それにしても、奇遇だと俺は思った。
「俺は、ただ退屈やったんな」
そんな世界に彩りをもたらしてくれたレジェンド、そして――生気を与えてくれた金狼。
金狼がいたからこそ、俺の世界は、人並みになったのだと思う。
以前と比べて、仲間の動向一喜一憂に、共に感情をあわせられるようになった。
仲間が悲しんでいれば、悲しむことが出来る。
仲間が喜んでいれば、一緒に喜べる。
これまで何かが欠けていた俺に、ピタリと部品をはめ込んでくれた金狼には、変な話しだが、感謝してもいた。

しかし、金狼と遥が同一人物だとは、中々思えなくなってきた。

金狼が、風紀委員に守られたりするのだろうか?
あの、金狼が?
その上、人類皆友達のような博愛主義者が、金狼?
俺は、想像上の金狼と、接する度に遥から感じる性格に、違和を覚えていた。

「志乃夫も大変だったんだな。これからは、俺って言う友達がいるから、何でも頼ってくれよ!」

俺のことを友達だと言って、屈託無く笑う遥。
――なんでやろ。
面と向かって、友達だ等と言われたのは、初めてで、心がほんのりと温かくなってくる。
これが、友情というものなのだろうか?
俺の中に、そんな感情が存在していたのだろうか?
訳が分からなくなってきて、無性に何かを殴りつけたくなったが、拳を握ってこらえた。

そんなある日のことだった。

俺は校舎の見回りしている遥を見つけて目を疑った。
隣を歩いているのは風紀委員長だった。
生徒会室の窓から、よく見える。
逆に言えば、生徒会室の窓以外からは滅多に見えない、被害多発区域だ。
その委員長である神宮寺が、校舎側を見ながら、何事か説明していた瞬間、強風が吹いたのだ。
カツラが取れる。
手を伸ばし、それをキャッチした遥の顔では、眼鏡がずれていた。
そこに見えた瞳の色は、何処までも青い空色の瞳だった。
神宮寺雅が遥に視線を戻したときには、既にカツラも眼鏡も元通りにしていた素早さ。
だが俺はしっかりと見てしまった。

忘れるはずがない、あの目は、金狼の瞳だ。

俺は慌てて窓から振り返り、幸いにも陸しかいない室内で呟いた。
「間違いねぇ、俺たちのチーム”レジェンド”を潰した族潰し、金狼は一ノ宮遥や」
興奮でいつもよりも早口になってしまう。
「総長、それ本当?」
「間違いねぇ。陸――いや、陸鬼。特攻隊長として、今後は一ノ宮をマークするんや」
「任せろ、総長!」
ニヤリと笑った陸鬼を見て、俺は、今後の作戦を練ることにした。

ただ、少しだけ、寂しかった。