香坂の悪い予想が当たった。

王道君一ノ宮が、生徒会室に入り浸るようになり、生徒会は仕事をしなくなったのである。
所詮は人気投票で役員になった、馬鹿ばっかりだから、仕方がないのかも知れない。

だがしかーしッ!!

王道だから許す。王道だから――王道だから――……。

理事長の甥だからなのか、授業も時折サボっているらしく、教室と食堂と生徒会室にしか、王道君は学内では行かない(トイレは除く)。

その上、常に誰かと一緒なので、初めの頃と比較すると、暴力事件や器物損壊は減った。
しかしながら、古典的なカミソリレターやら、頭上から植木鉢を落とされるやらで、風紀委員の仕事は鰻登りに増えていく。

「「はぁ……」」

思わず溜息をついた時、誰かとそれが被った。
此処は図書館の地下書庫である。
滅多に人気がないため、強姦被害多発区域なので、見回りに来たところである。
誰だろう――驚いて顔を上げると、俺同様に目を見開いている相手の顔があった。

「……何をしているんだ、バ会長」
「アホ風紀に言われたくねぇ」

そこにいたのは、何様俺様生徒会長様、森永恭一郎その人だった。
俺よりも5cm身長が高いのが、イラッとくる。

「風紀委員には俺が記憶している限り、アホは一人もいない。生徒会の間違いじゃないのか?」
「お前らが仕事をしねぇから、遥を守るためだ何だって言って、あいつらが毎日生徒会室に編入生を引っ張ってくるんだろうが」
「それは生徒会のお前らが一ノ宮を構うからだろう。元凶は生徒会自体じゃないか。こちらでも、被害が出ないように見回りの強化はしている」
「俺の親衛隊に主犯はいねぇ」
「どうだろうな。俺が確認しているだけでも、会長親衛隊の人間が加害者だった例がいくつかある」
「主犯は、って言っただろ」
「もういい。で、一ノ宮を構うのにご多忙な生徒会長様が、何でこんな所にいるんだ? さっさと生徒会室に戻ればいいだろう」

本当にイライラさせる奴だなと思いながら、俺は嘆息する。
よっぽど生徒会室にいてくれた方が妄想の幅が広がるし、と考えた。

「あんなマリモ、冗談じゃねぇ」

そして俺は、聞いてはいけない言葉を聞いてしまった。

「――え?」

思わず素で聞き返してしまう。

「あ?」
「お前……まさかとは思うが、一ノ宮のことが好きじゃないのか? 好きなんだろう!? 自分に素直になれ!!」
「は!?」

何とも言えない微妙だという表情で、生徒会長が俺を見る。
なんたる誤算だろう。
こ、これでは、王道中の王道、KingOf王道である生徒会長×王道君が見られないではないか!!
と言うことは、ハッピーエンドキャラは、別のキャラにしなければならない。一体ふさわしいのは誰だ!? やはり、副会長か!?

「――……お前、まさか……」
「なんだ?」
「少し前まで遥のストーカーしてたらしいし、俺のことを恋敵だとでも思ってたのか!?」
「え、いや……」

ストーカーというのは恐らく、風紀委員室で香坂と話した、見張りのことだと思う。
それに俺は、ヘテロだ。ノーマルである。女の子が大好きだ。
しかし此処で否定してしまえば、王道君総受けフラグが折れる。
最早生徒会長のせいで、一本折れかかっているというのに。

「……そ、そうだったら、なんだっていうんだ?」

疑問系に、疑問で返すという卑怯な手で乗り切ることにしました。

「イかれてんな。あのマリモの何処が良いんだ」
「人は見た目じゃないだろう、森永」
「性格の方が極悪だろうが、あいつはジャ○アンだ」
「なにジャ○アンdisってんだよ。ああ、同族嫌悪か」
「黙れ――……って、本気か!? 本気で遥のことが好きなのか!? 葵じゃなくて!?」

肩を掴まれ、書架にガンと俺は押しつけられた。
後頭部を少し打って痛かったが、それよりも、衝撃的な言葉を聞いた。

俺は初めて、我が風紀委員会副委員長を香坂ではなく、葵と呼ぶ人間を見た。

生徒会長×副委員長!?
なにそれ、mgmg、おいしすぐる――hshs!!
見た目もばっちりだし。
俺は思わず瞳を輝かせた。
口元がゆるむことが抑えられなかった。

「森永、お前、香坂とはどういう関係なんだ?」

俺が思わず笑顔で尋ねると、急に生徒会長が頬に朱を指して視線を逸らした。
この反応――ktkr。
俺の腐男子アンテナが反応した!!

「あいつとは、中学時代に生徒会と風紀って事で、色々あっただけだ」

その色々をkwsk!!

「神宮寺……お前、辺り構わず笑顔を見せるんじゃねぇぞ」
「は?」
「コレは会長命令だ」
「風紀委員は、会長の命令を必ずしも聞く必要がないと、規則で定められている」
「……はぁ。俺は無自覚な人間が大嫌いだ」
「無自覚? それは生徒会室に一ノ宮を連れ込んでいるお前達生徒会役員だろう」

そもそもお前に好かれたいと思ったことなど無いと言ってやりたかった。

「あのな、勘違いしてるみてぇだからきっちり言っておくが、俺には好きな奴がいる」

はーい、フラグ一本折れました。
なんだか悲しい気持ちになってきて、思わず眉根が下がった気がした。

「そ、そうか……」
「……俺に好きな奴がいると、もしかして悲しいのか?」

まずいまずい、顔に出ていたらしい。

「そんなわけがあるか」

俺は最早無気力で顔を上げた。

「隠さなくて良いぞ。お前がやっと俺様の魅力に気づいたと分かったんだからな」
「……は?」
「全く、仕方がない奴だな」

そう言った瞬間、森永が少し屈んだ。
そして俺の唇に降ってくる柔らかい感触。
――ん、これは……もしかして、もしかすると、もしかしなくても……あせfghjk!?
森永に、キスされた!?

何で俺が!?

思わず反射的に回し蹴りを喰らわせてから、俺は腕で唇をぬぐった。

「ああ、びっくりした」
「……おいおいおい、俺の方が吃驚だ」

書架にたたきつけられた会長が、眉をひそめて立ち上がる。
そして咳き込んだ。

「俺にキスされて、そんな反応するのはお前くらいだぞ」
「自意識過剰なんじゃないのか? 一ノ宮も似たような反応をしていただろう」
「遥は兎も角、お前は、俺のことが好きなんじゃないのか!?」
「どこからどうしてそうなった!? そんなフラグ何処にもなかっただろうが!!」
「フラグ? まぁいい。それよりも返事は何だ? yesかyesだぞ」
「返事? 何の返事だ?」

訳が分からなくなった俺は、とりあえず見回りを終了することに決めた。

「じゃあな。俺は次の場所の見回りに行く」
「逃げるんじゃねぇよ」
「別にそう言うつもりはないが、他にも危険区域は多いんだ。無駄に広いからな、この学園は。そういえば、生徒会長様はどうしてこんな人気のない場所にいるんだ?」
「生徒会室が煩くて話にならんから、奥の資料室を借りて仕事をしてるんだ」
な、なんと――俺様生徒会長ならぬ苦労性生徒会長だったとは!!

ということは、森永には、生徒会長総受けフラグが立った!!
mgk!!
俺は、俺様生徒会長攻めが好物である。
しかしながら、サイトを巡回している最中、苦労性生徒会長総受けとも巡り会い、生徒会長受けも好きなのである。

「森永、まさかとは思うが、お前は今一人で生徒会の仕事を全てこなしているのか?」
俺は胸を期待に満ちあふれさせ、尋ねた。
「ん、あ? まぁな。このくらい、楽勝だ」
「その割には目の下の隈が酷い」

改めて観察すれば、凛々しい目元の下に、うっすらと隈ができている。
疲れている姿も妖艶だ。

「親衛隊で手伝ってくれてる奴らもいるんだよ」

生徒会長×親衛隊フラグktkr!!
いや、親衛隊×生徒会長――?
複数!? ハーレムでも、総受けでも美味しいです。

「それにしてもまさかお前に心配される日が来るとはな……」

複雑そうな表情で、森永が曖昧に笑った。
うん、これならば、森永の会長受けも美味しくいただけそうです。

「せめてお前か葵が生徒会役員だったら良かったのにな。風紀委員になんて何で入ったんだよ。そうじゃなければ、確実に優秀な生徒会になってたものを……あいつらだって悪いってわけではないんだけどな」
「は? 俺が入れるわけ無いだろう、人気投票の生徒会になんて」
「お前、ランキング結果ちゃんと見たのか?」
「なんだ自慢か? お前が一位だっただろう」
「一位以外は見てないのか?」
「二位が副会長、三位が会計、四位が書記、五位が双子同票」
「……風紀と選管入りの、総合ランキングを見てないのか?」
「総合も大して結果は変わらないだろうし。あ、そうだ。香坂との色々って何だ?」
「……お前って、お前……まぁ、いい。で、なんだ、葵の何が聞きたいんだ?」
「香坂のことと言うより、お前と香坂の関係が知りたいんだ」
「さっき話しただろ」
「つきあってたのか?」
「嫉妬か?」

どっちに!?
俺は虚を突かれて小首を傾げた。

「やっぱり森永がさっきいっていた好きな相手というのは、香坂なのか」
「なんでそうなるんだよ」
「俺が香坂といるから嫉妬してるんだろう?」
「あたりまえだろう。少しはこっちに気を惹かせてやろうと、わざわざお前らがいるのを見つけたから、食堂でキスして見せてやったって言うのに、無関心だしなぁ」
「つまり香坂に意識させたくて、一ノ宮にキスしたのか!」
「だから何で葵なんだよ」
「香坂以外に今の流れで当てはまる相手がいないじゃないか」
「――さっきなんで俺がお前にキスしたと思ってるんだよ」
「学食で一ノ宮とキスしていたみたいに、香坂の気を惹きたいからだろう? 理解した! まかせろ、香坂にはしっかり伝えて、嫉妬心を煽ってやる」
「言わなくて良い。なんだか生徒会の仕事以上に、どっと疲れが出てきた……」

会長はそれだけ言うと、きびすを返して哀愁漂う背中を見せて、資料室の中へと消えていった。
よく分からなかったが俺は、苦労性会長×副委員長という新たな萌えを見出した。