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「親衛隊の動きが活発化しています」
いつもとは違い、木曜日に風紀委員室に呼び出された俺は、永宮にそう言われた。
「制裁の規模も、記録史上初です。命に関わるほどの事例もあります」
俺は頷きながら、植木鉢を落下させた犯人不明の資料を眺める。
「特に貴方の解散した前親衛隊も活動を行っています」
「へ?」
俺は意外な言葉に顔を上げた。
「俺に親衛隊なんかいたのか?」
「無自覚ですか、貴方は……」
副委員長の月見里が溜息をつく。
「今でも風紀委員会のメンバー同様ファンクラブとして密かに活動しているようですよ。親衛隊と違って統率が取れていない分やっかいです」
「関わりをたとうにも担任だしなぁ……」
「惚れていないだけマシだ」
風紀委員長の永宮は、音を立ててカップを机に置いた。
「生徒会のあのていたらく。リコールしてやろうか、本気で」
「そんなに酷いのか?」
「酷いなんてもんじゃない」
深々と溜息をついた永宮がなんだか不憫に思えて、俺は髪を撫でた。
「苦労してるんだな」
「……」
「風紀っていってもあくまで生徒なんだから、無理だけはするなよ? 何かあったら俺が責任を持って理事長に掛け合ってやるからな」
「……本気で言ってるのか?」
座ったままで顔を上げた永宮が眉間に皺を寄せた。
「嗚呼、まだ若輩者の教師だけどな。進言くらいなら出来るし、仮にクビになっても来年だって再来年だって、正採用じゃなくても講師の口なら他にも探せる」
生徒に心配されるんじゃまだまだだなと思いながら笑うと、風紀委員長が僅かに頬に朱を指した。そりゃこの歳になって頭を撫でられれば恥ずかしいかと、手を離す。
「生徒会の件は、それとなくあっちの顧問の真澄先生にも話しを通しておくから」
俺はそんなやりとりをしてから、風紀委員室を後にしたのだった。