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今日は学校が祝日でお休みなので、無事にテスト作成も終わった俺はリビングでソファの上に寝転がっていた。真正面では、キッチンで井原先生が料理してくれている。
これは、『特別捕縛特典――下僕にする』という俺の手にした特典による、『料理を三食作ってもらう』という内容だ。
「なんか狭山先生の美人度がupしてるし。あーあ。俺としては、狭山先生が作る料理が食べたかったのにな……家事万能乙女受け!!」
「俺は井原先生が作ってくれるご飯が大好きですから」
家事万能なんちゃらは、よく分からないが。
「っ」
すると急に井原先生が息をのんだ。
「?」
俺が小首をかしげると、若干井原先生の顔が赤くなった。
いったい何事だろうか。
「……――狭山先生、さ」
「はい?」
「この学園が特殊だって分かってます?」
「そりゃぁもう嫌と言うほど。同性愛者ばっかりですからね」
「だったらそんなに簡単に好きとか言っちゃだめ!」
「え? だって俺と井原先生の仲ですよ?」
「ぶ」
しかし井原先生は俺の言葉に、めまいでもしたのか、両目に手のひらをあてがった。
あわてて立ち上がり、俺は井原先生の肩に手を当てた――が、すごい勢いで振り払われた。
「……あ、すいません井原先生」
「……いや、あの、その、いえ……」
急にさわられたから驚いたのだろうと思っていると、井原先生がなぜなのか苦しそうな顔をした。そんなに俺にさわられたのが嫌だったのだろうか……そう思えば軽く凹んだ。
「そうだ、旅行の準備しないと」
話を変えようと俺がそう告げると、はっとしたように井原先生が顔を上げた。
「そうですね! いろいろと準備しないと! どんな腐イベントがあるか分かりませんし! 料理も後は寝かせたりするだけ何で、始めましょうか!」
こうして俺と井原先生は旅行の準備を始めることにした。
明日は学校が通常通り在るため、準備するとしたら今日と明日の夜しかないのだ。
――夜は、下はジャージで上はTシャツでいいか。
――私服は、この前理事長先生と出かけたときので良いか。
スーツはいらないらしいので、さくっと俺は旅行の準備をした。
スポーツバッグ一つ分くらいだ。
用意してリビングへと戻ると、スーツケースを持った井原先生がいた。
「え、そんなに何持って行くんですか? もしかして鼻血で汚しちゃった時用の着替えですか?」
「……え、ああ、うん。まぁそんな感じです」
「大変ですね、ストレスがたまってると」
「……」
井原先生は何も言わずに、スーツケースをおくとキッチンへと戻った。
なんだか、最近の井原先生はよそよそしいような気がする。
俺は何か悪いことでもしてしまったんだろうか?
その日のメニューは肉じゃがで、ほうれん草のおひたしと、おみそ汁と白米がついていた。
パスタが得意だと聞いていたが、十分和食もおいしいと思うのだ。
「俺、ほうれん草好きなんですよね」
俺が笑うと、井原先生が顔を上げた。なんだか照れくさそうに見えた。
「そ、うなんで、すか……ごま和えとかも好き?」
「大好きです」
「うあ……だから、さぁ、好きって言うの禁止!!」
井原先生にそういわれ、俺は困惑した。
「じゃあ好きな食べ物を好き意外でなんて言えば良いんですか?」
「え、っと、好物!」
「はい! 俺の好物はほうれん草です!」
なんだこのやりとり、と思いながら、その日の食卓はすぎていった。