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今日は日曜日だ。
本日は、特別デート権とやらで、理事長先生と出かけることになっている。
「やった、サヤ先生とデートかぁ」
校門前でそう言われ、俺は曖昧に笑うしかない。
側には秘書の北斗さんと、風紀委員長が居るが、それには気をとめた様子もなく、俺は背中に手を回され、高級そうな黒塗りのリムジンの中にのせられた。
「デートって何処に行くんですか?」
何も理事長が告げていないにも関わらず、走り出した車の中で、俺は首を捻った。
「お買い物」
「買い物? 理事長、何か欲しいモノがあるんですか?」
尋ねながら、俺は高速で財布の中身の紙幣を数えた。最悪クレジットカードもあるが、この高級感溢れる学園の理事長である以上、返済出来るかも不安だ。
「うん。絶対に、サヤ先生に似合うと思う服、ピックアップして置いたから」
「え?」
「今日は俺が、サヤ先生のコーディネイトするから」
「俺のために買い物ですか? 俺、そんなに予算が……」
「デートに誘ったのは俺なんだから、サヤ先生はそんな事気にしなくていいの」
そう言われて連れて行かれた場所は、お洒落な専門店だった。
なんでも客の紹介でなければ入れないらしいお店だった。
そこであっさりと通された理事長が、俺のためにスーツを選んでくれる。
「うん、これとか、似合うね」
「はぁ……」
「ネクタイはこの色かな、うん、似合ってる」
未だ嘗てワインレッドのネクタイなどしたことがない俺は、若干狼狽えていた。
「靴も、この茶色のとかどうかな?」
革靴、といえなくもない、お洒落な靴を示されて、俺は曖昧に笑うしかない。
俺を着せ替え人形のように色々着せながら、理事長は唸っている。
「うーん、まぁこんな所かな。全部一括で」
理事長はそう言うと、ブラックカードを差し出した。俺が持っている銀行のブラックみたいなカードではなく、本物のカードだ。
買い物袋を沢山下げて歩き出すと、リムジンに乗った瞬間に聞かれた。
「コンタクト作るのと、美容室行くのどっちが良い?」
「眼鏡は伊達ですけど……美容室?」
「じゃあそっちで決まりね。車だして」
俺の質問には答えず、理事長が指示を出した。
そうすると車が走り始める。
「サヤ先生はさ、絶対イメージ変えた方が綺麗だよ」
「はぁ……」
それは今のスタイルでは、あの学園に相応しくないと言うことなのかもしれないと、俺は無理矢理自分を納得させた。それから美容室で、髪を綺麗に整えて貰った。長めだった前髪も斜めに切られる。
「……どうですか?」
「うんうん、凄く似合ってるよ!」
俺が美容室から出ると、理事長が満面の笑みで出迎えてくれた。
「やっぱり俺の目に狂いはなかった!」
「そうですか」
よく分からなかったが、とりあえず俺は頷いた。
「次は食事に行こうか。なにが食べたい?」
「え……しゃぶしゃぶとか」
普段食べたことがない物をリクエストすると、あっさりと理事長は頷いた。
「よし、行こうか」
そんなこんなで、二人で食事に向かった。向かった先は、見事に庶民の俺にはハードすぎる場所だった。
肉一枚一枚が、蕩けるように美味しい。
こんなしゃぶしゃぶ、食べたことがない。
「今日は、楽しんでもらえたかな?」
その時理事長にそう聞かれた。
「凄く楽しかったですけど、なんだか申し訳なくて……」
「全然気にしないで。俺は二人で一緒にいられるだけでも幸せなんだから」
そんなこんなで、俺の休日は過ぎていたのだった。