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いよいよ職員旅行に出発することになった。
みんな荷物が多すぎて、俺の方がおかしいのかな、と。
特に柚木先生なんて、スーツケースが三つだ。
まぁ大は小を兼ねるし……。
「はい、はいはい」
その時理事長がパンと手を叩いた。
「バスの席順決めないと」
そんなのどこでもいいじゃないかと思っていると、くじ引きが始まった。
みんな何かを必死に祈っている。
春のクラス分けとは違って俺は緊張なんかしない。
俺同様、誰とでもいいのか、水城先生と、理事長秘書の北斗さんだけがそんな姿を見守っていた。
「あ、俺、狭山先生と一緒だ」
朗らかに水城先生が言うと、何人かがくじを乱暴に投げ捨てた。

そんなこんなで、職員旅行に出発した。

「ああ、あいつも連れてきてやりたかったな」
「それってその、こ、恋人の生徒ですか?」
「そ」
「仲が良いんですね……」
「まあな。俺も男に本気になるとは思わなかった」
頬を緩めた水城先生は、本当にしわせそうだった。
その上話を聞いていると、どうやら水城先生は、元々同性愛者だったわけじゃなさそうだった。
いかに恋愛が素晴らしいものなのか、心踊るものなのかを聞き、ちょっと羨ましくならなかったと言えば嘘だ。ただ普段の井原先生の話とは違って生々しく聞こえた気がする。

「それで先生の本命は誰なんですか?」

笑顔のまま水城先生に聞かれた。
なぜなのか騒がしかったバスの中が、急に静かになった気がする。
「本命ですか……うーん。水城先生はどうやって本命が定まったんですか?」
「胸がドキドキして、こいつの事守ってやりたいって思ったからですね」
「守りたいですか……性別抜きにして考えるんなら風紀の生徒と、担当クラスの生徒は守らなきゃとはおもいますけど、生徒は生徒ですし。生徒はだめです」
「じゃあ先生方の中では?」
「……井原先生」
「お」
「の、白衣ですかね。放っておいたら鼻血まみれになりそうで」
「なるほど。意味違うけどすごく説得力ありますね」
「でしょう?」
俺は思わずため息をついてしまった。

そんなこんなで、俺たちは目的地までついた。
一通り観光した後、食事を食べる。
何時も手作りの品なので、たまにはこういうのもいいなぁ。
「美味しいですね」
「狭山先生の料理の方が美味しいです」
隣に座っていた井原先生におだてられた。
「じゃあ今度俺にも作ってよ。サヤちゃん先生」
逆隣に座っていた真澄先生にからかわれてしまった。
ちなみに正面には柚木先生が座っている。きっと井原先生の顔をよく見るためだろう。柚木先生が度々井原先生を見ているせいだからなのだろうが、最近俺も目が合う頻度が増えた。
「食べさせてあげようか?」
その時やってきた理事長に言われたので、丁重に断った。
理事長にそんなことをさせるなんて、悪すぎる。

そんなこんなで、夕食は終わった。

次にまた、誰の隣で眠るかというくじ引きが行われたのだった。
何でいちいちくじなんだろう。
俺にはよくわからない。
マァそういう旅行なんだろうと気にしないことにしたのだった。
ちなみに俺は、里見先生と同じ部屋になったんだったりします。
今日はなんだか疲れたからぐっすり眠りたいな。
箸をおきながら俺はそんなことを考えたのだった。