」
「両思いじゃん」
「ネタにするな。教師と生徒の真っ当なやりとりだ」
「なぁ、良介って呼んでも良いか?」
「先生をつけるのを忘れるな」
「良介先生」
「よろしい」
「良介先生は、汚い俺でも、受け入れてくれる?」
一瞬何を言われたのか分からなかったが、俺はとりあえず右の唇の端を持ち上げた。
「汚くない人間なんていないよ」