俺が我に返ったのは、司会をしている副会長の滝波馨が、生徒会役員紹介を始めたときだった。
副会長は、俺たちの名前を一人ずつ呼んでいく。
そのたびに会釈していった。
本当は生徒会なんて言う面倒な仕事をやりたくなかったが、人気ランキングで決まるため、拒否権なんて無かった。
キャアキャアと煩い悲鳴が会場中に響き渡っている。
最後に、生徒会長が壇上にあがる。
そして森永恭一郎は、ニヤリと笑った。

「うるせぇ」

すると水を打ったように、場が静まりかえる。
「此処は俺様の王国だ。好きにやれ、存分に楽しめ。以上だ」
たったそれだけを言い切って、すたすたと役員席へと戻ってきた会長。
彼が座った途端、会場中には再び黄色い悲鳴があふれかえった。
中等部時代よりも、悲鳴が派手になった気がした。
俺は初等部時代からの持ち上がりだから、入学と同時に書記になることがほぼ決まっていた。昨年まで、中等部の書記を務めていたことに由来しているのだと思う。

「黙れ」

続いて、風紀委員長が、壇上に上がった。
再び、会場中が静まりかえる。
「俺に迷惑をかけるな。以上だ」
それだけ言うと、風紀委員長の神宮寺雅もまた壇上から降りた。
するとまた黄色い悲鳴が嵐のように会場中を襲う。
高等部からの外部入学だという神宮寺のことは、俺は全く知らないと言って良かった。

このようにして、むちゃくちゃな具合で、入学式は幕を下ろした。

だが、俺にとってはそんなことはどうでも良かった。
金狼を探し出すこと――それが俺にとって、今やらなければならない最重要項目だったからだ。やられっぱなしやなんて、木龍の名が廃る。ひいては、ヒロさん達にも迷惑をかける。

事が動いたのは、一人の編入生がやってきたときのことだった。

俺は、食堂で見かけた編入生――一ノ宮遥を見て、息を飲んだ。
明らかに変装だと分かるカツラと眼鏡。
その上、会長を殴ったときの拳の空気感。
どこかで覚えがあった。
どこでや?
必死に記憶を探り起こすと、何十人もいたレジェンドのメンバーがことごとく伸されていった、忌々しい敗北の日が思い起こされた。
そうだ、今会長が受けた拳を、あの日鳩尾に喰らったのは、俺だったやないか。
――一ノ宮遥は、金狼だ。
俺のカンがそう告げていた。
こっそりと陸を見る。
だが陸は気がついた様子はない。
確かに……確証はない、気のせいか?
俺は、自然と厳しくなりそうになる視線を、必死でこらえようとし――その必要が無くなった。
あの金狼(仮)が、オムライスを食べている。
なんでやねん。
そな、子供らしいもん、食うてる金狼なんて想像もつかんかった。
やはり俺の気のせいなのか。
以来、俺は、一ノ宮遥を監視することを決意した。