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「おや、良介先生」
俺のことを下の名前で呼ぶ生徒なんて数少ないから、驚いて振り返ると、そこには副会長様が立っていた。
「あなたのおかげで、菜摘への制裁がだいぶ減ったと聞いていますよ」
「それは良かった。有里丘は今から食事か?」
学食で声をかけられたのだからそうだろうと思っていると、ちゃっかりと副会長が俺の前の席に座った。
「僕の笑顔のことを指摘されたので、思わず菜摘に構ってしまったのですが、今思い返すと、貴方にあのように言われて、流石大人だと思いました」
俺は空笑いで頷く。
「俺は笑顔を指摘されたことを無かったのは事実です。だけど、それを否定されなかったのも、初めてでした」
「そうなのか」
俺はタッチパネルで、かけそばを注文する。
「あれ以来、ずっと俺は考えているんです」
「おぅ何でも相談しろ。仮にも去年は副担任だったんだし、俺はこれでも教師だからな」
「僕は、笑っているべきですか? それとも素の表情でいるべきですか?」
「あー難しい問題ではあるな。でもお前は、ずっと笑顔で笑って堪えてきたんだろ? それですくわれた奴も大勢いるから、親衛隊があるんじゃないのか? 本当の自分なんてものは、無いんだよ。偽りだろうが何だろうが、それはお前だ」
やっぱり付け合わせに天ぷらの盛り合わせも頼むことにして、タッチパネルを叩く。
「菜摘は、素のままの僕で良いって言ってくれたんです」
「俺もそれが悪いとは思わない。ただ、俺は作り笑いだろうが何だろうが、笑ってる有里丘が好きだぞ」
「っ」
「どうかしたか?」
「僕の笑顔は、腹黒そうで気持ち悪くはありませんか?」
嗚呼、編入生に言われたことを気にしてるんだろうな、と思った。
「全然。寧ろ素敵だって思われてるからこそ、お前は今副会長やってるんだろ」
「笑っていないと、僕の存在する場所がない気がして怖かったんです。菜摘はそれを救ってくれた」
「そこは園生に感謝だな。だけどお前、もっと周りを見てみろよ? お前のこと、大好きな奴、一杯いると思うぞ」
「それは家柄が――」
「俺なんか家柄なんぞなんにもない平凡だけど、お前のこと好きだし」
「ッ」
「『お前』を見てる奴だってちゃんといるよ、少なくとも此処に一人は」
それから俺たちは適当に雑談をしながら、昼食を終えた。