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風紀委員室へと戻って、香坂に色々聞いてみようと思いながら、俺は廊下を暫し歩いた。
そして扉を開けると、中には王道君――一ノ宮遥の姿があった。
「久しぶりだな! 雅」
雅というのは俺の名前である。覚える必要はないが、念のため。というか、よく一ノ宮が憶えていたなと思った。
「どういう事だ、香坂?」
風紀委員長の顔を取り繕い、俺は一ノ宮をスルーして尋ねた。
内心はnrnrが止まりません。
「さっき強姦被害に遭いそうになっていたところを、助けたんだ。加害者は調書をとってかえしたんだけどね、一ノ宮が――」
「遥で良いって言っただろ、小次郎!」
「なるほど居座っているわけか」
いまだに香坂の名前を勘違いしている一ノ宮が面白くて俺は顔を逸らした。
「此処は部外者立ち入り禁止だ。用が済んだのならさっさと帰れ」
一応委員長であるから、俺がそう言う。
すると王道君が首を傾げた。
「俺は被害者だから、部外者じゃないぞ?」
ん、案外頭が回るのか、と俺は驚いた。
「事情聴取は終わったんだろう?」
「折角だからコレまでにあった被害も全部報告してやろうと思って。いつも馨達が、お前らが仕事をしないせいで俺が危ない目に遭うって言うんだ。だから、少しでも力になれたらと思ったんだ! ……です」
一ノ宮は思ったよりも、頭が良いのかも知れない。
若干空気は読めていないが、言っていることは真っ当だ。
「事情は分かった。俺が聞く。香坂は仕事に戻っても良いぞ?」
俺がそう言うと、香坂が迷うような顔をした。
「……まさかとは思うけど、神宮寺まで生徒会みたいにならないよね?」
その言葉で俺は、会長×香坂を思い出した。
「どうだろうな。心配か?」
ニヤリと笑ってみせると、香坂に呆れたような顔をされた。
若干気恥ずかしくなったので、フラグを立てることにする。
「香坂、悪いんだが、第一図書館の地下二階の、例の区画にある資料室に行ってみてくれないか」
「その区画の見回り担当は、神宮寺じゃなかった?」
「面白いものが見られるぞ」
「何?」
「行けば分かる」
俺がそう言うと、大して興味もなさそうな顔で香坂が立ち上がった。
「あ、何処行くんだよ小次郎!」
「仕事」
一ノ宮の相手に疲れていたのか、それだけ言うと、香坂は出て行った。
会長との過去話や、進展度は後で聞いてみよう。
と言うことで、俺はコーヒーを二つ用意して、一ノ宮の正面に座った。
「ありがとうな!」
そう言ってカップを受け取った一ノ宮、意外なことにブラックのまま飲み始める。
俺もブラックが好きなので、そこだけは同士だな、と思った。
「で? コレまでの被害って言うのは何なんだ?」
「八割方生徒会親衛隊からの制裁だ。残る一割は、他の友達の親衛隊。最後の一割は、不良から喧嘩で絡まれた」
「なるほど。それで?」
「馨が言うには、親衛隊が全部悪いらしい」
「副会長がそう言ったのか?」
「そうなんだ。親衛隊がいるから、制裁は無くならないし、みんな仲の良い友達を作ったり、恋愛したり出来ないんだって」
「ほぅ。それでそれを聴いて一ノ宮はどう思ったんだ?」
「親衛隊って要するに、ファンの集まりだろ?」
「そう言う見方も出来るな」
「だったら、今の俺って、ファンが大多数いる生徒会のメンバーと一緒にいるから、反感を買ってるって事だよな?」
反感なんて言葉を知っている辺り、この王道君は、ただの王道君ではない気がする。
なんてこった――!!
「俺が生徒会室に行かなければ全てが解決する気がするんだ」
しかも実は空気が読める子――!?
「しかも馨が言うには、恭一郎は親衛隊とS○X三昧だから、生徒会室にも来ない、仕事をしない、会長がいないから自分たちも仕事が出来ない、って言うんだ」
「で?」
「で、って。俺は思うんだけどな、おかしくないか? 生徒会長がいないと仕事にならないって。役員って、全員で相談することもあるだろうけど、事後報告で会長から承諾貰ったって良いだろうしさ」
「つまり?」
「恭一郎が悪いんじゃないと思うんだ! 親衛隊も悪くないと思う。俺だって、大好きな相手が誰かとべったりしてたら嫌だし」
確かに言っていることは正しいのだが、だが、しかし――うーん。
そこは気づかずに、明るい天然で、みんなの心を開いていって欲しいのだ、腐的には!
「……結論は?」
「馨とか陸と海とか、志乃夫が仕事サボってるんだと思う」
「会計の伊崎はどうした?」
「莉央は、なんだかんだで、俺のことからかってるけど、適当に書類持ってって、次に来るときは完成させてきてる。三日に一回くらいだけど」
んんん。これは、チャラ男会計×不憫会長フラグじゃないか!!
一ノ宮、さらなる萌えを有難う!!
「仕事をさぼる原因は何だ?」
「多分俺。だから、これから、生徒会室には近寄らないようにしようと思うんだ」
「懸命だな」
懸命だけど、それじゃぁ総受けが見られなくなっちゃうよ!!
「それで俺、色々考えたんだけど――」
「ほぅ」
「風紀委員に入ろうかと思って! 風紀と生徒会は仲が悪いんだろう!?」
「なっ」
なっ、なんだって――AA(ry
叫びそうになったのを、何とかこらえた俺は、細く息を吐いた。
王道君が風紀委員に入る→生徒会が嫉妬する→総受け。
俺も適度にべたべたして嫉妬心を煽る。
――……悪くない。
「良いだろう。明日から風紀委員見習いと言うことで、俺と一緒に校舎の見回りをしよう」
「良かった、生徒会の連中、日本語通じなかったから」
こうして王道君が風紀委員へとやってきたのだった。