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そのようにして、生徒会長の言葉により、風紀委員長&副委員長、1年生の風紀委員、そして俺を含めた教員は、鬼ごっこにおいて逃げる事になった。
まぁ昨年も風紀委員をやっていた3年生と現役の2年生の大半が、見張りなどをかわってくれたのだから、何とかなるのだろう。そうは思いつつも、面倒くさいなと俺は思った。
俺は、井原先生にマッピングして貰った地図を片手に、逃げている。
すると途中で、風紀委員長の永宮と、生徒会長に遭遇した。
「このバ会長」
「あ?」
その場でも二人は喧嘩をしていた。
――この二人、逃げないで良いのだろうか?
そんな事を思いつつも俺は、彼等の背後を通りスルーして、隠れる事にした。
だが本気で、隠れるまでには紆余曲折があった。
何せ、俺を追いかけてくる生徒達の集団があったのである。
俺はそれらから逃げ切り、何とか隠れる事に成功した。
有難う、井原先生!
そうした気分で俺は、茂みに隠れた。
すると――すぐ側の茂みから、気配がした。
「お前、食堂で行ってた話、本気なのか?」
「……俺、ノーマルなんだけどなぁ。そっちこそ、どうなの?」
「だったら、やめておけよ。俺が狙うから」
「それはそれで、嫌なの」
「何が嫌なんだ?」
「狭山先生は俺の癒しだから」
何の話しをしているのかは、よく分からない(聞いていなかった)。
ただしそこにいるのが、井原先生と里見先生だというのは、声から推測できた。
そこで俺は考えた。
このまま隠れているのも良いが、あの二人を下僕(?)に出来たら、何かと有意義な日々を送る事が出来そうだ。
「井原先生捕まえた。里見先生も――」
俺がそう言って声をかけると、ポカンとしていた井原先生はすぐに捕まった。
が、里見先生には、間一髪逃げられた。
ううむ、上手くいかない。
「狭山先生、俺達の話、聞いてたの?」
井原先生の言葉に、俺は首を傾げた。
「いえ。聞いてないですけど、声から推測しました」
俺がそう答えたとき、ポンと誰かが肩を叩いた。
「狭山先生みーつけた」
振り返るとそこには、理事長が立っていた。
「あ」
驚いて声を上げると、そんな理事長の肩を秘書の北斗さんが叩く。
「戻って下さい。仕事中に何やってるんですか」
「行事に参加するのも、理事長の仕事だよ?」
「そんな仕事はありません」
その時、丁度、新歓の終焉を告げる鐘の音が鳴った。
このようにして、新歓は終わりを告げたのだった。
それから、全員が、校庭に集められた。
「これから、優秀者と景品を発表する!」
生徒会長がそう宣言すると、方々から歓声が上がった。
何がなんだかよく分からなかったが、俺は教師陣に混じりながらそれを聴く事にする。
ほとんど自分に関わりがある事しか聞いてはいなかったが、印象ある事柄としては、水城先生は恋人に捕まっていた。
「さて、狭山先生の景品について!」
順番があったらしく、生徒会長が言った。
「一日一緒デート券は、園生菜摘! 特別権利の方のデート券は、理事長! 一回食事券は、佐々波朱雀! 持ち物一つ譲渡券は、月見里風紀副委員長!」
それを聴きながら、持ち物は譲渡分のルーズリーフしか用意しているなぁと俺はぼんやり考えた。もしものために用意していたのだ。まぁそんなに難しい事があるわけではないから、良いかなと思う。
「ちなみに狭山先生の特別捕縛特典――下僕にする内容は、井原先生に一ヶ月食事を作ってもらうだ!」
やったぁぁぁぁと、俺は思った。
食費は兎も角、手間が存分に省ける。
このようにして、新入生歓迎会は終わりを告げたのだった。