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テスト問題を何とか作成し終えた俺は本日――よりにもよって2Sの(つまり、第二学年の人気者&素晴らしい家柄の生徒)の集中講義担当をする事になってしまった。
学内での有名どころを挙げるなら、生徒会役員(生徒会長・副会長・会計・書記・庶務×2)や風紀の委員長と副委員長等々がいる。
彼等は普段は、仕事が忙しい&特権で授業に出なくて良いため、教室にはいないらしい。
今日もいないで欲しいなと願いながら教室へとはいると、見事に全員居た。
何でよりにもよっているのだろう。
いや、教師としては喜ぶべき所なのだろうか?
まぁいいや。
生徒は生徒に代わりがない。
とはいえ――入った瞬間から、俺は耳栓を欲した。
「きゃぁー!! 生徒会長様と同じ教室にいられるだなんて!」
おかしい。その感想はおかしい。だってお前ら同じクラスだろう。
「有里丘様、お会いしたかったです! 副会長のお仕事頑張って下さい!! だけど机に向かわれているお姿も素敵……」
「並木様ぁ……」
「朝陽きゅん……会計LOVEeeeee!」
「大滝様、こっち向いて!」
「青ちゃぁぁぁぁぁん」
「緑ちゃぁぁぁぁぁん」
流石は生徒会メンバーである(が、声から察するに、こいつら本当に授業に出ていないんだろうな……)。
「風紀委員長……」
「永宮様……っ」
「駄目だよ、お勉強の邪魔しちゃ……!」
「月見里副委員長……ああっ!」
「素敵だよね、副委員長……」
風紀委員会の委員長と副委員長も流石である。
これで、黄色い悲鳴を上げている側も、ほぼ10割、親衛隊持ちらしいのだから何とも言えない。人気者が人気者のファンなのだそうだ。
俺にはさっぱり分からない世界である。
とりあえずまぁ、彼等も彼等で、日常の役職に忙しくて授業に出られないのだろう。だからこそこうやって、集中講義に出てくるのだとは思う。
――まぁ、いくら忙しくたって、テスト前には出てくるよな。
そんな事を考えながら、俺は教卓の上で、資料をトントンと整理していた。
まだ予鈴が鳴ったばかりなので、開始までには数分ある。
「なんだなんだァ? 風紀の委員長様が、お勉強かァ?」
「黙れ、バ会長。普段教室に一度たりとも顔を出さないくせに、何故此処にいる?」
「授業に来て何が悪い、そんなもの俺様の自由だ。お前こそ、何で此処にいる?」
「委員会の仕事がなければ、基本的に俺は出席しているが?」
「嗚呼そうだな、お前は授業に出ないと……出ても所詮俺には成績で負けてるがな」
「昨年の結果は総合的に、同率一位だったと記憶しているが」
生徒会長と風紀委員長が喧嘩をしている。
やっぱりまだまだ子供なんだなぁと思いながら、俺はチャイムの音に耳を澄ませた。
それから手を叩く。
「静かにしろー! さ、授業を始めるぞ」
俺がそう言うと、周囲が静まりかえった。
「あ、あのお二人を止めた……?」
「先生、凄いっ……!」
まだ若干囁き声が聞こえたが、俺は構わず授業を開始する事にした。
なんでも嘗て俺の親衛隊長をしてくれていたらしい、佐々波朱雀の声が混じっていた気もする。
何の囁き声かまでは把握しないまま、黒板に向かう。
このようにして、無事に俺は講義を終えた。
「よーし、じゃあ何か質問在る奴は、教卓まで来てくれ。他の奴らは、休み時間な」
俺がそう言うと、勢いよく二人の生徒が駆け寄ってきた。
「「先生、ココわかんないから教えて☆」」
高阪青と緑だった。
すると続いて、書記の大滝が歩み寄ってくる。
「……俺も」
その言葉に、三人に指し示された箇所を見てみる。
皆同じ所だったから、教え方が悪かったのだろうかと反省する。
「私も――」
さらにはそこに、副会長の有里丘まで同じ場所を聞きにやってきた。
頭の良い彼等に教えきれていないというのは、本当に自分の力不足を感じずにはいられない。
「そんなところも分からないのか、情けない」
するとそこに、風紀委員長の永宮の声がかかった。
「っ」
有里丘が息を飲む。
何故なのか、有里丘は、苦々しい顔をしていた。
? 勉強で分からないところを、分からないと自覚できる事は、悪い事じゃないと俺は思う。
「――流石は風紀委員長様、余裕そうだな」
そこへ、生徒会長が歩み寄ってきた。
「先ほども言ったが、お前よりは授業に出ているからな。こんな問題、聞いていれば分かる。勿論、狭山先生のご講義で、更に知識は深まったけれどな」
「俺様は勉強なんてしなくても分かるからな」
なんだかよく分からないが、再び生徒会長と風紀委員長の喧嘩(?)が始まりそうになったとき、丁度良く鐘が鳴った。
「とりあえずこれで終わりだ。まだ分からなかったら、後で俺に聞くか、担当教員に聞いてくれ」
そんなこんなで、何とか無事に俺は、2Sの臨時講義を乗りきったのだった。