生徒会の書類仕事をしている香坂と、たまった風紀委員の書類仕事をしている俺。
大概いつも無言なのであるが、今日は何となく気まずかった。
俺は腐の道に傾きすぎて、風紀委員会委員長としての自覚に欠けていたのかも知れない。

――きっと香坂に軽蔑されただろう。

難しいよ腐道!

こんな事なら、やっぱり香坂に委員長をやってもらった方が良かったのではないだろうか。
そんなことを考えていると、香坂が書類にペンを走らせたまま、口を開いた。

「神宮寺は、一ノ宮のことが好きなの?」
「――なんだって?」
「だって、最初から妙に気にしてるし」

ここは、王道を見るためにはyesと言うべき所であるが……俺はノーマルなのである。
返答に困った俺は、つい、手を止めてしまった。

「気になるか?」
「僕はあんまり。だけど、森永が気にしてた」

やはり俺様会長×編入生は、ありと見た。
きっと俺とやりとりしたときの森永は、ツンデレで言うところのツン状態だったのだろう。

「好きだと、森永に伝えてやってくれ」

これならば、会長×香坂の邪魔をする気がないと言うことも伝えられるし、逆に会長が一ノ宮を想っている場合には、煽ることが出来る。

「そう、森永のことが好きなの」
「は?」
「両思いだったんだね。今すぐ伝えてくるよ、丁度書類を持っていくところだから」

そう言うと香坂は席を立った。
……誰と誰が、両思いという意味なんだ?
混乱した俺は、とりあえず目の前の仕事に集中することにした。

そんなこんなで、仕事を終えた俺は、寮へと戻った。

すると、俺の部屋の前に誰かが立っていた。
誰だろうと思いながら首を傾げると、その人物――森永恭一郎がこちらを見た。

「何の用だ、森永」
「話しがある」
「聞こう」

これは、ライバル宣言が来るのだろうか?
wktk!
王道君を巡る生徒会長と風紀委員長のバトル。
まさかそれを生で体感できるとは!
楽しみで仕方がない。

「部屋に入れてくれないか?」
「勿論、構わない」

俺はカードキーで自室の扉を開けると、森永を部屋の中へと促した。
リビングダイニングのソファに会長を座らせ、コーヒーを二つ用意する。

「それで話しとは何だ?」

今にもにやけそうになる表情筋を、しっかりいさめて無表情を保ちながら、俺は尋ねた。

「やっぱり、直接言っておきたいと思って、出向いてやったんだぞ、わざわざこの俺が。香坂から聞いた。お前も伝言するぐらいなら、直接言え。鬼の風紀委員長が聞いて呆れる」

俺は無言で珈琲を飲みながら、目を細めた。

「言いたいことがあるのなら、早く言え」
「好きなんだ」
「分かっている」

お前の一ノ宮に対する想いは、しかと受け止めた。

「お前も好きなんだろう?」
「ああ」

あおれ、煽りまくれ俺!

「愛してる」
「……それが聞きたかったんだ。やっと素直になったな」
「お前こそ」

すると森永が立ち上がり、俺の隣に座った。

「?」

何故移動?
砂糖の位置が遠かったのだろうかと考えながら、俺は森永を見た。

「っ」

途端、顎をきつく掴まれて、唇を奪われた。
思わず吐息しようとしてうっすらと口を開けた瞬間、舌が入り込んでくる。
口腔を蹂躙され、歯列をなぞられた。
舌を絡め取られ、酸欠と混乱で、俺はくらくらしてきた。
どうしてこうなった?

「一度しか言わないから良く聞け。俺は去年からずっと、お前のことが好きだった」
「――……は?」
「一度しか言わないって言っただろうが」

そのまま俺は、強引にソファに押し倒された。

「ちょ、待て待て待て、森永!? お前、お前――ま、まさか、俺のことが好きなのか!?」
「なんだ今更」
「よく考えろ、お前の周りには、可憐なチワワや親衛隊長、編入生や、香坂がいるだろう!! 何でよりにもよって俺なんだ!?」
「好きだからだ」
「嫌々嫌々、よく考えろ」
「考えるも何も、お前だって俺のことが好きなんだろう?」
「いやぁ……ちょ、ちょっとお互いの認識に齟齬が招じていたようだな」
「じゃあ何か? 他に好きな奴がいると言うことか?」

ギロリと睨まれて、俺は背筋が凍った。

「そ、そういうわけじゃ……」

俺のチキン!

「じゃあ何も問題ないだろ」
「大ありだ!!」
「この俺様に愛されてるんだ、幸福だと思え」
「思えるか!!」
「……つまりお前は、俺のことが好きじゃないのか?」
「率直に言って嫌いだ」
「まぁいい。じっくり追い詰めてやる」

そう言うと、森永が俺の首筋に唇を落とした。
きつく吸われ、軽く噛まれ、俺は思わず森永の体を押し返そうとした。
しかし俺よりも体格が良いため、中々離れてくれない。
そのまま気がつくと、シャツのボタンを外されていた。
骨張った森永の指が、俺の乳頭に触れる。

そして――……

「美味いな、コーヒー」

俺と森永は、早朝四時である現在、共に夜明けの珈琲を飲んでいる。
ヤってしまった。
俺はノーマルだったはずだというのに、バックバージンを失った……ッ!
どうしてこうなった――!

「可愛かったぞ、神宮寺――……雅」

耳元で少し掠れた声で名前を囁かれ、先ほどまでの情事が頭の中を駆けめぐる。
思わず頬が熱くなる。
俺だって抵抗はしたのだ。
しかし、会長はやっぱり俺様だった。
強引に手慣れた森永に、翻弄されてしまった。

「何で俺なんだよ?」
「俺と対等だから屈服させてやりてぇとずっと思ってた」
「それだけの理由か」
「違う。見ている内に惚れた。悪ぃか?」

意地の悪く見える笑みを浮かべて、会長が俺の髪を撫でた。
コレが俺相手じゃなく、一ノ宮相手だったら萌えたものを。
現実問題、自分が巻き込まれるとなると、話は変わってくる。

「最悪だ」
「でも気持ちよかっただろう?」
「それとコレとは別だ」

確かに会長は巧かった。それはもう気持ち良――……って、そんなことを考えている場合ではない。
俺様会長×風紀委員長は兎も角、自分が受けなんて、全く萌えない!

「今日からお前は俺のものだ」

森永にそう宣言されて、俺は絶望的な気分になったのだった。

これが、俺と森永の恋の始まりだった。

今でも言いたい。

俺の素敵な腐男子ライフを返せ――!!