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「生徒会長×風紀委員長!? 風紀委員長×生徒会長!? 生徒会長×副会長!? 風紀委員長×副会長!? それともまさかの、副会長総攻め!?」
職員寮に帰宅し、本日の特別講義について話すと、井原先生が叫びだした。
どうやら井原先生は、通常運転に戻ったようである。
俺は、麻婆豆腐を食べながら、そんな先生を見守っている(勿論ティッシュをいつでも手渡せる準備態勢は崩さない)。
そうしながら、食器の傍らに置いた地図を見据えた。
基本的に俺は、食べているときに新聞を読んだり、本を読んだりするのは嫌いだ。
だが、仕事絡みとなれば、そうも言ってはいられない。
本日の講義終了後に、永宮風紀委員長から渡されたのは、学園の地図だった。
新歓の時に見回りをする場所らしい。
いくつかの箇所が赤い×印でマッピングされている。
何でもこの赤い箇所は、危険ポイントらしいのだ。
だけど危険って一体何が危険なんだろう。
「――狭山先生、何見てるんですか?」
俺の視線に気づいたらしく、井原先生が身を乗り出した。
「ああ、なんだか、新歓の要注意ポイントに関して、風紀から資料が届いたんですよ」
答えると、のぞき込んでいた井原先生が、その紙を取り上げた。
そして胸元から、四色ボールペンを取り出す。
緑色を出して、井原先生が、更に×印を加えた。
「? 一体ソレは何ですか?」
俺が聞くと、井原先生が肩を竦める。
「此処に記載がなかった、強姦多発ポイント」
「ぶ」
おもわず卵スープを俺は吹き出しかけた。
「なッ!!」
「それでここがねぇ――」
次に青色のペンで、井原先生が×印を書き足す。
「今俺が印をつけたのは、恋人多発合意ポイントです!」
「は?」
「要するに、イベントをバックレた恋人達が、ニャンニャンしちゃうところです!」
「そんな情報イラナイ! いや、いるのか!? いるんですか!?」
俺は困惑した。どうなのだろう、校内風紀を乱すという意味では、要チェックである気がしないでもない。
「えええ……」
どうしたらいいのか分からないまま俺は、棒々鶏を口にする。
「ちなみに此処が、告白多発ポイント」
井原先生はと言えば、新たに取り出した蛍光ペン(黄色)で、ハートマークを描き足している。
「後は、ここら辺が、隠れるのに最適なポイントですかね」
続いて緑色のペンで、いくつかの場所が、マッピングされた。
「……隠れる?」
お茶を飲みながら、俺は尋ねた。
「鬼ごっこって言うのはですね、逃げなくても隠れてれば捕まらないんですよ」
確かに一理あるなと俺は思った。
「まるで、かくれんぼですね」
率直にそう言うと、井原先生が頷いた。
「去年はかくれんぼでしたしね」
「そうでしたっけ?」
去年は職員室で、のんびりお茶を飲んでいたのだったなぁと俺は思いだした。