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俺達はそれから暫くして、校外学習に出かけることになった。
基本的には、班ごとにまわり、俺と眉川先生が、生徒達の行きそうな所に行ったり、心配な生徒……のいる班の側を巡回したりする。

「園生君の事はお願いしましたよ」

仏のような笑顔で副担任の眉川先生に俺は言われた。
確かに1Cで問題が起きるとすれば、園生関連だと言うことは、火を見るよりも明らかだ。しかし校外学習は生徒の自主性を尊重するため、それとなく、本当にそれとなく見守らなければならない。
颯也って考えると、いつも校内をそれとなく見守っている永宮達がすごいと思えてきた。
ちなみに俺に入ってみたい場所があった。
あくまでも個人的にだから、誰か行く生徒がいることを祈るしかないのだが、飯盛山に行ってみたかったのだ。白虎隊に興味があるのだ。
一応日本史の教員免許も持っている俺としては、興味がそそられる。
そんな事を考えていた時、園生が歩み寄ってきた。
同じ班の生徒達も一緒だ。

「先生は、どこか興味ある事あるのか? その……オススメとか」

園生の顔がなんだか赤い。
まだ熱射病になる季節ではないとは思うのだが、俺は自動販売機に歩み寄りながら答えた。
「飯盛山だな。後は御薬園。ただ見て回るんなら、サザエ堂がオススメだ。行きと帰りで一度もすれ違わない不思議な建造物なんだぞ」
そう言いながら、俺はミネラルウォーターのボトルを園生に渡した。
「熱射病になるなよ。ここは盆地だから、昼は暑いんだそうだ」
俺が笑うと、何故なのかさらに園生が真っ赤になってしまった。余計なことをしてしまっただろうか。
「俺の班、飯盛山に行くから、一緒に行こうぜ!」
事前計画を立てている班編制だったから、それは俺にとっては嬉しい誤算だった。

そんなこんなで、校外学習は進んでいった。
お土産には絵蝋燭を買い、俺は一応職員室用には”ままどおる”というお菓子を購入した。
一応同寮だし、井原先生にも何か買っていくかと思い、ご当地限定のじゃがりこを買ってみた。あの学園ではそう言うチープなもの(ポテトチップス等)がなかなか売っていないから、喜んでもらえる気がしたのだ。

そうして無事に校外学習は終わった。

「何か無かったんですか!?」

しかし井原先生はお土産話を期待していたらしかった。
「王道君×担任教師みたいな!!」
「ないですよ、何を考えているんですか」
俺は久方ぶりに井原先生の料理を食べながら(と言っても一泊二日だったのだが)、なんだかお味噌汁の味にほっとしてしまった。やっぱり井原先生の手料理は美味しいと思う。


「そうそうこれお土産です」
「――え? 俺に、ですか?」
「はい」
「っ」


俺が渡すと、何故なのか、井原先生が口元を手で覆った。顔が赤い。
もしかして吐き気がするほど嫌いなのだろうか……?
「無理にとは……」
「いえ、普通に嬉しくて! ……他に誰に買ってきたんですか?」
「職員室においてきたじゃありませんか」
「っ……俺だけに、ですか?」
「そうですけど? 俺も食べてみたかったし」
何なら俺が全て食べようと思ってそう告げると、井原先生がブンブンと首を振った。
「有難く頂戴します!」
最近、やっぱり井原先生は変だなと俺は思った。




――さて、今後待っているのは、期末テストは取り置くとして、夏休みだった。