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新入生歓迎会の日が訪れた。
幸いにも良く晴れていて、降水確率もかなり低い。
俺が顧問を務める風紀委員は、こういった行事の際は、見回りが基本業務となるらしい(何を見回るんだろう?)。また、審判役もするのだという(こちらは理解できた)。
今回の鬼ごっこで、捕まった生徒は第一テントに行く事になるらしい(檻つきだという噂だが、あまり詳しくは知らない)。そちらも風紀委員が監視役をするのだが、メインはこの第二視聴覚室での違反者の拘束らしい。そこで監視をするのが、顧問である俺と、副委員長の月見里である。外の風景は、視聴覚室に備え付けられている大画面で、確認できる仕様になっている。ちなみに第二テントは、救護室なので、里見先生が待機している。
「皆、気を抜くな! 違反者には制裁を! 秩序を重んじてこそ、楽しい行事を行う事が出来る」
その時、集められた風紀委員の一・二年生に対して、永宮委員長の激励がとんだ。
「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉ! 頑張ります!!!!!」」」」」」」」」
威勢の良い、風紀委員達を見ながら、風紀委員会も大変だなと俺は思った。特に一年生は、本来であれば、行事に参加する立場なのだから。
その後、皆が予定通り配置につき、景品である俺達は移動した。
景品紹介があるのだ。
「これより、ルールの説明をします」
副会長の有里丘がマイクを手に、そう言った。
「鬼は、二年生と三年生。逃げるのは、一年生と――僕たち生徒会役員です。全三時間ですが、残り一時間の所で、サプライズをする予定です。これを機に、上級生との仲を深めて下さい。なお、制服の袖につけている赤いワッペンが一年生、緑色のワッペンが上級生です。スペシャルワッペンは、審判をする風紀委員が紫、その他の救護班などの先生方は、青です。一年生が逃げて十分後から、鬼が走り出します。最後まで逃げ切った生徒と、最も多く一年生を捕まえた生徒には順に、景品があります。景品の対象は例年通り、生徒会役員と、風紀の委員長と副委員長、そして今年は、一部の先生方です。詳細は事前に配付した資料を見て下さい」
有里丘がそう説明を終えて、生徒会長にマイクを渡す。
「楽しめ!」
歓声が響く。
それが合図となり、新入生歓迎会の鬼ごっこは開始された。
俺は壇上で景品として紹介された後、第二視聴覚室へと戻った。
ちなみに第一視聴覚室は、風紀委員会と似たような具合で、参加せず実況に励む報道部が占拠し、第二視聴覚室と同じ大画面を見ながら、全校放送で実況をする事になっているそうだ(ただしこちらは、一年生は、鬼ごっこに参加するらしい)。
第二視聴覚室へと戻った俺は、生徒達が逃げたり追いかけたりしている大画面を、ぼんやりと見ていた。
『さぁて、鬼が追跡開始! 一年生は、どれだけ逃げ切れるのか!?』
そんな報道部の実況を聞きながら、腕を組む。
風紀委員達は、既に所定の位置へとついていた。
俺は大画面(いくつにも区切られている画面だ)と、事前に渡され、井原先生の手で更に印が増えた地図を、交互に見据えた。基本的に教職員は、景品にはなったが、行事に参加しているわけではない。
また、風紀委員会関係に手渡されている携帯電話をすぐ見える位置に置いておいた。
風紀委員会には、専用携帯があるのである。
「先生」
その時、二人きりの室内で、不意に月見里に声をかけられた。
「なんだ?」
「その……永宮委員長の事を、どう思っているんですか?」
響いた声に、俺は首を傾げた。
「頑張りやさんだと思ってる。お前の事もそう思ってるぞ、月見里」
実際、風紀委員は、大変頑張っていると俺は思うのだ。
その時、扉が開いた。
「強姦しようとしていた加害者を捕まえました!」
早速二年の風紀委員が、三人の生徒を連れてきた。
なので、俺と月見里の話はそこで終わった。
それから、順調に、審判をやりつつも、強姦加害者などを、風紀委員の面々は、第二視聴覚室へと連れてきた。
事態が動いたのは、残り一時間といった時の事だった。
『ルールを追加する!』
全学園敷地内に響き渡る声で、生徒会長が宣言した。
『風紀委員会――特に風紀の一年が、折角の新歓に参加できないというのは、生徒会長として見過ごせない! そこで、ルールを追加する。これより見張りと見回りは、前風紀委員会の三年生と、二年生に限定する。勿論、現委員長と副委員長は参加の方に行って貰う! 自信がないからと言って、逃げるなよ! 景品の先生方も参加! 強制だ!』
生徒会長の言葉を聞きながら、なんだかんだ言っても、やはり学園の事を考えているのだなぁと俺は思った。俺も、風紀委員になった一年生が参加できないというのは、なんだか可哀想だと思っていたのだ。
『ちなみに、景品になっている先生方も、ここからは、本気で鬼から逃げて貰う。今のところ生徒会役員の誰も捕まっていない――そこで、成績優秀者以外にも、景品になっている俺達生徒を捕まえた奴には、特別に、”下僕兼一ヶ月分”を与える! 皆、頑張れ! なお、今から景品同士が捕まえた場合も、景品を有効にする!』
その言葉に、俺と月見里は、顔を見合わせた。
とりあえず、逃げた方が良いと言う事だけは分かった。
丁度良く、前風紀委員長が入ってくる。
「此処の見張りは任せてくれ。さっさと逃げて下さい!」
その言葉に俺と月見里は、脱兎の如く逃げ出した。